デュエル、インテンシティ…今こそ日本のサッカーを「日本語」で考えよう【林舞輝インタビュー/第2回】

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指導者養成の名門・ポルト大学大学院で学ぶ新世代の指導者・林舞輝氏のインタビュー第2回。今回は「日本のサッカーの日本語化」について。

日本のサッカーには新しい言葉が次々取り入れられている。例えば「インテンシティ」、「デュエル」。カタカナで表現されたその言葉の本当の意味をわれわれは正しく理解できているのだろうか? 林氏は、外からのカタカナ言葉をそのまま取り込むのではなく、その本質を知るためには、日本語で考えることが大切だと力説する。

■訳すのではなく、日本語で日本のサッカーを“考える”

——サッカーの現場では次々に新しい用語が生まれています。例えば「ポジショナルプレー」「戦術的ピリオダイゼーション」と言われても今一つ分かりにくい。林さんは以前、「サッカー用語の言語化」が大切だとおっしゃっていましたが、それはどういう効果があるからですか?

「ピリオダイゼーション」と言われたとして、なんじゃそりゃってなりません? でも、ネイティブの人なら「periodization」って見た瞬間分かる。もともと「ピリオド」には、期間、区間、あるいは時代っていう意味がある。「ピリオド|period」っていう名詞を「ピリオダイズ|periodize」っていう動詞にしてさらにもう1回「ピリオダイゼーション|periodization」っていう名詞にしたことが、見た瞬間に直感的に分かります。

でも、日本人がカタカナでピリオダイゼーションって読んでも、なんのこっちゃって思う。それが、子どもたち相手に、言うなればトップでも起きているわけです。例えば、インテンシティとか。特に子どもたちにとっては、何言ってるのか分からない。

それがサッカーを解釈する、理解する上で、一つ大きな悪い点というか、遅れを取っている原因になっていると思うんです。ネイティブの人が用語を感覚的にポンと分かるように、日本語で感覚的に分かる言葉にしたほうがサッカーを理解しやすくなる。結局、言葉があるから考えられる。その言葉が分からないと考えられない。その言葉自体をきっちり理解しないとサッカーを考えられるようにならないという話です。

コーナーキックを角蹴りにしろとか、そういう話をしてるんじゃないですよ。指導する時に分かりやすい言葉にしないといけない。簡単に言えば、サッカーそのものをちゃんと日本語で考える文化がない。カタカナを全部訳しましょうではなくて、もっとちゃんとみんな日本語で深くサッカーを考えて突き詰めようよ、と言いたいんです。

子どもたちに「ダイアゴナルに走る」って言っても分からないけど、「斜めに走る」って言ったら分かる。そういう話なんですよね。日本サッカーの日本語化は本当に大事だと思います。それをしないと、サッカーをもっと考えられるようにならないし、世界から遅れる原因にもなる。子どもたちに、「インテンシティが足りない!」って言ったって、何それ?ってなってしまう。

ポリバレント、インテンシティ、デュエル…。今までいろんな外国人監督が色んな言葉を日本に持ちこんで来ましたが、その言葉の真意まで訊ききって奥深くまで理解するという作業をしてこなかったと思うんです。分からないって恥ずかしいことでも何でもないんで、分からなければちゃんと分からないと言ってその言葉の本質を突き詰めなければいけなかった。誰もが何となくその言葉に惹かれ、何となく理解した気になって、何となく使い始めて、外は立派だけど中身がスカスカのヘチマのような状態で全てが曖昧なままになってしまった。

結果として、曖昧な定義の上に曖昧な言葉が重っていき、曖昧なサッカーへの理解と曖昧なサッカー文化が作られてきてしまったような気がするんです。

表面上のサッカー文化と表面上のサッカーへの理解でも表面上は強くなります。でも、さらにその先を目指すんだったら、今の「曖昧なサッカー文化」から脱却して、もっともっとサッカーを突き詰めて考え、積み重ねていかなきゃいけない。そのために、まずは「日本サッカーの日本語化」が必要だと、そういうことです。色々と偉そうにすいません。

——日本でデュエルと言えば1対1、インテンシティは強度と訳されたりしています。

強度、ですか。強度、密度…。難しいな。

例えば、50mを10秒で走るトレーニングをするとする。50mを全力で走って9秒の人にとっては、50mを10秒で走るトレーニングってめちゃくちゃ厳しい。逆に、50mを5秒で走る人にとっては、10秒で走るのは楽。つまり、同じ「50mを10秒で走る」というトレーニングでも密度に違いができちゃうよねっていうのが、トレーニングにおけるインテンシティの使い方です。イメージとしては「トレーニングの密度」かな。9秒の人にとっては50m10秒はインテンシティの高いトレーニングだし、5秒の人にとってはインテンシティが低い。

でも、例えば試合の中でインテンシティが足りないって言ったら、それは、激しさが足りないっていう感じなんですよね。それもある意味、密度に一番近いのかな。試合の密度。いい本を読んだとき「この本密度が高い」とか、「密度の濃い時間」とか言うじゃないですか。そういう感じで。

