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ヴェンゲルに最後の“親孝行”を。アーセナルに突きつけられたEL制覇という使命

アーセナルは、本当の意味でもう後がなくなった。

今シーズン、ヨーロッパリーグ(EL)優勝はもはや使命だ。プレミアリーグで現在4位と14ポイント差の6位と、トップ4フィニッシュは不可能だ。チャンピオンズリーグ(CL)出場は、EL経由で行くしかない。2シーズン連続でCLを逃すことになれば、クラブの立場的にも財政的にも非常に大きなダメージを負うことになる。

だが、それ以上に重要で、そして絶対にELを制覇しなければならない理由がある。

以下に続く

そう、22年間クラブのために命を削ったアーセン・ヴェンゲルを、最高の形で送り出さなければならないのだ――。

■フットボールは一瞬で決まる

準決勝ではアトレティコ・マドリーと対戦。本拠地「アーセナル・スタジアム(エミレーツ・スタジアム)」で行われたファーストレグは、1-1の引き分けに終わった。

まさに「フットボールは一瞬で決まる」とでも言うような試合だった。

立ち上がり、アーセナルは珍しく慎重に入った。サイドチェンジを多用し、相手のプレッシングを丁寧に回避10分には相手が退場者を出したことで、試合は一方的に攻め続ける展開となった。強固なブロックを前になかなかチャンスを作れなかったが、61分にこの日闘志あふれるプレーを見せていたアレクサンダル・ラカゼットが、抜群の跳躍からヘディングで叩き込み、ついにゴールをこじ開ける。スタジアムのファンは熱狂に包まれ、誰もが勝利を確信した。

だが、スタジアムの熱狂は一瞬で静寂へと変わる。82分、ダニー・ウェルベックの無謀な突破を止めたアトレティコは、最終ラインからロングパスを送る。抜け出したアントワーヌ・グリーズマンはローラン・コシールニーを置き去りに。一度はGKが防いだものの、こぼれ球を冷静に押し込んだ。

アトレティコスとの熱狂とは反対に、グーナーたちは沈黙。勝利を諦めた一部の人間は、スタジアムを後にし始めた。その後勝ち越しを目指して相手を殴り続けたが、結局ゴールは生まれず。指揮官も「考え得る中で最悪の結果」と嘆くなど、敗北感の漂うドローとなった。

アウェイゴールを許したアーセナルは、敵地で得点を奪えないで終わると敗退が決定する。1-1で90分を終えても、敵地での延長戦に臨まれなければならない。

■最後の“親孝行”を

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だが、彼らはやるしかない。

4月20日。ヴェンゲル監督は今季限りでの退任を発表した。

すでに何度も言われていることなので詳細は割愛するが、彼は「アーセナルFC」そのものだった。

2000年代前半のプレミアリーグをリードし、無敗優勝を達成。さらにスタジアムの再建という大仕事をやってのけ、その間限られた予算ながら下部組織の生え抜きを積極的に抜粋し、なおかつ結果を出し続けたのだ。1995年の就任時にはロッカールームに酒が散乱するなど酷い有様だったアーセナルを、これほどまでのエリートクラブに成長させたのは彼の手腕に間違いない。

ヴェンゲルは言う。「監督業を希望する若者にはこう言いたい。『人生を犠牲にする準備はできているか?』とね」。ヴェンゲルは笑う。リーグ優勝から遠ざかり、近年の結果から一部のサポーターたちまで退任を要求する厳しい状況の中でも、「私はもはやマゾヒズムのスペシャリストだからね」と。

そして、「最も大事なことは、選手を信じること」と断言する。選手たちも口々に言う。「彼は父親のようだ」と――。

今後、ヴェンゲルのような指揮官は出てこないだろう。

そんな彼の最後のシーズン。無冠で終わらせる訳にはいかない。クラブに関わる全ての人間は、22年間身を粉にして働き続けた父親に“親孝行”しなければならないのだ。

ヴェンゲルが退任を告げた時、選手たちは一言も発することができなかったという。そして主将のペア・メルテザッカーは、「ヴェンゲルを彼に相応しい形で送り出す義務がある」と語りかけたそうだ。

まさにそうなのだ。すべてのグーナーには義務がある。

ペトル・チェフは、その日自身のSNSで「全てのグーナー達に、アーセナルの歴史で最も重要な人物に愛と感謝を示すチャンスがきた。彼に新たなトロフィー掲げて去ってほしい。我々全員で、そうさせるんだ」と宣言した。

そうだ。彼のラストシーズンで、初の欧州カップ戦タイトルを届けなければならない。

『Goal』のアーセナル番記者であるクリス・ホイットリーによると、ヴェンゲルの決断は「ファンの圧力や近年の結果による批判」が大きな決め手になったという。大きな愛を持ってアーセナルを作り上げた人物に対し、恩を仇で返すとはまさにこのことだろう。

それでも、彼は退任発表後初の試合となったウェストハム戦後(4-1)に、「ファンを幸せにするために、苦しむことは覚悟しているんだ。両者が幸せなら、それは良いニュースだね」と話すのだ。

僧侶のような指揮官に、散々批判を続けたサポーターも最後ばかりは声援を送らなければならない。

チェフの言うように、これは最後のチャンスだ。例え声が届かない場所にいようとも、声援を送らなければならない。彼が示してくれた愛のほんの数%でも、“親孝行”する必要があるのだから。

文=河又シュート(Goal編集部)

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