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勝敗だけでは語られないベティス、なぜファンは「負けても万歳」と歌えるのか?【連載:リーガは愛憎譚に満ちて】

Betis-ベティス。アルファベットにして5文字、日本語にして4文字の言葉は、ある人々にとってはすべてを意味している。ベティコ(ベティスサポーター)であること。それは心からうめき声、怒鳴り声を絞り出すことであり、そして、緑白の血筋を誇ることである。

ここアンダルシア州の州都セビージャでは、緑白の血筋が100年以上引き継がれてきた。ベティコからはベティコが生まれるのだ。それは世界にもそうはない町の特徴に由来しているのかもしれない。この町には緑白の血筋のほか、赤白の血筋が存在する。つまりはセビージャを支持する人々である。ベティスの本拠地ベニト・ビジャマリンとセビージャの本拠地ラモン・サンチェス・ピスフアンはわずか3キロしか離れていないが、このアンダルシア州の州都に住む約70万人はその二クラブのどちらかの血筋の人間であり、世代を超えて対立してきた。ここで初めて知り合う人に「君はどちらのクラブの人間だ?」と聞くのは、「何歳だい?」「どこに住んでいる?」「どんな仕事を?」「ビール? それともワイン?」といった基本的な質問に含まれている。2017年5月に86歳で逝去したベティスの伝説的監督ブエナベントゥーラ・ヒルは「フットボールがなかったとしても、ベティスは存在していただろう」と話していたが、まったくの事実に思える。

さて、ベティスは2018年を力強くスタートさせた。1月6日に行われたピスフアンでのダービーで、5−3の勝利を収めたことで。それまでの6回のダービーでは、わずか1ゴールしか決めていなかったのに、今回は相手のホームで5得点を記録した。まだビジャマリンでのダービーは残ってはいるが……いずれにしても今のベティスは確かな足取りで進んでいるようだ。

2018-04-01-betis2 2016年2月に40代前半という若さでクラブの会長となった事業家アンヘル・ハロ、スポーツ面における飛躍を現実のものとしている。その一端を担うのは、ロレンソ・セラ・フェレールだ。1994~97年、2004−06年と2度にわたってベティスの監督を務め、コパ・デル・レイ優勝やチャンピオンズリーグ出場権獲得を成し遂げたフェレールは、ハロ政権の下、副会長としてスポーツ部門を統治する。今季にはラス・パルマスを率いていたキケ・セティエンを招へいし、自身が手綱を握っていた頃のベティスよろしく、魅惑的なアタッキングフットボールを実現するチームによって結果を導いた。 ベティコたちは現チームに期待を膨らませている。昨夏、ビジャマリンは南スタンドを5000席から1万4700席に拡張して、6万720人を収容する巨大なスタジアムに変貌を遂げたが、今季の年間シート購入者はバルセロナ、レアル・マドリー、アトレティコ・マドリーの三大クラブに次ぐ5万2000人に上った--いや、しかし、たとえスタジアムに集まるベティコたちの数が増えようとも、ベティコたちがその身に流れる緑白の血を裏切った、もしくは呪ったことなどあったのだろうか。

結果を手にすればファンは増え、負ければ減る。それこそがフットボールの真理のように思えるが、ベティスとベティコたちの真実はまったく異なる道理にある。

「ビバ・エル・ベティス・マンケ・ピエルダ(ベティス万歳、たとえ負けようとも)」

この代表的な標語が指し示すように……。

レアル・マドリーのファンは「アシ・ガナ・エル・マドリー(マドリーはこうやって勝つ)」と歌い、その勝ち方にさえこだわっているようだが、ベティコたちにそんな感情を理解することはできない。なぜなら、ベティコたちはベティスとともに酸いも甘いも嚙み分けながら、このクラブとともにあり続けたのだから。ベティスにとって最高にして最大のトロフィーは、ベティコたちにほかならない。

ベティスの歴史はまさに山あり谷あり。天国から地獄、地獄から天国へと続く道程だ。そう、彼らの最大の敵は、不安定であることにほかならない(それはアンダルシア人の情熱的な、感情のままに動く気質にも由来するのだろうが)。組織として安定することなく、結果もぐらつき続けてきたのがベティスなのである。

その121年の歴史の中で、リーガ1部優勝を成し遂げたのはたった一度きり。1935年、敵地エル・サルディネロでのラシン・サンタンデール戦を5−0で下した末の戴冠だった。だが、組織として一向に安定しないベティスは1947年、優勝を果たしたそのエル・サルディネロでクラブ史上初の3部降格という憂き目にあう。そして3部で7年を過ごすことになり、財政難によってクラブ解散の危機にも瀕した。そうして叫ばれたのが、「ビバ・エル・ベティス・マンケ・ピエルダ」だったのだ。

