4年に一度の祭典がついに開幕した。
『Goal』では、ロシア・ワールドカップ開幕に際して選手や指揮官に独占インタビューを実施。今回は、15年にわたってデンマーク代表を率いたモアテン・オルセン氏に話を聞いた。
オルセン氏は2000年から15年にわたりデンマーク代表を指揮。ワールドカップ、ユーロを2度ずつ経験した。歴史上最も長くデンマークを率いたオルセン氏は現在のチームをどのように見ているのだろうか。グループリーグ最終節を前に、『Goal』だけに語ってもらった。
■フットボールを離れ「年に4,5試合見る程度」
Gettyimages――お元気ですか? あなたがフットボール界から離れられて約3年が経ちました。近頃はいかがお過ごしでしょうか?
選手、そして監督として50年以上フットボールの世界に生きてきたからね。歩みを止めようと思ったんだ。今は新しいことをする時間だと考えているよ。四六時中仕事に没頭してきたから、これまでは他のことをする時間なんてなかったんだ。今はフットボール以外の新しい人生を過ごしているよ。
――それほど長い間フットボールに関わられてきたわけです、それなしの生活は難しくないでしょうか?
いや、それが驚くべきことにそんなことはないんだ。だがそれもそのはずだ、私自身が決めたことなのだからね。監督として24時間過ごしていると、それ以外の人生を楽しむ時間はない。当然私もフットボールを求めているよ。それでも年に4,5試合を見る程度で、これも多いくらいだと思っている。今は私が観たいと思ったものだけを観るようにしているよ。
――監督として常に選手と共にいたわけですから、家族との時間は限られていたことでしょう。それは気になりませんでしたか?
もちろんそのことは気づいていた。だがもし野心的な人間であれば、ビジネスだろうが何だろうがそれはその人の人生だ。私の場合それがフットボールだったというだけのことさ。
――30数年もの間ハイレベルな舞台で監督として過ごされてきました。その経験はあなたの人間性を変えましたか? それともブロンビーを指揮し始めた1990年のあなたのままでしょうか。
それについては私よりも友人や周囲の人間に聞くべきだろうね。私自身は変わっていないつもりだよ。思うに、監督として大切なのは孤立せず、周囲と良い関係を築くことにある。自分ですべてのことをこなすことはできない。チームの指揮官、ほとんどはクラブチームよりは代表チームの監督だ。多くのプロフェッショナルたちとともに仕事に取組み、チームの責任を負う。ときに人々は監督のためを考えて仕事をしてはくれない。大切なのはそうだとしても社会的にも精神的にもしっかりすることだ。選手や共に働く人たちが自分達の仕事を信じられるように振る舞うということだよ。私はいつもそういう人間だった。リスペクトがとても大切なんだよ。
――今もTVで試合観戦をされていますか? それとも完全にフットボールから離れたのでしょうか?
私はかつて率いていたアンデルレヒトのスタジアムからそう遠くないところに住んでいるんだ。たまに試合を観ているよ。クラブでの仕事をオファーされたこともあるんだが、フットボールの世界に復帰するつもりはないんだ。だけど今も(フットボール界の)多くの人々とは友人だし、試合も観て、スタジアムにも足を運んでいるよ。
■「長いキャリアで後悔なんてない。できるわけがない」
Getty――15年間デンマーク代表を率いられました。今日も試合を観ていて、無意識に「ああ、あの選手は面白い、次の試合に呼びたいな」などと思ったりするのでしょうか?
それはない。デンマークには新しい指揮官がいる。私は監督業の終わり際に多くの若く才能に溢れた選手たちを呼んだんだ。当時と同じ選手たちが今も選ばれている。それは1,2年前の話じゃないんだ。だけど彼らが代表で、そしてクラブでどのように指導されているかは興味深いね。どうしてもクラブと代表での試合を比較してしまうんだ。そうやって選手たちを追ってしまうね、とても良い働きをしているから。
――指揮官としてとても経験豊かなキャリアを歩まれました。振り返ってみていかがですか?
振り返る瞬間がどこにいた記憶かが重要になるだろう。私はブロンビーにいた頃を思い出すよ。とても良い日々だった。それにケルンやアヤックスでもね。今も多くの人たちがそこで働いているよ。それぞれの場所で楽しく過ごしていたよ。そして当時の人たちと再会した時、彼らも私も幸せに感じられる。これも人生において大切なことだ。
――後悔していることはありますか? 長いキャリアの中では困難なこともあったのではないでしょうか?
