新たなサッカーの楽しみ方?「将棋とかカーリングのイメージで」【林舞輝インタビュー/第3回】

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指導者養成の名門・ポルト大学大学院で学ぶ新世代の指導者・林舞輝氏のインタビュー第3回。今回は、現代の戦術トレンドとサッカーの進化について。

世界の戦術は目覚ましい勢いで進化している。戦術と同時に育成やスポーツ科学の進化により、昔は複数人でこなしてきた仕事が、1人でできるようにもなってきた。連続インタビュー最終回は、欧州の最先端と林氏が考える日本に迫る。

■「そのうち“偽ゴールキーパー”が出てきますよ」

――林さんは世界の最先端の戦術を学んでいらっしゃいます。『Goal』を見るようなサッカーファンにも伝わりやすい戦術的トレンドの話を聞かせてください。例えば話題になっている偽サイドバック、偽9番。従来、サイドバックはサイドでの上下動が主でしたが、いまは自陣でのゲームメイクで中央に入りボランチのようにプレーしたり、そして、偽9番は攻撃時にストライカーの役割を担いながらも前線に張るのではなくDFラインとMFラインの間を浮遊するという戦術ですね。ヨーロッパでは「偽」ってどういうニュアンスで捉えられているんですか?

スペイン語でいうと、ファルソ・ヌエベで、ポルトガル語では、ファッソ・ノーべって言います。ファッソって英語にするのが一番簡単で、フェイクです。だから、フェイク・ナインのほうが分かると思います。だから、「偽9番」。この訳し方はすごくいいと思います。

今、サッカーは「ポジション名=位置取り」から、どんどん「ポジション名=役割」になっているんです。昔は例えば左SBは左サイドのタッチライン際を行き来していましたが、場所にとらわれない役割が与えられるようになったんです。正しくは、ペップ(ジョゼップ・グアルディオラ/現マンチェスター・シティ監督)が与えた、ですね。しかも、1人の選手に複数のポジション、複数の位置での役割を与えるようになった。

ただ、こちらでは偽SBという言い方はあまりしません。偽SB、偽センターバックってやっていったら、これからのサッカー、どんどん偽ポジションが出てきちゃう。ポジションごとに複数の役割を与えられた時に、偽SBという使い方だと困ったことになります。

そのうち絶対、偽ゴールキーパーが出てきますよ。ちょっとマニアックになってしまうんですけど、CBが両サイドに開いて、ボランチが間に下りてくる形があるじゃないですか。そのうち、あの間に下りてくる位置にゴールキーパーが入るようになります。なぜかというと、ゴールキーパーも日々進化しているから。将来、必ずシャビ・アロンソやクロースみたいに、的確にパスがさばけてボールを奪われないキーパーが出てきます。そうすると、フィールドプレイヤーとして1人、数的優位を作れるようになる。僕の個人的見解ですけど、この時代が来ると思います。

サッカー全体がそうなんです。昔は何人かいなければできなかったことが、育成やテクノロジー、それこそスポーツ科学が進化して1人でできるようになってきました。

5年、10年前のCBは、後ろのカバーができて横にも縦にも行ける速い選手とでっかくて強い選手という組み合わせだったんです。例えば、アーセナルだったらコシールニーとメルテザッカー。メルテザッカーはでかいけど遅いから、それを補う速くて横にもカバーに行けて、縦にもインターセプトに行けるコシールニーとの組み合わせ。バルセロナもそうでした。ピケとマスチェラーノ。イタリアもそうです。(ファビオ)カンナバーロとネスタ。

ほんの少し前は2人で一つだったのに、今は1人で2人分できる選手が出てくるようになった。速くて前にも横にもカバーに入れて、なおかつデカくて強い選手。例えばヴァラン(レアル・マドリ―/フランス代表)や日本がW杯で当たるセネガル代表のクリバリ(ナポリ)。コンパニ(マンチェスター・シティ/ベルギー代表)もそうですよね。要は2人分の能力を身につけた1人。サッカーってこうやって進化してきました。

昔は、10番と言えば走らなくてよかった。だからその分、例えばマラドーナの後ろにはシメオネがいた。でも、今はハードワークできる10番が出てきています。(ケヴィン)デ・ブライネ(マンチェスター・シティ/ベルギー代表)のような。

Ederson Manchester City

サッカーの歴史を見ても、ビルドアップの起点がどんどん下がっていっている。キーパーにもそういう能力が必要とされる時代が来ます。ノイアー(バイエルン・ミュンヘン/ドイツ代表)のような、前に出てもビルドアップに関与してもミスをしないゴールキーパーが出てきて「ノイアーすげえ」って言ってるうちに、今度は、エデルソン(マンチェスター・シティ/ブラジル代表)が出てきた。エデルソンは、速くて正確なロングパスが出せるキーパーです。そんなキーパーが出てくるなんて10年前は思っていなかった。10年後、またすごいキーパーが出てきますよ。フットサルのパワープレーに近いのかもしれない。フィールドでの役割を補う「偽キーパー」。どんどんポジションの意味がなくなってきます。すべてはペップのせいです。

