シャルケは現在ブンデスリーガで苦境に陥っており、リーグ戦での順位は14位と苦しんでいる。ドメニコ・テデスコ監督は解任、クリスティアン・ハイデルSD(スポーツディレクター)は今季限りで退任など、来シーズンは心機一転再スタートが求められる。
だが、そのシャルケの“炭鉱夫養成所”(“炭鉱夫たち”はシャルケの愛称)では、スポーツ心理学者のテレーザ・ホルスト博士とトビアス・ヘッセルマン博士が、今日もまた“王者の青”の明日を担う選手たちのサポートに取り組んでいる。
彼らは『Goal』のインタビューに応え、メンタルトレーナーとスポーツ心理学者の違い、下部組織の選手たちが経験するプレッシャー、ユースとプロの違い、選手たちの両親への対処の仕方、心理学者としての仕事がクラブの首脳部の利害と衝突する可能性について語る。
■“治療”はスポーツ心理学者の仕事ではない
――ホルストさん、そしてヘッセルマンさん、あなたがたお二人はスポーツ心理学者としてシャルケの下部組織に所属する若い選手たちの面倒を見ていらっしゃいますね。あなたがたのお仕事を簡単に説明していただけますか?
トビアス・ヘッセルマン博士(以下H):一言で言えば、選手が最適な成長を遂げられるようにできるだけ環境を整える、というのが僕たちの仕事だ。よく世間の人たちが思い浮かべるようなイメージとはちょっと違っているんだよ。多くの人たちは、特に問題を抱えているケース、つまり誰かがうつ病にかかっているとか、そういった場合を担当するのが僕たちの仕事だと思っているからね。
――しかし、そうではないということですか?
H:そう、違うんだよ。そういうのはまったく僕たちの仕事じゃないんだ。僕たちは心理療法の専門家ではないんだから。もしうつ症状を示す選手がいるとしたら、僕たちが診てやるわけにはいかない。その代わりに、心理療法の専門教育を受けた心理学者に紹介しなければならないだろうね。
テレーザ・ホルスト博士(以下T):選手の状態に気づいて、その選手を他のネットワークへ導いてやるのがせいぜいね。もし私たちがその選手を治療するとしたら、それは越権行為になるでしょう。
H:僕たちの仕事の要点は、選手たちが最大限の力を発揮できるように、僕たちがメンタルの領域で蓄えている専門知識を彼らに伝えることなんだ。
――何か例を挙げてもらえますか?
H:たとえば、セルフ・モチベーションを例にとってみよう。ユースにやって来る選手たちは、幼い頃には誰でも試合中も楽しんでフットボールをやっている。けれど、いずれ真剣さが遊びに取って代わる時期が来るんだ。そしてその場合、そういった状況全体にどう対処すればいいのか、真剣になってもセルフ・モチベーションを高く維持して、その先も楽しみながらやっていくにはどうすればいいのかを選手に伝えることが重要になるんだ。
T:たとえば、私たちは選手のタイムマネージメントにも関わっているの。この点については軽視されていることが多いけれど、選手たちには時間が足りないのよ。学校が終わるとそのまますぐに交通機関を利用して練習に向かうことが多いし、遅くなってから家へ帰って、その後さらにまだ宿題が待っていることだってあるかもしれない。私たちは選手と一緒に、活動をやめて休養を取ったり、練習へ向けて彼らのメンタル面を整えるために、どうやって時間を見つければいいのかじっくり考えるの。
――どうやったらいくらか効率よく組織された生活を送れるか、ということですね。
T:その通りよ。
H:僕たちは監督たちのケアをすることもあるんだ。たとえば、指導の際の振る舞いといったことについてね。どうすれば選手が目的意識をもってプレーすることができるか、あるいは、チームの一体感を育てることができるかどうか、そういうことには監督もまた大きな影響を及ぼしているんだ。
――その場合もやはり、監督用の特別メニューがあるんですか?
H:時々、監督のための再教育コースを開いているよ。あと、普段は月曜に監督たちが僕たちのところへやって来て、一緒に週末の試合のことを話すんだ。指導の際の振る舞いについてのフィードバックを求めて、自分のどこに改善点があるのか知りたがる監督が大勢いるんだよ。
■メンタルトレーナーと心理学者の違い
――ちょっと前に、人格教育とセルフ・モチベーションというテーマであるメンタルトレーナーと話をしたんですが、そもそもメンタルトレーナーの仕事とあなたがたの仕事の違いはどこにあるんですか?