いや、ないよ。たとえどんな成功を手にしていても、指揮官として別のことを選択する可能性がある。だが自分はボスだ。決断しなければならない。そして何かを決定した時、そこにはいつもそれとは別の選択肢があるんだ。何をするときもきっと周りには誰かがいてくれるものだ。だが最後の言葉は常に自分で言わねばならない。後悔なんてできるわけがない。そういうものだよ。
――きっと長いキャリアで辞退したクラブや、引き受けたかもしれないオファーもあったのではないでしょうか。
ああ、その通りだよ。いくつか例がある。私は代表チームを率いる選択をして、そこにとどまった。新しい選手や新たな世代と出会ったよ。だが15年の間には職場を変える可能性もあった。別の代表チームを率いる可能性だってあったよ。多くのクラブが関心を寄せてくれたよ。だがチームがうまくいっているときは監督にとっても気持ちがいいものなんだ。たくさんの可能性があった。選手として様々なクラブでプレーしたよ。だが監督としては15年間デンマークを率いて、私の家もそこにある。良い決断だったと思うよ。
■選手との関係性のあり方を説く…
Gettyimages――指揮官として受けた最大の賛辞はなんでしょうか?
指揮官という仕事で最大の賛辞か…。よく知られたことだよ。個々人を向上させることでチームも良くなるんだ。チームとはいつもこういうものだから、監督は選手を向上させなければならない。そして多くの選手たちも切磋琢磨して互いを良くしていくんだ。指揮官はそのプレー哲学を理解する選手とともに選手たちを束ねていく。それがうまくいけば大きなモチベーションになると私は考えているよ。多くの場合一つのポジションに2人の選手がいるんだが、彼らが互いに補完し合い、互いを高め合える関係にあれば、それは達成できるだろう。それこそが指揮官が最も望むものじゃないかな。だから選手の誰かが「指揮官が僕をより良い選手にしてくれた」と言ってくれたら、それが最大の賛辞だろうね。
――あなたは選手との距離が近い監督として知られています。指揮を執るにあたって人間関係を良好に保つこと、それは重要でしたか?
そうだね。決断を下すポジションにあるとはいえ、自分も人間であることを示してコミュニケーションをとらなければいけないね。常にとは言わないが、多くの場面で、下した決断について説明をすべきだと思う。そしてフットボールのレベルだけではなく、人間としてもね。フットボーラーである前に人間なのだから。これはとても大切なことだ。選手の家族やそのほかについても同様だよ。だから指揮官として関心を払っておくべきだ。いつも言っていることなんだが、選手が聴く音楽が好きではないのなら、それを止めるべきだろう。特別なことじゃないよ、だってその音楽が嫌いなら仕方ない。だが新たな世代の選手たちが何に興味があるか知ること、これが大切だ。私は20年間、選手と同じようにドレッシングルームにいたが、世代とともにいろんなことが変わっていった。そして選手やその家族が好むものごとを受け入れ、リスペクトを払っていたよ。
――あなたは毎年クリスマスに選手たちにカードを送っていたと聞きました。これは本当ですか? それともただのうわさでしょうか。
いいや、本当だよ。私はその年にあったことを分析していたんだ。たぶん何人かの選手はこれに少しうんざりしていたんじゃないかな。だけどこれもさっき話したことと同じさ。少しの休暇を過ごす間、同僚やコーチからの報せを受け取るのは人間であれば嬉しいことだ。だから私はこれも良いアイデアだと思ったんだよ。私が聞いたところだと、特に若い選手はこれを喜んでくれていたようだ。
■オルセン氏が求め続けた攻撃的フットボール

――監督人生で最高の思い出はなんでしょうか?
