Randal Kolo Muani Manchester United GFXGetty/GOAL

ランダル・コロ・ムアニとは何者か:マンチェスター・ユナイテッドのNo.1ターゲット、進化の軌跡

「我々は新しい未来を構築しなければならない。得点が取れるだけでなく、連係プレーにも貢献できるストライカーが必要だ。それが非常に重要なんだ」。今年4月、『スカイスポーツ』のインタビューでのエリック・テン・ハーグ監督のコメントだ。夏の移籍市場に向け、きわめて明確に自身が理想とする背番号9について語っている。

その役割はバーンリーからレンタル移籍で加入したボウト・ヴェグホストが全力で担ってきたが、ゴール前の脅威となるまでには至っていない。オランダ代表FWは完全移籍を望んでいるようだが、率直に言ってそこまでの活躍をしてはいない。

マンチェスター・Uで他に生粋のセンターフォワードといえばアントニー・マルシャルだが、ケガも重なり今シーズンは信頼できる選手であることを証明できていない。ヴェグホスト同様、来シーズンもオールド・トラッフォードでプレーできる可能性は高くないだろう。

そんなわけで、今シーズンのマンチェスター・Uで主に得点源という重責を担ってきたのはマーカス・ラッシュフォードで、実際、51試合で29得点をあげている。だが、ラッシュフォードが最も得意なのは左ウィングとして切りこむことであり、彼の不在時に代わりのできる選手は存在しない。

報道によると、テン・ハーグ監督はチーム最大の弱点の改善を熱望しており、この夏ヴィクター・オシムヘン(ナポリ)とハリー・ケイン(トッテナム)を狙っているらしい。だが、オシムヘンはバイエルン・ミュンヘンへ移籍を望んでいると言われ、ケインは1億ポンド(約170億円)以上かかることが確実だ。たとえケインがまもなく30歳になり、契約の最終年を迎えるとしても、だ。

マンチェスター・Uがそれほどの額を新しいストライカーのために払う用意があるというならば、輝かしい未来が望める選手に投資すべきだろう。それはまさに、フランクフルトで躍動するランダル・コロ・ムアニである。

ドイツの『ビルト』紙によると、レッドデビルスはこのフランス代表選手のために1億600万ポンド(約180億円)を準備しているという。この額ならアイントラハトも納得するにちがいない。コロ・ムアニに特別な才能があると見込んでおり、彼をプレミアリーグに連れてくるためにあらゆる手を尽くすつもりのようだ。

そんな注目を集めるコロ・ムアニだが、なぜメガクラブが注目するような選手に成長できたのだろうか。その進化を紐解いていく。

  • Kolo-Muani-NantesGetty

    ナントで磨かれたダイヤの原石

    コロ・ムアニは、ユース年代でビルパントFC、トランブレFC、USトロシーといったパリ郊外のクラブでサッカーを学んだ。そして17歳になる1カ月前にナントに加入したが、活躍できるようになるまでには時間がかかった。クラブのアカデミーで3年を費やしている。努力が報われたのは2018年11月、リーグ・アンのサンテティエンヌ戦での途中交代出場を果たしたときであった。

    そのシーズンの後半にレンタルされることになるが、それまでにトップチームの出場は6試合。さらにレンタル加入した3部リーグのプローニュでは初めのうちまったく活躍できず、5試合に出場してレッドカードを2枚もらう始末だった。それでも、その後自身の荒削りな才能を発揮し、新型コロナウイルスでリーグ戦がシーズン半ばでの終了を余儀なくされるまでに、3ゴール5アシストをマーク。ナントに戻った彼には、羽ばたく準備ができていた。

    2020-21シーズンのナントはリーグ戦で苦戦を強いられていたが、コロ・ムアニはレギュラーを獲得。チームが下位に沈む中、自身は9得点でシーズンを終了した。しかし翌シーズン、さらなる成長を見せる。13ゴール7アシストでナントを9位にまで引き上げ、クープ・ドゥ・フランス優勝へと導いた。この優勝の後、契約終了に伴うフリー移籍でフランクフルトへと移籍。初めて母国フランスを去っている。

