ブンデスリーガを長く経験した男は今夏、母国への復帰を決断した。久しぶりのオーストリア・ブンデスリーガでの戦いは今のところ、満足のいくものとなっているようだ。
ヴェルダー・ブレーメンで6年半の歳月を送った後、ズラトコ・ユヌゾヴィッチは2018年の夏に故郷オーストリアのクラブ、レッドブル・ザルツブルクへフリーで加入した。プレミアリーグから誘いもあったというが、心を動かされることはなかったという。
これまでオーストリア代表として55試合に出場してきたユヌゾヴィッチは、プロになるまでの困難な道のりや特色あるザルツブルクの特殊なシステムについて、また “兄弟チーム” ライプツィヒとの関係について語った。
■家族一丸となって支えたプロへの道
Imago――ズラトコ、あなたはフットボーラーとして大きなキャリアを積むという夢を実現するために、非常に幼い頃から少々犠牲を払ってきました。12歳という若さで家族のもとを離れて単身グラーツへ向かったわけですが、当時のあなたの両親の反応はどうでしたか?
両親と僕にとっての本当の故郷は、それよりもずっと前にボスニア紛争のせいで失われていたんだ。僕は12歳の時にケルンテン(オーストリア南部の州)を出て、同じオーストリアのグラーツ(中部のシュタイアーマルク州の州都)へ移った。だけど、そんなに若いときに両親のもとを離れるのは、僕にとって非常に思い切った一歩だったよ。グラーツではグラーツァーAKの監督の家に置いてもらっていたんだけど、少し経つと激しいホームシックにかかって、家族のところへ帰りたくなったよ。結局、両親が大きな力を貸してくれることになった。だからこそ、僕は自分の道を進んで夢を実現することができたんだ。
――ご両親もグラーツへ引っ越して、あなたの夢のために協力してくれたんですね?
そう。母はそれまでの仕事を辞めて、グラーツで新しい職を探したんだ。初めのうちは、姉が大学での勉強を終えるまで、父と姉はケルンテンに残っていたけどね。これはつまり家族全員にとって、振り子みたいにさんざん行ったり来たりしなければならないってことだったんだ。週末に僕の試合がないときには、いつも父が母と僕を迎えに来て、ケルンテンへ連れて戻った。試合があるときには、今度は僕を支えてくれるために、いつも家族がみんなグラーツに集まったんだ。両親は何年間も大きな犠牲を払ってくれたよ。僕がプロのフットボーラーになるチャンスをつかめるようにね。だけど、あれはとてもじゃないけど落ち着いた生活なんて言えるものではなかった。
――それでも、結局はうまくいきましたね?
実際に僕はやり遂げたけれど、僕たち家族の誰にとっても大変なことだったよ。僕にとっても、姉や両親にとってもね。グラーツァーAKのユースチームでプレーしていても、プロになるまでにはまだまだ長い時間がかかるし、何もかも僕が自分の力で頑張って手に入れるしかなかったんだから。毎年新たに才能のある選手が入ってくるし、遅れずに付いていくだけで大変だった。16歳の頃から、僕はプロになるための道が非常に狭い道だと気づいていたよ。今から思えば、僕は幸運だったとしか言いようがないね。しかるべき時に自分の力を発揮することができたんだから。
■「ザルツブルクは僕にぴったりのクラブ」

――その後、あなたのキャリアは急激なスピードで進展しましたね。17歳でデビューし、18歳で代表入りを果たしました。それから24歳でドイツのクラブへ移ったわけですが、今またあなたは6年半ぶりにオーストリアへ戻ってきました。なぜオーストリアへ戻ることに決めたのですか?
