■葛藤を抱きながらも、“結果”に徹する
リスクと可能性のせめぎ合い――。とにかくグループリーグ突破という結果だけを追い求めた西野朗監督の決断が、日本代表に決勝トーナメント行きの切符をもたらした。
4年に一度の大舞台。ワールドカップのベスト16はそう簡単に入れるものではない。その価値と難しさを知っているからこそ、時にはなりふり構わず、周りに何を言われても前を向かなければならないことを選手たちも理解していたのだろう。
残りの15分間、1点のビハインドを背負った日本代表は、ただひたすらゆっくりとボールを回した。リードしているポーランドは全くと言っていいほど追ってこない。ボールを足下に置き、近くの選手とパスを交換し、時間の経過をただひたすら待ち続ける。この露骨な時間稼ぎに場内からは大ブーイングが鳴り響いた。
他会場ではコロンビアが1-0でセネガルにリードしている。両試合がこのまま終われば、日本代表の決勝トーナメント進出が決まる。ピッチ内ではリードされた状況にあったが、選手たちは葛藤を抱きながら最後の最後まで“結果”に徹した。
もしセネガルが同点に追いついたらどうするのか。本当にこの戦略でいくのか――。
多くの選手が負けている状況でボールを回して時間を使ったのは「さすがに初めて」と話していた。
だが、日本にとって怖かったのは、必要以上に攻め込んでカウンターで2点目を失うこと。そして必死のプレーをするがゆえにイエローカードをもらってしまうことだった。チームとして決勝トーナメントに進出できる条件下にある中で、香川真司はピッチサイドでウォーミングアップをしながら、この二つは「チームとして絶対に避けたい」と考えていた。
もちろんセネガルが同点に追いつく可能性はあった。だが、西野監督は「本意ではなかった」としながら、日本が同点に持ち込める可能性、カウンターで2点目を失う危険性とイエローカードをもらってしまうリスクを天秤にかけた。
戦況を見ていた香川が指揮官の判断を振り返る。
「難しさはありましたが、ベンチからの指示はそれでもやるという方向だった」
次のステージに向かうための決断。吉田麻也は「一歩間違えば敗退していてもおかしくない試合だった」と話したが、結果的にはコロンビアがそのまま逃げ切りに成功。日本がグループHを2位で勝ち抜いた。
■監督の決断を完璧に遂行した選手たち
この戦い方に関しては、スタジアムの反応だけでなく、海外メディアも非難する動きが見られている。日本でも賛否両論あると聞く。今回はフェアプレーポイント(警告数)の差で勝ち上がったが、「戦い方がフェアではなかった」「こんな勝ち上がりに意味があるのか」という意見も出ている。
なりふり構わず結果を求めるのか。どんな状況でも、どんなリスクがあっても、自力突破を目指すべきなのか。
まず忘れてはならないのが、日本代表はサッカーのルールに則って戦い、求める結果を出したということ。そして彼らは最初の2試合で勝ち点4を獲得し、リードされた展開でもゆっくりボールを回して時間を稼げるような状況に持ち込んでいたという事実だ。
ポーランドとの3戦目は引き分け以上で勝ち抜けを決められる状況だったが、59分にセットプレーから先制を許してしまう。引き分け以上の結果が必要となった日本は積極的にゴールを狙い続けた。
状況が変わったのは75分。コロンビアがセネガルから先制点を奪ったことだった。まさに日本代表は直前にカウンターの大ピンチをしのいだところ。手倉森誠コーチが小走りでテクニカルエリアで戦況を見守る西野監督にコロンビア先制の報を耳打ちし、その情報はタッチライン脇でウォーミングアップをする選手たちからピッチ内へと伝えられた。
本来ならは攻勢に出るところだが、82分に最後の交代カードとして切られたのはボランチの長谷部。攻撃的なポジションの香川真司、本田圭佑、原口元気も体を温め続ける中、采配を通じて「このまま逃げ切ろう」というメッセージがピッチに送られた。
長谷部が自身の途中出場、そしてチームとしての戦い方について説明する。
