2018-03-30 Honda Keisuke JapanGetty Images

【徹底分析】日本代表が機能不全に陥った要因は…ウクライナ戦の敗因解明

日本代表は、3月の欧州遠征2試合を1分1敗と未勝利で終えた。

マリ相手に1-1で引き分けた後、ウクライナには1-2で敗戦。6月のロシア・ワールドカップまで残り3ヶ月を切った中、予選敗退国との2連戦で勝利を挙げられなかったことを心配する声も多い。一部では「ヴァイッド・ハリルホジッチ監督解任論」も騒がれ始めた。

状況を危惧する声が多く聞かれる中、それでも、DF槙野智章はウクライナ戦後に「少し自信を得たゲーム」と話し、ハリルホジッチ監督も「マリ戦より良い試合ができた」と振り返る。

以下に続く

では、敗れたウクライナ戦はどのように推移していったのだろうか。日本代表は何を狙い、ウクライナはどのように試合に臨んでいったのか。

今回も、『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』でおなじみのらいかーると氏に試合分析を依頼。日本にとって重要なW杯前の欧州遠征第二戦を紐解いてもらった。

※日本vsウクライナのスターティングメンバーとフォーメーション

●日本(4-4-1-1)
GK:川島
DF:酒井高、植田、槙野、長友
MF:本田、長谷部、柴崎、山口、原口
FW:杉本

●ウクライナ(4-1-2-3)
GK:ビヤトフ
DF:ブトコ、オルデッツ、ラキツキー、ソボル
MF:ジンチェンコ、ステパネンコ、マリノフスキー
FW:マルロス、ベセディン、コノプリャンカ

ウクライナのボールを保持するシステムは4-1-2-3。日本は4-4-1-1で対抗する。そのこころは、中盤のマッチアップをはっきりさせたかったのだろう。ハリルホジッチの守備の仕組みはマンマーク、人への意識が強い傾向がある。守備の基準点、誰が誰を担当するかの役割がはっきりすればするほど、マンマークのずれは生まれにくい。よって、ウクライナのシステム対して、自分たちのシステムを噛み合わせた格好となった。

ウクライナの最初の手は、マリノフスキーのプレーエリアを下ろすことだった。マリノフスキーによるアンカーのステパネンコの横に下りる動きに合わせて、右ウィングのマルロスが外から中にポジショニングする仕組みとなっていた。よって、マリノフスキー担当の長谷部誠は、列を下りていくマリノフスキーを捕まえに行きたくてもなかなか行けない状態となった。

■日本の守備の変化とウクライナの対応

2018-03-30 Honda Keisuke JapanGetty Images

フリーのマリノフスキーを最初に捕まえに言ったのは柴崎岳。ステパネンコ担当だが、フリーの選手を放置するわけにはいかないという判断だろう。さらに、3分が過ぎると、杉本健勇が相手のセンターバックにプレッシングをかけるようになる。杉本のプレッシングや日本が守備の役割(特にマリノフスキーとマルロス)をはっきりさせると、ウクライナもロングボールやサイドチェンジで対抗するように変化していった。

日本のプレッシングで興味深かったのは、本田圭佑の連動性だろう。パスコースを切りながらプレッシングをかける杉本だが、相手のセンターバックは2枚。よって、誰かが列を上げてプレッシングにいかなければ、相手の能力によっては延々とボールを保持されてしまう展開になる。定跡ではトップ下の柴崎の列を上げる形が一般的だが、日本は本田が果敢にセンターバックまでプレッシングをかけることで、ウクライナのビルドアップを前進させない場面も何度か見られた。

7分には、ジンチェンコも列を下りてプレーするようになる。なお、ジンチェンコには山口蛍がまさにマンマークのようについていく。でも、深追いしすぎないエリアを見極めるジンチェンコは、山口を日本の陣地から引き出した上でオープンな状態でのプレー機会を増やしていった。このジンチェンコの動きによって、ウクライナはボール保持を安定させていった。

■突然に姿を表した日本のショートパススタイル

15分が過ぎると、日本のボールを保持する機会も増えていった。

大雑把に言うと、マリ戦では相手の裏、もしくはセンターフォワードにロングボール→マイボールになれば問題なし、マイボールにならなくてもプレッシングでボールを奪う大作戦が行われていた。しかし、ショートパスによる前進を主体とするサッカーに日本は変化していた。ただし、ボールの循環はセンターバック→サイドバック→サイドハーフへの一辺倒だったが。

突然の攻撃方法の変更によって、日本はビルドアップミスからのショートカウンターの機会をウクライナに与えてしまっていた。守備が整っていないときに相手に攻撃を許すことは非常に危険極まりない。そんな機会を相手に与えないためのロングボール大作戦でもあったのだが、ウクライナ戦の日本はある意味で勇気を持ってボールを保持しようとしていた。山口の楔のパスを奪われてカウンターを許し、あわや酒井高徳のオウンゴールなんて場面は、まさに攻撃方法の変更がもたらしたカウンター局面であった。

■対話を進める日本の守備

17分が過ぎると、日本の守備の形が変化する。柴崎が行っていた下りてきたインサイドハーフへのプレッシングを杉本も行うようになった。よって、2人の役割はステパネンコ、下りてくるインサイドハーフ、余裕があれば相手のセンターバックまでプレッシングへと変化した。この変化によって、ウクライナのセンターバックはフリーになったけれど、インサイドハーフに与えられた時間とスペースは減っていった。

