「サッリ・ボール」で華麗に変身!“魔法”のかかったチェルシーが面白い

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サッリ監督の就任からわずか2ヶ月あまり。「堅守速攻」がウリだったチェルシーが華麗な変身を遂げた。59歳の鬼才は、一体どのような“魔法”をかけたのだろうか。

■サッリとジョルジーニョがチェルシーを変えた

本命マンチェスター・シティ、対抗リヴァプールの前評判に偽りはなかった。だが、ふたを開けてみれば、もう一頭の対抗馬が割って入ってきた。リヴァプールと同じく開幕4連勝を飾ったチェルシーだ。この夏、ナポリからマウリツィオ・サッリ監督を引き抜いたブルーズ(チェルシーの愛称)は、これまでとは様変わりしたパフォーマンスを披露。プレミアリーグで話題をさらっている。

チェルシーがプレミアリーグで開幕4連勝を飾ったシーズンは以前に5度あり、うち4回は優勝している。2004-05と05-06、14-15はジョゼ・モウリーニョ、09-10はカルロ・アンチェロッティが指揮官だった。これにアントニオ・コンテが率いた16-17を含めた5回が過去の優勝歴だが、こうして見るとチェルシーの成功は基本的にポゼッションにはこだわらず効率性を追求した「堅守速攻」と同義だったことがわかる。唯一の例外がアンチェロッティ時代だったが、アーセナルに次ぐボール支配率を記録してシーズン103得点を積み重ねたが、2季目で無冠に終わり、長続きはしなかった。

サッリ体制の新チームは、大きな枠組みで言えばアンチェロッティ時代に近い。オン・ザ・ボールで試合を掌握するポゼッション型だ。わかりやすい数字を出せば、今季開幕4試合の平均ボール支配率は「64.7%」でペップ・シティ(65.7%)に肉薄する2位、パス本数は1試合平均「749本」、通算「2996本」でリーグ最多だ(リーグ公式より)。これに対し、コンテが率いた昨季は「54.4%」、「560本」でいずれもリーグ5位だった。コンテ時代の50%台前半のボール支配率とリーグ5~6位のパス本数は、チェルシーにとってアンチェロッティ後の平均と言える数値。今季になってスタイルが大きく変化したのは明白だ。

アンチェロッティのチームはクリスマスツリー型の4-3-2-1だったが、頼れる司令塔、つまりアンドレア・ピルロ役の不在が痛恨だった。その教訓を生かし、今回は監督とセットで愛弟子であるMFジョルジーニョを連れてきた。このブラジル生まれのイタリア代表MFが、スタンフォード・ブリッジで素晴らしいスタートを切っている。4節終了時点でパス本数「417本」はリーグ最多。パス成功率も「91.6%」とすこぶる高い。第3節ニューカッスル戦では1人で158本のパスを成功させ、これがニューカッスル全体のパス成功数(131本)よりも高かったことが大きな話題となった。

中盤の底で巧みにボールを受け、パスワークに緩急をつけるジョルジーニョを中心に、チェルシーはユニークなスタイルを手に入れた。前線にボールを当て、ジョルジーニョに落とし、彼が裏に送るという“縦のジグザグ”が新チームの白眉。たとえば第4節ボーンマス戦の72分に決まった決勝点は、まさにペドロから落としを受けたジョルジーニョがスイッチになった場面だった。彼の縦パスが左SBマルコス・アロンソを経由して再びペドロに渡ると、最後はオリヴィエ・ジルーとのパス交換からフィニッシュ。我慢強くスコアレスを維持していたボーンマスがほんの一瞬だけ隙を見せて生まれた中盤のスペースを、見事に突いて崩した1点だった。

■楽しむエース、復活したCB、敵陣で大暴れする左SB

Marcos Alonso Chelsea

スペインやバルセロナに代表される「ティキ・タカ」のようでありながら、決して“ヨコ”ではなく、リズミカルかつスピーディーに“タテ”へと展開していくことを徹底する勇敢な高速ポゼッションは「サッリ・ボール」と呼ばれ、早々にイングランドでも一目置かれている。そんな高評価を受け、59歳の鬼才は現地メディアのインタビューでこう語っていた。

