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チャビ監督を解放せよ!バルセロナは疲労困憊のクラブのレジェンドを解放し、新監督の到着前に士気を高めるべき

現地時間11日(日)、ラ・リーガのグラナダ戦の前半が終わると、バルセロナのチャビ監督は立ち上がって後ろを向き、怒号をあげてダッグアウトの自分の席をひっぱたいた。いらいらするのも無理はない。バルサはまたしても絶好のチャンスを逃し、降格候補のチームに右サイドを駆けあがられ、昨シーズンはラ・リーガのMVPを獲得したGKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンの頭上にゴールを決められてしまったのである。

試合は結局3-3の引き分けだったが、スペインのディフェンディング・チャンピオンは、またしても、残念なシーズンにおける忘れられない夜を過ごしてしまった。今シーズンのバルサは貧弱で、レアル・マドリーが首位をキープしているタイトル争いから徐々に置いていかれつつある。チャンピオンズリーグでも大きな希望は持てそうにない。ベスト16で曲者ナポリと対戦するが、そこでたとえ勝てたとしても、最終的にバルサがウェンブリーでカップを掲げる姿を見るのは難しそうだ。

今後、さらなる混乱が起こる可能性もある。すでにチャビ監督は辞任を表明しており、シーズン終了とともにクラブを去る。ケガ人が続出し、お騒がせな隣人ジローナが順位表の上位にいることは、バルサにとって最悪だ。5年以上前から問題になっているように、バルセロナは少なからず混乱している。

ピッチ上の問題に関して、その中心にいるのはチャビ監督だ。昨シーズンは大いなる成功をもたらしたが、今や、期待に応えられないでいる。今年のバルサが散々であるというわけではないが、昨シーズンの栄光に上乗せが出来ていない。いかなる種類の退化もバルサでは許されない。

監督にはずっとプレッシャーがかかっている。椅子をひっぱたいたくらいでは晴れない。チャビ監督は監督業が自身のメンタル・ヘルスにどれほどダメージを与えているかを語ってきた。世界最高のブランドの顔であるというプレッシャーの副作用だ。バルサのジョアン・ラポルタ会長も、明らかに忍耐力を失っている。

つまるところ、チャビ監督は夏まで待つことなく、今やめた方がいいのではないか。バルサは硬直し、チームを率いる責任を背負った監督も硬直している。これは今や、ひとりの人間として問題であり、今すぐチャビ監督を解放してあげるのが唯一の解決策だ。

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    メンタルへの影響

    チャビ監督が辞任を公表したのは、いささか唐突だった。1月、ビジャレアルに3-5で敗れた後の記者会見で憮然とした表情で語ったのだ。

    「私は6月にバルセロナを去る。我々は引き返せないところまで来た。今は変化の時だ。クレのひとりとして、私は去るべき時が来たと思う。今日、理事会とクラブと話をした。6月30日に退任する。私は数日前にこの結論を下した。前から決めていたが、今が公表すべき時だ。これで選手たちは解放されると思う。私はクラブの問題になりたくない。むしろ逆だ」

    彼の声に情熱は感じられず、言葉に説得力はなかった。敗者の弁であり、必ずしも輝かしいものではなかった。それから3週間、チャビ監督は、まだ先である退任の状況について詳しく語ってきた。監督はさまざまな問題について言及した。自分はチームの足を引っ張っていると感じていて、クラブを取り巻く不穏さを感じていた。メディアのせいで仕事ができなくなったとも確信していた。だが、最も重要なことは、彼がプレッシャーに耐えきれなくなったことだった。

    「私が感じていることを表現したい。毎日、自分は価値のない人間だと感じさせられるようになった…監督という地位に求められるものに関して、問題があると思う。仕事を楽しめないし、一瞬ごとに命が削られていくようだった。どんなクラブでも起こることではない。だから残酷だと私は言うのだ」

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  • Pep Guardiola Barcelona UCL trophyGetty Images