セビージャ出身の詩人ホアキン・ロメロ・ムルベ(1904~69年)は、この標語についてこう説明していた。

「ベティスは敗北にも屈しない精神を形づくった。だが、幾度もの苦難によって行き着いた、この説明のしようがない諦観から、栄光へと向けた熱狂が生み出されたのである」

ベティコたちは3部で地獄の日々を過ごそうとも、自分たちのホームスタジアムを埋め、アウェーの地には大挙して押しかけた。その光景はスペイン全土に感動をもたらし、ベティスというクラブを「ビバ・エル・ベティス・マンケ・ピエルダ」という言葉とともに強烈に印象づけることとなった。こうしてベティスは1954年に2部に昇格し、さらに4年をかけてついに1部に舞い戻った。1部復帰を決めたのが、4−2で勝利したセビージャとのダービーであったことは、まさに運命的だった。

しかし、ベティスはその後も上昇と下降を繰り返す。1977年にスペインが民主主義国家となってから初めて開催されたコパ・デル・レイに優勝。1978年に2部降格。1982年、1984年にUEFAカップ出場。1986年にリーガ1部優勝争いに参加。1989年に2部降格。1990年に1部復帰。1991年に2部降格……ベティスがもし飛行機ならば、まさに神業のようなアクロバット飛行である。

ベティスの雲の上と下を行ったり来たりする飛行は、最近まで続いている。1991年に会長に就任したマヌエル・ルイス・デ・ロペラは、日本のフットボールファンも知っているであろうクラブの近年の軌跡を描き出した人物である。「ベティスはこれまで集中治療室に入っていた。私からは自由で、清廉潔白で、リーガ1部にいるベティスを約束しよう。ビバ・エル・ベティス!」。ロペラは1994年、クラブが再び1部復帰を果たした翌日に、ビジャマリンのバルコニーからそう叫んだ。実際、ロペラのベティスはクラブ史に残る成功も収めている。当時の世界最高額の移籍金3000万ユーロでデニウソンを獲得し、下部組織からホアキン・サンチェスを加えたチームは、2002年にフアンデ・ラモスとともにUEFAカップ出場権を獲得。さらに2005年にはセラ・フェレールとコパ優勝を成し遂げ、またアンダルシアのクラブとしては史上初のチャンピオンズリーグ出場権も奪取した。だが……ベティスと不安定は切っても切り離すことはできない。ロペラのワンマン経営となったベティスは金遣いが荒く、スポーツ面における戦略に乏しく継続性を欠いた。そうして2009年に史上9度目の2部降格を強いられることに。ロペラは2010年に粉飾決済の罪に問われてクラブを去ったが、その5年後には10度目の2部降格を“達成”。わずか1年で1部に復帰し、ようやく現在に至っている。

取り扱うクラブがベティスである限り、たとえ今が良くても、未来のことは決して分からない。ただ今回ばかりは、ようやく手堅い未来を夢見てもいいのかもしれない。リーガが敷くサラリーキャップ制度によって以前のような放漫経営が許されなくなり、一括管理がなされたことでテレビ放映権料収入が増えた現在、ベティスは確実に前進しているように見える(来季予算は、クラブ史上初めて1億ユーロを超える見込みだ)。キケ・セティエンを招へいし、グアルダード、ハビ・ガルシア、セルヒオ・レオン、テージョを獲得したチームは見事に機能しており、下部組織からはここ7試合で5得点を記録するロレン・モランが頭角を現した。もちろん、バレンシア、マラガ、フィオレンティーナと旅に出ていたベティコたちの絶対的アイドル、ホアキンも健在。かつては快速ドリブラーとして鳴らした彼だが、36歳となった今はテクニックを全面で押し出した老獪なプレーで、セティエンのアタッキングフットボールに華を添える。

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そして彼らの後ろにいるのは、敗北にも屈することなく、無償の愛を捧げ続けるベティコたち。彼らは降格の度に「ビバ・エル・ベティス・マンケ・ピエルダ」を叫び、クラブを不死鳥たらしめてきた。その内の一人であり、今年のダービー大勝に涙まで流したホアキンは、ベティコの生き様についてこう語る。

「僕たちは、ほかとは一線を画す存在だ。ベティコになるということは、情熱と愛情をベティスという家族のもとで一つにすること。それは一つの生き方にほかならない」

彼らはフットボールを媒介にした一つの共同体だ。「フットボールがなかったとしても、ベティスは存在していただろう」とは、よく言ったものである。かくして、緑白の血が流れる者たちの物語はこれからも続いていく。

「アオラ・ベティス・アオラ(今だ、ベティス、今だ)」

そう声を張り上げて、今に情熱と愛情を刻みながら。

文/ロシオ・ゲバラ(Rocio Guevara、『マルカ』セビージャ支局)
企画・翻訳・構成/江間慎一郎

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