新天地に合流して早2週間が経過したが、乾貴士の馴染み方は本当に素晴らしい。ベニト・ビジャマリン・スタジアムに快く受け入れられ、持ち前のユーモアとコミュニケーション力(流暢に言葉を操れないにも関わらず)で、ベルディブランカ(緑白)のチームメイトを楽しませ、そして驚かせている。
昨春、スポーツ部門の副責任者であるロレンソ・セラ・フェレールは迅速な獲得オペレーションを遂行した。昨季限りで契約の切れる乾に対し、早い段階からアプローチを開始し、夏前には契約を取りつけた。その後、彼は6月に行われたロシア・ワールドカップでとてつもないクオリティを発揮し、キケ・セティエン監督が採用するシステムにも問題なく適応できることを予感させた。
実は、エイバルとの契約が切れるこの日本代表の獲得を先導した人物こそがこのセティエン監督である。レアル・ベティスの監督として1年目を過ごしていた昨夏、当時の最優先補強ポイントとは異なっていたものの、その時点で乾の獲得をクラブに進言していたのだ。
完成されたプレースタイルを確立した今、ベティスは乾の強みである縦への動き、相手をかわすプレー、アシスト、ゴール、そして特にピッチ上で常にボールに絡むプレーをどうしたら最大限引き出せるか、その方法を探している。攻撃にも守備にも常に全力を尽くすこの日本人は、ベルディブランカのサポーターが今夏の新戦力の中で最も期待を寄せるひとりである。
■稀に見る高待遇。日本の広告塔として
8月に開催された親善試合の最初の数分間のプレーを見るだけで、乾が新たに与えられた役割を非常に快適に感じていることは想像がつく。ウィリアム・カルバーリョ、アンドレス・グアルダード、セルヒオ・カナレス、リヤド・ブデブズ、ホアキン・サンチェスといったトップレベルの選手に囲まれ、チームプレーの中で自身の素晴らしいクオリティを存分に発揮する理想的な環境を手に入れたといえるだろう。
とはいえ、ベニト・ビジャマリンのパルコ席に座る役員をプレーによってさらに満足させられるよう、ベティスはクラブと街に順応する過程で思いつく限りのサポートを乾に対して行っている。スペイン語が出来ない外国人選手向けの語学教室が間もなく開始されるのも、そのひとつだ。クラブは、乾、そして家族全員が快適にセビージャで暮らせるよう全力を尽くしている。
本人も、過去数シーズンを過ごしたエイバルの街とは全く異なるアンダルシアの高温の気候にも少しずつ慣れてきている。そして同時に、揺るぎなく団結したチームにも適応しているようだ。クラブのレジャンド、ホアキンが先導するチームの良好な人間関係は、ベティスの成功を支える根本ともいえる。
ローカールームで「タカ」の愛称で呼ばれる乾は、クラブにいることの喜びを自ら表現することで、これまで彼へのイメージがなかったチームメイトの心を掴んでいる。ベティスのSNSで拡散されている動画にみられるように、乾はホアキンの日常的なジョークにも積極的に加わり、伝統的に行われる新加入選手への洗礼でも「ドラえもんの歌」を披露してチームメイトを喜ばせた。
また、ベティスは日本で絶大な人気を誇る乾がクラブにもたらす経済効果にも大いに期待を寄せている。実際、日本でベティスブランドの人気を広めるために入団会見の場を東京に移したのはクラブ史上初めての試みだった。さらに、日本のサポーターがベティスのあらゆる情報をフォローできるよう日本語のSNSを開設したほか、クラブ内部では将来のベティスの公式スポンサーとなりうる日本のブランドについても継続的に検討が進められている。こういったクラブの動きは、今後間違いなく活発になっていくだろう。
■ベティコである意味
(C)Getty Imagesベティスというクラブは、ベティコ(ベティスサポーター)にとってすべてを意味しているものだ。結果を手にすればファンは増え、負ければ減る。それこそがフットボールの真のように思えるが、ベティスとベティコたちは全く異なる。
「ビバ・エル・ベティス・マンケ・ピエルダ(ベティス万歳、たとえ負けようとも)」
この代表的な標語が、すべてを示しているだろう。1970年台、3部での地獄の日々を経験しながらも、自分たちのホームスタジアムを埋め、アウェーの地には大挙して押しかけ続けた。ベティコたちはベティスとともに酸いも甘いも嚙み分けながら、このクラブとともにあり続けた。ベティスにとって最高にして最大のトロフィーは、ベティコたちにほかならない。
ホアキンは言う。
「僕たちは、ほかとは一線を画す存在だ。ベティコになるということは、情熱と愛情をベティスという家族のもとで一つにすること。それは一つの生き方にほかならない」
彼らはフットボールを媒介にした一つの共同体なのだ。
■ビジャマリンを熱狂の渦に
スポーツに話を戻そう。乾は最初の数週間における新たなチームメイトとの仕事を通じて、自身が監督のアイデアを体現できる偉大なキャパシティを備えていることを証明した。レギュラーの座を得るためにホアキンやクリスティアン・テージョとの厳しい争いをくぐり抜ける必要があることは理解しているだろうが、クラブがUEFAヨーロッパリーグを含む3つの大会での戦いを控えている状況を踏まえれば、自身の内面に持つあらゆるフットボールを体現するための十分な時間が与えられることは間違いない。
さらに、セティエン監督は選手をコンスタントにローテーションすることでも知られている。昨シーズンを例にしても、ラ・リーガの全38節のうち同じ布陣を繰り返したのはわずか2試合のみだった。選手の途中交代は日常であり、これはすなわちピッチ上での要求レベルが最大級であることを意味する。乾もすでに承知のとおり、今シーズンのベティスの目標はさらなる成長である。
タカの新たな冒険は、17日に開催されるレバンテ戦で幕を開ける。昨シーズンにエイバルの選手として喝采を浴びたビジャマリンで、ベティスの選手としてデビューする。この時、ベティスサポーターは6月に乾が入団することをすでに知ったうえで熱烈な歓迎の意を示したが、毎週スタンドから声援を送られることになるこの5万人のサポーターの愛情に、今度は乾が素晴らしいフットボールで応えてくれることを期待したい。
文=ミゲル・アンヘル・モラン(Miguel Ángel Morán )/スペイン『マルカ』ベティス番記者
協力=江間慎一郎
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