「インタビューを断って寝ることもできたけど、話そうと思ってここに来たんだ!」
ユルゲン・クロップは再び微笑みながら、例の調子で話し始めた。不敵な笑みを浮かべつつも、相変わらず口から出てくる言葉には優しさがにじみ出ている。
そう、ありがたいことに彼は『Goal』の独占インタビューに答えようと、時間と労力を割いてこれまでに何度も我々の前に腰を下ろしてくれた。この日はすでに朝から他のメディアの取材もいくつか入っており、その対応だけでも大変であったことが伺える。
しかしながら、リヴァプールの監督は、たとえプレシーズン中であっても、年中無休で働かなければならない。なぜなら、人々の興味が尽きることはないからだ。
とはいえ、それを差し引いてもクロップのメディアに対する対応は、まさに“神対応”だといえよう。彼はさまざまな要望やリクエストに応え、彼ほどマスコミに親切にしてくれるプレミアリーグの監督はいない。
■常に神対応のクロップが語るメディアとの葛藤
「サッカーでプロになれなかったらスポーツのレポーターになっていたと思う」と、クロップは以前語ったことがあった。
ドイツ人ジャーナリストでクロップの友人のマーティン・クワストは、1990年代、クロップがマインツでプレーしながらドイツ初の個人所有のTV局である『SAT1』で、インターンシップを経験していたことを覚えている。
実はクロップはこのインターンシップ時代にドイツのヘッセン州出身でスノーボード界の2大スター、ロッシンゲルス姉妹にインタビューし、自分でナレーションをつけて、編集した番組を作ったのだ。インターン生がこれをやるのはまさに快挙の一つ。「クロップには才能がある」と、クワストのお墨付きだ。
しかし、クロップはメディアの道には進まず、サッカーのプロになった。だが、これまで彼に勝利や敗北、若手や新人についてインタビューしてきて、ふと思ったのだ。クロップは本当のところマスコミというものについて、どう思っているのだろうか? そして、2018年のサッカー放映の深さや幅広さについて、どのような考えがあるのだろうか?
「正直に言うと、その件に関して私の意見には少々ブレがある」
そうクロップは注意深く言葉を選びながら話しを進めた。
「サッカーは多く人の興味を引くスポーツであり、サッカーの各クラブはメディアから収入を得ていることは確かだよ。でも、その一方でメディアの何もかもが正しい方向にあるとは言えないと思っているんだ」
「まず先に言っておきたいのは、私はジャーナリストの仕事を心からリスペクトしているってことだよ。それに人々がさまざまな情報を得たいと思っていることも、当たり前だと思う。だけど、時にはジャーナリストにもう少し準備が必要なのではないかと思うこともあるね。これが正直な気持ちさ。だって0-5で負けたときに、感想を聞かれるなんて! 私がなんと言うと思っているんだって思うのさ」
「はっきり言って、そういうことは気持ちのいいことではないよね。でも、冷静に考えればそれも彼らの仕事の一つだと分かる。誰もがサッカーについて語る権利があるということは、とても大切なことだよ」
Getty Images■ネヴィル兄弟との“ケンカ”を笑い飛ばす
クロップは他の多くの監督と同じく「自分は新聞を読んでいない」と繰り返し話している。そして、SNSなどもやっていない。だがメルウッド・トレーニング・グラウンドに足しげく通うものなら、クロップが巷で語られていることをほぼ知っているということに気づくだろう。
「本当に、サッカーについての記事を読んだことはないよ」と語った一方で、「時にはSkyなどの放映を見ることもあるけど、本当に、時々だ」と正直に話す。
この点に関してクロップは、2シーズン前のある事件について言及している。ガリー・ネヴィルとフィリップ・ネヴィル兄弟が、リヴァプールのGKロリス・カリウスを批判したとき、クロップは怒りの反応を示したのだ。
「(ガリー・ネヴィルは)監督をしていたとき、自分は選手を批判する連中と戦うと言っていた。なのに、なぜテレビで選手のことをあれこれ言うんだ?」
