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イングランド代表が抱える理想と現実。W杯で真価が問われるのは決勝Tから

14:25 JST 2018/06/12
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ロシアW杯でチュニジア、パナマ、ベルギーと同組に入ったイングランド代表。ギャレス・サウスゲイト監督率いるスリーライオンズが抱える理想と現実とは?

■守備重視のアプローチで強豪相手に成果

イングランド代表がロシアW杯開幕前の強化試合を終えた。ナイジェリア、コスタリカと対戦した2つの試合で、注目したのは「強豪国に比べて力がやや劣る相手に対し、どのようなアプローチをとるか?」であった。

W杯欧州予選は4バックシステムで戦ったイングランドだが、予選中に行われた強豪国との強化試合では、2017年から3バックシステムを一貫して採用してきた。これは守備時に5バックへ変形する可変システムであり、ドイツやブラジル、フランスといった強豪国に対し「堅守速攻」の戦術で戦った。相手のボールホルダーよりも、イングランドのフィールドプレーヤーが後方で引いて構える「守備重視のアプローチ」を採用したことで、とくに守備面で一定の成果を収めた。

そこで、3月に行われたオランダ、イタリアとの強化試合でも3バックシステムを用い、1勝1分と上々の結果を掴んだ。この2試合でも、前線からプレスをかけるのは相手GKからのリスタート時と、敵の最終ラインによるビルドアップ時に限定され、ボール回収が「困難」と見れば素早くリトリート(自陣に帰陣)。布陣も3-5-2から5-4-1に変形し、5枚のDFと4枚のMFで分厚い守備ブロックを構築した。後方に重心を置く慎重策が奏功し、昨年11月からのドイツ、ブラジル、オランダ、イタリアの4試合でわずか1失点(1勝3分)と守備の安定に成功した。

それだけに、強豪国に比べ力で落ちるナイジェリア、コスタリカにどのような戦い方で挑むのかは注目したいポイントだった。そして、ギャレス・サウスゲイト監督は、この2試合でも3バックシステムを採用したものの、これまでとは異なるアプローチで挑んだ。

2−1で勝利したナイジェリア戦でまず目についたのは、前線の選手が高い位置からプレスをかけ、最終ラインも押し上げて戦うアグレッシブな姿勢だった。2トップのハリー・ケインとラヒーム・スターリングはハーフウェイラインよりも前方の位置からプレスを開始。左右の両ウィングバックも高い位置を保つよう心がけ、最終ラインに吸収されることなく、中盤でのパス回しに積極的に絡んだ。

その結果、前半の45分間はケインが「これまででベスト」と自画自賛するチームパフォーマンスを見せた。縦パスがよく通り、前方からかけるプレスも効果的だった。これまでの強化試合とは異なる積極的な姿を、イングランド代表は披露した。

ただし、ここには注釈がつく。英メディア『BBC』が「前半のナイジェリアは極端に酷かった。イングランドの好パフォーマンスは、この文脈の中で語らなければならない」と強調したように、ナイジェリアの動きが非常に低調だった。1対1の局面でも、マークが必要な場面でも守備がとにかく緩く、プレスの意識も極めて希薄だった。

伝統的に、前から圧力をかけて突き進むサッカーを得意とするイングランドは、このような試合展開を最も得意とする。しかも、ナイジェリアが採用した4バックの盲点も効果的に突いた。イングランドのウイングバックが中盤でボールを持つと、相手のサイドバックを前方に釣り出す。すると、敵のサイドバックとセンターバックの間にできるニアゾーンに、味方がフリーになって縦パスを呼び込む。この形から幾度となくチャンスをつくった。つまり、「不甲斐ないナイジェリアのプレー」と、「戦術上の噛み合わせの良さ」も好パフォーマンスの一因だった。

加えて、後半に入ると勢いが一気に萎んだことから、テレビ中継の解説を務めた元イングランド代表のリー・ディクソン氏とイアン・ライト氏の2人は、試合後に渋い表情を見せた。好パフォーマンスの前半を「勇気づけられた」と評価した一方、ナイジェリアに前へ仕掛けられると途端に浮き足立った後半の序盤や、攻め手を欠いた攻撃面などを不安視したからだ。収穫と課題の両方が出た試合と、そう評価できるだろう。

