普通のフットボーラーであればキャリアの秋を迎えてもなお、さらなるタイトルや旨みのある契約を求めてやまないものだ。多くの移籍を経験してきたアイントラハト・フランクフルトのMFジェルソン・フェルナンデスもその一人と思われるかもしれないが、事実は異なる。
フェルナンデスのプロフットボーラーとしての足跡をたどれば、フランクフルトはすでに彼の10番目の居場所に当たる。多くのクラブを渡り歩いてきた経験も手伝って、今では7つの言語を駆使し、フランクフルトのロッカールームで通訳の役割を果たすことさえあるという。
今年32歳になるフェルナンデスは『Goal』の独占インタビューで、多文化が共存するフランクフルトの雰囲気や新加入選手の受け入れ態勢、言葉の壁という問題、バイエルンの直面する危機について語ってくれた。
■2008年のマンチェスター・ダービー

――ジェルソン、2008年2月10日に何をしていたか、今も覚えていますか?
うーん、とにかく僕がイングランドのマンチェスター・シティでプレーしていたのは間違いないよね。
――その通り。オールド・トラッフォードで行われたダービー戦で、マンチェスター・シティが2-1でマンチェスター・ユナイテッドを破った日です。あの時には、クリスティアーノ・ロナウドのようなスター選手も何人も出場していましたよね。
そうなんだよ、あの日のことは決して忘れないだろうね。あの時僕たちは懐かしいユニフォームに身を包んで戦って、ベンジャニ(ベンジャミン・ムワルワリの愛称)が決勝ゴールを決めたんだ。あれは、ベンジャニがシティに来て初めて出た試合だった。ほんの何日か前にクラブと契約を結んだばかりだったんだ。僕はまだ若くて、オールド・トラッフォードでプレーするのは初めてだった。ユナイテッドではまだ、エドヴィン・ファン・デル・サール、ライアン・ギグス、ネマニャ・ヴィデッチ、リオ・ファーディナンドといったレジェンドたちがピッチに立っていた。すごい試合だったよ。
――あなたは21歳で、プレミアリーグでレギュラーを務めていました。今振り返ってみて、2年半しかイングランドでプレーしなかったのはなぜだと思いますか?
僕は全然出ていきたかったわけじゃないんだ。けれど、当時マンチェスター・シティは、ナイジェル・デ・ヨング、パトリック・ヴィエラ、ヤヤ・トゥーレという僕と同じポジションでプレーする3人の選手を新しく獲得したんだ。もう僕の居場所がなくなってしまったんだよ。イングランドの他のクラブに移るという選択肢はなかった。シティは僕をライバルチームに渡す気はなかったからね。だから、僕はリーグ・アンのASサンテティエンヌに落ち着いたっていうわけさ。
――イングランド、フランス、ドイツ、ポルトガルで、あるいはスイス代表で、あなたは大勢の偉大な選手たちとともにピッチに立ってきましたね。今のあなたにとって一番印象に残っている選手は誰ですか?
たくさんの人間的に素晴らしい選手やトップクラスのフットボーラーたちと知り合いになったけれど、マンチェスター・シティ時代に僕が一番強い印象を受けたのはディトマール・ハマンだったよ。彼はものすごくクレバーな選手で、人格とオーラを兼ね備えていて、本物のリーダーだった。僕自身にとっても個人的にとても重要な存在だったね。彼はたくさんのアドバイスをしてくれて、僕がキャリアを積んでいく間に、それがとても大きな助けになったんだ。
■フランクフルト時代のボアテング