Gettyあれから2年近くが経ち、クロップはこの“ケンカ”を笑い飛ばすようになっていた。そして、メディアとしての立ち位置も理解したことで、「違っていた」とも付け加える。「ネヴィル兄弟にちょっと悪いことをしてしまったね。でも、言ってしまったことは仕方がない」
クロップは、ドイツでもイングランドでも、賢者のようにふるまってきた。この業界がどのように動いているかを知っていて、自身の仕事を報道し、分析し、教示する人々と対峙することにやりがいを感じている。

だが、興味深いことにそれでも新聞は読まないと主張する。
「ゆっくり腰を下ろして、自分たちへの意見を聞くつもりはないよ。本当に興味がないんだ。自分たちが間違っていたら、人から言われる前に自分でわかる。正しかったとしても、人がそう思う前に自分でそう思う。人の意見を聞くなんて、ナンセンスだ」
「特にイングランドのサッカーについての記事は読まないね。たまに自分たちに関する記事に目を通すことはあるけど、過激な見出しでないときだけさ。見出しなんて、人々を煽るためのものだ。忘れるべきだよ」
「だけど、ジャーナリストの皆さんとは普通の関係を築きたいと思っている。『この記事を書いた奴は誰だ?』なんて言う監督にはなりたくないし、そういう人たちと話をしたいとは思わない。そんなことはナンセンスだよ」
「昔、ドイツで、いい人もいれば悪い人もいると学んだ。ドイツの個々のジャーナリストのことは知っている。だけどそれが何になる? 彼らは友達じゃないけれど、敵でもないよ」
■「過剰な報道をやめさせることはできない」

クロップはマインツで監督になったばかりのことを覚えている。記者会見には、ジャーナリストが2、3人いるだけだった。そして報道カメラかテレビカメラが一つあれば、良いほうだったのだ。
それが今や、メルウッド・トレーニング・グラウンドには立ち見席まである。世界中から来たマスコミで、常にいっぱいだ。サッカー報道に休みはなく、選手や監督への要望は肥大化するばかりである。
クロップはそういった部分を認めつつ、「でも、それはマスコミだけの問題じゃない」と語る。
「FIFAのような団体や、ワールドカップや(アフリカ)ネイションズカップでも同じことが起こるんだ。オレンジを最後の一滴まで搾れるだけ搾るように、選手のすべてを掘り起こそうとする。それが真実さ」
「ワールドカップを見てごらん。グループステージの後、1日、試合のない日があったよね。その時、きっと世界中が『あーあ、今夜は何をしたらいいんだ?』と思ったんじゃないかな。1日に3試合見ることに慣れてしまっていたから。結局、過剰な報道をやめさせることはできないんだ。行き過ぎであっても、それによって我々はお金が稼げる。それなのに不満を漏らせると思うかい?」
「私はサッカーが好きだ。本当に好きなんだ。3歳のときから、ずっとね。それがすべてさ」
そしてその上でこうまとめる。
「メディアのことは気にしていない。そりゃ、試合に負けて17回もインタビューに答えなければならないなんて、進んでやりたいことではないよ。でも試合に勝ったときだけやりたいことをするなんてことは不可能だろ?」
それでも最後にクロップは「勝ったときのほうが楽ではあるけどね」と付け加えた。しかし、そこには彼の優しさと我々に対する尊敬の念さえ感じられた。
文=ニール・ジョーンズ/Neil Jones
▶プレミアリーグ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
【DAZN関連記事】
● DAZN(ダゾーン)を使うなら必ず知っておきたい9つのポイント
● DAZN(ダゾーン)に登録・視聴する方法とは?加入・契約の仕方をまとめてみた
● DAZNの番組表は?サッカーの放送予定やスケジュールを紹介
● DAZNでJリーグの放送を視聴する5つのメリットとは?
● 野球、F1、バスケも楽しみたい!DAZN×他スポーツ視聴の“トリセツ”はこちら ※提携サイト:Sporting Newsへ