僕は、自分の基本的な方針に基づいて決めたんだ。この先どんな生活を送りたいと思っているのか、自分の胸に聞いてみたんだよ。そしたら、ザルツブルクの環境や言葉やクラブのフィロソフィー、そのどれもが僕にぴったりだと思ったんだ。ザルツブルクのスタンダードや条件は飛び抜けていて、その点ではヨーロッパのどんなクラブにも引けを取らない。だからこそ、ザルツブルクは成功を収めているんだ。そういったことを考えると、ザルツブルクを選ばない理由はなかった。ザルツブルクの才能ある若い選手たちと競い合ってやっていくのは素晴らしい挑戦だ。すべての試合に90分間ずっと出場するのは無理だろうってことは最初からわかっていたけれど、それもまた僕を奮い立たせたんだ。
――ザルツブルクでタイトルを取ることは、あなたにとって重要な意味を持っていますか?
そこが重要な点なんだよ。いい結果を出して、チームメイトと協力して順位を上げ、どんどん勝利を勝ち取りたいと思っている。僕はその力になりたいんだ。ピッチの上だけでなく、ピッチの外でもね。

――ヴェルダー・ブレーメンと違って、ザルツブルクはオーストリア・ブンデスリーガの覇者として君臨していますね?
ブレーメンの場合は、前提となる条件がまったく違っていたからね。今シーズン、ブレーメンはほとんど初めてちゃんとしたまとまりを持つことができたんだ。それに、他にも何人もの優秀な選手が新たに加入してきている。もちろん、ブレーメンはもっと早くそういう投資をすることもできただろう。けれど、今シーズンのブレーメンはその点で前進しているし、フローリアン・コーフェルトのもとで、チームが今のような順位を維持することができればいいと心から願っているよ。きっと、ブレーメンはヨーロッパリーグに出場する権利も手に入れるだろうね。
――あなたは3年前に『Goal』のインタビューで、プレミアリーグに大きな魅力を感じていることを明かしていました。現在、ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンがあなたに興味を持っていると聞いています。それにもかかわらずイングランドへ行かないことに決めたのはなぜですか?
もちろん、プレミアリーグへ行くことについては何度も考えたよ。プレミアリーグは僕にとって世界最高のリーグなんだから。プレミアリーグでプレーすることを考えたことのない選手なんていないと思うよ。もちろん僕は時間があればプレミアリーグの試合を熱心に見ている。けれど、年を取ると、フットボーラーとしての自分のことだけ考えているわけにはいかなくなるんだ。僕には今家族がいて、僕の決断の結果が家族にも影響を及ぼすことになる。プロになってドイツのブンデスリーガでプレーすることは、僕の子供の頃からの一番大きな夢だった。それをやってのけたんだから、今の僕は自分のこれまでのキャリアを誇りに思うだけでなく、それ以上の満足感を覚えている。だから、ただ単に、今ではもうプレミアリーグは僕にぴったりの居場所じゃなくなったってことなんだよ。
■若手を重用するザルツブルク

――あなたが31歳という年齢で移籍するのは、ザルツブルクにとって異例のことだったと思います。にもかかわらず、なぜクラブはあなたを獲得したのでしょうか?
チームには他にも2、3人年長の選手がいるけれど、もちろん僕には、ロッカールームでも年下の選手たちをいくらかサポートすることが求められている。けれど、僕が実際に意見しなければならないようなことはまだ起こっていない。若い選手たちはみんな規律を持って行動しているし、自分の夢のために一生懸命頑張っているからね。みんな、ピッチの上でもやる気十分だよ。たとえオーストリアの国内リーグが一流のリーグとは見られていないような部分があるとしても、開幕から10連勝するのは(10月20日のFCヴァッカー・インスブルック戦を1-1で引き分けたことにより連勝記録はストップ)簡単なことじゃない。厳しい努力があって初めて可能になることだ。
――ブレーメン時代のあなたは、フットボーラーとしてプレーするかたわらスポーツマネージメントの勉強もしていましたね。キャリアを終えたら事務に関わる仕事につくとか、あるいは監督業という選択肢も考えていますか?
