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圧倒的なプレーだけじゃない!久保建英に現地ソシエダ記者が虜になる本当の理由:ゴール後に語った洪水被害と恩師へ思い

3日に行われたラ・リーガ第12節セビージャ戦で、今季3ゴール目を奪ってみせた久保建英。圧倒的な個人技で決めたスーパーゴールとそのパフォーマンスには、現地メディアで絶賛が相次いでいる。しかし、現地のレアル・ソシエダファンが虜になっているのは、そのパフォーマンスだけではない。地元バスク出身記者が、日本代表MFの振る舞いから見る姿を綴る。

文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト

翻訳=江間慎一郎

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    久保建英という「クラック」

    久保建英のプレーを見るのは眼福だ。ゴールライン際でボールを持つこの日本人は、彼ならばやってのけるという皆の確信通り、切れ味鋭いドリブルで道を切り開いていく。ラ・リーガ第12節、敵地サンチェス・ピスフアンでのセビージャ戦もそうだった。スペインでは並外れたフットボーラーのことを「クラック」と呼ぶが、それは久保のような存在のことを言うに違いない。

    ここ最近はラ・リーガ上位の常連だったレアル・ソシエダだが、今季はとても難しいシーズンとなっている。ロビン・ル・ノルマン、ミケル・メリーノと絶対的存在だった2人が退団し、新加入の選手たちはいまだ適応し切れず。加えて、薄い選手層ながらかつてないほどの過密日程を強いられているために疲労ばかり溜まり、チームの収める成果はとにかく不安定だ。

    監督のイマノル・アルグアシルは、最適解となる選手たちの組み合わせと配置方法を模索しつつ、疲労を溜めないようローテーションも行うという、非常に難しいやり繰りを強いられている。だからこそ、久保も時折ベンチに座らせてきたのだが……ここ最近の背番号14の躍動は、それだけは絶対に間違いであることを示しているかのようだ。

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    「ここでボールを持たれれば終わり」

    ラ・リーガ第11節オサスナ戦。ラ・レアルは0-2と再び本拠地アノエタで敗れたが(ホームでは勝ち点15の内4しか獲得できていない)、チーム全体が低調なパフォーマンスを見せていた中、唯一躍動したのが途中出場の久保だった。ハーフタイムに投入された彼は、後半開始からわずか10分間で、ラ・レアルが前半に見せた攻撃以上の攻撃をたった一人で見せてしまった……その後、コーチ陣の指示によってかポジションを右から左に移したために、絶大だった存在感は一気に薄れてしまったが。

    そして今回のセビージャ戦、私たちはあのオサスナ戦でわずか10分程度しか見られなかった、久保の衝撃的なプレーの続きを目撃できた。アノエタでは相手が後方に引いてしまい、アウェーでは逆に出てきてくれる状況もあって(ピスフアンでプレーするセビージャが引いて守るなどあり得ない)、先発した久保は躍動を見せている。

    ラ・レアルの対戦相手が、久保に最低でも2枚のマークをつけるのはセオリー中のセオリーだ。しかしセビージャは余裕がないとき、左サイドバックのアドリア・ペドロサ一人に対応させた。こうなれば、この日本人選手の独壇場である。調子の良い久保くらい、1対1の勝負に勝てるドリブラーは、世界でもそうはいない。34分に彼が先制点を決めたのは、必然だったのだろう。

    右サイドでボールを持った久保は、対峙するペドロサをジリジリと後ずさりさせながらペナルティーエリア内に入り込むと、一瞬のスピードで抜き去ってから流れるような動作で左足を一閃。ボールはGKアルバロ・フェルナンデスが反応できないほどのスピードで、勢いよく枠内左に飛び込んでいる。

    マッチアップするペドロサのカバーがいなかったこと、ブライス・メンデスが囮の動きでスペースメイクをしていたこともあるが、1人かわせるのが当たり前で、ほんのわずかなスペースさえあれば素早い振りのシュートでネットを揺らせるというのは、まさにワールドクラスの器だ。「クボにここで、こうボールを持たれれば終わり」という典型的な場面だったわけだが、「クボ」という名前をほかのビッグネームに置き換えることだって可能だろう。

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    その振る舞いも「クラック」

    その後も久保が攻撃を牽引したラ・レアルは、68分にマルティン・スビメンディがPKを獲得し、キッカーのミケル・オヤルサバルがこれを決め切って加点。2点のリードを守り切って、2試合ぶりの勝利を取り戻した。久保はもちろんマン・オブ・ザ・マッチだったが、その後にスペインでこの試合を放送した『モビスタール・プルス』とのインタビューで話した内容も素晴らしかった。

    スペインは今、バレンシアで起こった大雨・洪水に苦しんでいる。死者は200人以上で、行方不明・連絡が取れない人は2000人を超えた。ガソリンや食品……などを飲み込んだ泥水は日にちが経つに連れてその異臭を強烈なものとし、現地の人々は24時間体制で、地下などの空間を満たしているそんな泥水を必死でかき出している。

    スペインにおける今世紀最大の災害を受けて、久保が思い出したのはマジョルカ時代の恩師ビセンテ・モレノ(現オサスナ監督)だった。バレンシアの中でも被害が大きいマサナサ出身の彼は、前日に行われた記者会見で悲しみの涙を抑えることができず。久保はそんなモレノや日本の災害について触れながら、今回の悲劇から感じる心の痛みを物語ったのだった。

    「個人的な話をさせてもらえば、何よりビセンテ・モレノのことを考えて、とても心配しています。彼は僕の監督……本当に晴らしい監督でした。自分がラ・リーガ1部に定着するためのすべてを与えてくれた人です。そんな彼の生まれた地域が今、とても辛い状況にあります。彼の記者会見を見て、本当に胸が痛みました」

    「日本も数年前に似たような悲劇に苦しみました。バレンシアなどの地域が辛い目に遭い、人の命が失われている……悲しみにたえません」

    久保がマジョルカで、モレノの指導を受けてからもう5年の月日が経った。しかし彼は恩を忘れていない。そしてそれはきっと、未来にイマノルに対して思う気持ちでもあるのだろう(日本で彼がバッシングされているのは知っている。だが私たちサン・セバスティアンの人々にとって、クラブの生え抜きである彼は大切な存在で、久保も結局のところ信頼しているのだ)。

    先には「僕がラ・レアルを引っ張りたい」という発言もあったが、絆を本当に大切にするからこそ、久保は私たちが気持ちを注ぎたい、愛したい選手なのである。モレノに言及した後、「今日の自己採点は揺るぎない8点です。いい感じだったでしょ?」「もう先発落ちは勘弁? 選手はレギュラーの座を、しっかりつかまなけいといけません。まあ次節も、僕は生き残っていると思いますよ(笑)」とギャップを見せたのも最高だった。一体、どこまで「クラック」だというのだ!

    ラ・レアルの今後の予定だが、ミッドウィークにはヨーロッパリーグのヴィクトリア・プルゼニ戦(アウェー)に臨み、週末にはアノエタにバルセロナを迎える。一つ言えるのは、イマノルが試行錯誤を繰り返す現状でも、久保は絶対に欠かすことができないということ。何よりも古巣のバルセロナ戦は、彼がその途方もないポテンシャルと成長ぶりを示すべき一戦となるだろう。