マルセイユはフランスでは『別格』のクラブだ。
その理由は、唯一、ビッグイヤーを獲得していることにある。
1993年5月、ミュンヘンでマルセイユはACミランを1-0で下し、欧州の頂点に立った。それから25年以上経っても、この印籠の輝きは色あせない。このときのチームキャプテンは、現フランス代表監督のディディエ・デシャン。チームメイトには、後にともに母国フランスでW杯優勝を成し遂げる僚友マルセル・デサイーやファビアン・バルテズ、クロアチア代表のアレン・ボクシッチ、バシール・ボリなどがいた。このCL優勝をピークに、国内リーグ5連覇を達成していた当時は、マルセイユのクラブ史における黄金期のひとつだといえる。
国内リーグでの優勝9回は、サンテティエンヌの10回に次ぐ2番手。直近の09-10シーズンに国内チャンピオンに導いたのは、監督として古巣を率いた英雄デシャンだ。
■フランス各地にファンを持つ人気クラブ
Gettyそんなマルセイユは、いわゆる『全国区』のクラブだ。
今でこそサポーターは細分化する傾向にあるが、ローカルに根付いた欧州のサッカー文化でも、各国にひとつは全国的に人気を博すクラブがあった。イングランドではマンチェスター・ユナイテッドがそうだったし、ポルトガルではいまだに首都リスボンを本拠地とするベンフィカが「どこでプレーしてもホーム状態」と言われるほど津々浦々にファンを擁している。そしてフランスでは、それがマルセイユだった。マルセイユがある南フランスだけでなく、首都パリにも、マルセイユファンは数多く生息している。
今年3月にプロフットボール協会(LFP)主導で行ったアンケートでは、一番好きなクラブに選ばれたのは22%の票を獲得したパリ・サンジェルマン(PSG)で、マルセイユは20%と僅差ながら首位を奪われる形となったが、スタジアムの雰囲気からしても、一見さん風や観光客も多いPSGのパルク・デ・プランスよりも、マルセイユのヴェロドロームのほうが"聖地"感がある。サッカーなしでは生きられない、という熱狂的なファンは多くないフランスで、そんな人種に会えるのがマルセイユなのだ。
■迷走から新オーナー就任で一変
しかし、2010年の優勝以降は、迷走状態が続いている。
Getty Images14-15シーズンはアルゼンチン人のマルセロ・ビエルサがチームを4位まで引き上げ、翌年のヨーロッパリーグ出場権を獲得したが、翌シーズンの開幕戦が終わった後の会見の席で、奇人の異名をとるビエルサは突然辞任を宣言。チームは舵を失った船のごとく進路を失い、後任のスペイン人監督ミチェルも4月に解任というゴタゴタの中、13位と不本意な成績に終わった。さらにそのシーズンオフには、2009年に他界した前オーナー、ロバート・ルイ・ドレイフュス氏の意志を継いでいたマルガリータ夫人がとうとう売却を決意し、主力選手を次から次へと手放すなどチームは崩壊寸前となった。
酒井宏樹が、4年間在籍したドイツのハノーファーから移籍してきたのは、そんな騒動の真っ最中だった。
しかし、10月になって、MLBのロサンゼルス・ドジャース元オーナーで、アメリカ人実業家のフランク・マッコートのクラブ買収が正式に決定すると、会長、テクニカルダイレクターらフロント陣も一新、さらに10-11シーズンにリールに優勝をもたらしたリュディ・ガルシアを指揮官に招へいし、新たなプロジェクトがスタートした。
フランス代表のフロリアン・トヴァン、ディミトリ・パイェらが出戻って愛想を尽かしかけていたサポーターも気をとりなおすと、新体制初年度ながら5位とEL出場権を獲得。その夏のメルカートでは、元ブラジル代表のMFルイス・グスタボ、フランス代表のGKスティーブ・マンダンダやDFアディル・ラミらベテラン格を補強し、チームに精神的な強さを植え付けた。