――それからおよそ10年経って、今度はフランクフルトでケヴィン=プリンス・ボアテングとチームメイトになったわけですが、彼もハマンと同じように立派な人格を備えたフットボーラーですね。昨シーズン、ボアテングはチームにどんな影響を与えたと思いますか?
彼は非常に重要な存在だった。経験とフットボーラーとしてのクオリティの高さを兼ね備えたリーダーだった。ピッチの上でも、ロッカールームでもね。僕とボアテングはとてもウマが合って、一緒に楽しくやっていたよ。将来またフットボールに関わる何かの領域で一緒に仕事をすることになるだろうね。
――それはどういうことですか?
それがどんな形を取ることになるのか、僕たちにもまだわからない。けれど、また一緒に仕事をしようって2人で決めてるんだ。それほど僕たちは意気投合したんだよ。
――ボアテングがたった1年でフランクフルトを去ったことに、多くの者は驚きを感じています。あなたがたはチームとして彼の移籍をどう思いましたか?
彼はフランクフルトを離れたかったわけじゃなく、家族のために決断したんだよ。だから、僕たちには彼が決断した気持ちがよくわかったんだ。長い間家族と離れているのは簡単なことじゃないからね。確かに彼は1年しか僕たちのところにいなかったけれど、その1年間にチームとフランクフルトの町のためにすべてを捧げてくれたんだ。だから、僕たちは彼に感謝するべきだと思うよ。彼は僕たちをチャンピオンにして去っていったんだから。
――開幕前、ボアテングとルーカス・フラデツキー(→レヴァークーゼン)、そしてニコ・コバチ監督(→バイエルン・ミュンヘン)が抜けたことで、フランクフルトは問題に直面するかもしれない――シーズン前にはそんな予測が飛び交いましたが、実際にはフランクフルトはいいスタートを切ることができました。ここまでをどう受け止めていますか?
昨シーズンの僕たちはしょっちゅうローテーションをやっていたけれど、それでもチームとしてひとつにまとまっていた。監督が、3人とか4人、あるいは5人の選手を変えても、何も問題はなかった。僕たちはほとんどいつも結果を出すことができていたからね。11月と3月の間は試合日程がとても詰まっていて、そのせいで、ある試合ではフル出場していた選手が、次の週には突然スタンドで観戦していることだってあった。これはつまり、僕たちのチーム編成が非常にうまくいってたってことだ。
――それでも、何と言ってもボアテングとフラデツキーが中心的な役割を果たしていましたよね?
けれど、彼らだって初めからチームの中心になる選手だったわけじゃない。フランクフルトにやって来てからそういう選手に成長したんだ。そんな成長のチャンスを、今度は新しく入って来た選手たちに与えなければならない。僕たちのところには、ボアテングやフラデツキーの残した隙間を埋めることができるような、大きな才能を持った若い選手たちが大勢いるんだから。けれど、彼らが成長したり言葉をマスターしたりするためには、時間が必要なんだよ。
■「コバチは自分のやりたいことがわかっている」

――フランクフルトは躍進を続けている一方で、コバチ監督はバイエルンで初めて問題に直面していますね。あなたはこういうことになると予想していましたか?
何週間か前には彼は称賛されていたし、今までバイエルンのどんな監督もやれなかったくらい非常にいいスタートを切っていた。それが今はブンデスリーガで5位となり、追いつめられた状態になっている。だけど僕には、シーズン前の準備が難しかったせいで、ちょっとしたスランプに陥っているように思えるんだ。それでも、きっとまたバイエルンは前のような強さを取り戻すと信じている。コバチは自分のやりたいことがわかっているし、チームに対して進むべき道をはっきり指し示すことができる監督なんだから。もちろん、これまでの例から見て、バイエルンでは時間を無駄にしているわけにはいかない。けれど、彼はクラブを危機から救い出すことができると確信しているよ。
――フランクフルトで何週間もうまくいかなかった時には、コバチ監督をどんなふうに見ていましたか?
昨シーズンの僕たちの場合、不調が長く続いたことはなかったよ。シーズンの終わり頃にいろいろまずいプレーがあって、何試合も負けてしまったけれど、ドイツカップの決勝戦のおかげでまた風向きが変わったからね。
――あなたは長いキャリアの間にいろいろな経験を経てきています。10ものクラブを経験しながら、そのどこにも腰を落ち着けなかったのはなぜですか?
フランクフルトに来る前、スタッド・レンヌには3年いたよ。それに、今はフランクフルトで2年目を過ごしている。けれどフットボールは変化しているし、何度も移籍することは日常的なことになっている。正直言って、今まで僕はクラブを変えたいと思ったことは本当に一度もなかったんだけど、いつもそこにいいオファーが飛びこんで来たんだよ。もしかすると、時には、もっと根気強く構えるべきだったかもしれない。けれど、いろいろなクラブを経験することで僕は多くのことを学んだし、たくさんの言葉とたくさんの文化に触れることができたんだ。
――レンヌを去ってフランクフルトへ来たのはなぜですか?
当時、コバチ監督とブルーノ・ヒューブナーSD(スポーツディレクター)と執行役員のフレディ・ボビッチから彼らの考えているプランを説明してもらって、すぐにフランクフルトへ行きたいという気持ちに決まった。もちろんフライブルクにいた頃からフランクフルトのことはよく知っていたし、だから自分に求められていることもだいたいわかっていたんだよ。ピルミン・シュヴェークラーやクリストフ・シュピッヒャーやハリス・セフェロヴィッチにも問い合わせてみた。彼らはみんなフランクフルトで活躍していた選手だからね。

