「良かったのは、唯一負けなかったことだけ」
本田圭佑がそう口にしたように、23日に行われたマリ戦は日本代表にとって喜ばしい試合にはならなかった。
ロシア・ワールドカップ本大会で対戦するセネガルを想定した大事なテストマッチだった。しかし、アフリカ予選で敗退した相手に苦しめられ、44分にPKを与えて失点。ラストプレーで途中出場のFW中島翔哉がゴールを挙げてドローに持ち込んだものの、本大会を見据えたゲームとしては物足りさが残った。
選手は口々に反省の弁を述べ、ヴァイッド・ハリルホジッチも「セネガル戦の準備ができていないということ」と、不満そうに語っていた。
では、日本代表はなぜ苦しめられることになったのか? ハリルホジッチ監督は何を狙っていたのか?
今回は、『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』でおなじみのらいかーると氏に試合分析を依頼。日本にとって重要なW杯前の欧州遠征第一戦を紐解いてもらった。
■マリの形が変化するまで
マリがボールを保持しているときのシステムは4-1-4-1。マリのボール保持に対して、日本は4-4-2でプレッシングを行った。日本のプレッシングを素直に受け止めることになったマリのセンターバックコンビは、苦し紛れのロングボールを蹴らされる展開が増えていった。つまり、マリのボール保持攻撃は日本のプレッシングによって機能不全にされていた。
また、日本のボール保持攻撃はマリDFラインの裏を集中的に狙っていた。マリのラインが揃っていなかったこと、サイドから斜めに走り込む動きに対してマリの守備陣が準備不足だったことも相まって、日本の裏狙いのロングボールは決定機未遂を量産していった。
日本のロングボールの起点はセンターバックだった。マリのプレッシングシステムは4-1-4-1。1トップで2枚のセンターバックを常にオープンにしない!ということは物理的に不可能だ。よって、比較的自由を得たセンターバックコンビから日本の攻撃は始まっていった。日本はロングボールで裏を狙い、失敗したらセカンドボールを拾う攻撃と、ときどき大島を経由するショートパスでライン間を狙う攻撃をバランスよく行っていった。
サッカーは相手との対話が重要になってくる。上記のオープニングを経て、マリはゆっくりと自分たちの形を日本にあわせて変化していく。
■日本に対応するためのマリの変化
8分に訪れたGK中村航輔のファインセーブのきっかけは、宇賀神友弥のパスミスからのカウンターであった。宇賀神のパスミスが発生した原因は、マリのプレッシングが4-4-2、つまりセンターバックに同数で迫ってきたことにある。日本のセンターバックをフリーにすると、ロングボールを蹴られてしまうマリ。よって「その起点を潰しにきた」という変化だ。
マリは4-1-4-1からインサイドハーフが前の列に出ていく4-4-2への変化を、状況によって見せるようになっていく。ただし、あくまでスタートの形は4-1-4-1だったので、まだ日本のセンターバックには時間が与えられていた。
その時間を利用して、その後も日本がライン間を使った攻撃やセカンドボールを拾った攻撃からチャンスを作っていく。プレッシングはある程度は改善したが、マリのボール保持がちっとも落ち着かないことによって、日本の攻勢は続いた。最初から相手にボールを渡すような攻撃であれば、守備を整理する時間がある。しかし、マリにそんな素振りはなかったので、守備を整理する時間はなかった。よって、その隙を日本に使われた形が連続していった。10分の久保の決定機は、まさにそんな流れから生まれている。
だったら、ボール保持を安定させれば良いマリ。主人公はMFスレイマン・ディアラ。実は3分くらいから3バックに変化することを画策していたが、まるで味方に伝わっていなかった。スレイマン・ディアラが列を下りることで、マリのビルドアップは3バックで行われるようになる。日本の2トップは、3バックを2トップで追いかけ回す意図を見せること無く、全体のラインを撤退させることでマリのボール保持を安定させることに協力をする格好となった。日本に対応するためのマリの変化は試合開始から12分で完了する。
■ボール保持局面の修正
マリのボール保持で特徴的だったことは、インサイドハーフと1トップの選手の幅広い移動だった。マリのシステム変更に対して、日本は守備の基準点がどうしても乱れていく。さらに、その乱れを加速させる動きがインサイドハーフのサイドへの移動と1トップの列を下りる動きだった。結果として、日本はどのようにしてマリの選択肢を削っていくかを設計できていないことを、ピッチで証明することとなってしまった。
マリが安定的にボールを保持するようになると、日本もボールを保持して自分たちの時間を増やしたくなる。よって、ロングボールを蹴って裏を狙うプレーはあまりしたくない。すぐに相手にボールを渡すことになってしまう可能性があるからだ。ただし、日本のセンターバックがまったりとボールを持っていると、相手の守備が正しい位置に戻り、その位置から4-4-2に変化する時間を相手に与えてしまうことになる。それは得策とは言えない。