それはもう、たくさんあるよ。もちろん勝利はいい思い出だ。だが勝利そのものも嬉しいが、勝ち方についても考えたいね。どうプレーしたかだ。私はそういう選手だったし、幸運なことに私の好きなやり方のフットボールをするチームでプレーできた。そして指揮官としてもそれを続けられたんだ。もし可能なら常に勝ちたい。もし代表で数試合プレーする場合、成功と安定をつかむ必要がある。予選は年に8試合や10試合しかないんだ。たとえうまくプレーできなくても、勝利し勝ち点を積まなくてはいけない。さもなければ予選で敗退してしまう。だが思うに、最も重要なのは選手たちであり大衆だ。大衆はもちろん勝利が好きだが、同様に良いフットボールを好む。これら2つは最も重要な要素だ。もちろん、予選で良いプレーができて、準決勝や決勝に勝ち進み、EUROで優勝すれば人々の記憶に残るだろう。だが対戦相手に試合の最後の瞬間にゴールを奪われた記憶は、監督として3倍、5倍多く脳裏に残っている。フットボールはアップダウンがつきものなんだ。それにドレッシングルームでどのような時間が流れるかも知っていなければいけない。私は時々選手たちにこう言うんだ。試合後のドレッシングルームを良い雰囲気で過ごせるようにプレーしろ、とね。あそこは試合に勝ったときは最高の空間になるが、負けたときには本当に悲惨な場所になるんだよ。
――あなたにとって試合に勝つことと良いゲームをすることは同じくらい重要だという印象があります。このようなフットボールのアイデアがあなたを苦しめたことはありましたか? 言い換えるなら、時に実用的でない考えではないか、ということですが…
いいや、そうは思わないよ。時々誤解されるんだ。良いフットボール、攻撃的なフットボールを観たとき、多くの人たちがロマンチックに感じるものだ。そんな人々に言いたいのは、私はもちろん勝つ術を追い求めるわけだが、その勝ちに至る方法こそがフットボールの素晴らしいところだということだよ。私には観たいと思わないフットボールも世の中にはたくさんある。たとえばチャンピオンズリーグのベスト16やベスト8の試合であれば素晴らしいフットボールを見ることができる。ちょうどリヴァプールがやっていたものだね。あれこそが実際にやりたい、そして観たいフットボールだよ。ああいったフットボールが増えれば、フットボール全体にとっても良いことだね。
――あなたが抱く試合への愛は、テクニカルなフットボール、攻撃的なフットボールに基づいていますが、デンマークでの日々では選手とうまくハマらないことはありましたか?
それもそうとは思わない。一つエピソードを話そうか。1993年のことだ。私がケルンに行った時、チームは5,6試合を残して最下位だった。私はまず選手たちに「我々はゴールを守らない。ボールを守るんだ」と伝えた。彼らは「何を言っているんですか、僕たちは最下位なんですよ」と言っていたよ。私はこのとき、ゴール前16メートルのディフェンスよりもフォワードを育てようと考えていたんだ。勝利を保証してくれる哲学なんてものはない。だが勝つために何が必要か、負けないために何が必要かを見極めるべきだ。それは私にとって簡単なことだった。とてもね。自分が最も勝てるフットボールを信じるべきなんだ。
――2002年の日韓大会では、フランスに勝ちましたよね。あの瞬間はあなたにとっても特別なものでしたか?
もちろんだ。W杯という舞台でフランスのようなビッグチームを相手にしての勝利だったからね。98年大会とEURO2000で優勝したチームが相手だったんだよ。大きな勝利だった。だがあの試合以外でも素晴らしいプレーができた試合があったよ。それこそ我々が望んでいたことだ。そして勝ったんだ。他のたくさんの試合についても話せるよ。だがこの試合は監督として本当に楽しかったし、国民やチーム、選手にとっても素晴らしいものだった。もちろんあのフランス戦は、そのあとまだW杯で戦えることになったわけだから、一層特別なものだったよ。あんな試合はそう多くないね。監督にとっても選手にとってもまさにショータイムだった。
――あの日のデンマークは並外れた試合をした、まさに英雄的なチームだったと思いますか? それともフランスがあの大会で失敗だったのでしょうか?
素晴らしかったと思うよ。だが何年もの間同じチームを率いていると、多くの成功を味わったあとに、いつも負ける時が来るんだ。セネガルもあの大会では勝ち上がっていたね。あの敗戦はフランスにとっては重かっただろうね。
――あなたのキャリアでもっとも痛ましい記憶はありますか?
それを話すことはできないよ。最高の瞬間についてと同じことだ。試合の終盤に失点して負けたときは非常につらい、これは確かなことだよ。EURO2012でそういったことがあった。準々決勝で、最後の最後にポルトガルにゴールを奪われて敗退してしまったんだ。あれは悲惨な瞬間だった。1991年にブロンビーでもあった。UEFAカップ決勝にあと一歩というところで、試合終了2分前に失点してしまったんだ。当時デンマークのクラブで最高の成績だった、だが同時に最悪の瞬間でもあったよ。
■デンマーク代表の最後のときは…
Alex Livesey/Getty Images Sport――15年間デンマーク代表を率いられました。それは今日普通のことではありません。これほど長く在任したことを誇りに思われますか?
もちろんだよ。私は母国とともに働く可能性を手にした。代表チームでプレーすることは、選手全員の夢だよ。監督にとっても同じだと思うよ。
――あなたの在任期間中にデンマークは4つの国際大会に出場しました。うまくやれたと思われますか?