――ヨーロッパリーグのホーム開幕戦・ラツィオ戦を迎えようという時期には、SGE(フランクフルトの愛称)のファンは並外れたパワーを持っていることを見せてくれました。あのような熱狂ぶりを目の当たりにして、選手としてはどんな感じですか?
あれは本当にすごいね、フランクフルトというクラブの途轍もない底力を感じるよ。とにかく信じられないような熱気だ。スタンドで起こっていることがピッチの上にも伝わるんだ。フランクフルトというチームは伝統と情熱を体現しているよね。
■異文化共存のコツとは?
Getty Images――あなたは7カ国語を操れますね。フランクフルトでは、時には通訳の役目も果たしているんですか?
僕たちのところにはちゃんと通訳もいるけど、僕ももちろん喜んで若い選手たちの手助けをしているよ。それでも、選手の一人ひとりがドイツ語を話せるようになるのはとても重要なことだ。僕がいつでもどこでも通訳しているのは、長い目で見ると彼らのためにならないからね。話し合いがあるたびに、後で中身を知るために苦労しなければならないとしたら、それはよくないよ。
――フランクフルトというチームでは実に様々な国籍の選手たちが活躍していますね。どうしてこういう特別な状況が生まれたのでしょう?
フランクフルトはとても国際色豊かな町だ。けれど、それにもかかわらず、人々がドイツの文化を受け入れているのが重要な点なんだ。ここで暮らして快適に過ごしたいと思うなら、ドイツ文化と積極的に関わって、町の生活を受け入れることが求められているんだよ。自分の国の言葉しか使わずに外国人同士だけで話していても、どうにもならないよ。
Getty Images――様々な文化が共存しているのですから、ロッカールームは特別な雰囲気にあふれていますか?
時には、ロッカールームの中で6つのいろいろな言葉が同時に飛び交っているようなことが起こるんだ。だけど、これはいくらなんでも行き過ぎだって気づいたら、僕たちはまたドイツ語で話そうと努力するんだよ。みんながお互いの言っていることを理解できるようにね。
――プロになってからもう14年になりますね。その間に、あなたはどんなふうに変わりましたか?
フットボールに関わる仕事全体が変化したと思う。今では何もかもが以前よりずっと速いペースで進んでいくし、選手や監督にはそれだけ大きなプレッシャーがかかるようになっている。前は必ずしもそうじゃなかった。フットボールという仕事全体がものすごくスピードアップしてきているんだよ。つい2週間前にも、僕はチームの仲間たちとそのことについて話してたんだ。僕が思うに、20年前だったらプロ選手としてやっていくのも今より楽だっただろうね。
――昔の若い選手は、ベテラン選手に対して今よりもっとリスペクトを持っていたと思いますか?
そうだね。だけどそれは、昔は年上の選手が若手に対してそれほど親切じゃなかったせいもあったと思う。当時の僕の経験だと、歳は自分より若いのに優秀な若手が入ってきて、ポジション争いが起こったりすると、年上の選手は腹を立てたり気分を害したりしたものだ。そういう場合、年長の選手は才能のある伸び盛りの選手に対して冷たい態度を見せることがあったんだ。今では、少なくとも僕たちのクラブでは、全然そんなことはなくなったよ。
■「まだフットボールをやめるつもりはない」

――今ではあなたもベテラン選手の一人になりましたね。ところであなたの家族関係を見ると、5人のいとこもプロのフットボーラーになるという快挙を成し遂げています。フェルナンデス一族の間では、フットボール以外のことも話題になりますか?
(笑って)そういうことはあまりないね。僕の両親の家でも、叔父や叔母の家でも、僕たちの間ではいつでもどこでもフットボールのことが顔を出すんだ。もちろん大勢いる僕たちの家族の中には小さな子供たちもいて、彼らにとって関心があるのは学校のことだ。だけど、たいていすぐにまたフットボールの話題に戻って来るんだよ。
――あなたのいとこたちの中でも、特にエジミウソン(フェルナンデス)は大きな可能性のある選手だと思われていますね。彼は今、ウェスト・ハムからフィオレンティーナへ貸し出されていますが、あなたは彼の決断をサポートしているんですか?
もちろん彼とはいい関係を保っているし、僕で力になれる場合には彼をサポートしている。僕はすでにいくらかの経験を積んでいるし、できるだけたくさんアドバイスできるように努めているよ。彼は素晴らしい才能の持ち主で、22歳でもう代表選手だ。それでも、次のステップに進むには、これからも厳しい努力を続けなければならないだろう。
――昨シーズンのあなたはレギュラーの地位を不動のものにしていたわけではありませんし、今年の夏にはリーグ・アンへの移籍の話もありましたね。なぜフランクフルトに残ることに決めたのですか?
確かにいくつかいいオファーがあって、フランスで2、3年過ごせそうだった。けれど僕は、ボビッチやヒューブナーと話し合ってはっきり伝えたんだよ。「クラブがこの先もまだ僕を必要としていて、これからも若い選手たちの助けになると思っているのなら、僕はフランクフルトに残りたいと思っている」とね。僕の家族はここの暮らしが気に入ってるんだ。だから、たった1年でまたよそへ行くはずがないだろう?
――あなたは9月で32歳になりましたが、残りのキャリアにまだ何か計画はありますか?
僕が望むのは、健康で過ごしたいということだけだ。膝がまた悪くならないこと、キャリアが終わった後も痛みに悩まされずに子供たちと一緒に散歩に行けること、それが僕の願いだよ(笑)。
――プロのフットボーラーとしての人生で、フランクフルトはあなたが最後に身を寄せる場所になりそうですか?
シーズンの終わりまではまだフランクフルトとの契約が残っている。その後何が起こるかは今のところわからない。今の僕にわかっているのは、まだフットボールをやめるつもりはないということだけだ。
インタビュー・文=Robin Haack
構成=Goal編集部
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