若手時代ジェノアで頭角を現し、ミラン、レアル・マドリー、インテル、チェルシー、ローマと有名クラブを渡り歩いたパヌッチ。現役引退後はカペッロの下で経験を積み、2017年からアルバニア代表を率いている。そんなパヌッチが『Goal』の独占インタビューに応じた。
1990年代後半に在籍したレアル・マドリー、2000年代に長らくプレーしたローマへの愛着を明かした。その一方、決して強豪国ではないアルバニア代表監督という仕事は、指導者としてどのようなやりがいがあるのか、語ってくれた。
現役時代にはカペッロ、ヒディンクなど数々の名将の下でプレーし、そこで培った感覚が指導者としても大いに役立っているようだ。
Getty Images■UEFAネーションズリーグは戦いがいのあるコンペティション
――UEFAネーションズリーグではリーグCのグループ1を戦い抜きました。アルバニア代表を率いてみて、いかがでしょうか?
(ネーションズリーグは)重要な大会だと思うよ。グループでは3チーム中3位だったし、あまりいい戦いはできなかったかもしれない。それに、もっとうまくできんじゃないかという気持ちもある。アルバニア代表には改善すべき点があるし、私も何かを変えなくてはいけないと思っている。ただ、代表では選手たちが集まる時間が限られているし、それに向けた仕事や準備なども考えると、いろいろと満足な状況とは言えないのが実情だ。そんな中でもなんとか改善をしていかなくてはいけないね。
――UEFAネーションズリーグは、リーグA~Dまで、ある程度実力差の均衡した代表チームが戦うことになっています。例えばリーグAはイングランドやオランダなどがうまくはまったようにも見えます。アルバニアの所属するリーグCはいかがでしょうか。現時点では強国とはぶつからない仕組みになっていますね。
強豪国に限らず、どの国にもそれぞれのレベルというものがあるから、みんな置かれている立場は似ていると思うよ。リーグCグループ1では、スコットランド、イスラエルと同組だった。これはアルバニア代表にとってはとても戦いがいのあるコンペティションだったと思っている。親善試合も強化の場としては重要だと思うけど、やはりネーションズリーグはファンのみんなもエキサイトしながら動向を見守ってくれるのがいいね。ファンはテレビでフットボールを楽しんでいるし、試合ごとに勝ち点が絡む。ドイツのリーグB降格なんかはみんなにとってサプライズだったよね。ただ、もしここ数年のうちに僕らがドイツと戦わないといけなくなったら、さすがに厳しいけど…。新しい取り組みの1年目としては好意的なものだと認識しているし、これから先の展開についても同じ考えさ。
――さらなる改善が必要なところはどの部分でしょうか? また、将来のアルバニア代表にはどんな期待ができますか?
2012年から6年ほど指導者をしてきたけど「私が責任を負う」と語る監督はとても少ないよね。でも私は違うよ。毎日ではなくたとえ2、3カ月おきにしか練習ができなかったとしても、チームにアイデアを吹き込もうとした意図やその結果については、私に責任があると思う。選手のコンディションを完璧に把握しているわけでもないし、全員が所属クラブで満足にプレーできている、というわけでもないけどね……。それにアルバニアはヨーロッパの中ではまだまだ発展途上と言える状況だ。だからこそ守備ブロックを形成してカウンターを仕掛けるのが正攻法だと思っている。クリエイティブな崩しのアイデアや、適切なコンディションをキープできるだけの環境はないからね。その中でいかに結果を残すかというミッションはとても難しいものだけど、やりがいはある。代表監督とは、とても責任重大かつ難しい立場だよ。
――プレーのアイデアなど、選手に求める部分はどういったものでしょうか?
その大前提として、選手とチームのクオリティ、コンディション次第だね。まずは選手をチームに当てはめてみるところからだ。その後でも描く絵は変えられる。でも、結局はそのチームが持っているポテンシャルは有限だし、毎日練習して連係が成熟できるかによっても変わってくる。後は代表が志向するスタイルだね。たとえばスペインは独自のアイデアを持っているし、監督が変わっても目指すサッカーはそれほど変わらない。それに選手たちもは幼い頃からともにプレーしている仲間たちばかりだ。だけど、アルバニアについてはそんなことをしようとしても、彼らと対等に戦うことは難しい。だからこそ、まずは守り、そしてカウンターを仕掛ける。これは間違いなくクオリティを上げるべき要素だと思っている。
Getty Images■「スペインでは文化の違いを感じた」
――あなたは数多くのビッグクラブで、様々な名将の下でプレーした経験をお持ちです。お手本は誰でしょう?
