スパイク一足分の意識が、単独首位浮上を引き寄せた。
キックオフ前の時点でともに3勝1分けと無敗で並んでいた、川崎フロンターレのホーム・等々力陸上競技場に乗り込んだ3月31日の明治安田生命J1リーグ第5節を制したサンフレッチェ広島には、ある「合言葉」があった。
■城福監督が口酸っぱく注入してきた「合言葉」
85分にFWパトリックが決めた値千金の決勝点を守り切り、5試合目で3度目の「ウノゼロ」勝利を達成した試合後の取材エリア。先制直後にベンチへ下がるまで、攻守両面でエネルギッシュに走り回ったMF柏好文が、リーグ屈指の攻撃陣を零封した要因を明かしてくれた。
「自由とちょっとしたスペースを与えれば、何でもできるクオリティーを持った選手が川崎には11人そろっている。その意味で中断していた期間で、スパイクを一足分乗せることをより徹底してきた。90分間を通して、決定的なチャンスをそれほど作らせなかった要因だと思っています」
スパイクを一足分乗せるとは、要は選手個々が自らの足のサイズだけ、ボールや相手選手との距離を詰める意識を強く持ち続けること。今シーズンから指揮を執る城福浩監督が、始動時から口を酸っぱくして注入してきた「合言葉」だと柏は笑顔で説明してくれた。
「自分が思っている感覚よりもさらに寄せよう、泥臭く体を当てよう、というのは監督が常に言っていることなので」
象徴的だったのが、最大のピンチとなった11分のシーン。ペナルティーエリア内でこぼれ球を引っかける形で左側へ抜け出したFW大久保嘉人の目の前に、シュートコースが空いた瞬間だった。
一度は大久保を自らの間合いから逃した野上結貴、和田拓也の両DFが歯を食いしばりながら体勢を立て直し、乾坤一擲のスライディングタックルを見舞う。左足から放たれたシュートを、右手一本で弾き返した守護神・林卓人が野上と和田に感謝した。
「自分から動かなければ、ディフェンスがしっかり寄せてくれると思っていた。(大久保に)強いシュートを打たせずに最後は自分が(コースを)予測して反応する、という部分ではしっかり協力できた。僕一人のビッグセーブというよりは、チーム全体で守れたと思っています」
スパイク一足分でも前へ、という意識が大久保に完璧な体勢からのシュートを許さなかった。攻めては53分に発動させたカウンターから、最後はFW工藤壮人がシュートを放った場面でも、同じ意識が口火を切っていた。
自陣の中央でMF家長昭博に縦パスが入った瞬間に、ボランチの稲垣祥が右足をこれでもかと伸ばしながらスライディングタックルを一閃。こぼれたボールに対してピッチに張ったまま、今度は左足を繰り出してMF森谷賢太郎との球際の攻防を制して前方へつなげた。
©J.LEAGUE■広島の下馬評を覆す強さの源泉とは
昨シーズンは開幕から下位に低迷し、7月には広島を3度のリーグ優勝に導いた森保一監督(現U-21日本代表監督)が責任を取る形で退任。負けない戦い方を標榜したヤン・ヨンソン監督(現清水エスパルス監督)のもと、最終節を残してようやくJ1残留を勝ち取った。
そして今シーズン、名門の再建を託された城福監督だったが、新チームの始動は1月22日とJ1の中で最も遅かった。リーグ戦では序盤にいきなり強豪との対戦が組まれた。第2節で浦和レッズ、第3節で鹿島アントラーズ、そして第5節で川崎Fとすべて敵地で対峙することが決定していた。
最初にFC東京を率いた2008シーズンに掲げた、人もボールも絶えず動き続ける『Moving Football』という理想を今も追い続ける。それでも現実に目を向ければ、序盤戦で黒星が先行し、自信を失う悪循環に陥る状況だけは避けなければいけない。指揮官は腹をくくった。
「まずはしっかりとした守備を構築しないと、リーグ戦を勝ち抜くことはできないと。ただ、守備と言っても、ドン引きするということではない。いかにして前からボールを奪えるか。守備をしているけれども、ある意味で自分たちがイニシアチブを取っている場面を作り出せるか。見ていて分かると思いますけど、我々は決して守備的な戦いはしていない」
全体をコンパクトに保ち、前線から激しくプレスをかけてショートカウンターを仕掛ける。はまらない時は自陣でブロックを形成し、焦れることなく守る。2つの戦い方を使い分けながら完遂していく上で、ピッチ上でプレーする全員が必ず立ち返れる場所が必要だった。
指揮官が発した「スパイク一足分」という、キャッチーな言葉は瞬く間にチームに浸透していった。ファウルを厭わない球際の激しさで、川崎Fが誇るパスワークを寸断し続けた効果は、今シーズン初先発にしてプレスの「一の矢」を担い続けた、FW工藤壮人の言葉が如実に物語っている。
「川崎は嫌がっていましたよね。ファウルも含めて止めていた部分が、ジャブのように確実に効いてきて、後半の半ばくらいからは相手の気持ちも切れていた。川崎らしくないミスも多かったという意味では、プレスの意識というところで上回れたんじゃないかと」
川崎Fとの無敗対決を制して首位に立った。開幕前の下馬評を覆す強さの源泉は、失点が浦和戦で喫したひとつだけで、4試合で相手を零封した堅守であることは間違いない。しかし、今現在が完成形だとは広島に関わる全員が思っていない。
「開幕に間に合わせたのが守備、ということ。攻守の両方で進歩していこう、とトレーニングを積んでいる最中なので。守備のレベルを下げない中で、攻撃のクオリティーを上げていく、という作業を毎節のように掲げていきます」
12月まで続く長丁場の戦いへ城福監督が鋭い視線を向ければ、2015シーズンのJ1制覇に貢献した一人でもある柏も、開幕以来の軌跡がチームに自信を蘇らせつつあると力を込める。
「昨シーズンもみんな頑張っていたし、ひたむきに戦っていたけど、(シーズンの)入りがよくなかった。もともと力のあるチームだと、上位で戦えるチームだと僕は思っているので」
6月からロシア・ワールドカップが開催される関係で、長期に渡ってJ1が中断する今シーズン。守備をベースにした戦いで5月中旬まで続く超過密日程を乗り切れば、攻撃面のコンビネーションを理想の域へ熟成させることができる、またとない時間が進化を続ける広島を待っている。
文=藤江直人
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