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  • Muani-EintrachtGetty

    ドイツでの輝かしいスタート

    2021-22シーズンのヨーロッパリーグ王者と5年契約を結び、DFBポカール1回戦の1.FCマクデブルク戦でデビュー。4-0と快勝した一戦で、1アシストをマーク。ブンデスリーガ開幕戦では王者バイエルンに1-6で惨敗したが、彼はゴールを記録。2週間後のブレーメン戦(4-3)では、1ゴール1アシストをマークした。ブンデスリーガに完璧な自己紹介を完成させている。

    チームの得点源に成長し、ブンデスリーガでの最初の13試合で9アシストを決め、リーグ新記録を樹立。チャンピオンズリーグでも活躍を見せ、グループステージ最終戦スポルディングCP戦でゴールを奪い、決勝トーナメント進出に導いている。

    2022年末にはワールドカップに挑むフランス代表に招集され、準優勝を経験。そして冬季中断が明けると、シャルケ戦でまたしても右サイドから1アシストを記録し、3-0の勝利をもたらした。ブンデスリーガではその後13試合で8ゴールを奪っている。

    今季はここまで公式戦41試合に出場して21得点を記録しており、ヴァルトシュタディオンのピッチに立ったばかりの頃と比べ、見事な成長を遂げている。DFBポカール準決勝ではシュトゥットガルト相手に3-2と劇的勝利を挙げたが、コロ・ムアニはPKを沈めた。彼の絶好調が続けば、6月3日のRBライプツィヒとの決勝でも大いにチャンスがあるだろう。

  • 20221214_Randal Kolo Muani(C)Getty Images

    ワールドカップでの経験

    コロ・ムアニは昨年9月、UEFAネーションズリーグのオーストリア戦でフランス代表として初出場。試合終了間近のほんの数分にも満たない出場だったが、カタール・ワールドカップに向け、ディディエ・デシャン監督の頭の中にしっかりとその名を刻むことができたのだった。

    デシャン監督はコロ・ムアニを最初の25人からは外していたが、クリストファー・エンクンクが不運なケガで代表を外れたため、コロ・ムアニを招集。ワールドカップの最初の2試合では出場できなかったが、すでに決勝トーナメント進出が決まった後のチュニジア戦では先発メンバーに選ばれた。この試合は0-1で敗れ活躍もできず、決勝トーナメントのポーランド戦とイングランド戦では再びベンチを温めることとなったが、準決勝のモロッコ戦で再びチャンス訪れる。1-0でなんとかリードを保っていた場面で投入されると、わずか44秒で結果を残した。キリアン・エムバペからのクロスを押し込み、ゴールを決めてみせた。

    そしてアルゼンチンとの決勝戦、フランスは悪夢のような前半を過ごし、デシャンは41分にウスマン・デンベレに代えてコロ・ムアニを投入する。そして後半は別物に。コロ・ムアニはPKを奪取し、劇的展開で追いついたチームに貢献する。しかし延長終了まであと数秒、彼は巨大な失望を味わうことに。アルゼンチン代表GKエミリアーノ・マルティネスと1対1になったが、シュートを完璧に止められてしまう。千載一遇のチャンスを逃したフランスは、その後PK戦で敗れた。

    これらの経験は、コロ・ムアニにとって一生忘れられないものであり、彼をより強くするだろう。コロ・ムアニとエムバペ、デンベレが最前線に並んだ時、フランス代表は輝かしい未来を手にするはずだ。

  • Randal Kolo Muani Eintracht Francfort NapoliGetty Images

    プレースタイル

    プロになったばかりの頃はウィングとしてプレーしていたが、フランクフルトでセンターフォワードに抜擢された。ボールの扱いに優れ、自分の前のスペースの使い方がうまい彼にとって、うってつけのコンバートだった。DFに囲まれても素早く、華麗なプレーを見せる。目もくらむようなフットワークでたびたびディフェンダーを置き去りにし、フィニッシュを決めることができるのだ。

    アシストも数多く記録しているが、これは彼がチームプレイヤーであることを示している。彼自身の得点数は減ってしまうかもしれないが、その決定的なパスによって、今季のアイントラハトは危険な存在となっている。ラッシュフォードを容易に想起させるような存在なのだ。

