レスターの岡崎慎司にとって、今シーズンはもどかしい1年になった。
レスター在籍3季目でチーム内での役割はすでにハッキリ決まっており、岡崎自身も「やることはいつも同じ」と言い切る。セカンドストライカーとしてCFのジェイミー・バーディーと縦の関係を築き、前線からの守備でチームを支えながら、チャンス時にペナルティエリア内へ侵入してゴールを狙った。実際、シーズン序盤は結果もついてきた。動きは軽快で、折り返し地点前の17節までに6ゴールを奪取。岡崎がレスターで目指す「点が取れて、守備もできる」ストライカー像に近づきつつあった。
ところが、12月13日に行われたこの17節での2ゴールが、今季最後の得点となった。原因は主に2つ。ひとつは、クロード・ピュエル監督の志向する「ポゼッションサッカー」が試合を重ねるにつれて浸透し、これまでのレスターの特徴だった「ハイプレスから素早くショートカウンターを仕掛ける戦術」の重要度が低下したこと。つまり、「ハイプレス→カウンター」で得点を重ねてきた岡崎の持ち味が、生かしにくい状況になった。
もう一つは、シーズン終盤に襲った2度のケガだ。まず右膝の負傷で公式戦4試合を欠場。復帰した後も、今度は左足首を痛めてラスト5試合を欠場した。2月以降は公式戦15試合で、岡崎の出番は5試合しかなかった。「チームのスタイル変更」と「自身のケガ」に悩んだ1年だったと言える。
■西野監督の言葉から見えた岡崎への期待
とはいえ、岡崎は6月に開幕するW杯行きに意欲を示している。岡崎の代表招集は、昨年9月のW杯アジア最終予選・サウジアラビア戦が最後。それでも本人は「日本代表に入っていないことが続いているけど、プレミアリーグでやってきたことが代表の力になるはず」と力を込める。
そんな岡崎にとって、大きな転機になりそうなのが西野朗新監督の就任だ。岡崎は突然の監督交代に驚きながらも、「こういう変化もチャンスの一つ。他の選手も含めて、代表に呼ばれていなかった選手は、みんなモチベーションがぐっと上がると思う」と語気を強めた。
事実、CFに前線でボールを収めるタスクを求めたヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、好みと志向がハッキリしていた。しかし、西野監督は就任会見の席で「日本の強さはグループでの力、パフォーマンスだと思っているので、連携してやっていくプレー、そういう形を取れる選手を選考したい」と語った。その言葉からは、セレクションにもう少し柔軟性を持たせる意向が透けて見える。
■新指揮官が語った評価
また、岡崎への評価も高い。視察でレスターを訪れた際、岡崎について次のように語っていた。
「ハイレベルなステージでやっている。得点だけではない仕事が、岡崎の特徴であり、ストロングポイントでもある。それは、みんなが評価しているところ。プレミアでも得点が取れていないことはない。チームや他の選手のためにとか、サポートプレーというのが岡崎の特長。そういう貢献度っていうのは、自分もすごく（評価している）。そこが代表でも足りないところというか、そういうスピリットが必要なので。
（評価しているのは）僕だけじゃない。サッカーで一番のベースというか、そういうスピリットがまず、いろんなプレーを生むことでもあるので。それをやり続けている岡崎がいる。それも、こういうレベルの中でやっているんでね。『ちゃんと見ているよ』ってことです」
西野監督のこの言葉は、就任会見時に発した「組織や規律、結束した上で化学反応を起こして戦える強さ」を戦い方の基盤にしたい、との談話にもつながる。この「化学反応を起こす」プレーを、岡崎はレスターで常に実践してきた。
パスコースを切りながら前線から積極的にプレスをかけ、中盤以下の守備を助ける。マイボールになれば、敵の隙間のスペースに潜り込み、味方のためにパスコースをつくる。そして、チャンス時にはニアサイドに飛び込み、クロスボールを泥臭くゴールにねじ込む──。
ときに味方を助け、また味方に生かされる。そうすることで、戦力で劣る雑草軍団のレスターはチームとして相乗効果を生み出し、2年前に「奇跡のリーグ優勝」を成し遂げた。その中で、岡崎は大きな役割を果たした。
岡崎は「代表に選ばれたら、自分がやるべきことは分かっている」と自信を持って語る。世界最高峰のプレミアリーグで揉まれ続けた貴重な経験も、世界と戦う上で大きな武器になるだろう。その意味でも、現在痛めている左足首の回復具合が、W杯メンバー入りへの最大の焦点になるのではないか。
取材・文 田嶋コウスケ（スポーツライター）
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