■ペップは革命家。モウリーニョはダークサイド

Jose Mourinho Pep Guardiola

――グアルディオラ監督が規定の概念を壊した。

革命家ですよね。本人は革命家と思ってないんでしょうけど。毎年、新しいことにチャレンジする。世界中から好きな選手を買い漁ったのにチャンピオンズリーグ一回戦で負けた監督は毎年毎年、同じようなことをやって、ついにセビージャにも負けるようになった。こんなこと本人には言えないですけども。

――3月からはその彼(モウリーニョ/現マンチェスター・ユナイテッド監督)が教える講座に通っておられるんですよね(笑)。

僕、基本的にはモウリーニョはダークサイドだと思っています。心の弱い人間が堕ちていくサッカーの暗黒面。『スター・ウォーズ』です。そうするとヴェンゲル(アーセン・ヴェンゲル/元アーセナル監督)はジェダイの鑑ですよ。ただ、この20年ぐらいで200回くらい死んでるんですが。とにかく僕は絶対にダークサイドに落ちないと思っています。でもこれが難しいところで今のチームで監督と話していて「それはモウリーニョの考え方だ」って言われる時があるんです。僕はずっと「絶対ああいうサッカーはしない」と思ってきたのに、いざ自分が勝負で勝たなきゃいけないとなった時に、やっぱりモウリーニョみたいな考え方しちゃうんだなって。ああ僕もいざとなったらダークサイドに堕ちる心の弱い人間なのかと思って。ちょっとショックを受けてるんですけど。

だから、グアルディオラは勝てなくなったらどうするんですかね。負けても歯向かうのか、どこかで変わっちゃうのか。ダークサイドに堕ちるのか、ヴェンゲルみたいに勝てなくてもジェダイ精神を貫いて、負けまくって、たたかれ続けるのか。監督は2種類だと思うんです。要は、相手の良さを消す方に重きを置くか自分たちの良さを生かす方に重きを置くか。そのバランス。それも戦術ですね。戦術は難しいですよね。

■将棋やカーリングのイメージでサッカーを楽しめれば

――今、グアルディオラの戦術がトレンドになっています。それを倒すサッカーは、どんなサッカーだと思います?

僕、その話、5時間ぐらいしますよ(笑)。昔、(グアルディオラ率いる)バルセロナが大好きで。でも、それは敵として。バルセロナを倒すためにバルセロナのサッカーを研究していました。当時は高校生で、授業中にいろいろな作戦を練りました。当時のサッカー史上最強と言われたバルセロナを倒すための戦術をいろいろ考えた結果、僕のサッカーだとどうしても選手が15人必要になっちゃって。俺、才能ないなと思いました。

でも、いざ自分がチャールトンや今のボアビスタで指導するようになって、「見て研究しているようじゃ一生追いつけないな」って分かりました。だって、彼らはリアルタイムで世界を更新しているわけですから。新しいアイデアを作って、それをトップレベルでチャレンジできる環境がある。ペップにはあるけど、今の僕にはない。ボアビスタのU-22もすごいかもしれないですけど、トップレベルではない。そこでペップのサッカーしようっていっても無理です。

それに、追いつこう追いつこうってばかりやっていると、どんどん先に行かれてしまいます。だから少なくとも僕は、机の上ではペップを超えるようにならないとダメだと思っていて。だから、最新の戦術は僕の戦術で、最新のサッカーは僕のサッカー。ただ、今は実践する場がない。でも、それをやらないと一生あのバケモノみたいなヤツらに追いつけないと思っています。

日本もそうだと思います。日本も「世界に追いつこう」って言っているようじゃ、いつまでたっても追いつけない。追いついた頃には世界も先に行っている。世界をどうやって追い越すかを考えてやらないとダメだと思うんです。

ペップが、ピッチを縦に5個に切りました(5レーン理論※)。僕は今、ピッチを17個に割っているんです。なぜ17個っていう変な数字になったかは秘密ですが。ペップのポジショナルプレーの5レーンにゴール期待値、どこからどういうシチュエーションになれば、ゴールがより近くなるかという期待値のスタッツと組み合わせたんです。

僕、サッカーのゴールはどんなに数えても13通りしかないと思っているんです。その13通り理論の中で、ある箇所からは13通りのうち8通りのバラエティがあるんです。とか、いろんなのを突き詰めて考えています。でも、この戦術を盗まれたら嫌だな。僕がサッカーのゴールは13通りしかないって言ったら、みんながその13通りは何か考え始める?それはちょっと楽しいかな、しばらく『Goal』さんでやりませんか?「あいつ、どうやってピッチを17個に割ったんだろうとか、13通りって何だろうね」みたいな。