    流れるようなコロ・ムアニのプレーを見ていると、フランス代表とアーセナルのレジェンド、ティエリ・アンリと比較したくなるのも当然だ。2人とも同じような位置でプレーし、同じように力まないドリブルができる。芝生の上をすべるようにドリブルしていき、マーカーを置き去りにすると、鋭いシュートを決める。見かけ以上にパワーもあり、プレミアリーグで要求されるフィジカルにおいても問題ないだろう。

  • Randal Kolo Muani Eintracht Frankfurt 2023Getty Images

    コロ・ムアニの評価

    3月に行われたEURO2024予選オランダ戦(4-0)後、エンバペはコロ・ムアニを絶賛。「僕らに新たなオプションを与えてくれるストライカーだ。完成されていて、プレーも迫力があるね」と語っている。得点こそなかったものの、試合全体を通してエンバペと素晴らしい連携を見せ、オランダを脅かしつづけた。この調子を続けていけば、コロ・ムアニが来年のEUROでフランス代表のキープレイヤーになることは間違いない。

    そして、デシャンもこの若きスターに全幅の信頼を寄せていることは間違いない。「ランダルは何でもできる。存在感があるし、自陣深くからドリブルし、見事なゴールを決めることができる」と評価している。

    ここ10カ月でのコロ・ムアニの躍進は驚異的である。「素晴らしいポテンシャルの持ち主」と評価していたフランクフルト指揮官オリヴァー・グラスナーも、こんなにも早くこのレベルに到達するとは思っていなかったようだ。ブンデスリーガ公式でこう語った。

    「彼は人の言うことをよく聞き、ピッチで色々なことを試している。性格もいい。もう子どもではなく、選手として全盛期だ。今これほど重要な役割を担っていることには少し驚いてはいるが、彼のパフォーマンスを見ればそれも当然だと思う」

    ユナイテッドOBでフランス代表OBでもあるルイ・サハ氏は、来季オールド・トラッフォードでの活躍を願っているようだ。『DAZN Bet』で「とつてもない才能を見せてくれると思う。No.9としての役割だけでなく、スリートップのどの位置でもプレーできる。とてもクレバーな選手だ。動きが素早く、足元がシャープで頭がいい。スタミナがあってフルタイム走りまわれる。テン・ハーグ監督が好むゲームプランにぴったりだろう」

  • Kolo-Muani-FrankfurtGetty

    コロ・ムアニの今後は?

    現在フランクフルトと2027年まで契約を結んでいるが、今夏退団する可能性は高い。フランクフルトで夢のようなデビューシーズンを過ごしたが、マンチェスター・Uや他のクラブから1億ポンド(約170億円)が提示されれば、アイントラハトがそれを断ることはないだろう。

    問題は、コロ・ムアニが「次のステップとして何を望んでいるか」である。バイエルンも彼の獲得に興味を示してきたし、今年の初めには本人もアリアンツ・アレーナのピッチに立つことをほのめかしていた。「バイエルンはビッグクラブだし、ビッグクラブでプレーすることを夢見ない選手はいない」と、冬の移籍市場の期間中にドイツ『スカイ』で語っていたのである。

    そして、マンチェスター・Uも獲得に名乗りを上げた。ブンデスリーガはコロ・ムアニの才能を育てるのに理想的な場所であるが、イングランドのプレミアリーグにはそれ以上の魅力がある。

    コロ・ムアニは3月、『レキップ』誌で自身の今後について尋ねられ、大きなヒントを残した。「今はこのままプレーを続け、夏になったら考える。新しい場所に適応するにはそれなりに時間がかかるだろうと思っていたけれど、すべてが爆発的にうまくいった。新しい挑戦をする準備はできている」

    コロ・ムアニは、プレミアリーグで成功するのに必要な素質をすべてもっている。マンチェスター・Uでの活躍に期待も集まっている。テン・ハーグ監督は彼にとって理想的なメンターとなるだろう。このオランダ出身監督のもとで、ラッシュフォードの才能は開花したのだ。コロ・ムアニがミュンヘンではなくマンチェスターを選べば、同じ魔法が効果を発揮するに違いない。