デュエルに関しては、認識の違いがある。デュエルは、もともとのイメージは2人なんですよ。2人の戦い。なぜかというと「デュエル|duel」って、「デュオ|duo」からきているので。これ、ネイティヴの人たちは分かると思う。「2人の戦い」という感じなんです。日本って、1対1って言うから、その違いは面白いですね。ドイツのツヴァイカンプフもそうです。ツヴァイは「2」なんですよ。だから、同じ1対1という状況でも、日本は「1人対1人」という考え方ですけど、ヨーロッパは「2人の戦い」なんです。意訳すれば「決闘」です。

——日本では、ボールを争うときにデュエルという使われ方をしていることが多い印象です。

ある局面で2人になったら、それはデュエルだと思います。僕はハリルさんと話したことがないので分からないんですけど、変な話、例えばゴールキックを競り合う時も、デュエルって言ったらデュエルですからね。2人の戦いなので。僕はそういうところも含めてデュエルだと思います。すべての局面における2人の戦い。ゴールキックを競り合うのも、スローインを競り合うのも、ルーズボールに対してガチッとぶつかった時も、サイドで対面した時も、すべてデュエルだと思います。

■言葉も数値も、結局は使い方次第

——言葉の課題もそうですが、数値。スタッツはヨーロッパでどれくらい重視されているのでしょうか?

スタッツはめちゃくちゃ重視されています。マンチェスターシティーとシティーフットボールグループの分析チームのトップの方の授業も受けたのですが、まず、クオリティが日本とは全然違う。もちろん、それをどう使うかは、結局監督次第にはなりますが。

例えば、1試合当たりの一般的な平均走行距離は11~13kmです。前半終了時点である選手の走行距離が10kmだったとしましょう。ここで考えるのは「この選手よく走っているな」ではなくて、「あ、この選手はあと3kmしか走れない」って考える。あと3〜4kmしか走れないから60分ぐらいで代えなきゃいけないし、逆に相手チームの立場なら、「ここで代えなかったら狙い目だ」もしくは、「ここを代えてくるだろうからその時はこちらはこうやって対応しよう」と相手の手を先回りして対策を考えておくことができます。

例えば1試合で15km走った選手がいたとする。でも、その選手がしかるべき時にしかるべきタイミングで、しかるべき場所に、しかるべきスピードで走ったとは限らない。結局、15km走ったとしても、そのうちの10kmは無駄な走りだったかもしれない。逆に、8kmしか走らなかったけど、この8kmは、走るべき時に、走るべきタイミングで、走るべき場所に、走るべきスピードで走ったかもしれない。そういう観点でいくと、15km走った選手より、8km走った選手のほうがいい可能性がある。

データがどんなにあったとしても、それをどう使うかが大切で。走行距離の話もそうですが、その15kmがいい走りだったかどうか判断するのは、結局監督しかいないんです。

ポゼッションに関してもそうです。ポゼッションはサッカーのスタイルを見る指標にはなりますが。例えば、川崎フロンターレ70%、ベガルタ仙台30%という数字を見れば、どういう試合をしているかは分かる。分かりますが、その70%のポゼッションが本当に必要な70%だったかどうかは分からない。リスクをかけて縦パスを出すべきところで安全なほうを選択していたら。難しいです。いろいろ調べても、ポゼッションと勝利数の決定的な相関関係みたいなのがないんですよね。

——表面的なところだけ見て、それを意識しても意味がないという話ですね。これはサッカーに限ったことじゃなくて、日本人は数字が苦手というか…。

どうなんだろうな。日本にもそういうことをやる優秀な人はたくさんいると思います。野球にはいると思いますよ。ヨーロッパでは、いい意味でも悪い意味でもサッカーがビッグビジネスです。だから優秀な人がサッカーに来る。でも、これは本当に表もあり裏もありの話で。しょせん一つのスポーツなのでね。政治とか科学に行ったほうがいいんじゃないの、みたいな話もあるので、何とも言えないんですけど。

ただ、サッカーはビッグビジネスなので、そもそも優秀な人が来るし、そこはすごく大きな違いだと思う。日本に優秀な人がいないのではなくて、日本はサッカーっていう文化自体も大きくないし、ビジネスとしても大きくないので、まだそういった分析したりする優秀な人が来ないというのはあるかもしれません。

(第3回に続く)

インタビュー・文=Goal編集部

【プロフィール】

林 舞輝 Maiki Hayashi

1994年12月11日生まれ、23歳。イギリスの大学でスポーツ科学を専攻。在学中にチャールトンのアカデミー(U-10)とスクールでコーチ。2017年よりポルト大学スポーツ学部大学院に進学。同時にポルトガル1部ボアビスタのBチーム(U-22)のアシスタントコーチを務め、主に対戦相手の分析・対策を担当。モウリーニョが責任者・講師を務めるリスボン大学とポルトガルサッカー協会主催の指導者養成コースに合格。

Twitterアカウントは@Hayashi_BFC

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