    共感する人々

    チャビ監督の話は、世界中の監督にとって理解できることだった。バルセロナの現監督は前任者のルイス・エンリケ、エルネスト・バルベルデ、ペップ・グアルディオラの苦闘について語り、記者会見で、おおやけに、後任になりそうな、現在はバルセロナBの監督であるラファエル・マルケスに、自分と同じストレスと向き合うことになるだろうと警告した。

    だが、こうした懸念を口にしたのはチャビ監督が初めてではない。グアルディオラも12年前、やや突然にカンプ・ノウを離れるつもりだと発表したとき、同じことを言っていた。「4年間は永遠のように思われた」と語ったことは有名である。「12月、私は会長に、ここでの私の舞台は終わりに近づいているように思うと伝えた。この4年間で私は疲れ果てた。私はすべてを注ぎこんだ。充電が必要だ」

    現在のマンチェスター・シティ監督のこの言葉は、バルセロナ史上最も記憶すべき4年間が過ぎて、大いなる成功を収めていたときのものだった。グアルディオラは出ていく必要があり、バルサの他の元監督たちも同じことを口にしてきた。

    ロナルド・クーマンは、下り坂にあるチームを監督し、リオネル・メッシ後の世界で奮闘したが、同じような不満を述べていた。「バルサの監督であることはメンタル・ヘルス的に良くない。バルセロナは、選手でいるほうが監督よりもずっと楽しいところだ。チャビ監督は、カタルーニャ地方出身でクラブの息子だ。きっとこのことに気づいているだろう。バルサの監督は私がしてきた仕事の中で最もハードだった」と、先週、明かしている。

    これは何も、カタルーニャ地方の中にとどまるような問題ではない。1月末、ユルゲン・クロップは、同じような気持ちでリヴァプールを去るつもりだと明言した。「私も、どういったらいいか、エネルギーを使い果たしつつある。確かに、今現在、問題があるわけではない。いつかは発表しなければならないことは、ずっと前からわかっていた。だが、今はまったく大丈夫だ。この仕事を何度も何度も何度も何度もすることはできないことはわかっている」と公式サイトで述べた。

  • Robert Lewandowski Barcelona 2023-24Getty Images

    変化が必要

    この間、バルセロナは絶対的な危機にいるわけではないが、立ち止まっていた。ピッチの両サイドでの質の悪いパフォーマンスと一貫性のなさはさておき、来シーズンのチャンピオンズリーグには余裕で出場できるはずだ。ラ・リーガ首位のレアル・マドリーとは勝ち点差が10あるが、5位のアスレティック・ビルバオを5ポイント上回っている。

    得点数はラ・リーガで3番目に多く、ロベルト・レヴァンドフスキは衰えを懸念する噂が尽きないが、それでもリーグ戦で10得点挙げている。若さあふれるラミン・ヤマルは、ここ数週間チームを牽引し、結果を出している。まだ16歳だが、今後何年にもわたってチームをひっぱっていくことができそうだ。ペドリ、フレンキー・デ・ヨング、ロナルド・アラウホもおり、エリート・チームを造りあげるための建材は豊富だ。

    ラポルタ会長は、その後、バルサは本来あるべき姿にないと不満を漏らした。これまでの歴史を考えれば、バルサは毎年首位にいるべきチームである。選手の才能がモノを言うなら、複数のタイトルを取ってしかるべきチームなのだ。確かにチャビ監督は自分の戦術にこだわりすぎると批判されており、センターバックが多く、ワイドに攻撃のオプションが少ないのは問題だが、それで完全に窮地に陥っているわけではない。

  • Lamine Yamal Barcelona 2023-24Getty

    改善は可能

    選手たちの能力だけを見れば、バルサは今後数週間のうちに調子を取り戻せるはずだが、シーズン終了までには、A・ビルバオ、アトレティコ・マドリー、レアル・マドリー、ジローナとのアウェイの試合が残っている。

    デ・ヨング、ペドリ、イルカイ・ギュンドアンという中盤のトリオは、確かに一瞬で人々を魅了する。ヤマルには保護が必要だが、バルサに2つか3つ勝利をもたらすだろう。ヴィトール・ロッキは復帰からわずかリーグ戦97分で2得点を挙げており、このブラジル出身の若者にはもっとすごいことができそうだ。