■真価が問われるのは決勝トーナメントから

ただ、控えメンバー中心で挑んだコスタリカ戦(2−0で勝利)もアグレッシブな姿勢を貫いた。よって、冒頭に記した「強豪国に比べて力がやや劣る相手に対し、どのようなアプローチをとるか?」の答えは、「前から積極的に敵を捕まえにいくアグレッシブなサッカー」であった。

こうした一連の流れを踏まると、W杯ロシア大会におけるイングランドのアプローチが朧気ながら見えてきた。おそらくサウスゲイト監督は、対戦相手に応じて2つのプランを使い分けて戦うのではないか。

イングランドのグループステージは、チュニジア、パナマ、ベルギーの3試合。FIFAランクでイングランド(12位)を下回るチュニジア(21位)、パナマ(55位)の2戦は、ナイジェリア戦と同様に攻撃的な姿勢で勝ち点3を奪いに行くだろう。実際、欧州予選を首位で突破したように、格下相手には力でねじ伏せられる力強さをイングランドは備えている。

理想的な展開はこの2試合で連勝し、最終節のベルギー戦を待たずにグループリーグ突破を決めたい。その意味でも、9日に行われた強化試合で、スペインを徹底した守備で最後まで苦しめたチュニジアとの初戦が、グループリーグの行方を決めそうだ。反対に、ここで躓くようだと展望は暗くなる。

もっと言えば、イングランドの真価が問われるのは決勝トーナメントからだろう。国際主要大会で強豪国との対戦時には途端に力を発揮できなくなるのが、近年のイングランド代表だ。この点から考えても、英メディアにコロンビアやポーランド、セネガルといった強豪国との対戦が予想されている決勝トーナメント1回戦から、守備時に5バックへ変形する「慎重策」に切り替えるのではないか。スキのない相手が出揃う決勝トーナメント1回戦をまず突破し、ベスト8に進出することが、やはり現実的な目標になりそうだ。

事実、イングランドサポーターの期待値は高くない。

コスタリカ戦後にはBBCがサポーターの声をいくつか紹介していたが、ある男性サポーターの意見は辛辣だった。3月の強化試合から3勝1分の好成績で臨むことになるが、「過去のW杯でも大会前の試合で連勝し、気運が高まったことは何度もあった。そして、数週間後にはグループステージで撃沈。これまで何度も目の当たりにしてきた」と手厳しかった。たしかに、2年前の欧州選手権前でもトルコ戦(2−1で勝利)、オーストラリア戦(2−1で勝利)、ポルトガル戦(1−0で勝利)と、ホームでの強化試合で3連勝して本番に突入。しかし結果は、決勝トーナメント1回戦で小国のアイスランドに敗れた。

また、英紙『ガーディアン』でサッカーの主筆を務めるダニエル・テイラー記者も、今回のW杯でイングランドが優勝する可能性を「3%」と予想する。「ベスト8に進出できれば、成功と位置づけられる」と冷静に分析していた。

■「サッカーの母国」の理想と現実

イングランドでは育成レベルでポゼッションを重視するようになり、ユース年代ではプレー原則やスタイルが代わり始めている。その成果が、昨年の「U-20W杯」と「U-17W杯」の世界制覇だろう。

しかし、こうしたコンセプトが今のA代表に浸透しているとは思えない。サウスゲイト監督は「ボール保持」の重要性を説き、とくに最終ラインの選手は、過去のA代表に比べると前方にドリブルで持ち上がったり、後方から攻撃をビルドアップしたりする意識と能力が高まっている。しかし、世界的なトレンドから言えば、とりたてて指摘するほど前衛的なプレーではない。

むしろ目立つのは、局面、局面でスピードとフィジカル能力を生かしたサッカーに依存している点だ。プレミアリーグの多くのクラブがそうであるように、前方から圧力をかけ、インテンシティの高いプレーを見せたときこそ強さを発揮するのが実情である。また、セントラルMFの構成力不足は現代表の継続課題であり、固い守備組織を前にすると、途端に攻撃が手詰まりになる弱点も抱える。育成レベルではポゼッションとテクニカルなプレーを求めているとはいえ、現状、A代表はその理想を体現できているとは言い難い。

育成世代に波及させようとしている哲学を「理想」とすれば、現代表はまだまだ「発展途上」にある。花を咲かせるのは、4年後、あるいは8年後のW杯だろう。

その意味でも、本来イングランドの持ち味である「前方から圧力をかけるアグレッシブなスタイル」に、対戦相手に応じて「手堅い守備」をうまくブレンドすることが、ロシアW杯でのポイントになりそうだ。

取材・文=田嶋コウスケ

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