■本気で勝ちに行く最低条件は整った
日本には「三度目の正直」という格言がある。そして「二度あることは三度ある」とも言われている。
前者は「過去二度の失敗を糧に、三度目に成功する」という意味。そして後者は「同じことは繰り返す」という傾向を示している。
日本代表は過去二度、ベスト16に進出している。自国開催の2002年、そして南アフリカ大会の2010年である。そのいずれもが世界の壁に阻まれる形で敗れ去った。今回はベスト8進出に向けた「三度目」のチャレンジとなる。果たして、今大会の日本代表にはどちらの格言が当てはまるのか。
運命のベルギー戦を控えた前日会見で、西野朗監督は過去二度のラウンド16進出について聞かれ、同じ轍を踏まないような準備に関して持論を展開した。
指揮官はポーランドとの第3戦でスタメンを6人も入れ替えながら、何とか逃げ切ってグループリーグ突破を勝ち取った。そこには全員で戦うというチームづくりと、過去の経験を踏まえて決勝トーナメント以降を見据えた戦略があった。
「(過去二度のラウンド16は)グループステージを素晴らしい戦いで勝ち抜いたが、そこですべてを出し尽くした感があった。そのチームに余力があったのかどうか。2002年は初めて突破した満足感があったように思うし、2010年はチーム力をすべて投げ出して勝ち取ったように見えた。今回は2試合を終えて優位な状況で3戦目に入ることができた。確かに主力を休ませた部分はありますが、チーム力に差があるとは思っていませんし、トーナメントに入ってフレッシュな戦いができるようなメンバー選考だった。これでチーム全体が疲弊していないいい状況が作れた。強豪国のように『ワールドカップは決勝トーナメントから』というわけにはいかないですが、我々も精神的には『さあ、ここからだ』というくらいの気持ちを持っていい。選手たちには余裕を持ってトーナメントに入れる部分がある」
対戦相手のベルギーはFIFAランキング3位。世界屈指の攻撃力を持つチームである。まずコンディションが整わなければ、五角以上の戦いを見せるのは非常に難しい相手であることは間違いない。しかも向こうはイングランドとのグループリーグ最終戦でスタメン9人を入れ替え、決勝トーナメント以降の戦いを見据えているからなおさらだ。そういう意味では、まずベルギーに対して本気で勝ちに行く最低条件は整ったと言っていい。
■ワールドカップは何が起こるか分からない
問題はそこから先、いかにして勝利の可能性を高めるかだ。
日本代表がここまで勝ち上がることができたのは、何よりコミュニケーションとピッチ内での対応力である。
ちょうど前日練習と並行して行われていた試合で、地元ロシアがPK戦の末にスペインを破る“ジャイアントキリング”が起こった。まさにワールドカップでは何が起こるか分からないことを象徴するようなゲームだ。ロシアはボールポゼッションでも枠内シュート数でもスペインに圧倒されながら、粘り強く戦ってベスト8進出を決めた。
やはりここにヒントがある。吉田麻也がかねてから口にしていたように「ワールドカップでは何が起こるか分からない」のだ。
ロメル・ルカク(マンチェスター・ユナイテッド)、エデン・アザール(チェルシー)、ケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)ら世界トップクラスのアタッカー陣に対して、まずは失点しないこと。そして相手が焦れるような展開に持ち込むことが求められる。2-2の撃ち合いになったセネガル戦も同じ試合運びを目指していたが、点の取り合いに関しては今回は明らかに分が悪い。
まずはしっかりとピッチ内で相手の攻撃パターンを分析し、マークの受け渡しやプレスを仕掛けるタイミングなどを臨機応変に対応しながら得点機会を狙っていくのが良策だ。「柔よく剛を制す」とはよく言ったもので、西野ジャパンには強烈なベルギー攻撃陣に対する柔軟な対応が求められることになる。
スペイン代表の敗退とベルギー戦の戦い方に関しては、指揮官も「グループステージとは違って、ノックアウトのゲームが存在する。今はそれを実現するだけの力を持っていないかもしれませんが、チーム全体で別の力を生み出していかなければ戦えない相手であることは間違いない。とはいえ紙一重の試合なので、ピッチのどこかにチャンスが落ちている。それを全員で拾っていきたい」と強豪相手に本気で勝利を奪いに行く構えを見せている。
■日本代表にはまだやりかけの未来がある
(C)Getty Images過去二度の敗退を受けて西野ジャパンが臨むラウンド16の大一番。冒頭で紹介した「二度あることは三度ある」という言葉には、失敗を重ねないようにしようという戒めの意味も込められている。決して歴史が繰り返すことだけを言っているのではない。これは試合前に考えておく言葉であり、重要なのは試合後に「三度目の正直」と言えるかどうかだ。
これまで数々の悔しさを味わいながら手にした決勝トーナメント行きの切符。ベテラン選手たちにとっても、PK戦でパラグアイの前に屈した南アフリカ大会、優勝を目標に掲げながら実力を出しきれなかったブラジル大会があっての今大会である。日本サッカー界としてだけでなく、本田圭佑、長友佑都、岡崎慎司らにとっても、このベルギー戦は「三度目の正直」の戦いとも言える。
今大会、日本代表は過去の苦い経験を生かしながら、そして成長しながら勝ち上がってきた。チームも選手も、ここまでの苦闘がすべて未来へのプロローグだったと言えるようにしたいはずだ。ベルギー戦の結果へのどん欲さは、指揮官からも選手たちからも十分に伝わってくる。あとはそれをピッチで冷静に、そして熱く披露するだけだ。
「三度目の正直」、「二度あることは三度ある」、そして「柔よく剛を制す」。日本に伝わる三つの格言が、ベルギー戦のポイントとなる。
本大会開幕前、コロンビア戦に向けたコラムで日本代表へのメッセージを込めたことがあった。そのフレーズを今一度、ここに記しておきたい。これこそが日本代表のベースであり、勝ち上がるための必要条件だからだ。
「すべてを出し切れ。そして走り切れ。小手先でやりくりしたって、何一つ変えられはしない。最高の判断、最高のメンタル、最高のチャレンジで、日本中を一つにするような入魂の戦いを見せてくれ」
選手たちにとっても、日本サッカー界にとっても、今回のベルギー戦は記憶にも記録にも残る大一番になる。これまで様々な歴史を刻んできたからこそ、見ている側にも側も感じるものがある。
日本代表にはまだやりかけの未来がある。ここで旅を終わらせるわけにはいかない。いまだ見たことのない景色を見るために、そして新しい歴史の扉を開くために、西野ジャパンがベルギー戦のピッチに立つ。
文=青山知雄

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