私が指導を受けた監督は最高の人物ばかりだった。これはフットボールで生計を立てる者として、幸運なことだったね。たとえばお手本となったのがファビオ・カペッロのメンタルだ。若い頃から、ミラン、レアル・マドリー、ローマと、カペッロとは異なるチームで何度も指導を受けた。現役を引退した後もロシア代表で2年間一緒に仕事をしたよ。彼の持つメンタル、プロフェッショナリズム、集中して選手に1時間半のトレーニングを実践させるとかね。
――他に印象深い監督はいますか?
フース・ヒディンクかな。彼はボールを使ったプレーを好む傾向があった。スペインでヒディンクと一緒に仕事をした時のことはよく覚えているよ。私はマドリーに入団して、それまで慣れていたロングボールを多用していたんだ。そうしたら(フェルナンド)イエロに「中盤を省略して前線にフィードするのはやめるように」と言われたんだ。「常にパスで中盤を介し、ボールを前線に動かすべきなんだ」とね。当時、ピボーテだったイエロから直接言われたら、さすがに無視できないよ(笑)。あと(フェルナンド)レドンドもだね。
――当時のレアル・マドリーは”ガラクティコス"到来の直前で、UEFAのカップ戦で結果を残していましたね。
そうなんだよ。マドリーには世界屈指のパサーがいたんだから、前線に急いでボールを送る必要がないのは明白だった。あのときは、イタリアとの文化の違いも感じたね。その後チェルシーに移籍したら、スペインとは逆にイングランドではロングボールばかりだった。でも私を支えてくれる多くの監督と出会ったことが幸運だったね。多くのことを教えてくれたし、私も指導者として選手たちにいろんなことを与えられる存在でありたいんだ。アルバニア代表はスペインよりも指揮するのに苦労する環境であることは間違いないね。選手も限られているし、時間はいくらあっても足りない。
■「ロペテギの早期解任は気の毒だった」
――今シーズンのUEFAチャンピオンズリーグではローマとレアル・マドリーがグループGで戦いました。両チームともあなたの古巣ですが、どちらを応援していましたか?
そんなことを言わせるのかい? サンティアゴ・ベルナベウでプレーした誇りは今も僕の心の中にあるし、マドリードには友達もたくさんいる。それに輝かしいタイトルもスペインで勝ち取ったし、僕のマドリディスモを掻き立てるよ……。一方、ローマでは8年間プレーしたし、僕にとってはこちらも重要なクラブなんだ。どちらかだけを特別に応援するなんて私にはできないよ。いずれにしろ、現役を引退して今では指導者という全く異なる観点から彼らの試合を観るようになったな。戦術や崩しのスタイルにヒントがあるんじゃないかってね。
――サンティアゴ・ソラーリがレアル・マドリーの監督に就任したことについてはどう思いますか?
チームのことをよく知っているし、いい判断だったんじゃないかな。若い監督は物事をうまく進めるし、みんなにとっていいことになったと思う。ローマやアルバニア代表より、レアル・マドリーを率いる方が簡単かもしれないね。そういった意味でも、ソラーリは成功するための偉大なチャンスを手にしていると言えるだろう。ソラーリは2021年まで契約を交わしているし、このチャンスを生かして勝負に出るべきだろう。レアル・マドリーで選手たちをまとめる仕事は単純なことではないけど、才能溢れるビッグネームがいるチームを率いることができるのは、紛れもなくビッグチャンスだ。色々と試してみることができるし、選手もそれに応えてくれる。僕らはジネディーヌ・ジダンがとてもハイレベルな選手を擁し、偉業を達成したのを知っているからね。普通のレベルの選手を率いるよりも名手がいるチームは物事がより簡単になるのさ。
――ソラーリとジダン、どちらもシーズンの途中でレアル・マドリーBチームから昇格する形でトップチームを率いることになりました。ソラーリをジダンと比較するのは酷でしょうか?
