Trent Alexander-Arnold Liverpool GFX 2024-25Getty

トレント・アレクサンダー=アーノルドはリヴァプールのレジェンドになれる存在。アンフィールドに多くのトロフィーをもたらせるか

当然のことながら、トレント・アレクサンダー=アーノルドは自身の将来についての絶え間なく激しい憶測にうんざりしつつある。「あのさ」と、21日(土)、リヴァプールの右サイドバックは記者たちに言った。「僕はもう20年もこのクラブにいるんだ。4回も5回も契約を延長したけど、そのどれもおおっぴらにされたことじゃない。今回もそうだ」

あいにく、それはアレクサンダー=アーノルドの願望的思考だ。現在の契約が今シーズンで満了することが大々的に取り上げられること――もしくは交渉の正確な内容がおおっぴらに話されること(実際に今、交渉中だとして!)――を、彼は大いに嫌がっているかもしれない。だが、現在のアンフィールド界隈で、彼の状況に関する議論がやむことはない。

それも当然だ。彼はリヴァプール出身で、単にうまいだけでなく素晴らしい選手なのだ。実際、ボーンマスに3-0で勝って記者会見をする直前、アレクサンダー=アーノルドはレッズでの100点目の関与を記録した。だが、それより重要なのは、彼がまさに100日後、来年の夏サンティアゴ・ベルナベウでジュード・ベリンガムのチームメイトになるべく、自由にレアル・マドリーと話ができるようになることなのである。

そうなったら、リヴァプールが地元出身の最愛のヒーローを引き留められるチャンスはあるだろうか。長引けば長引くほど、アレクサンダー=アーノルドがアンフィールドを去る可能性が高まるように思えないだろうか。

  • Manchester United FC v Liverpool FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    「トロフィーが欲しい」

    アレクサンダー=アーノルドが実際にリヴァプールを去りたいという希望を表明したことは一度もないが、彼は土曜、成功の見通しが自身の未来を決める要因となることを認めた。「最も重要なことは、いつだってトロフィーが獲れるかどうかだ」と、彼は言った。「僕はトロフィーが欲しい。トロフィーとか勝利とかエリートになるとかは僕にとって高いモチベーションになる。僕を駆り立てるのはそういうものだ」

    つまり、彼がレアル・マドリーへの移籍に関心がある理由は容易に理解できるというわけだ。レアル・マドリーは他のどのクラブよりも多く、ヨーロッパでタイトルを獲得してきた。サッカー界の王であり、おおよそすべてのエリート選手が加入したいと望むチームなのである。リヴァプールもそのことはよく知っている。アカデミー出身のスティーブ・マクマナマンやマイケル・オーウェンも、レアル・マドリーの誘惑に抵抗できなかった。

    マクマナマンは1999年にボスマンルールでリヴァプールを去る前、問題を抱えていた。自分は低く評価され、報酬が低いと感じており、リヴァプール生まれだから契約が満了しても結局は延長するだろうと思われていることに苛立っていたのだ。だが同時に、「あの白いユニフォームや、ディ・ステファノ、プスカシュなどのチームの歴史すべて」に魅了されてもいた。

  • 広告
  • Michael-Owen-Real-MadridGetty

    「断ったら永遠に後悔する」

    オーウェンもまた、レアル・マドリーに移籍できることに興奮していたが、リヴァプールを去るまでの「1週間は眠れなかった」という。自分をスーパースターにしてくれたチームを去ることに心を痛めていたのである。

    「空港に行くまでの間もずっと泣いていた。正直に白状するよ」と、バロンドール受賞者のオーウェンは『GOAL』に語ったことがある。「僕は一生リヴァプールにいるつもりだった。だけど、あの時、『なんてこった、あのレアル・マドリーだぞ。断ったら永遠に後悔する』と思った。違うリーグ、違う国、違う言語、違う文化を経験できるチャンスだったんだ」

    「あの有名な白いユニフォームを着てプレーできる。ベルナベウで、(ジネディーヌ・)ジダンや(ルイス・)フィーゴ、(デビッド・)ベッカム、ロベルト・カルロスと一緒にプレーできるんだ。でもその時だって、2秒後には思ったよ、『いいや、僕は生涯リヴァプールにいたいんだ』って。だから、あれは、本当につらくて、人生を変える電話のひとつだったんだ」

    そんな重大な決断に今、アレクサンダー=アーノルドは向き合っているのである。

  • アーノルドは評価されているか?