    チャビ監督も、ある程度は戦術的な野心を披露してきた。昨シーズン、タイトル獲得ユニットで守備の柱だったアンドレアス・クリステンセンは、守備的ミッドフィルダーとして起用され、ある程度の成功を収めている。若きサイドバックのエクトル・フォルトは2、3度出場しただけで印象的なプレーをするし、レヴァンドフスキのゴールを量産する才能は見逃すことができない。

    だが、こうしたことすべては、以前から指摘されていることだ。バルサは戦えるチームであり、個々の力は試合に勝つのに充分だ。バルサの現状は突然の全体的な不調や、ワールドクラスのサッカーの能力が突然消えてしまったことに由来するものではない。むしろ、チーム全体に自信を失っていることが問題で、監督が選手のベストを引き出せないせいなのだ。改善は可能だが、予断を許さない。

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    今なぜ変化なのか

    バルサには、いつかは新監督が必要だ。スポーツ・ディレクターのデコは、後任を探しているのかという質問をはぐらかし続けている。マルケスは負けてばかりだという話を軽視している。しかしながら、マルケスにしろ誰にしろ、今、新しい顔を連れてくることは、バルセロナのチームが必要としているものを押し上げてくれる可能性がある。

    現在、チャビ監督が担っている仕事は多すぎる。彼には、毎週、記者団の前で不満をもらす権利がある。特に、長きにわたって検閲の文化の中で活動してきた後では。しかし、ブラウグラナには変化が必要だ。チャビ監督は、もはや仕事を楽しんでいるようには見えない。今すぐ退任する方がよいだろう。

    その方がチームのためにもなる。期待される「新監督による活気」は必ずしもうまくいかないかもしれないが、新しい戦術をもち、白紙の状態の新顔は、少なくとも短期間はバルセロナに躍動をもたらすことができる。チャビ監督の管理の下で思い悩んでいた選手たちの助けにもなるかもしれない。ジョアン・フェリックス、ジョアン・カンセロ、ジュール・クンデは皆、失意のシーズンに耐えてきた。より良質なアイディアを持った新監督なら、彼らのベストを引き出せるかもしれない。そして、他のチームメイトと彼らをひとつにまとめられるかもしれない。

    確かに、大きなリスクもあるかもしれない。バルサの財政悪化は恒久的な監督の任命を難しくするだろう。それでも、全当事者にとってうまくいく可能性もある。

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    後任候補

    バルサでの仕事に輝きはない。もはや、メッシを監督し、毎年リーグ優勝に邁進できる可能性を提供する地位ではないのだ。青天井の報酬もなく、魅力的なサッカーに夢中になるメディアからの好意も、ほとんど枯れてしまっている。

    それでも、市場にはすぐにでも興味深い候補が数多く現れるだろう。候補のひとりにはハンジ・フリックの名前も挙がっている。ドイツ出身のフリックはバイエルン・ミュンヘンで大いに成功し、2020年には三冠を達成するなど、18カ月の監督在任中に合計7つのタイトルを獲得した後、ドイツ代表チーム監督として、たった7試合しか負けていない。

    他にもすぐ名前が挙がるのがマルセロ・ガジャルドだ。リーベル・プレートの伝説的な監督だが、サウジ・プロリーグの王者アル・イテハドでの監督としては、好調なスタートを切れていないし、バルサは以前からガジャルドに関心を示している。あちこちの噂をかき集めてみると、もう一度ガジャルドに接近することもありそうだ。

    マルケスがクラブ内から昇格するのは賢明な選択だろうが、仏心を出してジョゼ・モウリーニョに手を差し伸べれば、正反対の問題が起こるだろう。

    いずれにせよ、チャビ監督は解放してあげるべきだ。新監督就任が大いに士気を向上させる可能性がある。その結果、すべての人が今より満足するようになるかもしれない。