T:違いは、メンタルトレーナーというのは裏付けのある概念ではないという点ね。メンタルトレーナーだったら、誰でも名乗ることができるの。たとえ学校の用務員だろうとね。けれど心理学者と名乗ることができるのは、定められた専門課程を大学で修了した者だけなのよ。
H:それに、アプローチのやり方が違うんだよ。たいていのメンタルトレーナーは人間的成長という問題に取り組むけれど、人間的成長なんて言えば、僕自身だって大いに苦労しているよ。人間的成長という概念がいつでもどこにでもふらふら現れてきて、フットボールの場合にも人格が求められているんだ。
――人間としてのはっきりした“型”というものがあまり見当たりませんが。
H:けれど、それが何の役に立つのか僕に説明できる者は誰もいないね。人間的成長という言葉で何を言いたいんだい? そもそも育成センターのたくさんの選手たちを相手にどうやってそんなことを実現させられるっていうんだい? 特に、僕自身ただの一人の人間にすぎないっていうのに。僕たちはメンタルトレーナーと違って、選手が頭の中で何を考えているかを理解するための組織立ったものの見方と、それに必要な背景知識を身につけている。どうやってモチベーションを手に入れたらいいのか、グループの中でどう振る舞えばいいのか、どういう目標を定めるか、どうすればリラックスできるのか、そんなことを選手たちは考えているんだよ。確かにいい仕事をしているメンタルトレーナーもいるけれど、僕たちの方がもうちょっと先を行ってるね。
■なぜ、プロチームには専属の心理学者がいないのか?
getty Images――あなたがたは何人くらいの選手を担当しているんですか?
T:U-9から始まって上はU-23までで、約220名くらいかしら。年度ごとに私たちの一方が受け持って、言ってみれば選手たちが私たちと共に“大きく”なるように、それぞれのグループと一緒に持ち上がっていくのよ。
――選手たちとあなたがたとでは年齢に大きな開きがありますが。
H:結局、相手の年齢に自分を合わせるしかないんだ。ここのオフィスでU-19やU-23の選手の誰かと話をしていたかと思えば、その合い間にも何か専門的な文献を読んだり、その後はピッチに出て8歳の子とおしゃべりしたり、確かにちょっとハードではあるね。けれどまた、とても楽しいことでもあるんだよ。
T:まさにそんなだから、この仕事はものすごくわくわくするものなのよ。私たちがどんな年齢にもなれるというのは素晴らしいことだと思ってるわ。
――シャルケのプロチームにも専属のスポーツ心理学者がいるんですか?
T:プロチーム専属の心理学者はいないわ。私はプロ選手のカウンセリングをする資格も持っているの。
――下部組織には2人のスポーツ心理学者がいるのにプロチームには一人もいないというのはおかしな話に思えますが。
H:プロの選手は少し違ったものを求めているんだ。育成センターでの僕たちの仕事は、やがてプロとしての生活で待ち受けているものに対して、選手たちに準備を整えさせることに重点を置いている。つまり、僕たちは選手の資質に気づかせたり専門知識を伝えることによって、彼らが様々な困難に対処できるようにしたいと思っている。けれど、プロの選手の場合は事情が違う。彼らの仕事の状況はどちらかというと差し迫っていて、概念で操作できるような部分は少ないからね。それに、たいていのプロの選手はそれぞれ自分専門のアドバイザーのネットワークを持っている。けれど必要があれば、たいていのチームではそれ以外にも心理的サポートの提供を受けられるようになっている。シャルケにテレーザがいるようにね。選手が望むなら、サポートを求めることができるんだ。
――あなたがたはどんなふうに毎日を過ごしているんですか?
T:年少の選手たちの場合、シーズンごとに5つか6つのチームが組まれるの。だから、一人ひとりの選手に関わることは少ないわ。誰か問題を抱えている子がいる時は別だけど。
H:年少のグループとの仕事では、僕たちは関係の基礎を築くんだ。というのも、選手たちはボールを蹴って楽しもうと思ってここへ来ているんだから。もしU-9の選手とプレッシャーとのつき合い方について話さなければならないとしたら、その場合は何かが根本的に間違っているということになるだろう。幸い、そんなことにはならないけれどね。昔ながらのイメージで普通に思い描くような個別指導はU-13かU-14から始まるんだ。というのも、子供たちは11歳か12歳になってからやっと自分について考え始めるものだからだ。
――選手たちがよく訴えてくるのはどんな問題ですか?
