ジョゼ・モウリーニョがチャンピオンズリーグの準決勝でチェルシーを率いてアンフィールドへ乗りこみ、ラファエル・ベニテス率いるリヴァプールを撃破したのは、まだほんの10年前のことだ。
あの試合、両チームともテンションは高かったが、意識の高い完璧主義者を煩わせるだけにしか思えないほど、低レベルの試合だった。なかでも、ホルヘ・バルダーノが、この試合を「ク◯のようなサッカー」と酷評したことは有名だ。
「チェルシーとリヴァプールが示しているのがサッカーの未来の姿だとするならば、我々は1世紀にわたって享受してきた、優れた頭脳と技を表現するサッカーに別れを告げなければならない」と、元アルゼンチン代表のバルダーノは警告したのである。
■リアクションサッカーの巨匠
(C)Getty Images幸運にも、バルセロナ は2008年、モウリーニョではなくジョゼップ・グアルディオラを監督に迎え、そのおかげでサッカーの歴史が間違った道に進むことを完璧に阻止した。グアルディオラはカンプ・ノウで、前代未聞の持続した成功を見せつけたのみならず、テクニックがフィジカルを凌駕できることを証明した。
もちろん、すべてがすべて、そうなわけではない。当のグアルディオラさえも、リオネル・メッシ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタを擁しながら、2010年にはモウリーニョ率いる力任せのインテルが歴史的な三冠を達成することを防げなかった。
当時をふり返ると、モウリーニョはディフェンシブなサッカーの巨匠だった。ほとんど鉄壁といっていいバックラインを敷き、彼が選んだ攻撃陣には、相手を壊滅させるべく完璧にお膳立てされた舞台が与えられていた。
2011-12シーズンのラ・リーガで、モウリーニョ率いるレアル・マドリーが121得点を挙げて歴代リーグ最多勝ち点である100ポイントを獲得し、ペップ率いるバルセロナを抑えてリーグ優勝を果たしたことは事実である。
しかしながら、サンティアゴ・ベルナベウでの彼の時代は、いばらの中で終わった。ベテラン選手たちとのいさかいが何度も取りだたされたうえに、プレースタイルをめぐって首脳陣やファン、メディアが広く不満を示したためである。
ポルトやチェルシー、インテルといった、ヨーロッパの由緒ある絶大なクラブをチャンピオンに導いてきた一方、モウリーニョのリアクションサッカーは、レアル・マドリーでは受け入れられなかったのだ。
「バルセロナのサッカーは舞うように優雅だが、レアル・マドリーは、ただひたすら前後に走って、みずから疲労をためているだけだ」と、レアル・マドリーのレジェンド、アルフレッド・ディ・ステファノは2011年、クラシコが引き分けに終わったあと嘆いた。「バルセロナはライオンで、レアル・マドリーはネズミだった」
「バルサは、崇拝と尊敬をもってボールを扱う。まるでボールを育てているかのようだ。このチームのプレーを見ることは喜びである。ただ目でサッカーを見るだけではなく、心で感じることができる」
■哲学に固執

だが、モウリーニョはサッカーを心で感じることはない。サッカーを理解さえしていない。
「スタイルだのスマートなサッカーだのという人がいるが、それは何だ?」と、モウリーニョは聞き返したことがある。
「ときどき未来について考えることがあるが、未来のサッカーでは、美しい緑の絨毯の上で、ゴールはなく、ボールをより多くポゼッションしたチームが試合に勝つだろう」
このようにモウリーニョは、かたくなに自身の哲学に固執した。ディエゴ・トーレス著『The Special One: The Dark Side of Jose Mourinho(スペシャル・ワン――ジョゼ・モウリーニョの闇)』によると、55歳のモウリーニョの哲学は、恐怖に根差したものであるという。
ボールをもっているチームは、概してミスを犯しやすい。それゆえ、ボールをもっているチームは、より多くのリスクを負いやすい。なんという悲観的な考えだろう。
「父親と庭で遊んでいるときでさえ、負けようと思っている子どもはいない」と、モウリーニョは考える。
確かにそのとおりかもしれない。だが、サッカーをしたことがないのに、試合に勝ちたいと夢見ながら成長する子どもはいない。ポゼッションを失うことを恐れるあまり、そもそもポゼッションをしないなどと思う子どもがいるだろうか。
日曜の午後、モウリーニョは再びアンフィールドに立った。今回は、マンチェスター・ユナイテッドの監督として。今回だけは様子が違っていた。今回は、対戦する2チームの間に、プレーの質と哲学において純然たる違いがあったのだ。
