Jorg Schmadtke Liverpool GFXGetty/GOAL

リヴァプールの再建に適切な人物なのか? 新しいスポーツディレクターのヨルク・シュマットケとは

ここ数カ月、リヴァプールの新スポーツディレクターは誰がという話題で持ち切りだった中で、ヨルク・シュマットケという名前が出て驚きだったことは間違いない。彼が候補者に挙げられたことも、噂になったこともないのは確かだ。

ところが、この59歳の男がアンフィールドでのジュリアン・ウォードの後任に据えられようとしている。今週、シュマットケがマージーサイドを訪れて短期契約を結ぶことがわかったのだ。これは6月に開幕する夏の移籍市場の始まりを告げるものである。

情報筋によると、この契約は両当事者が望めば延長されるというオプションつきで、今後数週間でリヴァプールがチームを大幅に強化するようなら、シュマットケが忙しくなることは間違いない。クラブの獲得希望リストにはアレクシス・マクアリスター、メイソン・マウント、ライアン・フラーフェンベルフといった名前が載っており、すでに夏の契約候補をリストアップする動きは始まっている。

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    シュマットケのこれまでの経歴

    シュマットケはアレマニア・アーヘン、ハノーファー、ケルンといったドイツのクラブで仕事をした豊富な経験があり、最近ではヴォルフスブルクのスポーツディレクターを務めていた。

    元ゴールキーパーで、フォルトゥナ・デュッセルドルフやフライブルクといったチームでプレーした。母国ドイツではカリスマ的で攻撃的な性格で知られており、チーム経営のレベルでは広く成功を収めてきている。

    アーヘンでは、ブンデスリーガへの昇格、ドイツのカップ戦の決勝進出とヨーロッパリーグ(EL)への出場権を勝ち取り、ハノーファーとケルンでもEL出場を手助けした。ヴォルフスブルクでは2021-22シーズンにチャンピオンズリーグ(CL)のグループリーグに出場したが、今年1月にクラブを去った。

    シュマットケは当時、「世界というものを少し見てみたい」と『南ドイツ新聞』のインタビューで語っている。さらには「読みたい本もあるし、私の人生にはサッカーと関係ない他の仕事もいろいろあるんだ」ともこぼしていた。

    あれから数カ月、そうした仕事は片付いたということだろうか……。

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  • Victor Osimhen WolfsburgGetty Images

    移籍に関するシュマットケの手腕は?

    『The Athletic』の最近の記事によると、選手獲得や監督の任命に関するシュマットケの戦術は「相手よりミスを少なくする」ことであり、移籍希望リストにドイツ出身選手の名前はそう多くなく、インパクトを生み出せる選手を見抜く力があることは明らかだ。

    たとえばハノーファーでは、ブンデスリーガ2部所属のカールスルーエからラース・シュティンドルを獲得した。攻撃的ミッドフィルダーであるシュティンドルはハノーファーで150試合出場を果たし、その後ボルシアMGに移籍してスターになった。

    アーヘンではジモン・ロルフェスやヴェダド・イビシェヴィッチといった選手と契約したが、二人とも後にブンデスリーガのクラブを渡り歩くこととなる。2015年にはケルンにアントニー・モデストを移籍させ、このフランス代表のストライカーはその後の2シーズンで45ゴールを決めて恩返しを果たした。

    シュマットケがヴォルフスブルクで成し遂げた成功には、2018年にオランダのAZからボウト・ベグホルストを獲得したことが挙げられる。他にフェリックスとルーカスのンメチャ兄弟、デンマーク代表に何度も選ばれているヨナス・ウィンドなど、シュマットケはクラブ在籍中におよそ3,000万ポンド(約51億円)の予算を夏に使って活動していた。

    もちろん不可解なミスもあった。2019年、およそ300万ポンド(約5億円)でヴィクター・オシムヘンがヴォルフスブルクを去ってベルギーのシャルルロワに行くことを許したが、シャルルロワは数週間後に1,900万ポンド(約33億円)でリールにオシムヘンを売却した。

    「結果的に、あれは良い移籍ではなかった」と、後にシュマットケは『キッカー』に語っている。「私が着任したとき、彼は片足を引きずってかなり苦しんでいた。クラブからは、所属しているストライカーでは充分ではないと言われた。最も重要な教訓は、移籍に関しては忍耐が必要だということだ」

  • Bruno Labbadia Jorg Schmadtke WolfsburgGetty Images

    シュマットケは監督たちとどう仕事をしてきたか

    「短気」というのが、監督たちと仕事をするときのシュマットケのスタイルを表現するのに最も適した言葉だろう。ドイツでは大っぴらに問題を討論するのが好きな人物という評判を得ている。

    ハノーファーでは当時のミルコ・スロムカ監督と、ケルンでは当時のペーター・シュテーガー監督と激しくやりあった。ヴォルフスブルクでも当時のブルーノ・ラッバディア監督と緊張関係にあった。「私は料理のレシピを交換して監督と休日の予定を立てているわけじゃない」と、当時を振り返ってシュマットケは語っている。ラッバディア元監督の後任のオリヴァー・グラスナー元監督とも対立し、このオーストリア人監督が移籍に関して非現実な要求をすると非難した。

    シュマットケは、自分は決して喧嘩っ早いわけではなくメディアが作りあげた虚像だと主張しているが、対立を嫌うわけではないことは明らかだ。かつてはホッフェンハイム指揮官時代のユリアン・ナーゲルスマンにチューインガムを投げつけて罰金を科せられたこともあり、メディアのインタビューでは険悪なムードになった歴史もある。

    では、ユルゲン・クロップとどんな関係になるのかを考えるのは興味深い。クロップ監督は、シュマットケがこれまでともに仕事をしてきた監督たちよりもはるかに有名で力もある監督だ。クロップ監督は以前、ウォードやその前任のマイケル・エドワーズとはまったく話したことがなく、ドイツのスポーツディレクターのやり方はイングランドのやり方とは大きく違うと語ったことがある。イングランドでは、シュマットケからもっと多くの話を聞くことができるだろう。

  • Jurgen Klopp Liverpool 2022-23Getty

    シュマットケとクロップ監督は知り合いか?