H:体の具合がどうのといったごく平凡なことだよ。ホームシックに恋愛の悩み、そんな感じだね。もし悩みがあれば、ピッチの上でちゃんと考えられなくなるし、効果的なトレーニングができなくなって、成長の可能性が失われてしまう。その選手にしろ他の選手にしろ、僕たちの助けがなくてもちゃんとやっていけるだろうと信じてはいるけれど、その場合、ひょっとするとほんの1年ばかり余計な時間が必要になるかもしれない。
――年度担当者が男性か女性かによって違いが生まれますか? たとえば選手の母親が遠くにいて、ホルスト博士、あなたが相談役だったような場合…
T:心理学的な “代理母” の問題ね(笑)。 いつもそういうことを聞かれるんだけど、それにきちんと答えるのはかなり難しいわね。結局のところ、私は今までに一度も男だったことはないわけだし。気持ちとしては、ノーと言いたいわ。多くの選手たちとはわりとすぐに関係を築くことができるのよ。男であっても女であっても、とにかくそういうものなの。
H:いずれにせよ、スポーツ心理学者は誰でも自分の考え方や、選手と関わる時の自分なりのアプローチの仕方を持っている。それに、選手たちと一緒にやっていきながら、どんな問題にも対処できるシナリオなんてものはないんだ。だから、人柄や性別が重要な意味を持つのかどうか、なかなか答えることはできない。けれど、本質的にはほとんど違いがないと僕たちは思っているよ。
――年少の選手たちと良好な関係を築くにはどうするんですか? 「さあ、ちょっと森へ出かけて3日間ばかり過ごそうか」といった、チーム精神を養うのに役立つ昔ながらの活動をやるんですか?
T:(笑って)“森で3日間”、ね。ひょっとすると私たちもそれをやってみるべきかも。
■「チーム精神を養うことが必ずしも重要だとは思わない」
Getty ImagesH:僕たちは基本的に、必ずしもチーム精神を養うことが重要だとは思っていないんだ。僕が選手たちと一緒に普通の森やアスレチック設備のある森へ出かけたら、後でチームのみんながお互いを好きになるのかい? まさかそんなにうまくはいかないよ。とはいえ、確かにシーズンの初めには僕たちも、選手たちがお互いに馴染んで少し緊張がほぐれるように、フットボールとは関係のないいろいろな活動を何度もやっているよ。
T:ごく年少の選手たちは、実際ちょっとだけ私たちを楽しみと結びつけて考えるようになるようだわ。
H:それに僕たちは毎日クラブへ来ているからね。練習の時や、ロッカールームや、時には寮にも出かけて、そうやって僕たちはどこかで選手たちの中に混じって過ごしてるんだよ。理学療法士の場合と同じだね。全部の選手が毎日理学療法士に会うわけじゃない。それでも、選手は彼を知っている。彼はチームの仲間なんだ。
T:私たちは週末にもやって来て、試合を見て、それから選手たちと普段の生活についてもおしゃべりして関係を築くようにしているの。そうやって選手たちは私たちと一緒に成長していくから、彼らが少し大きくなって初めて問題や疑問にぶつかった時には、すでに信頼が育まれているのよ。
――たとえば練習の時に元気のない選手がいたりすると、あなたがたがプロとして働きかけていくんですか?
H:その選手をよく知っていればね。3、4年つき合いがあればそうするし、2週間のつき合いならさりげなく様子を見ることにするよ。けれど、ルートは他にもある。たとえばケガをしたり機嫌が悪かったりすると、選手はよく理学療法士のところに雲隠れして、そこでぶらぶら時間をつぶしていたりする。そういう時は、理学療法士がこんなふうに言ってやることができる。「君はこうやって私のところへ来てあれこれしゃべっているけれど、スポーツ心理学者に相談してみるといい」ってね。僕たちが監督の意見を聞いてみることもできる。監督も同じ印象を持っていれば、監督が選手を励まして僕たちのところへ来させることになるだろう。
――けれど、守秘義務というものがありますよね? 選手のところへ行って、「いいかい、監督からこんなことやあんなことを聞いたよ。さあ、話してごらん」と言うわけにはいきません。
T:守秘義務というものは確かにあるし、私たちはそれをとても真剣に受けとめているわ。とにかく、信頼関係がなければ何もできないんだから。私たちは選手から聞いたことを誰にも漏らさないし、監督と話し合うのは選手の同意がある時だけでしょうね。それは私たちの仕事にとってとても大事なことなの。そうでなければ、選手は一度やって来ても、もう二度と顔を見せないでしょうからね。
■躾はスポーツ心理学者の仕事ではない
――選手たちの両親との関係はどうですか?
