■名将でも困難な短期間でのチームづくり
日本サッカー協会は4月7日付けでヴァイッド・ハリルホジッチ監督との契約を解除し、技術委員長をつとめていた西野朗氏を新監督に就任させると発表した。
過去にも予選を突破したあと、W杯イヤーに入っての監督交代は数多くあるが、そこからグループリーグを突破した事例はホルヘ・ソラーリが率いた1994年アメリカ大会のサウジアラビア代表まで遡らなければならない。本大会での躍進を目指す意味では、非常識な決断と言わざるをえない。
ハリルホジッチ監督自身、以前に同様の経験をしている。2010年南アフリカW杯を目指すコートジボワール代表を08年から率い、アフリカ予選で1試合平均3得点という圧倒的な強さで本大会出場に導いたが、10年1月のアフリカネーションズカップの早期敗退を受けて同年3月に解任。同国協会はスベン・ゴラン・エリクソン氏を招聘した。
メキシコ代表を率いていたものの、北中米カリブ海予選での成績不振を理由に解任されていたエリクソンだが、過去ラツィオをセリエA優勝に導くなどクラブで抜群の実績を誇り、代表でも02年日韓大会でベスト8に進出したイングランドを率いるなど、国際的にも知られた名将だ。しかし、短期間でチームを掌握することは難しく、大会直前にエースのディディエ・ドログバが負傷するアクシデントも響き、グループリーグ突破を逃す結果となった。
さらに振り返れば02年に日本代表を率い、日韓大会ベスト16に導いたフィリップ・トルシエも、98年フランス大会を前に南アフリカの監督に就任し、短い期間でフラット3を仕込んだが、2分1敗に終わっている。興味深いのは過去数大会のそうした本大会直前の監督交代がアフリカと中東に限られてきたことだ。これはアフリカがネーションズカップ、中東がガルフカップという、その地域でプライオリティの高い大会がW杯予選後にあることも関係している。
■JFAは困難な状況に自らを追い込んだ
期間もさることながら親善試合を受けての監督交代は前代未聞だ。「(3 月の)マリ戦、ウクライナ戦は重要な遠征だった」と語る田嶋幸三JFA会長は勝敗だけで判断したわけではなく、選手とのコミュニケーションと信頼関係に大きな溝が生じたことを強調する。そのうえで「1%でも2%でも可能性を追い求める」ための決断であり、本大会までの時期を考えての内部昇格だと言うが、相当に困難な状況に自らを追い込む人事だ。
ただ、マリ戦とウクライナ戦のいずれかを勝利していれば、この段階で監督交代に踏み切ることはおそらくできなかっただろう。確かに内容は乏しかったが、ハリルホジッチ前監督としてはあくまで本大会に向けたテストの場であり、4年前に率いたアルジェリアより多くの親善試合が組まれたぶん、この時期での試合を選手選考の見極めに当てた側面はある。帰国していた本人にとっても寝耳に水だったに違いない。
外的要因などをおいて考えれば、おそらく田嶋会長や技術委員会としてはハリルホジッチ前監督の分析力や手腕に対する期待よりも、ここからメンバー選考を経て直前合宿、本大会に入っていく佳境でのチーム内の“空中分解”を回避したかったのだろう。
一方で本大会に向けて「3週間でチームを仕上げる」と語っていたハリルホジッチ前監督としては、まずメンバーを固め、そこからコロンビア、セネガル、ポーランドを想定した具体的な戦い方を植え付けていくプランを思い描いていた。その流れにおいて選手の不満が爆発するような状況は想定していなかったはずだ。
■監督が代わろうと“デュエル”は発生する
田嶋会長は状況を改善するために多くの話し合いを重ねていたというが、結局、「本大会で良い結果を残す」という大目標に向けたビジョンの共有が明確にされていない中で、その過程の部分に問題意識が向かってしまったということだろう。この時期の監督交代という非常識を考えれば、セオリーとしてはグループリーグ突破の可能性は下がったと言わざるをえない。前任者の分析に基づく本大会のプランも活用できない。
もちろんチャンスがないわけではない。特にこうした危機的な状況下で、これだけの短期であれば、選手たちも新監督のもとでまとまりやすいからだ。西野新監督は、技術委員長という立場でチームに常に帯同していたが、ハリルホジッチ前監督が掲げてきた“デュエル”や縦の推進力よりも、組織力を高めて臨むという。攻撃面では中盤のポゼッションをベースに置くと見られる。
その意味では純粋に“ハリルジャパン”の継続路線にはならないが、ハリルホジッチ前監督の指導を受けてきた選手には体で身に付けた意識というものがある。期待されながら惨敗に終わった前回大会では“自分たちのサッカー”という言葉が選手たちの口からも聞かれた。それはポゼッションサッカーとイコールでイメージされやすいが、実際は異なる。
ベースが縦に速いサッカーであろうと、中盤でのポゼッションであろうと、臨機応変に判断して有効なプレーを繰り出せるかどうか。その意味ではハリルホジッチ前監督のベースに必ずしもこだわる必要はないが、サッカーの試合というのはどれだけ組織ベースで戦っても200回は“デュエル”が発生する。それを回避できない状況で仕方なくやるのか、そのときに覚悟をもってやれるかだけでも勝率は大きく変わってくるはずだ。
“ハリルジャパン”の継続路線でないなら、なぜ西野氏の内部昇格かという疑問は残るが、そこは正式にスタートして見極める部分でもある。現時点で解釈すれば、前体制のメリットとデメリットを間近に知った上で、意図的に異なる色を注入していけるということだろうか。現実としてこうした状況で飛び付いてくる外部の指導者がいたとしても、ハリルホジッチ前監督と同等の情熱は期待できないわけだが。
本大会での結果を含めた“ハリルジャパン”の検証というものはほとんど意味をなさなくなってしまったことは本当に残念だ。ここから2カ月間必要なのは、本大会で少しでも良い結果を残すためにチームが全力を尽くす、周囲もそのための環境を作っていくことしかない。
ただし、良い結果が出ても出なくても、こうした流れになってしまったことは重く考えていく必要はある。それなくして日本サッカーの進歩はあり得ないと考える。
文=河治良幸
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