■一年目で手に入れた唯一無二の立ち位置
「ナカジマを慰留、残留させることがクラブの最優先事項だ」。全世界がロシアで行われた世界最高の祭典に浮足立っている最中、ポルティモネンセ会長のロドニー・サンパイオは明言した。さらに、その祭典の幕が閉じた一週間後には、唯一無二のジャポネス(日本人)とのさらなる契約延長交渉に入り、違約金を2000万ユーロ(約25億円)から倍の4000万ユーロ(約51億円)に再設定した。
4年前にポルトガル「三強」の一角、スポルティングと5年契約を結んだ田中順也(現・ヴィッセル神戸)が6000万ユーロ(当時約83億円)の違約金を設定され、同国内でも話題になったが、人口5万の小さなリゾート地に本拠を構えるプロビンチアの会長は強気で本気だ。「4000万ユーロ満額払うクラブに対してのみ、彼の移籍を認める」と。
一年前、出場機会に恵まれなかったFC東京から耳目を集めることなく、二部から昇格してきたばかりの片田舎のチームに新天地を求めた中島翔哉のサッカー選手としての立ち位置は、この一年で劇的に変化した。
昨季のポルトガルリーグ第6節、2ゴールでホームデビュー戦を飾ると、最果ての地でゴールとアシストを量産し続けた。終わってみれば10ゴール12アシスト。昨年11月と今年2月には(選手間投票による)月間最優秀ゴールを受賞し、同一選手が複数回選出された唯一の栄誉を手にした。さらに、リーグの2017-18シーズンのベストイレブンと新人王候補にもノミネートされるという申し分のない活躍。海外挑戦初年度での主要リーグにおける日本人選手の二桁得点は、20年前の中田英寿以来の出色の出来となった。
今年1月末に直接中島本人に話を聞いた際、「サッカーそのものが日本と変わったことが、日本より活躍できている要因」と語ってくれた。その話の中で本人の口から幾度となく飛び出し、キーワードとなったのが“攻撃的”という言葉。「攻撃的なリーグ」「攻撃的で展開が速いチームが多い」「前線により速くボールを運んでシュートを撃ちに行く攻撃的なスタイル」「ポルティモネンセはシンプルに速くゴールを奪う攻撃的なサッカーを徹底している」――。そういったリーグ、チームだからこそ「絶対に自分に合う」と確信したそうだ。
果たして結果もそうなった。かつてポルトガルで延べ6年間、彼の国のサッカーを継続取材していた筆者には、現地メディアの記者の知人、友人が少なからずいるのだが、ポルトガルの三大スポーツ紙『A BOLA(ア・ボーラ)』、『Record(レコルド)』、『O JOGO(ウ・ジョーゴ)』がこぞって一面でこの日本人選手の特集を組み、何度も筆者に質問の電話、メール、果てはポルトガル語での紹介記事の執筆依頼までしてきたのは、初めての経験だった。サッカーの記事が紙面の約9割を占める上記スポーツ各紙においても中島翔哉の“一年目”は括目すべき大ブレイクだったのだろう。
■ポルティモネンセが推し進める“日本化”

現在、そのポルトガルメディアが注目しているのが、中島が所属するポルティモネンセの“日本化”だ。前出のサンパイオ会長は簡単な日本語なら解し、何度も日本に足を運ぶ知日派。さらに、元浦和レッズの選手としてJリーグMVPも獲得したロブソン・ポンテがテクニカル・ディレクターの職に就いている。今夏のシーズンオフも、両重役が揃って来日している。
まずは、新指揮官候補として元日本代表監督の岡田武史氏(現・FC今治会長)に声をかける。にべもなく断られたが、次に“ポンテコネクション”で浦和レッズのクラブハウスを何度も訪問視察。昨季のチーム得点王のファブリシオを同クラブに売却した穴を埋めるため、柏木陽介とサンパイオ会長自ら会談を持った。実は、柏木は7年前にブラガも獲得を狙っていた選手。当時、ブラガのスポーツディレクター(SD)の責にあった元ポルトガル代表黄金世代の主将フェルナンド・コウトにインタビュー取材をした時、「実はこの日本人選手をねらっているんだけど、プレーの特徴を教えて欲しいんだ」と柏木の名前が書かれたシステム手帳を見せられ、逆に質問攻めにあったことがある。