T:年少の選手の場合、もちろん仕事はまず彼らの両親に会うことから始まるの。両親から、選手たちと関わっていく許可をもらうのよ。そのほかに実際にコンタクトを取ることはあまりないわね。チームごとに“両親の集い”というのがあって、その時は私たちも出席して自己紹介するの。あと、両親のための面会時間も設定してるけど、ほとんど利用されることはないわ。時には、集中できなかったり問題を抱えていたりする選手の両親が監督を介して相談に来ることもあるけれど、そういうのは私たちの日々の仕事の中ではほんの小さな一部分にすぎないの。
H:僕たちの働きかけを受け手がどう感じているか判断するのは難しいことだ。僕たちが選手のためにやっていることを非常に喜んでくれる両親がいる一方で、一部の選手はこう言うんだよ。「僕がどんな様子か両親に知られるのは嫌だな」って。
T:それは、こういう選手の場合じゃないかしら。実際そんなことはなくても、両親が私たちの存在を受け入れるつもりがないとか、私たちの言うことに耳を貸さないと思ってるような。でも、敵意とかそんなものを示されることはまったくないわ。そういう両親とは私たちはコンタクトを取らないもの。
――もし選手の両親ともっと緊密にコンタクトを取れば、それだけあなたがたの仕事が楽になると思いますか?
T:わからないわ。もしかしたらその場合、私たちの仕事はもっと難しくなるかもしれない。私たちは、両親の影響を受けずに選手に関わって、ちょっとだけストレスから解放された環境を提供することがとてもうれしく思えることもあるの。特に競技スポーツの場合、子供たちにプレッシャーをかける両親がよくいるから。
H:僕たちは、自分が選手たちや両親の道具にされないように気をつけなければならないんだ。ひょっとすると僕たちに躾を肩代わりさせたり、あるいは、監督に対する自分たちの代弁者に仕立てたいと思っている両親もいるかもしれないからね。
T:でも、あまりネガティブに考えすぎるのもよくないわ。私は、両親と関わるのはとても大事な仕事だと思っているの。彼らは選手たちと一番重要な関係を結んでいる人たちですもの。
――もしある選手が問題を抱えていて、けれど相談するのはクラブの外にいる人の方がいいと思っているとしたら、そういう時はどうなるんでしょうか?
T:まさにプロの選手の場合にはそういうことがあるわ。まず私たちに対する一種の不信感があることも理解できるの。私たちはシャルケから給料をもらってるんですもの。そういう時に信頼してもらえる関係を築けるかどうかは私たち次第なの。それがうまくいかない時に、自尊心を傷つけられたように感じてはダメなのよ。その選手がどこか他で助けを得られるなら何も問題はないんですもの。
H:もうすでに経験済みのこととして、僕たちが関わっている選手の一人が外部の人間に支えを求めたことを、本人とは別の人間から聞かされたことがあるんだ。彼には当然その権利がある。誰でも自分の医者を自分で選んでいいのと同じだよ。それに、僕たちにはここにいる選手全員の面倒を見る義務があると考えているわけでもないんだ。義務ではなく自由な自分の意志でサポートしているんだからね。普段は、誰かがやって来ては、僕の部屋に座って気楽に話をしているよ。
――下部組織の選手たちの性格ですが、たとえば全員非常に野心的だといったように、全員がお互いにある程度似ていたりしますか?
T:(しばらく考えてから)いいえ、全体としてそんなことはないと言えるわ。私としては、幸いそんなことはないと言いたいわね。ここにいる選手たち一人ひとりがとても違っているし、わくわくするわ。実際、クラブは性格によって選んでいるわけではないし、成功するために欠かせないのは高いセルフ・モチベーションよ。自分で自分の目標を定めて、それを追い続けていく意志が必要なの。
H:他のあらゆる競技スポーツの場合と同じように、シャルケの下部組織にももちろん選抜チームがある。ここでU-17、U-19、あるいはU-23まで残った選手たちは、ある種の困難に対処して体の抵抗力を高める術を学んでいる。競技スポーツには、そういった“肉体労働者的メンタリティー”、つまりトレーニングによって常に自分を鍛え続けるという側面がついてまわるんだ。ここにいる9歳や10歳や11歳の選手たちは、確かに部分的にはすでに、まさに年齢以上に成長している。彼らがチームスポーツをやっている、というただそれだけの理由でね。けれど、これもまた皆が皆そうだというわけではないんだ。
Getty Images――16歳や17歳という年齢の選手があなたがたのところへやって来て、「もうプレッシャーに耐えられない」と言ったとします。あなたがたはどう対処するんでしょうか?