この試合で、「ク◯のようなサッカー」を見せたのは、モウリーニョのチームだけだった。この試合で、全世界が、「美しい試合」に対するモウリーニョの醜いアプローチの限界を見たのだった。
モウリーニョのチームが何の野望ももたずにアンフィールドに来たことは、「新しいことではない」。昨シーズン、マンチェスター・Uがチャンピオンズリーグのベスト16の試合で見せた、彼の不名誉なリアクションサッカーでも言われたことだ。
マンチェスター・Uは12カ月前、マーシーサイドでゴールレスドローを目指してプレーし、成功した。その時のリヴァプールが奮闘したのに対し、マンチェスター・Uのアプローチは完全におかしかった。
■時代遅れ
(C)Getty Imagesしかしながら、モウリーニョが監督としてまったく進化していないことの証拠は、山ほどある。モウリーニョは、時代に合わせて変化することが大嫌いだ。事実、彼のサッカーと戦術は時代遅れである。
何年ものあいだ、モウリーニョは、自身が実証ずみの4-2-3-1のフォーメーションから離れることを考えることさえ拒絶している。今シーズンは別の形も試したが、それは、ここ 26年間で最悪のスタートを切ったマンチェスター・Uの立て直しを試みるための、完全なる自暴自棄から生まれたものにすぎなかった。
いずれにせよ、それは何の意味もない、遅すぎた事例にすぎなかった。モウリーニョは、長きにわたり、不俱戴天の仇であるグアルディオラのみならず、ユルゲン・クロップやマウリツィオ・サッリなどにも遅れを取っている。
ところがそれでも、モウリーニョは、こうした監督たちを嫌ったのみならず、もっと悪いことに、決して参考にしようとしなかった。モウリーニョは「スペシャル・ワン」だった。誰も信じず、自分の好きなやり方のみに従い、サッカーの「哲学者たち」に背を向けて進みながら、自身のやり方は正しいと信じて突き進んでいる。実際、唯一の方法だと信じて、自分は最善の方法を知っていることを証明しようとやっきになっているのだ。ペップよりも、そして、自身の起源がカンプ・ノウにあるがゆえに、「翻訳者」と揶揄された場所であるバルサよりも、自分のほうが正しいと信じているのだ。
サッリのように、リーグやヨーロッパでのタイトルがなくとも、ヴィジョンをもった監督として尊敬され崇拝される監督がいることで、モウリーニョの評価は長く混乱していた。
「サッカー界には多くの詩人がいるが、詩人たちは、多くのタイトルを獲得していない」と、モウリーニョは昨シーズン、欧州リーグを制した後にあてつけがましく言い放った。
だが問題は、モウリーニョが10年間で7回のリーグ優勝と2度のチャンピオンズリーグ制覇を達成した後、もはや主要タイトルを獲得できていないことだ。過去5年間、リーグ優勝は一回だけ(チェルシーで)で、チャンピオンズリーグも制覇していない。
それどころか、モウリーニョはもはやディフェンスに長けた監督ですらない。今シーズンのマンチェスター・Uは、すでに、2017-18シーズン全体の失点数を上回る失点を喫している。
そして、ディフェンシブな戦術や、以前は顕著だったクラブ全体に強迫観念をつくりだす能力を抜きにすれば、あの週末にアンフィールドで再現された、怖気づいて陰気なサッカー以外に何も残っていないのは事実だ。
■モウリーニョを必要とするエリート・クラブはない
(C)Getty Images今や、モウリーニョを必要とするクラブがあるだろうか? まったくもって、ヨーロッパのエリート・クラブではありえない。
ディエゴ・シメオネがまさに論じたとおり、小規模なクラブが絶大な経済力をもつクラブに対して勝つチャンスを得るには、ディフェンシブにプレーをしなければならないこともある。だが、そうしたネガティブな戦術が、ベルナベウやカンプ・ノウで行われることはない。そこは、最高レベルの試合が繰り広げられてきたスタジアムなのだ。
実際のところ、マンチェスター・Uのように何が何でも勝利への道に戻らなければならないクラブでなければ、彼を雇おうとは思わないだろう。あるいはインテルだろうか。
こうしたクラブは、モウリーニョのように昔の栄光、彼の栄光のいくつかに寄りかかって生きているクラブだ。確かに、こうしたクラブなら、かつてヨーロッパを制覇してきたお互いに、また同じことができると保険をかけあうことができるかもしれない。
だが、マンチェスター・ユナイテッドの記者会見で何度も見てきたように、先月、トリノでユヴェントスに最後に勝ったときでさえ、モウリーニョは、過去の勝利を思いだしてくれとしか言わなかった。
時代遅れの男が、新しい明日の仕事に足を踏み入れることは確実にない。
文=マーク・ドイル/Mark Doyle
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