結局、柏木の獲得は叶わなかったが、ポルティモネンセは大きな手土産を持ち帰ることとなる。新たな胸スポンサーの獲得だ。埼玉県さいたま市浦和区に本社を置く冠婚葬祭会社がメインスポンサーとなった。今季のポルティモネンセのユニフォームには片仮名で『セレモニー』と書かれている。さらに、昨季終了間際に中島が契約を結んだマネジメント会社も、ポルティモネンセをスポンサードすることが決定した。現時点で契約には至らなかったが、昨年のユニバーシアードの金メダリストであるサイドバックの小池裕太(流通経済大学)も6月、7月の約2カ月間練習参加をさせ、昨季のリーガ覇者であるポルトとのテストマッチにも途中出場させている。そして、どうしても欲しいのがファブリシオの後釜。サンパイオ会長は三ヶ月間で三度目の渡日をし、鹿島アントラーズFW鈴木優磨に次のねらいを定めたようだ。「(違約金を)満額支払ってでも欲しい」と漏らしていることからも、獲得に本腰なのがうかがえる。『ポルティモネンセは、監督、選手を我が国出身者でかためるウルブス(ウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズFC)の日本人版』と同国メディアでも報じられている。
■ポルト移籍を見据える正念場の“二年目"
(C)Getty Images5月末、ロシアW杯の23人から漏れると、中島は程なくしてポルトガルにとんぼ帰りしている。日本人選手がオフシーズンに母国で骨を休めないのは異例中の異例。もちろん「自分をなぜ、W杯メンバーに選ばなかったのか」という過熱気味の議論の喧騒の渦中に身を置きたくなかったのもあるだろうが、「のんびりした街や温暖な気候や食べ物含めてすごく満足している」と語ってくれたポルティマォンで英気を養った。今夏はポルトガルでも各地で気温が軒並み40℃を超える酷暑の日々だが、ポルティマォンがあるアルガルヴェ地方だけは例年通り地中海性気候独特のマイルドな気候が続いた。
得点力を買う新監督のアントニオ・フォーリャの構想によると、ツートップの一角としてのFW起用もあり得るが、今季も左WGの替えの利かない不動のレギュラーとなる。ダンディー・ユナイテッド(スコットランド)、ポルト、リール(フランス)、リオ・アヴェと行ったプレシーズンマッチで試合から外れたのは、最初のダンディーとの30分×3本変則マッチの最初の1本だけである。負傷かコンディション調整でもない限り、今季の公式戦で中島が出場しないということはないはずだ。その証拠に、中島にはエースナンバーの「10」が新背番号として託されることとなった。
ポルティモネンセはサッカーコート3面、陸上競技場併設のメインコート1面からなる複合型練習施設を建設中である。さらに、現ホームスタジアムは昨季の国内リーグ『ベストピッチ賞』も受賞しており、伸び盛りのクラブと言えよう。ただ、クラブ史上タイトルは、2016-17シーズンの二部リーグ優勝のみ。一部リーグでの最高位は5位(1984-85シーズン)で、昨季は10位だった。フォーリャ監督も「我々がたくさん勝てないのは分かっている。どんなスタジアムでも負けない姿勢で臨むことが大切」と吐露すれば、ポンテTDも「来季のUEFAの大会(EL)の出場圏内(上位)に入ることは願望で、リーガ(一部)残留が目標」と現実を見据える。
中島がステップアップを考え、ビッグクラブへの移籍を視野に入れているのは当然だろう。冒頭のサンパイオ会長の言葉とは裏腹に、フォーリャ監督は、昨季ポルトBの監督を務め、各年代でアシスタントコーチを歴任してきた。さらに非公式ながらジョゼ・モウリーニョ監督のポルトでCL制覇に貢献し、バルセロナやポルトガル代表の司令塔としても活躍したデコをクラブコンサルタントに招聘している。さらに選手移籍に直接関与する代理人はクラブの大株主で、中島の通訳も担当するチームメイト、亀倉龍希の父親でもあるテオドロ・フォンセカ。いずれの3人もポルトと強いパイプを持つ。中島を一番良いタイミングで移籍させるための布石ではなかろうか。そして、冬の移籍市場で、ポルティモネンセからポルトへとなれば「国内ならポルト」と公言してきた中島の宿願成就の移籍となるだろう。
8月に入り、ポルトガルリーグはヴァーチャルアプリの広告宣伝として公式SNSで今季の注目選手を紹介している。その一番手がなんと中島翔哉。「ショーヤ・ナカジマ、昨季の最大のサプライズ。あなたのお気に入りにこの日本人を加えてみては?」という謳い文句とともに紹介されている。ポルティモネンセの至宝から“リーガ”のアイコンへ。リオ五輪以来背負う「10」番に伸し掛かる期待は想像以上に大きい。本当の意味での飛躍の年になる“二年目”がキックオフするのは、8月14日(火)4時15分(日本時間)である。
取材・文=鰐部哲也/Tetsuya WANIBE
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