T:プレッシャーを解消する上で多くの選手が頼りにできるような、そういう処方箋やタスクリストはないわ。私たちの仕事はまさにとても個人的なものなの。何よりもまず、目の前にいるひとりの個人のことを考えなければならないのよ。私の前に座っているのはどんな人間なのか? 何が彼のストレスになっているのか? 彼はどんな目標を持っているのか? 選手は一人ひとり違った問題を抱えてやって来る。そういう時、私たちは考えるの。その選手が状況を打開するためには、彼のどんな資質を活かしてやればいいのか、どんな長所を強化してやればいいのかって。
H:それはまた、こういう問題でもある。つまり、プレッシャーはそもそもどこから来ているのか? 彼は新加入で、今まで常にレギュラーだったせいで、自分でプレッシャーを作り出しているのか? 彼には故郷に養わなければならない家族がいるのか? 非常に多くの事柄が影響している可能性があるし、常にそれに応じてケースバイケースのアプローチが必要なんだ。
――なるほど。
H:僕たちの仕事の背後にある根本的な理念は、自分たちがいらなくなるような状況を作り出すということなんだ。さっき例に出したような選手を指導する際にも、このクラブそのものにおいても。いつかすべてが軌道に乗って、選手たちがチームのまとまりの力を借りてあらゆる困難に対処できるようになれば、もう僕たちは必要ではなくなるだろう。そうなれば素晴らしいだろうね。決して100%必要でなくなることはないとしても。さっきの選手が毎週僕のところへやって来て、3年経ってもまだ僕の前に座っている、なんてのは真っ平御免だよ。そんなことにならないように、僕はアイデアや考え方やテクニックを彼に伝えたいんだ。彼が自分で自分の舵を取れるように。1年後にまた似たような状況に出会うとしてもね。
T:私にできるのは一人一人の選手にこう勧めることだけね。「サポートを受けられるんだから、ヘッセルマン博士や私のところへちょっと寄ってみれば」って。自分のシステムの外にいて、物事に対して違った見方をする人と話をするのは楽しい経験になるかもしれないし、私たちは相談に乗るために専門の訓練を受けてるんですものね。
■「決して選手の秘密を漏らしたりはしない」
Getty Images――クラブは、たとえば選手の膝の具合については知っています。ですが、契約を更新する時には、その選手が心理的に大きな問題を抱えているかどうかについても知りたがるかもしれません。そういう時、クラブと選手の間で葛藤に巻きこまれることはありませんか?
T:理屈の上では、確かにそういう葛藤はあるわね。でも実際問題として、ありがたいことに今のところ私たちはそんな目に遭ったことがないの。
H:僕はそういう葛藤はそれほど深刻なことだとは思わないね。ここの選手たちは、一定の年齢に達した後は、本人が望めば通常の雇用関係に入るんだ。もし僕がどこかで働いていて、心理的に問題を抱えていた場合、僕の仕事先がそのことをどこかよそから聞いて知ることはないよ。
――仕事先に雇われている心理学者のところへ相談に行く人はいないでしょうからね。
H:その通り。けれどだからこそ、選手が僕のところへ話しに来るなら、決して外へ話を漏らしたりしないというのが僕にとっては当然のことなんだ。たとえその話が、彼がプロチームと契約できるかどうかの決定に影響を与える可能性がある内容だとしてもね。それは僕がタッチするべき問題じゃないよ。常に最優先されるべきは選手のことだ。もし選手がもうやる気を失くしていて、クラブを去りたいと思っているのであれば、クラブが彼の気を変えさせようとしても、僕は彼を守るつもりだ。
T:そういう場合、結局クラブは何もできないでしょうね。それに、さっき話したように、そんな重い心の病気の場合には、選手を治療するのは私たちじゃないでしょうから。それもあって、私は決して相談者と治療者という二重の役割を果たしたいとは思わないのよ。
――最後にまだ何かはっきりさせておきたいことがありますか? いろいろな偏見が頑固にはびこっていたりとか?
T:ほとんどのことについてはもうお話ししたわ。一番重要なのは、スポーツ心理学者は心理療法士とは違うという点ね。そして、私たちの仕事は何か問題を抱えているケースに関わることだけでなく、ポテンシャルを最大限に引き出すことでもあるということを知ってもらえたら素晴らしいと思うわ。
H:身体の能力を向上させたいと思えば、誰でもアスレチックトレーナーのところへ行く。左の太腿が右より痩せているといった問題を抱えていなくてもね。どんな問題も心でコントロールすることができるんだ。
T:それから、私たちは人の心を読み取ることができるわけじゃないのよ。私たちのところへ来る人たちはこんなふうに思ってるみたいだから。「おやおや、自分が何を言っているか気をつけなくちゃ」って(笑)。
インタビュー・文=シュテファン・ペトリ/Stefan Petri
構成=Goal編集部
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