――ビエルサ(現リール監督/アルゼンチン出身)みたいですね。

ビエルサはサッカーには135通りしかないって言っていたと思うんです。でも、僕が数えても60ぐらいしかなかった。相当細かく割ってます。横パス、縦パス、斜め後ろのパス、真後ろのパスとかじゃ135は生まれない。もう一つ、ビエルサは実用可能なフォーメーションは29通りしかないって言っている。でも、僕が数えてみたら24ぐらいで止まって、あと5何だ? ってなった。サッカーのそういうところも面白いですよね。将棋とかそういうイメージでサッカーも楽しめれば。そもそも日本人好きじゃないですか。将棋とかカーリングとか。サッカーもああいう配置論だし、カーリングのように解説できる人とかがいたら、違う見方ができる。

Marcelo Bielsa

サッカーって、ボールを奪い合うスポーツじゃないので。スペースと時間を奪い合うスポーツで、ボールは手段でしかない。そこも日本のサッカーにちょっと欠けている視点だと思います。Jリーグを見ていると、ボールを奪いに行き過ぎると感じます。ボールを奪いに行くよりも、スペースを埋めるべきなんです。奪ったスペースを有効活用するための手段がボールなので。と僕は考えているんです。

すごく簡単に言ってしまえば、ボールを持っているのは、将棋の先手の状態です。攻めてるほう。でも、将棋もサッカーも攻守が共存している。だから、将棋も良いスペースというか、良いスペースに良い局面を持っておけば、いざボールが来た時に、向こうが詰まる。自分が攻め手になった時に、そのスペースを有効活用できて攻められる。

ボールは黙ってても必ず来るんです。今まで世界中で無数にサッカーの試合ってありましたが、1チームがずっとボールを持ったまま終わった試合って1試合もないです。ボールは必ず来るんです。ボールが来た時に奪ったスペースを有効活用する。ボールは手段です。そういう見方をして、そういう解説を将棋の盤みたいな感じでできる人がいて、変な話、サッカーをやっている横で小さくテロップで出る、みたいな楽しみ方になれば、日本人的にももっとサッカーが面白くなるんじゃないかな。

■少しずつサッカーへの理解が深まるように

――私たち日本のサッカーメディアにどうなっていってほしいといった希望はありますか?

たまにサッカーニュースをチェックする人、それこそ『Goal』さんを読むような、ライトな層が気付かないうちに「なんだかサッカー分かってきているな」という状態になるといいなと思います。サッカーはボールを奪い合うんじゃなくて、スペースを奪い合うスポーツなんだよ、ボールはそのための手段なんだよといった概念を認識できるように。走行距離も走ればいいってものじゃないとか。ライト層のサッカー偏差値を上げていくのが、日本が強くなる一番の近道じゃないかな。上から目線かもしれないけど、ごめんなさい。

結局、草の根のコーチって、そういう方たちだから。息子がサッカーやっていてコーチ始めましたとか、昔サッカーやってて、息子が始めたからコーチ始めましたとか、そういうお父さんたちが多いですよね、日本の草の根って。そこで頑張っている人たちのサッカーインテリジェンスを上げていくことが大切だと思います。

そこの質にヨーロッパとのギャップを感じているんです。例えば大衆向けのサッカーハイライト番組でも、BBCとNHKは本当に全然違う。ただし、突然BBCみたいに変えても、視聴者はついていけないから、少しずつ知識を蓄えてもらって。徐々に気付かないうちに。みんなのサッカーへの理解が深まるようなメディアが増えればいいなって思ってます。逆の方向に行かないように。日本のW杯中継にはアイドルや芸能人がたくさん出る。でも、将棋の解説には出ないですよね。野球のクライマックスシリーズにもあまり出てこない。サッカーもそういうふうになれば、もっともっとレベルアップするんじゃないかなって、僕は思います。上から目線ですみません。そのための助けに、僕もなれればいいなと思ってるので。

インタビュー・文=Goal編集部

【プロフィール】

林 舞輝 Maiki Hayashi

1994年12月11日生まれ、23歳。イギリスの大学でスポーツ科学を専攻。在学中にチャールトンのアカデミー(U-10)とスクールでコーチ。2017年よりポルト大学スポーツ学部大学院に進学。同時にポルトガル1部ボアビスタのBチーム(U-22)のアシスタントコーチを務め、主に対戦相手の分析・対策を担当。モウリーニョが責任者・講師を務めるリスボン大学とポルトガルサッカー協会主催の指導者養成コースに合格。

Twitterアカウントは@Hayashi_BFC

今後行われる林氏のイベントはこちらから

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