■辛い夜、涙の選手たち
悲しみに暮れるだけの夜ではなかった。バイエルン・ミュンヘンにとって今シーズンで最も辛い日となったとしても……。
バイエルンの赤い選手たちの燃える思いは、4月25日からの一週間で涙へと変わった。
ケガのためファーストレグを直前で回避し、2戦目で復帰して左サイドの攻撃を活性化させたダビド・アラバは静かに手で涙を拭い、チアゴ・アルカンタラはピッチへと倒れ込み、呆然と天を見上げた。
特に印象的だったのはヨシュア・キミヒ。23歳の彼にとっては初のチャンピオンズリーグ準決勝の舞台となり、レアル戦の前には「楽しみ」と息巻いていた。11戦連続得点と乗りに乗っていたクリスティアーノ・ロナウドについて「僕らは止められる」と話す、勝ち気な一面も魅力の一つ。
初の大舞台で、大きな口を叩けば、得てしてしっぺ返しのように厳しい結果が待ち受けるのがフットボールのお約束だが、彼の場合は違った。2試合連続で先制点をマークし、ピッチ上で最年少の選手でありながら、チームをけん引した。そんな若武者は、敗退が決まった瞬間に座り込み、人目をはばかることなく涙をこぼしていた。
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■あと1点が遠かった
ホームでの初戦を1-2と落としていたバイエルンに求められるのは、一にも二にも得点。そうわかっていても前に出られないのが難しさの一つだが、サンティアゴ・ベルナベウのピッチに立った11人の意思は完全に統一されていた。
立ち上がりから、これ以上ないほどの「積極性」を見せてゴールへと襲いかかった。スペインへとはるばる乗り込んできたサポーターも全力でその声量を持って後押しする。
ファーストレグ最大の課題となった決定力も3分でクリア。右サイドからのクロスのこぼれ球をキミヒが押し込んで、大きな先制点を挙げる。この時点で逆転での突破には残り1点と、決勝の地キエフへの道のりに光が差した。
しかし、水を差したのはファーストレグと同じようにマルセロとミスだった。11分にマルセロのここしかないというクロスで、カリム・ベンゼマの同点弾をお膳立て。そして後半開始早々にはスヴェン・ウルライヒがバックパスの処理を誤り、ベンゼマに勝ち越し弾を許した。
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Gettyハメス・ロドリゲスが試合をタイにする同点弾を流し込んだが、残りの30分間ではロベルト・レヴァンドフスキの沈黙ぶりとケイロール・ナバスの好守が目立つ。陳腐な言い方ではあるが、「あと1点が遠く」、ここ5シーズンで4度目となる準決勝敗退に終わった。
■寄り添ったサポーター
2シーズン連続でレアル・マドリーの前に敗退へと追い込まれ、アラバは「本当に失望している」と肩を落とし、トーマス・ミュラーは「痛みを伴う状況だし、言葉にするのは難しい」と口をつぐんだ。
2戦を通じて安定した守備を見せたマッツ・フンメルスのみが「レアルは2試合通してしっかりチャンスを生かした。このレベルではそういった抜け目のなさが勝負を分ける」と冷静に分析。続けて、「今日は(マヌエル)ノイアー、(アリエン)ロッベン、(アルトゥーロ)ビダル、(ジェローム)ボアテング、(キングスレー)コマン抜きでよく戦ったと思う。言えるのは、来季はもっと危険なチームになれるということだよ」と先を見据えた。
Getty Imagesしかし、誰しもがそう簡単には前を向けない。特にチャンピオンズリーグ最後の試合となったユップ・ハインケス監督は「9カ月チームとともにし、練習を行って最高のグループになったんだ。選手たちは全員が成長したと思うし、それがこういう形で終わってしまい、本当に残念だよ」とつぶやくように語り、自身の息子たちとも言えるほど齢の離れた選手たちが笑顔で大会を去れなかったことを悔やんだ。
一方で、勝ったときも負けたときも「私のチーム」という言葉を強調する72歳の老将は、この日も「よくやってくれたし、選手たちはタスクを遂行した。言い訳はない」と温かいコメントを残している。
Getty Imagesミュラーは言っていた。「僕らは決勝でプレーするのに値していた」。2試合を終えた今、果たして本当にそう信じていいのかはわからない。準決勝という大舞台であまりにお粗末なミスを2つ犯し、決定的な得点を与えてしまったからだ。
しかし、逆転を信じ、「niemals aufgeben(never give up)」を合言葉にマドリーへと乗り込んできたサポーターたちは試合終了の笛が鳴ってもチャントを歌い続けた。そこに、ピッチに座り込み、一点を見つめるウルライヒの姿があったからかもしれない。2013年の戴冠から、決勝ラウンドで涙を飲んだのはこれが5度目。繰り返される悲劇にも愛するチームへの誇りは失わない。「立ち直るには時間がかかる」(ミュラー)、サポーターも同じ思いを感じた夜のはずだが、大きな歌声とともに気持ちは確かに寄り添っていた。
文=平松凌(Goal編集部)
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