■「失点しちゃったので１回戻ろうかなと」（内田）
たとえ入りが良くなくても試合の中で耐えて、そこから解決策を見いだせる。
それこそが過去に”20冠”を獲って来たアジア王者の鹿島アントラーズならではの強さだ。もちろん入りから良いに越したことはないし、先制点を与えないほうが良いのは間違いないが、相手も大陸を代表して来ている王者であり、簡単な試合にはならない。
ただ、その中でもグアダラハラ戦の鹿島の入りは良くなかった。前半3分にいきなり左サイドを破られて先制点を奪われると、その後も前からのプレスがハマらず、ボランチの間をどんどん突かれ、攻めても縦に有効なボールを入れられす、中途半端なところでボールを何度も失った。守護神クォン・スンテの踏ん張りがなければ前半でほぼ試合が終わっていたかもしれない。
しかし、そうしたGKのビッグセーブも含めて耐えるところを耐えて、どこかで自分たちのペースに変えていけることもJリーグでダントツのタイトル数を誇るクラブの強みであり、それが世界の舞台でも発揮された。
国際経験が豊富な内田篤人は「失点しちゃったので1回戻ろうかなと。後半は前に行って押し込んだら行けるなと思った」と振り返る。
大岩剛監督は後半スタートから左サイドハーフのレアンドロに代え19歳の安部裕葵を投入。4-4-2のブロックを組んでサイドハーフが縦の進路を塞ぎ、グアダラハラが中央に入れたところでボランチのレオ・シルバと永木亮太が奪う。
土居聖真のラストパスからタイミング良く飛び出した永木亮太が合わせた49分の同点ゴールも、良い形でのボール奪取からの攻撃が実った形だ。内田は振り返る。
「ボールに行くっていうよりはまずブロックを作って、そこに入ってきた選手のところについて行くというかね。ああいう選手は止まらないから。ずーっとポジション入れ替わりでいろんな選手がいろんなところでボールを持てるチームというのは、やっぱりブロック（守備が有効）かなという感じだね。自分たちで守ったほうが勝ちっていう」
■選手たちが共有した意識
©Getty Images
そして、69分グアダラハラの全体が間延びしたところを鹿島が突く形で逆転のPKにつながるプレーが生まれた。土居聖真が起点となり、遠藤康とワンツーをした内田から再び土居にボールが出る。その直前に土居は足をつりかけて、足のつま先をあげながらつるのを止めようとしていた。
「自分にすごいツルナツルナと大声で言ってました（笑）。あそこで篤人さんからもらったときに一発で前を向けたのがすごく大きかったと思う。シュート（を打つこと）とセルジーニョとのワンツーのイメージがあったんですけど、切り返したら足に引っかかった」
相手の足に引っかかったときは「笛が鳴るまでわからなかった」と振り返る土居。
「シュートに行き切りたかったのはありますが、結果的に勝てたので良かったです」と語る。後半は同点ゴールと逆転ゴールに絡んだが、前半は耐えてとにかく追加点を取られないようにと周囲の選手たちと共有したようだ。
「点を取りに行きたいのは分かるんですけど、２点目を取られたらキツイと両サイドにも言ってました。追加点はやらないでくれと。１回守備から入ろうと。なかなかボールの取りどころが前半はなかったですし、キツイ前半だったので、とりあえず耐えて、と言っていました」
土居がもらったPKをセルジーニョ がきっちりと決めて逆転すると、途中で左サイドハーフから1.5列目に移った安部が左サイドに入った安西幸輝とのコンビネーションで右足を振り抜き「あんなに綺麗な形で決めたことはない」というゴラッソで3-1とした。後半アディショナルタイムにペナルティエリア内で左サイドバック山本脩斗のファウルを今大会導入しているVARで取られてPKで１点差に迫られるも、3-2での逆転勝利。準決勝進出を決めた。
難しい試合展開の中でも、チームでやるべきことを共有して自分たちのペースに引き込んで行く。そうした鹿島の良さが出た試合だった。19日に行われる準決勝のレアル・マドリー戦でもそうした強みを発揮できれば、3連覇を目指す欧州王者とも勝負になるに違いない。
文＝河治良幸
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