ただし攻守の状況において、マリが可変式(4バック⇔3バック)を取っていたことも相まって、日本は相手の守備が整う前に攻撃を仕掛けることは引き続きできていた。むしろ、その時間はより与えられるようになっていた、そのときの攻撃の中心人物が大島だった。ただし、マリの守備が整ってしまうと、大島にボールがなかなか入らなかったこともまた事実であった。
32分に大島が負傷交代し、山口蛍が登場する。大島の離脱によって、日本のボール保持攻撃の精度が下ったことは確かだが、それでも、ロングボールからのセカンドボールを拾ってのフィニッシュやCKからフィニッシュに至るなど、決して得点の雰囲気がなくなったわけではなかった。しかし、終了間際に宇賀神がPKを与えてしまう。そして、これをアブドゥライ・ディアビが決め、マリが先制して前半が終了する。
■プレッシング局面の修正
(C)Getty Images後半になると、マリのシステムは攻守共に4-4-2に変化する。3バックへの変化を担っていたスレイマン・ディアラが最前線にいたことが面白かった。マリのボール保持は日本の流れをぶったぎるものであったが、それを捨ててまで4-4-2のプレッシングシステムに替えてきた。もしかしたら、マリ側もちょっとしたテストだったのかもしれない。ただこの変更によって、日本のセンターバックは常にプレッシングにさらされ、さらに前半に利用できていたライン間のエリアを2セントラルハーフで埋められるという、日本からすれば非常に厄介な変更となった。
日本はセンターバックやGKによる苦し紛れのロングボールが増えていく。そして、中盤の長谷部誠と山口がサイドでビルドアップの出口、攻撃の起点として機能し始めたところで、長谷部→三竿健斗、宇佐美→中島翔哉の交代をするハリルホジッチ。なお、FW小林悠が4分後くらいに登場するのだが、それまでは4-1-2-3をやっているようにも見えた。ただし、小林悠の登場であっさりと4-4-2に戻したけれど。
ハリルホジッチのこの采配は、少し興味深いものだった。マリの4-4-2プレッシングの狙いは、日本のセンターバックに躊躇なくプレッシングに行く狙いがある。その狙いを外すための4-3-3は理に適っている、しかし、速攻で4-4-2に戻している。
4-4-2対決になれば、マリからすれば願ったり叶ったり。システムが噛み合うことから、どうしても個人同士のバトルが繰り広げられるようになる。なお、この小林悠の交代の直後にDF槙野智章とGK中村の延々と続くパス交換が行われた。
そして、試合はトランジションの回数が増えていき、マリの個人能力の高さが目立っていくなかで、日本の守備陣もマリに決定機を与えるような失敗をすることはなかった。時々あっさりと突破されていたけど、中村の出番は多いようで少なかった。マリのフィニッシュの粗さに助けられたと言ったほうが正確かもしれないけれど。
試合が別の表情を見せ始めたのは75分過ぎ。きっかけは、マリのプレッシングラインの撤退。残り時間が少なくなってきたことで、撤退守備からのカウンターに移行したのだろう。
撤退守備移行によるプレッシングが弱まったことで、日本のビルドアップ隊に余裕は生まれ始める。このタイミングで存在感を増していったのが中島。DF長友佑都が地味に高い位置をとってくれたおかげで、前半に日本が見せていたようなライン間のポジショニングでプレーすることができていた。味方のフォローがなくても多少は何とかしてくれそうな中島に時間とスペースを与えることができれば、日本はチャンスに繋がりそうになっていく。
そして、ロスタイムに日本の同点ゴールが決まる。ロングボールのセカンドボールを拾いきれずにマリのカウンターが発生するが、DF酒井高徳が奪い返して発生するクロスカウンターがきっかけのゴールとなった。ある意味で、トランジションにおけるデュエルの勝利がゴールに結びついたと言えなくもないゴールとなった。
■ひとりごと
最もテスト色を感じさせたハリルホジッチの采配は、小林悠をいれて4-4-2に戻した場面だった。おそらく、この試合のテスト内容は相手とシステムが噛み合ったなかで各々がどれだけ能力を発揮できるか。よって、三竿、中島をいれてボールが回るようになった4-3-3をあっさりと放棄したのだろう。
ただ、日本のプレーにあわせて、マリが変幻自在さをみせてきたことは、選手にとっては「誤算」だったかもしれない。「そこまで準備はしてきていないんですけど……」という意味で。よって、選手にとってはフラストレーションのたまる試合になったのではないだろうか。マリの相手との対話(変化)を見ていると、欧州でプレーしている選手たちの標準のレベルが上ってきていることを感じさせる試合でもあった。
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