いつの時代も監督というのは厳しい職業だ。素晴らしい結果を残し、称賛に値する仕事ぶりを見せていたとしても、数試合で自身の職を失う心配をしなければならないこともある。監督へのリスペクトが払われてきたはずのドイツでも、時代は移ろい、突然の解任劇も珍しくはなくなった。
では、逆に監督業の喜びとは何なのだろうか。その疑問に答えてくれたのはブンデスリーガで降格圏に沈むフォルトゥナ・デュッセルドルフのフリートヘルム・フンケル監督だ。難しい状況に陥っているはずだが、「プレッシャーは感じなくなった」という。
一方で、現代のフットボール界の新しい “流儀”には大きな問題があると考えているようだ。監督たちに対する敬意を欠いた扱いについても『Goal』へ語ってくれた。
■「うわさや商売の話ではなくフットボールを中心に」
Getty Images――フンケルさん、いきなりですがフットボールの本質とは何でしょうか?
本当に突然だね(笑)。私が思うに、フットボールの本質は、勝ちたいと願うことだ。まったく単純なことだよ。フットボールをプレーするとき、人はほかの人間との競争を求めている。だが、そこにはもちろんフェアプレーや互いにリスペクトを抱き合うことも含まれている。それがフットボールの本質だと私は思っているよ。
――開幕直後、「もっとフットボールの本質に立ち戻らなければならない」とも言っていましたね。ですが、そのときは必ずしもフェアプレーのことには触れていませんでした。
あのときの質問の趣旨は「フットボールが再び昔の美点を取り戻すべきか否か」ということだったと思う。つまり、再びもっと人を大切にし、もっとファンに歩み寄り、とにかくもっとフットボールの本質となる仕事に集中するべきだということだ。
――あなたにとって、その本質とは何を意味しているのですか?
いろいろなうわさとか商売の話に惑わされることをやめて、再びフットボールを中心に据えるということだよ。私が本質という言葉で言いたかったのはそこだ。
Getty――W杯の後、ドイツフットボール連盟(DFB)をめぐるそういったスキャンダラスな話題と並んで、ドイツ代表とファンとの距離が広がっていることが批判の中心となりました。その後、ベルリンで5000人の観衆を前に公開練習が行われ、約束は果たされたと言われました。代表チームのこの数週間の動向を見て、あなたはどう思いますか?
非常に遅々とした印象を受けている。代表選手たちが今は再び、以前よりもファンとの距離を縮めて、サインや写真の求めに応じているという事実はある。だが、今よりもずっと明確な信念を持って、そういうことを行う必要があるだろう。とにかく、ドイツでは代表チームがどれほど重要な価値を持っているかということを自覚しなければならない。ドイツ人は自分たちの代表チームを心から愛しているんだ。彼らは練習を見に行って代表チームを肌で感じたいと思っているし、選手たちがやって来れば、ホテルの前で友人のように待ち受けてサインを求めてくる。そんなときに一言もなく、挨拶もせずに通り過ぎるなんてすべきじゃない。その点は、W杯以来ほんのわずかだけよくなっているかもしれないが、まだまだ改善の余地は大いに残っている。
――あなたはフォルトゥナ・デュッセルドルフの選手たちにも同じような態度を求めているんですか?
ファンの誰かが私の写真を撮りたいと思ったり、私のサインを喜んでくれるときには足を止める。それは私にとって当たり前のことだ。常に非常に多くの時間を費やす必要があるし、私はそれ以外のやり方を知らない。私の選手たちにも同じことを期待しているよ。その場合、ときにはちょっと引き留めてたしなめなければならないこともあるが、これは間違いなく今の時代のせいだ。私にはそうとしか考えようがないんだ。
■リスペクトの失われた時代の難しさ

――今の時代ということを話題にするなら、周知のことですが、今は監督にとって大変な時代ですね。ブンデスリーガで監督を務めていると、昨日は英雄扱いされていても、今日になれば間抜け扱いで、クラブから追い出されてしまうのですから。
こんなに目まぐるしく評価が変わるのは、監督に対するリスペクトが失われているからだ。特に、フットボール以前の部分でそうなんだ。この点については、記者連中に主な責任があるだろう。彼らはますます監督たちを追いこむようになっている。たとえば2試合を落としてしまった監督がいたとする。すると、リスペクトを欠いた報道によってその監督は追い詰められるんだ。ちょっと想像してみるといい――2試合に負ける、するともう無能な監督扱いで、昔はなかったようなやり方でメディアによってスケープゴートにされてしまうんだ。昔のジャーナリストは、状況に対しても人間に対しても、もっとリスペクトを持って接していたものだよ。
――最近では、バイエルンのニコ・コバチ監督の身に起こっていました。監督に対するメディアのリスペクトが欠けていることの証拠でしょうか?
