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久保建英が刻む「未来永劫忘れない記憶」:ソシエダにとって“特別”な理由が詰まったダービーでの一撃

文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト

翻訳=江間慎一郎

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    待ち焦がれ、忘れられない一撃

    レアル・ソシエダのサポーターにとって本拠地アノエタでのバスクダービーは、1シーズンの中で最も待ち焦がれる試合だ。アトレティック・クラブを負かしたのであれば未来永劫忘れられない一戦にもなり得るわけだが、ここ2シーズンのダービーでは久保建英という日本人が歓喜の記憶を深く、深く刻んでいる。彼は昨季に引き続き、ラ・レアルが2-0とするゴールを決めてみせた。

    アノエタでのアトレティック戦は、もはやタケのものである。

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    特別な一瞬

    今回の久保のゴールは後半開始からすぐに決まった。ラ・レアルは両ペナルティーエリアでその解決能力を見せつけ、14番がネットを揺らしたときにはもう、昨季と同じ勝利の味を感じ取っていた……しかし、何というゴールだったのだろうか!

    サンティアゴ・ベルナベウでのレアル・マドリー戦(第5節:1-2)で衝撃的なプレーを披露して以降、久保が相手チームの徹底マークに遭っていることは知っての通りだ。この試合でも常に2~3人にマークされる状況が続いたが、それでもワンチャンスがあればそこで突出したクオリティを示せる。違いを生み出すことができる。

    左サイドを突破したブライス・メンデスがグラウンダーのクロスを送ると、ペナルティエリア内中央のFWウマル・サディクが触れなかったボールがファーへと流れていった。そこまでは偶然や運の要素もあったが、フリーで走り込んできた久保は、運に任せて一か八かでシュートを打ったわけではない。体はファーポストの方を向いて、そちら側にシュートを打つと対峙したスペイン代表GKウナイ・シモンに思わせ、しかし実際にはニアを撃ち抜いたのだった。この一瞬の工夫だけで、彼がなぜ今季ラ・リーガで5得点を決めているのか、彼がなぜスペシャルなのか、その理由を実感できる。

    久保がシュートを決めたゴールの裏側には、ラ・レアルの最も熱狂的なサポーターが陣取っている。彼らは“またも”日本人の得点を受けて、ピッチに背中を向けて飛び跳ね、その動きをスタジアム全体に伝達させた。“またも”というのは、別にバスクダービーのことだけを指しているわけではない。久保はここアノエタで、3戦連続でゴールを決めているのだから。今季ラ・リーガでは出場した7試合で5得点……。現時点で昨季決めた9得点の半分以上を記録するなど、並の飛躍の仕方ではない。

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    歓喜の瞬間

    ラ・レアルはダービーに勝ち、陶酔している。ミオ、リョウタロウ、トオル、リサ、サチコ、カナも同じだろう。今、名前を挙げた日本人たちは、ラ・レアルのペーニャ(クラブ公認の応援グループ)“レアラ・ニッポン”のメンバーだ(レアラはレアルのバスク語読み)。彼女たちは今回のダービーで、自分たちの愛するクラブを応援するために、世界を横断してサン・セバスティアンにやって来たのだった。

    “レアラ・ニッポン”はイマノルや控え選手たちが座るベンチの裏で応援の声を上げていた。そのベンチに座っていたラ・レアルの偉大なるキャプテン、ミケル・オヤルサバルは後半途中から出場し、チームの3点目を記録している(GKをかわす動きは靭帯断裂前のキレを思い起こさせるものだった)。試合終了後、久保は『モビスタール・プルス』のフラッシュインタビューに応じ、それから“レアラ・ニッポン”のもとを訪れた。彼女たちにとって忘れられない日になったことだろう。

    ラ・レアルはこの7日間でラ・リーガの3試合に臨み、そのすべてに勝利。勝ち点9を獲得して順位を一気に5位まで上げた。チャンピオンズリーグも戦う今季は、フィジカル的に感情的にも消耗が激しい。それでもダービーの熱狂と歓喜は疲労を上回る。ラ・レアルの選手たちとファンにとって、アトレティック撃破は最高のビタミンにほかならない。

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    自由に飛び回る鳥

    日本もきっと同じだろうが、ダービーはサポーターも積極的に参加する試合だ。バスクのフットボール文化では、よく歌がうたわれる。今回のダービーで最も美しかった光景は、時計の針が90分を回ったときに訪れた。人々がラ・レアルのマフラーを掲げ、バスク・フットボールのアンセムとも称せる“チョリア・チョリ(Txoria Txori、バスク語で鳥や小鳥の意)”を高らかにうたったのだ。

    「もし私がその羽を切り取ってしまえば

    鳥は私のものになっていただろう

    逃げることはなかっただろう」

    「だがそうしてしまえば

    鳥は鳥ではなくなってしまう」

    「私が愛していたのは

    鳥だったのだ」

    ここでうたわれる鳥は、国にも、土地にも、人にも、人の心にもなり得る。そしてもちろん、久保にも。鳥は自由に飛ばなければならない。私たちはこの日本人が自由にフットボールを楽しんでいる姿が、どうしても好きなのだ。

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    最もバスク人な日本人

    火曜にはまた大きな試合が、チャンピオンズリーグのザルツブルク戦が控えている。ラ・リーガでその得点力を轟かせる久保は、欧州最高峰の大会でもネットを揺らすことに燃えているだろう。自分のためにも、ラ・レアルのサポーターのためにも、そして、あなた方日本人のためにも……。

    バスクダービーでは“レアラ・ニッポン”の人々をはじめとして、多くの日本人をスタンドで見かけることになった。彼らはラ・レアルのサポーターと一緒になって、ル・ノルマン、久保、オヤルサバルのゴールに歓喜していたのだ。

    日本からやって来た渡り鳥タケ・クボは、フットボーラーとしての類い稀な才能によって、バスクと日本をつなげてくれた。遠くない将来、また羽を開いて違う場所へ飛び立ってしまうとしても、最もバスク人な日本人は私たちにかけがえのない経験をさせてくれている。