ジズーはチャンピオンズリーグで3度も優勝したんだよ。これは彼が“特別な何か”を持っていたということさ。ソラーリもジズーと同じような成功を収められるといいね。
――レアル・マドリーは相変わらずサッカー界でいろんな話題の発信元となっています。最近のエピソードで最も驚いたことを選ぶとなるとどれでしょう。ジダンの辞任? クリスティアーノ・ロナウドの退団? それともジュレン・ロペテギの早期解任でしょうか?
ジダン辞任からロペテギ更迭までの流れはちょっと気掛かりだったね。私はロペテギが率いるスペイン代表と戦ったことがあるよ(ロシア・ワールドカップのヨーロッパ予選でスペインとアルバニアは同グループとなり、パヌッチ率いるアルバニア代表は2017年10月6日、スペインとのアウェー戦に挑み、0-3で敗れている)。ロペテギは偉大な人物だし、フットボールではとても優れたアイデアを持っていた。チャンピオンズリーグ3連覇の後にレアル・マドリーの指揮官になるとすれば、たとえクリスティアーノがいなくなったとしても、期待されるのはレアル・マドリーでのチャンピオンズリーグ4連覇だ。それは決して簡単なことではないよね。そして、ジズーの後任ということも大きなプレッシャーになったと思う。そのうえ、多くの主力がワールドカップを戦った後というタイミングだったこともあり、ロペテギにとっては強い向かい風が吹いていたんだ。とてもセンシティブな状況だったし、ロペテギの早期解任は気の毒だったね。
――あなたの古巣、ローマは2017年から敏腕ディレクターのモンチを招きました。彼の働きぶりはいかがでしょうか?
とても身の丈に合った運営をしていると思うし、好感が持てるね。実際のところ、ローマはビッグクラブというわけではないし、やはり毎年のように選手を売却する必要があると思う。それがローマの現実なんだよ。ただ、そんな中でもモンチはスクデットを本気で狙っているし、チャンピオンズリーグだったり、あらゆるタイトルを獲得するために動いていることは間違いない。誰か有力選手が活躍したとして、毎年6月30日になると選手を高値で売却しなくてはいけないから、その度にローマは新シーズンから仕切り直しとなってしまう。今モンチがどういう補強をしているかと言えば、将来を想定した有望な若手が多い。チームの顔ぶれが毎年のように変わるのはやむなしで、その中でできる限りのことをしていると思う。

■「カペッロは“人生の師”とも言える存在」
――アルバニア代表を率いた後、再びクラブチームで指導するという道を歩むことはあるのでしょうか?
まさか。今はアルバニア代表でとても満足しているよ。だけど、扉は閉じていないと言っておこうかな。先々はスペインで指導できたらいいね。アルバニアの後、スペインに戻ることができたら最高だろうね。
――何年か先も、指導者としてベンチから選手たちに指示を送っていると思いますか?
もちろんさ! 私は監督の仕事を愛しているし、情熱を注いで真剣に取り組んでいる。今、アルバニア代表を率いているのはお金のためではないし、監督業が好きだからだ。イタリアでテレビの仕事をしていたとき、“人生の師”とも言えるカペッロに言われたんだ。「クリスティアン、私と一緒にロシアに来るんだ。君は将来監督になるべきだからね。私が率いていたチームの中で、君はすでにピッチ上の監督だったよ」とね。だから僕はカペッロが率いていたロシア代表(2012~14年にアシスタントコーチを経験)に行ったんだ。代表の指導者はやはりとても名誉なことだし、好きな仕事だと思ったよ。代表に限らず、もし指導者として素晴らしいチャンスが舞い込んできたら、ぜひそのミッションに挑戦してみたいね。
インタビュー・文=アルベルト・ピニェイロ/Alberto Pinero
構成=Goal編集部
▶サッカー観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
【DAZN関連記事】
● DAZN(ダゾーン)を使うなら必ず知っておきたい9つのポイント
● DAZN(ダゾーン)に登録・視聴する方法とは?加入・契約の仕方をまとめてみた
● DAZNの番組表は?サッカーの放送予定やスケジュールを紹介
● DAZNでJリーグの放送を視聴する5つのメリットとは?
● 野球、F1、バスケも楽しみたい!DAZN×他スポーツ視聴の“トリセツ”はこちら ※提携サイト:Sporting Newsへ