「西野さんからは『こういう状況では監督が決断しないといけない』と。その決断がこのままでいくこと、イエローカードを気につけろということだった。それをピッチ内の選手に伝えた。曖昧にするのが一番良くなかったと思うし、実際にカウンターでかなり危ない場面を作られていた。もちろん他会場の笛が鳴るまでリスクはあったけど、それを相対的に決断したのは監督だし、それが結果につながった(戦い方に関して)さまざまな議論はあると思うけど、結局この世界は結果。しっかりと自分たちが勝ち取った結果として受け止めたい」
もちろんチームとしてセネガルが同点に追いつく可能性は視野に入れていた。長谷部は「僕が出て行く時に、セネガルが追い付いたら言ってほしいと伝えていた。もしそうなった場合に点を取りにいくことはハッキリしていた」と戦い方の徹底に関しても触れている。
実際にピッチで戦っていた選手たちには、難しさがあったようだ。試合後、ロッカールームでは「他力本願だったところに間違いなくリスクはあった」と話し合いが持たれたという。だが、選手たちは目標達成のためにミッション遂行に徹した。
やるか、やられるか。
やるか、やらないか。
もしセネガルが同点に追いつき、そこから日本の反撃が間に合わなかったら、とんでもない批判を受けていたことだろう。しかし、それも天秤にかけるものと可能性の判断である。
長谷部もその難しさを認めつつ、「サッカーの世界はいろいろな議論がある。この世界は結果論。真実は結果の中にしかない」と、目の前にあるラウンド16進出という“答え”を見つめる。

■批判を覚悟で勝ち取った舞台だからこそ
このチームにとって、リスクを考えずに攻撃的に戦って散ることは決して美学ではない。ボールを保持して戦う“自分たちのサッカー”に執着し、臨機応変さを持たないままに敗れ去った4年前の記憶が彼らをそうさせる。
本大会前、吉田は「泥臭くてもいいから、できることすべてをやりきって、もうこれ以上はできないというくらい出し切って日本に帰りたい」と話していた。屈辱を味わったブラジル大会の借りを返すために、日本サッカー界を前に進めるために、グループリーグで姿を消すわけにはいかなかった。指揮官の決断を受け、チームが一つになってグループリーグ突破の可能性を模索した。
そもそも開幕2カ月前に監督交代という異常事態が起こっただけに、チームに長期スパンの強化ステップは存在しない。とにかく結果を求めて選手たちが必死にコミュニケーションを取り、少しでも戦える状態を作り上げようとしてきたのが現状だ。だからこそチームには結果が必要だった。
完全燃焼を胸に誓う吉田だが、まだすべてを出し切れるだけの段階には達していないと考えているのだろう。「コロンビア戦はいくつかのラッキーが重なって勝ち点3を取れた。本当に自分たちが力をつけて突破したのかというと、そこにはクエスチョンがつく。もっと危機感を持って足りないところを埋めていかなければ」と決勝トーナメントに向けて警鐘を鳴らす。
場内から大ブーイングを受け、批判を覚悟で必死に勝ち取ったラウンド16の舞台。ようやくブラジル大会の悪夢を払しょくできるステージまで来たとも言える。
本大会開幕前、吉田に聞いたことがある。すべてを出し切るためには何が必要なのかと。彼は一言で言い切った。
「覚悟ですね」
強い決意を胸に、泥臭く勝ち取ったロストフ行きの切符。誰に何と言われようとも、その手にはラウンド16を戦う権利がある。ここからは本当にやるか、やられるかの戦いが待っている。一戦必勝。真実は結果の中にある。
香川が「僕のチャンピオンズリーグの経験上、ここからは何が起こるか分からない一発勝負」とワクワク感を隠せずに口を開けば、本田は「次からは全部が決勝。未知の領域に突入しようとしている」と真剣な表情で意気込む。
この日本代表チームには、まだ描き続けなければならない未来がある。西野ジャパンが賛否両論ある現実を自分たちの力で塗り替えるために、誰も知らない景色を探す旅に出る。
文=青山知雄

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