    興味深いことに、現地時間5月19日に行われたリヴァプールとアストンヴィラによる試合の前に記者たちに話しかけたクロップ監督は、シュマットケの任命に自身が直接関与したとの憶測から距離を置こうとしていた。「もしそうなっても、ともにドイツ人でお互いによく知っているからユルゲン・クロップが関与した、ということはない」と、クロップ監督は主張した。また「まったく関係ないことだ。私はそう言える」と強調している。

    しかしながら、明確なつながりはある。クロップ監督の代理人であるマーク・コシケは昨シーズン、ヴォルフスブルクでシュマットケの下で監督として働いていたフロリアン・コーフェルトの代理人でもあり、クロップ監督自身が1月にサッカー界から「引退」したシュマットケに賛辞を送り、『Wolfsburger Allgemeine Zeitung』のインタビューに「彼と一緒に仕事をしたかった。きっと良い仕事ができただろうと思う」と語っていた。

    19日、クロップ監督は記者たちにさらに少し話をした。「ヨルク・シュマットケのことはずっとずっと前から知っている」と言い、「彼のほうも、私が知っているほどではないにしろ、きっとずいぶん前から私を知っているだろう。彼は私よりずっと素晴らしい選手だったから。だけど、私たちはほぼ同時期に第二のキャリアを開始した。(2001年に)私はマインツで監督になり、彼はアーヘンでスポーツディレクターになった。どちらのチームも似たような立場にあるチームで、つまり私たちはそれからお互いを少し知るようになったんだ」と説明している。

    「賢くて良い人でであることは知っている。彼がドイツでしてきたことはとても素晴らしいし、はっきり言って大成功だった。性格も良いし、個性的でユーモアもある。ピッチのそばに数秒いればわかることだ」

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    なぜリヴァプールはシュマットケを任命するのか

    ウォードが今シーズン限りで辞めたいと告げた11月を振り返れば、リヴァプールにはいくつもの選択肢があったことはわかっている。クロップ監督と非常に親しいスヴェン・ミスリンタットや、モナコのスポーツディレクターであるポール・ミッチェルなどに関することが取り沙汰され、アイントラハト・フランクフルトのマルクス・クレシェにもレッズの最高経営責任者のビリー・ホーガンやオーナーのマイク・ゴードンが触手を伸ばしていた。

    もし確定すれば、シュマットケの任命はかなり驚くべきことだ。引退を発表してから5カ月も経っていないし、契約が短期であるということは、クラブ側とシュマットケのいずれか、もしくは両方がある程度の疑念をもっていることを示している。

    リヴァプールはたった1年で職を去るというウォードの決心に驚いただろうが、その後計画を立てる時間はたっぷりあった。シュマットケを呼ぶというのは驚きではあるが、必ずしも失敗ではない。

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    この夏、シュマットケはリヴァプールで何をするのか

    最終的に任命されれば、シュマットケが忙しくなるのは間違いない。この夏、リヴァプールは選手の獲得にせよ放出にせよ、やることがたくさんある。クロップ監督は主要タイトルに挑戦できる新しいチームを作りたがっているようだ。

    シュマットケは、チーフ・スカウトのバリー・ハンターや採用責任者のデイブ・ファローズとともに仕事をすることになるだろうし、もうひとりチームを離れるデビッド・ウッドファインに代わって、アカデミーのスカウトのマット・ニューベリーがクラブのローン・ディレクターとして一時的に昇格するだろう。

    ロベルト・フィルミーノ、ジェイムズ・ミルナー、ナビ・ケイタ、アレックス・オクスレイド=チェンバレンの4人が全員フリーでチームを離れるのは決定的であり、ジョエル・マティップとナサニエル・フィリップスも売りに出される見込みだ。クイーヴィン・ケレハー、コスタス・ツィミカス、ファビオ・カルヴァーリョに興味を示すクラブがあることも予想される。

    少なくとも2人の新しいミッドフィルダーと契約することが急務だ。ブライトンのマクアリスターが主なターゲットで、リヴァプールとしてはチェルシーのスターであるマウントが加入するチャンスもあると考えている。バイエルン・ミュンヘンが手放す気になればフラーフェンベルフにも興味があるし、トゥーン・コープマイネルス(アタランタ)、マテウス・ヌネス(ウォルヴァーハンプトン)、ケフラン・テュラム(ニース)も獲得希望の選手に挙がっている。

    可能ならディフェンスの強化もしたいところで、マティップとフィリップスが去るとなればなおさらだ。アヤックスのユリエン・ティンバーに目をつけている一方、ナーイフ・アゲルド(ウェストハム)やレヴィ・コルウィル(チェルシーからブライトンにレンタル移籍中)も欲しいだろう。

    つまり、シュマットケにはちょっとした試練が待ち受けているわけだ。さて、引退はどうなる?