そうしてリーグTOP3を目標に戦った17-18シーズンは、終盤までもつれたリヨン、モナコとの三つ巴の戦いに敗れて4位に甘んじたが、ELでは、本人たちも予想外の善戦で決勝戦に進出。リヨンでのファイナルではアントワーヌ・グリーズマン擁するアトレティコ・マドリーに0-3で敗れたが、限られた選手層で過密スケジュールをこなす厳しいチーム状況の中、ひたむきさと懸命さという『気力』を頼りに頑張ってきた彼らにとっては、想定以上の好成績を収めたシーズンとなった。
■加入後すぐに信頼を勝ち取った酒井
Getty Images酒井宏樹も大いに存在感を発揮し、「マルセイユのサイドバックといえばサカイ」と言われるほど、入団2シーズン目にして絶対的なポジションを確立した。
入団直後から、必死にボールや相手に食らいつくファイティングスピリッツはサポーターたちから好感を持たれていたが、ガルシア監督の指導がプレー面でも酒井を大きく成長させた。
「僕の場合は守備がゼロだったから、(監督の指示を)素直に聞きたいと思った」と酒井は謙遜するが、言ったことをどんどん吸収して実践する酒井に、ガルシア監督の信頼は高まる一方で、左サイドバックのジョーダン・アマヴィが負傷したときには(時には負傷から戻った後も!)、監督は酒井を左サイドに抜擢、スリーバックのシステムではセンターバックも任せている。
自分の力が発揮できる右でやりたいというのが酒井の本音ではあるが、この経験は確実に酒井のポリヴァレントさを向上させている。
マルセイユが5-2と大勝してヴェロドロームを熱狂させた昨季EL準々決勝のライプツィヒ戦では、酒井がダメ押しの5点目を決め、待望の初ゴールを飾った。このときの、ガルシア監督やチームメイトの喜びようは凄まじく、当日は奇しくも酒井の28歳の誕生日だったから、これ以上ないプレゼントとなった。

酒井は、「チームとしても人としても街としても、マルセイユでサッカーをすることがすごく面白い」と話す。さらに、マルセイユは「精神面や、覚悟の部分で自分を成長させてくれたチーム」であると。
「選手は、『チームのために』と思えればいいプレーができる。自分が100%を出せばマルセイユの選手たちはきちんと100%答えてくれる」
仲間のために自分ができることをすべてやる、というのが、酒井の信念だ。
フィジカル強度の高いフランスリーグ、その中でもとりわけプレッシャーのきついマルセイユで、アジア人選手がディフェンダーとして定位置を確保するというのは、誇るべきことだ。
プライベートタイムでも、「気を抜ける瞬間は一寸たりともない」と言うほどの緊張感の中で努力を重ね、それでいて穏やかな笑みを絶やさずチームの愛されキャラになっている酒井は、これからもマルセイユ戦士として勇ましい姿を見せてくれることだろう。
■今季はなぜ出遅れた?
Gettyがしかし、肝心のチームとしては、手応えのある昨シーズンを受けた今季は、いまのところ調子は上がっていない。
モンペリエやリールら、昨シーズンを10位以下で終えたチームに先を越され、ELでも、GL終了を待たずに敗退が決定した。
不調の要因はいくつかある。酒井、そして決勝まで進出したフランス代表のトヴァン、マンダンダ、ラミらW杯出場組は合流が遅れ、心身両面でのコンディションが整うのに時間がかかったこと、夏のメルカートで獲得した新メンバーが、ガルシア監督のローマでの教え子でオランダ代表のMFケヴィン・ストロートマン以外は十分な戦力となっていないことなど。さらに、最優先事項だったFWの補強がかなわなかったことは痛かった。ニース所属のマリオ・バロテッリや、仏代表のオリヴィエ・ジルーの獲得を狙っているという話が挙がったが、結局いずれも実現せず、去年の夏に入団して以来、一向に成果を出していないギリシャ人FWコンスタンティノス・ミトログルに委ねるという心もとない状態だ。
それに、昨季の成功の最大の原動力であった「ひたむきさ」が今季は薄れて、つまらないミスで失点するといった自滅のようなプレーも目立つ。
欧州カップ戦がなくなったことをポジティブにとらえて、リーグTOP3を目標に、ここからギアを上げていきたいところだ。
取材・文=小川由紀子
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