「ポゼッションで試合をコントロールするのが好きだし、敵陣でプレーするのが好きなんだ。ただし、ポゼッションはハイスピードでないといけない。判断の速さが大事だし、自陣でのポゼッションではダメだ」

敵陣でボールを握って相手を押し込むスタイルは、選手たちにも歓迎されている。サッリ流にドリブル突破というスパイスを加えつつ、開幕4試合で2得点2アシストと好調のアザールは、「コンテやモウリーニョとは違うけれど、このタイプのゲームは大好きだ。ボールをより持てるからね。良いサッカーをしているし、楽しめているよ。この勢いを持続したい」とコメントし、レアル・マドリー移籍の噂などなかったかのようにプレーをエンジョイしている。昨季はコンテに干されていたダビド・ルイスも主役に舞い戻り、自由にボールを持ち運んで縦パスを狙うことを許されてハツラツとした様子である。

攻撃が大好きなD・ルイスの性格と特長は、サッリのやり方に合っている。指揮官はDFにも組み立てに関わることを求めるが、D・ルイスだけでなくアントニオ・リュディガー、セサル・アスピリクエタと4バックのうち3人が、リーグのDF「パス本数トップ5」に名を連ね、そろって90%以上のパス成功率をマークしている。この記録を見ても、サッリの哲学が驚くべき早さでチームに浸透していることが見て取れる。

そして、ビルドアップに貢献しているのが上記の3人なら、仕掛けの局面で大暴れしているのが、4バックの最後の1枚であるM・アロンソだ。ハダーズフィールドとの開幕戦では、チームが自陣から14本のパスをつないで敵陣に攻め入ると、ボックス内に飛び出して最後にPKを獲得したのが彼だった。第2節アーセナル戦では、ウィリアンの落としからジョルジーニョが出したスルーパスに抜け出し、ペドロのゴールをお膳立て。さらに後半にはアザールのラストパスを受けて決勝点を決めてみせた。第3節ニューカッスル戦でも、75分に先制のPKを獲得し、同点に追いつかれた後の終了間際にはセットプレーの流れからシュートを放って相手のOGを誘発。直近の第4節ボーンマス戦でも前後半それぞれにインナーラップから決定的なシュートを放ち、終盤にはこれまたFWのように前線に出没し、アザールのゴールをアシストしている。

ウイングバックだったコンテ時代も能力の高さは折り紙つきだったが、SBになっても彼が躊躇なくゴール前まで上がり、毎試合のように好機に絡んで実力を発揮しているのも「サッリ・ボール」が機能している証拠だろう。

■チェルシーにかかった“魔法”は消えない

Maurizio Sarri and Eden Hazard Chelsea

サッリはまだまだパスワークの正確性やスピード、そして90分間の持続性に関しては向上の余地があると認めているし、もちろん現時点で新チームが完璧だと言うつもりはない。危なっかしい場面が散見されるセットプレーの守備は改善すべきだし、ジョルジーニョが負傷や出場停止で抜けた場合のプランBが試されるシチュエーションもまだない。

また、アンカーにジョルジーニョを置いたことでカンテがより高い位置で攻撃に絡むようになったが、必然的に自陣で彼のボールハンターぶりが発揮される場面が減った。ジョルジーニョが前やサイドに釣り出された際の中央スペースをどう埋めるか、という課題もある(実際、アーセナル戦ではそのエリアからヘンリク・ムヒタリアンにゴールを許した)。

それでも、たった数カ月でチェルシーに“魔法”をかけ、単純に「見ていて楽しい」チームに変身させてしまったサッリの手腕には恐れ入るばかりである。プレミア初挑戦の指揮官がチームの改革に乗り出した1年目。そう考えれば、サポーターでさえ今季の現実的な目標はトップ4返り咲きだと認めるはずだ。しかし、時に美しいパフォーマンスで観衆を沸かせながら、試合終盤のゴールで粘り強く白星を重ねていくブルーズの姿を見ていると、まだ4試合を消化したに過ぎないとはいえ、このまま優勝争いを演じても不思議はないように思えてくる。

文=大谷駿

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