しかし、そんな変化とは裏腹に、20分にウクライナが先制点を上げる。この形のきっかけが相手陣地でボールを失ってからの日本の果敢なプレッシングをウクライナが華麗なパスワークで回避に成功してから生まれている。もちろん、褒められるべきはウクライナのパスワークなのだけど、日本側からすれば、枚数も足りていた状況でのカウンタープレッシングだったので、非常に残念な場面だった。

■ウクライナの変化と迎撃

柴崎と杉本の役割変化によって、ウクライナのボール保持攻撃にも変化が生まれていく。中盤の選手が捕まる傾向にあったので、フリーなセンターバックはサイドチェンジによる前進を試みる。この試合でラキツキーのサイドチェンジは何度も繰り返された。また、日本のマンマーク式を利用したセンターフォワードへの縦パスも目立っていた。ウクライナの選手たちのパスコースを空けるポジショニングに対して、日本の選手がマンマークでついていってしまうと、ウクライナのビルドアップ隊はパスラインを容易に見つけることができるようになる。

プレッシングの成功による相手ロングボールの競り合いや、マンマーク式によって生まれる縦のパスコースに対応するのは日本のセンターバックだ。この場面で後手に回るようだと、日本の守備は機能しなくなってしまう。本番ではより半端ないセンターフォワードとマッチアップすることになる。がっつりと身体をぶつけていかなければいけない。躊躇している暇はない。よって、ペナルティエリアの幅を4枚で守る迎撃か、5バックによる迎撃が本番では採用されるのではないかと勝手に予想している。

ウクライナ戦で急に訪れたショートパスを主体とした日本のビルドアップだが、単純なパスミス、パスコースの選択肢の少なさによって、ウクライナにカウンターチャンスを与えることが多かった。よって、ショートパスを主体とするスタイルはやめたほうがいいと言いたくなるような展開だが、日本の同点ゴールのきっかけとなった相手のファウルは、本田を起点とするビルドアップから生まれている。

■更に変化するウクライナ

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後半になると、ウクライナ陣地からのプレッシングを行う意思をみせる日本。しかし、ウクライナは、前半よりもインサイドハーフがもっと低いポジショニングをするように変化していった。引き出される山口の構図は前半と変わらないが、数的不利のなかで走らされる柴崎と杉本は明らかに疲労がたまっていった。

日本の守備に変化があったとすれば、本田と原口元気のタスクだろう。いざとなれば大外を担当することで、サイドバックの選手にライン間でボールを受ける選手への迎撃を可能とした。ただし、マルロスがいる左サイドはマークの受け渡しが複雑になっていたので、長谷部、原口、長友佑都にとってはかなり厳しい試合となってしまっていた。

その左サイドをさらに苦しめたのが、繰り返されたラキツキーによるサイドチェンジだろう。サイドチェンジはアイソレーションを行うよりは、ボールを前進させるために行われてきた歴史がある。

インサイドハーフのポジショニングにより守備の基準点ずらしとサイドチェンジによって、さらに日本に攻め入っていくウクライナ。よって、後半の頭にみせたウクライナ陣地でのプレッシング、小林悠が登場直後に行った2度追いのプレッシングはどんどん姿を消すようになっていく。

小林悠、久保裕也が登場しても、日本の攻撃スタイルはショートパスが主体であった。長友のクロスがあわや!という場面を作れていたが、どうしたってリスクのほうが大きかった。67分には植田が自らのビルドアップミスをファウルで止めてイエロー。そのプレーの再開からコノプリャンカに右サイドを突破されて、ウクライナに勝ち越しゴールを許してしまうのだからやるせない。

今大会で存在感を増している中島翔哉が登場すると、流れは一変するなんてことはなかった。その後の流れは、残り時間が少なくなるなかで、日本がウクライナ陣地でのプレッシングを敢行。しかし、後方が連動できずにプレッシング回避を許すと、左サイドから似たような形でウクライナに決定機を許してしまう。

日本は根性のショートパスからの攻撃で中島翔哉の二連撃、植田の根性の跳ね返しで抜け出した久保の切り返し、槙野の運ぶドリブルからの中島翔哉のクロスを久保、相手のビルドアップミスから直接フリーキックを中島翔哉と決定機に近い場面を作っていくが、ゴールには届かなかった。

■ひとりごと

マリ戦と比べると、ウクライナ戦の日本の攻撃はロングボールの回数が明らかに減っていた。この変化が監督主導によるものなのか、選手主導によるものなのかは不明だ。この試合でショートパスによる前進スタイルが機能していたかというと、微妙だろう。確かに得点に繋がったと評価できなくもないが、ウクライナにカウンターを許す機会は非常に多かったことも事実だ。

日本のプレッシングに関して言えば、相手との対話がどうしても続かない。この試合では途中まではウクライナの変化についていけていたけれど、後半に行われたジンチェンコを中心とするインサイドハーフの極端な下りるポジショニングによる再現性のある攻撃には対応できず。“変幻自在”のウクライナについていくことはできなかった。

相手のビルドアップ隊を自由にしないためには、後方である程度の同数や相手にスペースを与えることを受け入れなければいけない。矛盾するようだが、3バックによるライン間でボールを受ける選手への迎撃を可能とするための5バックは、大いに採用される可能性が高いように思える。または、原口のウイングバック現象が本大会でも繰り返されるのだろうか。

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