僕はもうすぐ監督のライセンスを取ろうと思っている。けれど、マネージメントの勉強をもっと続けることも考えているんだ。現役を終えたら、どちらかと言うとマネージメントの方向へ進みたいと思うけれど、自分の前にたくさんのドアが開かれている状態にしておいて、何が自分に向いているのか見てみたいんだよ。ひょっとしたら、何かまったく別のことをやるかもしれないしね。それでも、あと何年かは選手としてやっていけるし、それを楽しみたいと思うんだ。
――ザルツブルクは若い選手たちに大きな信頼を寄せていますね。チームの要となる中盤には、欧州でも高い評価を受けている2人の若手タレント、アマドゥ・ハイダラとディアディエ・サマセクが配置されています。彼らの特徴はどういうところにありますか?
とにかく、彼らは信じられないくらいプレーすることを楽しんでいるよ。まさにサマセクなんか、常に笑っているんだから。彼らは豊かな才能に恵まれているけれど、そんなことは何も考えず、とにかく伸び伸びとプレーしている。
2人のプレーの質やポジションは少しだけ違っている。ディアディエはどちらかと言うと守備に向いているね。ハイダラの方はどこへでも走っていく “ボックス・トゥ・ボックス” タイプだ。彼らはきっと成功を収めると確信しているよ。これから先、彼らが自分の力を証明する必要に迫られるような状況に出くわすことはまだまだたくさんあるだろう。けれど、これまでのところ彼らはコンスタントに素晴らしいレベルのプレーを見せている。
Getty――今でもすでに、ハイダラはしばしばナビ・ケイタに比較されています。ハイダラにもケイタと同じようなキャリアが待っていると思いますか?
うん、間違いなくそうなるだろうね。僕たちのチームには、ある程度のキャリアが見込める選手が大勢いると思う。そして、それを実現するには、今のような素晴らしいパフォーマンスが本物だと証明することが大切なんだ。今ではもう、僕たちを見くびるような者はいなくなっている。僕たちが優れたチームで、一人ひとりの選手に力が備わっていることを誰もが知っている。そのせいで、プレッシャーや期待も間違いなく大きくなっているけれどね。昨シーズン、僕たちはヨーロッパリーグでラウンドごとに状況がどう展開していくのか目の当たりにすることができたし、準決勝進出という快挙まで成し遂げた。そのすべてが若い選手たちの経験になって、彼らはそういう経験を蓄積して消化していくんだよ。長い目で見れば、こういう状況は選手の成長にとって非常にいい影響を及ぼすはずだ。
■資金力だけで成功を勝ち取ることはできない
Getty Images――ヨーロッパリーグ初戦では、ザルツブルクがライプツィヒを3-2で下しました。“兄弟チーム” のライプツィヒに対して、今のザルツブルクが単なるマイナーリーグのチームではないことを証明するのは有意義な経験でしたか?
ライプツィヒに対する勝利には大きな意味があったよ。あの試合に勝ったことで、最高に望ましい形でグループステージのスタートを切ることができたんだから。まず僕たちがとてもうれしかったのは、セルティックFC、RBライプツィヒ、ローゼンボリBKという錚々たる顔ぶれが並んだ難しいグループで戦えるということだった。特にセルティックとローゼンボリは、今までに何度もチャンピオンズリーグの出場経験があるチームだからね。そして、ドイツ・ブンデスリーガの一員であるライプツィヒをアウェーで破ったことは、特にオーストリア人にとっては非常に大きな意味を持っていたはずだ。僕たちがどんな力を発揮することができるのか、あの試合でみんなに見せることができたんだから。それでも、少し差し引いて考えなければならない部分もある。僕たちは同点ゴールを決められて、その後の “ラッキー・パンチ”で決勝点を手に入れたんだからね。
――大会前には、ともにレッドブルがスポンサーになっているザルツブルクとライプツィヒの間に何らかの申し合わせがあるのではないかと、いろいろと議論の種になりました。そういった非難に対してはどう思いますか?