    「彼がトレントを好きかどうかわからない」

    アンフィールドでは、この夏ユルゲン・クロップからアルネ・スロットに監督が代わり、多くのことが明らかに変わったが、ある程度理解できることではある。カリスマ監督だったクロップはアレクサンダー=アーノルドをただデビューさせただけではなく、リヴァプール史上最屈指と称えられるチームの主力に育てあげた。

    多才で、明らかにワールドクラスの才能を持つアレクサンダー=アーノルドだが、スロット監督のチームでも欠かせない選手になれる保証はない。新シーズンのプレミアリーグでの最初の3試合で、いずれも試合終盤に交代となった時は眉があがっていた。とりわけブレントフォード戦で交代した時には、この25歳は怒っているように見えた。

    グレアム・スーネスは、この早い交代を、アレクサンダー=アーノルドがすでにレアル・マドリーへ行くことを決めていて、だからスロット監督は、来シーズンの右サイドバックにコナー・ブラッドリーを起用する準備をしているのではないかと言い、ポール・スコールズは、スロット監督について『彼がトレントを好きかどうかわからない』とまで言った。

    だが、真実はまったく違うかもしれない。スロット監督の就任は、アレクサンダー=アーノルドを引き留めたいというリヴァプールの希望を傷つけるどころか、実際にはその希望を後押ししているのかもしれない。

  • Arne Slot Trent Alexander-Arnold Liverpool Nottingham Forest 2024-25 Premier LeagueGetty

    スロット監督の「心強い」アプローチ

    アレクサンダー=アーノルドは誰よりも自分に厳しく、そのことこそ、過去5年にわたってサッカー界で最も注目されてきたDFについて語るべきことである。彼のクロスやパスは常に素晴らしいが、目についたポジショニングのミスはすべてメディアで検証される――イングランド代表で右サイドを争うリース・ジェイムズ、キーラン・トリッピアー、カイル・ウォーカーなら軽く見逃されるというのに。

    勤勉に守備の務めを果たしている時でさえ――先週のチャンピオンズリーグでACミランに勝った試合でラファエル・レオンに応対していたようにーーアレクサンダー=アーノルドが称賛されることは稀だ。だが、本人はあまり気にしていないようで、公正を期して言うならば、それはあまり驚くべきことではない。というのも、野心ある若者ならば褒められることよりも自身が成長することに関心があるものだからだ。

    だから、彼は、スロット監督に対して、時に常に残酷なほど正直に自分を評してくれることを求めてさえいる。

    「監督とは目標や目的についてよく話す。監督には、ヨーロッパで誰も対戦したがらないようなDFになりたいと言ったんだ」と、土曜にアレクサンダー=アーノルドは打ち明けた。「アタッカーが僕をすり抜けて通り過ぎようとしても、チームで、もしくは一対一で、『これは無理だ』と思わせられるようになりたい」

    「そうやって、僕らはすべての試合を一丸となって戦い、監督は僕の改善点を指摘する。ミラン戦でも、僕がうまくやったシーンとともに、もっとうまくやれたシーンの映像を20見た。選手としての僕を助けてくれて、教え導いてくれる監督がいるのは本当に心強い。僕はもっと学びたいし、最高になりたい。僕は、史上最高の選手になろうと努力する人間なんだ」

  • Liverpool FC v AFC Bournemouth - Premier LeagueGetty Images Sport

    「自由」

    アレクサンダー=アーノルドがリヴァプールで主要タイトルを勝ち続けても、彼の目標に到達できかどうか疑問に思う人もいるだろう。しかし、彼はすでにそれを達成しているとも言える。レッズはクロップ前監督のもとでチャンピオンズリーグやプレミアリーグを制覇したが、世界に彼以上にエキサイティングな右サイドバックがいなかったことは確かだ。スロット監督のもとで彼が再びその高みに達することが出来ないはずはない。

    フェイエノールトからイングランドへやってきた最初のシーズンでスロット監督がタイトルを獲得するには多くの困難が待ち構えているだろうが、リヴァプールは、ポスト・クロップ時代に向けて完璧とは言えないまでも大いに勇気づけられるスタートを切っており、少なくともマンチェスター・シティやアーセナルと首位を争う可能性は充分にあるように見える。