あの場合は、「試合にアイデアが欠けている」とか、「攻撃がうまくいっていない」とか、「スペースの使い方がおかしい」とか主張する選手たちにリスペクトが足りないんだよ。バイエルンの選手たちは自省し、自分たちの失敗を考えるべきだ。3週間前にはまだ、監督の言った通りにやって何もかもうまくいっていたんだ。それが、今はすべて間違っているだって? ボルシア・メンヒェングラートバッハ戦(0-3)で相手に失点を許したときのプレーを見れば、「いったい監督に何ができるんだ」と尋ねたくなる。バイエルンの選手たちが試合中に自分たちの力でいい攻撃ができないのなら、それは“破産”を宣言しているのと同じことだ。
■タイフン・コルクトの解任問題

――“破産宣言”と言えば、シュトゥットガルトのタイフン・コルクト監督の解任についても、だいたいにおいて同様の見方がされています。ミヒャエル・レシュケSD(スポーツディレクター)はハノーファー戦で負けた後も公の場で監督を擁護したものの、そのわずか数時間後には監督解任という決断を下しました。
もちろん、ミヒャエルのやり方はまずかったね。夕方に首脳陣と話し合うことがわかっていれば、私ならほかの言い方を見つけるだろう。あのとき、ミヒャエルは自分の思っていることを口に出して失敗し、今では後悔していると思うよ。いろいろな状況で少しはごまかしを言うこともあるものだが、しかしあんなに極端にやるだろうか? あれはまずいやり方だ。
――勝ち点に関しては、コルクト監督のシュトゥットガルトとフォルトゥナは同じ状況にあります。ですが、フォルトゥナでは、あなたの立場が危ういだなんて誰も思っていませんね。
前提条件が根本的に違っているからだよ。シュトゥットガルトの場合には、常にブンデスリーガに残留することをノルマとして、目標が設定されている。だが我々の場合は、ブンデスリーガに残留することが決まれば、それだけでセンセーションを巻き起こすだろう。これまでのところ、我々はやるべきことを極めてうまくやってきている。たとえ、我々の見せたパフォーマンスからすれば、手にした勝ち点が3、4ポイント少ないとしてもだ。だが、我々のパフォーマンスは評価されているし、実際、評価されるだけのことはやっている。だが、シュトゥットガルトはチームの補強に4000万ユーロ(約50億円)も使っており、まったく違う目標を持っているからね。序盤にしたって、不安が広がるのももっともなことだ。
――またもや、短期間で結果を求められるという “目まぐるしさ” に話が戻ってきましたね。
今では、どこにも時間の余裕など残されていないからね。そういう状況では、もう誰も、タイフン・コルクトが去年シュトゥットガルトを降格から救ったことを考えたりはしない。あのときは、彼は優れた監督だと思われていたんだけどね。彼は、4000万ユーロという大金に伴う過度の期待の犠牲になったんだ。翻って、我々フォルトゥナの投資額は200万ユーロ(約2億6000万円)だったというわけだ。
■「プレッシャーは私の人生から消えてしまった」
(C)Getty Images――「残留を決めればセンセーションになるだろう」と言われましたが、デュッセルドルフ市民の多くが、そういうセンセーションをあなたには期待しています。そんな熱気に包まれながら、少しもプレッシャーを感じることはありませんか?
私はもう長い間プレッシャーを感じることはなくなっているんだ。プレッシャーというものは、私の人生からきれいに姿を消してしまったよ。私がまだ自分の仕事を続けているのは、仕事が楽しいからであり、この2年間にブンデスリーガ昇格という形でやり遂げたことをうれしく思っているからだ。我々がクラブとして、トレーナーや選手たちと一緒になって成し遂げたこと、それ自体がセンセーショナルなんだ。
――ブンデスリーガに乗り出すという冒険を始めるに当たって、チームの選手たちにはどんな言葉をかけましたか?
我々は少しもプレッシャーを感じていないということだ。いずれにせよ誰もが、フォルトゥナは降格の第一候補で、残留は無理だと言っているのだから。だが、それにもかかわらず我々は、ブンデスリーガで立派にやっていけることを示したんだ。我々に必要なのは、どの試合でもいいから勝利を手にすることだよ。
――何もかもが目まぐるしい評価にさらされ、監督へのリスペクトも失われた現状で、あなたが今なおどんなふうに仕事に喜びを感じて、うまくスイッチを切り換えているのか、教えてもらえますか?
ひょっとすると、確かに私はほかの監督よりうまくやれているかもしれないね。年齢も年齢だし、記事に書かれたり言われたりすることをもうそんなに真面目に相手にしないんだよ。ソーシャルネットワークも私は知らない。SNSで私が何をすればいいんだ? あんなものはナンセンスだね。度を越した誇張がまかり通り、正体もわからない誰かから悪口を浴びせられたり脅されたりする世界だ。私にはまったく興味が湧かないよ。
――ソーシャルメディアを使わないというのはすごいですね。ところで、あなたはもっと頻繁にオペラに行くよう勧めていたことがありますが、それについてはいかがでしょう?
本当にそんなことを言ったことがあったのだろうか…。いや、私はオペラファンじゃないよ。ジャンルに関わりなくドイツの音楽を聞きはするが、それを別にすればたいして音楽好きでもない。それよりも、友人たちと出かけて、映画を見たりテニスをするのが好きだね。試合の後にやるのもそういうことだ。
――デュッセルドルフはあなたが監督として身を寄せる最後のクラブになることが決まっていますね。あなたはデュッセルドルフのほかにもブンデスリーガの数多くのクラブで監督を務め、ドイツで700試合以上指揮してきました。反対に、国外のクラブで指揮を執ったことは一度もありません。国外へ出たいと思ったことはないのですか?
それはないね。いつもドイツで仕事をする機会があったからね。ドイツは素晴らしい国だ。本当にとても気持ちよく暮らすことができるし、フットボールに関わる仕事もできるんだ。ほかの国で仕事をすることに心を惹かれたことは一度もないね。
インタビュー・文=ヨナス・リュッテン/Jonas Rütten
構成=Goal編集部
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