まったくナンセンスだね。試合に負けたいと思う選手がいたら、教えてほしいよ。絶対にそんな選手はいない! ライプツィヒの選手にしても、僕たちに負けたいなんて思うはずがないからね。まったくその反対で、できることなら僕たちをスタジアムから閉め出してしまいたかったはずだ。とにかく、何もかもひっくるめてあの試合は素晴らしい試合だったよ。たくさんのゴールが決まって、スピードがあって、アグレッシブで、情熱にあふれていた。フットボールのあるべき姿を体現したような、そんな試合だったよ。
――大会前、ドイツではあの一戦について批判的な見方がされていました。フットボーラーとしては、そういう特殊な状況にどう対処すればいいのでしょうか?
僕にとって一番重要なのは、フットボールの側面だ。いろいろ批判するにしても、クラブがどれだけの成果を挙げているか、どんなふうに発展しているか、利益を目当てに移籍を行っているか、どんな選手を自分たちで育てているか、どういう場合に選手たちに才能を証明するチャンスを与えているか、そういうことにも目を向ける必要があるんだ。ザルツブルクの場合も、そういういろいろな面で何年間も成長を続けて、その努力が今は実を結んでいるところなんだよ。成功を収めるには、どんなポジションにもとてもたくさんの優れた選手を用意しておく必要がある。そして、それをうまくやるにはお金を使うだけじゃなく、適切な決断をして、適切な人材を手に入れなければならないんだ。僕たちだって他のあらゆるクラブと同じなんだ。細かい努力を重ねて、十分に準備しているんだよ。「あのクラブには資金力があるから1位になれる」、そんなふうに言うのはいつだって簡単なことだ。けれど、そんなに簡単なことじゃないんだよ。もちろん、資金は役に立つ。けれど、それを適切に使うことが大切なんだ。
Getty Images――ドイツでは、RBライプツィヒに対して何度も敵対的な見方がされています。ザルツブルクもオーストリアで同じような状況に置かれていますか?
ドイツの場合、オーストリアとは少し事情が違っていると思うんだ。けれど、どんなクラブにもスポンサーはいるし、また必要なものなんだということに誰もが気づくべきなんだ。基本的に僕の意見としては、またフットボールそのものがもっと重要視されるようになればいいと思っている。オーストリアでは、ザルツブルクをめぐる状況はどちらかと言うとポジティブな目で見られているよ。何年にも渡って国内でも国際舞台でも成果を出してきたし、素晴らしいパフォーマンスを見せてUEFAランキング(過去5シーズンの成績に基づいて算出される格付けランキング)でも貴重なポイントを稼いでいるからね。
――とりわけ昨シーズンはポイントを集めることができましたね。ザルツブルクはヨーロッパリーグ準決勝でオリンピック・マルセイユとドラマチックな戦いを演じた末、惜しくも敗れました。これからもまた同様の成果を期待できそうですか?
少なくとも、僕たちはそういう期待や要求を背負っている。悲観的すぎると思われるのは嫌だけど、自分たちの立場を分析的に検討する必要があると思うんだ。昨シーズンは、僕たちだけでなくオーストリアのフットボール界全体にとって素晴らしいシーズンだった。僕たちはオーストリアのフットボールが本物であることを証明することができたんだ。確かに、ザルツブルクの方が優れたチームだったのに、準決勝ではいろいろな災難に見舞われて敗退してしまった。それでも、オーストリアリーグが、国外でよく言われているようなつまらないリーグなんかじゃないということを示すことができたんだ。今また僕たちはライプツィヒとセルティックを破り、ちょっとしたセンセーションを巻き起こしているところだ。ファンは夢を見ていてもいいだろう。だが、僕たちは1試合ごとに自分たちの力を証明していかなければならないんだ。
インタビュー・文=ロビン・ハック/Robin Haack
構成=Goal編集部
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