    現在のアンフィールドは混乱を減らし、規律を重視しているようだ。それはアレクサンダー=アーノルドに見合うことであり、スロット監督が中盤にダブル・ピボットを採用したおかげでカバーされる恩恵を受けていることも明らかだ。実際、ボーンマス戦でのルイス・ディアスへのアシストについて尋ねられたアレクサンダー=アーノルドは、右サイドバックがあそこまで前に出ることは珍しいことを認め、スロット監督のシステムの中で「自由に」攻撃できることの一例であると指摘した。

    「うまく機能している」と、アレクサンダー=アーノルドは言った。「特に重視しているのは、中盤のオーバーロードと三角形を正しく描くことだ。何度も練習して、(ボーンマス戦で)完璧にやれた。いまのところ、僕は完全に今シーズンのことに集中していて、得点やアシスト、無失点試合をいくつできるかに集中している。リーグ優勝に貢献できることを願っている」

    確かに、今シーズンのリヴァプールにとってタイトル獲得は現実的な目標である。いくつかのエリアではまだ駒不足ではあるが、ライアン・グラフェンベルフが背番号6の役割を果たせることがわかり、守備ではプレミアリーグの5試合で1失点しかしていないし、攻撃力は相変わらず素晴らしい。

    グラフェンベルフ、マック・アリスター、ソボスライ、コーディ・ガクポ、ダルウィン・ヌニェス、イブラヒマ・コナテ、ブラッドリー、ジャレル・クアンサー、ハーヴェイ・エリオットといった選手たちがみな25歳以下であることを考えれば、リヴァプールは未来も明るい。クロップは素晴らしいチームとなれる可能性と前兆を残していってくれたし、スロット監督には前任者が始めた仕事を完成させる能力が充分にある。

  • Liverpool FC v Nottingham Forest FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    アカデミー出身でキャプテンに

    アレクサンダー=アーノルドは新しいグループのリーダーにも、うってつけの人材だ。ファン・ダイクやサラーがシーズン終了までに新しい契約を結んだとしても、アレクサンダー=アーノルドがアンフィールドの次世代の顔であることは間違いない。「リヴァプール出身の普通の青年」は、アカデミー出身でキャプテンになったスティーヴン・ジェラードと同じ道を進む運命にあるように見える。

    「それは僕の夢であり目標だ」と、土曜にアレクサンダー=アーノルドは言った。「そうなるかどうかはわからないけど」

    重要なのは彼がキャプテンマークをつけたいと思いつづけていることで、それはつまり、これまで唯一所属してきたチームとの絆が今までどおり強いということだ。さらにもっと重要なのは、レアル・マドリーでトロフィーを掲げるよりも、リヴァプールでそうするほうが彼にとって、より意味があるということである。

    思い起こせば、アレクサンダー=アーノルドは、昨年、クロップ監督のリヴァプールがタイトルを獲得したことは、同時期にマンチェスター・シティが獲得したタイトルよりも重要な意味があると言っていた。「両クラブのチームの作り方と僕らの戦い方を見るがいい。僕らは勝つために作られたマシーンと戦ったんだ」と言ったのである。その点ではレアル・マドリーも大差ない。経済力や国からのサポートから言って、成功がほとんど約束されたようなスーパークラブなのだから。

    もちろんリヴァプールを比較的貧しいクラブだとは言えないが、レッズでタイトルを獲得したりチャンピオンズリーグを制覇したりすることは――しかも今度はキャプテンとして――アレクサンダー=アーノルドがベルナベウで成し遂げるかもしれないものを凌ぐものであることは間違いない。

    ローマのレジェンドにして生涯をひとつのクラブに捧げたフランチェスコ・トッティは、かつて、生まれ故郷のクラブで獲得したひとつのタイトルは「他の場所で獲得した10のタイトルに勝る」と言っていた。アレクサンダー=アーノルドも同じように感じていることは確かだ。誰の目にも明らかな彼のリヴァプール愛を試すようなことはもうやめよう。さもなければ、またひとりリヴァプールのスターが、あの有名な白いユニフォームを着ることになってしまうだろう。