ああ、だがフットボールの世界ではそれを聞かれたくない人も多い。運が関係するからね。それにレフェリーの判断、ボールがポストにどう当たるかとか、そういったことも絡む。8つの予選に参加して、我々はデンマークを4度グループ首位に導いた。そして2回、最後の試合で出場権を逃したこともあった。スウェーデン戦のようにね。試合の後にアルバニアがセルビアに3-0で勝ったことで、我々の予選敗退が決まったんだ。だがそれを受け入れなければならない。非常につらいことだ。だがそれがこのスポーツだ。非常につらいものだが、それもフットボールの一部なんだよ。あと3つの大会で本大会に行けたと思っている。だが他の要素でものごとが決してしまい、我々は出場権を逃してしまったんだ。
――そのEURO予選のスウェーデン戦で敗れたあと、あなたは代表監督の座を退きました。つらい退任でしたか?
もちろんだ。予選突破を願っていたからね。本来であれば我々は突破すべきだった。プレーオフではなくね。それができるチームだったと私は思っているよ。だがあの2試合では、私がデンマークを率いていた6,7試合で一度も我々のゴールを割ることがなかった(ズラタン)イブラヒモビッチが3得点を決めたんだ。もちろん我々にとってよくない展開だった。彼らは笑みを浮かべていたね、それを受け入れるほかなかった。
――もしそこで出場を果たしていたら、あなたはEURO2016の後も指揮を続けていたでしょうか?
いや、それはないね。その前年にこれが最後の大会だと明言していたからね。誰もが知っていたことだ。スウェーデン戦後に決めたことじゃないんだよ。サッカー協会が新たな監督を見つけて未来に向けて準備をするべく、私はその1年前に去る必要があったんだ。
■「決勝T進出はできる」
Getty――オーゲ・ハレイデ監督が率いるデンマーク代表に期待していますか?
チームには多くの才能あふれる若い選手がいるね。勝ち上がれると思っている。だが知っての通りだ、W杯やEUROという大会は3,4週間に全日程が詰まっていてすべてが決まるんだ。どんな選手を揃えるか、そして選手たちがどんなケガを抱えているか。デンマークにとってはこのケガはとても重要なポイントだ。だが彼らは才能があり、可能性はある。もし全員が準備できていれば、決勝トーナメント進出はできると思うよ。
――チェルシーのDFアンドレス・クリステンセンについてどう思われますか? まだベストになれる存在でしょうか? それともバルセロナ戦のミスが彼のキャリアに影を落とすでしょうか。
彼はトッププレ―ヤ―になれる存在だ。プレミアやCLで多くのビッグゲームを経験できる環境にいるね。それは彼にとって成長するうえで欠かせないことなんだ。彼はビッグプレーヤーになるだとう。バルサ戦でのミス? 彼は精神的にも強いと思っている。こういったシチュエーションをうまく乗り切ることは選手にとっても監督にとっても重要なことだ。だが彼は乗り越えるだろう。若い選手は誰だってミスをするものだよ。
――クリスティアン・エリクセンはデンマーク代表にとっても重要な選手です。彼はマウリシオ・ポチェッティーノのもとで成長したのでしょうか?
アヤックス在籍時から優れた若者だった。選手にとって最も大事なことは相性だ。クラブやリーグの戦い方が選手とあっているかどうかだね。彼がトッテナムを選んだのは非常にいい選択だったと思うよ。あそこはとても良いフットボールをしているね。彼は成長しているところだし、代表チームでもどんどん良くなっているよ。失敗から学んだ時、人は成長するんだ。彼は人間的にも素晴らしいんだ。とても野心的でね。すでにトッププレーヤーで、バルサやレアル・マドリーでプレーする準備ができている、それくらいの選手だ。代表にとってもとても重要な選手だよ。
インタビュー・文=ナイーム・ベネドラ/Naim Beneddra

▶サッカー観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
【DAZN関連記事】
● DAZN(ダゾーン)を使うなら必ず知っておきたい9つのポイント
● DAZN(ダゾーン)に登録・視聴する方法とは?加入・契約の仕方をまとめてみた
● DAZNの番組表は?サッカーの放送予定やスケジュールを紹介
● DAZNでJリーグの放送を視聴する5つのメリットとは?
● 野球、F1、バスケも楽しみたい!DAZN×他スポーツ視聴の“トリセツ”はこちら ※提携サイト:Sporting Newsへ
