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「久保建英」というソシエダの希望:“彼だから”決まったゴール、伝説的FWに並ぶかけがえのない存在へ【現地発】

文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト

翻訳=江間慎一郎

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    勝利の予感

    久保建英が決めて、レアル・ソシエダは再び笑った。

    18日のラ・リーガ第25節、敵地ソン・モッシュでのマジョルカ戦に臨んだラ・レアル。彼らはここまでの5試合、ずっとゴールが決められず、必然的に勝利からも遠ざかっていた(3分2敗)。しかも今回は3分にアントニオ・サンチェスの先制点を許してしまい、もうどうにもならないようにも思えた。

    ラ・レアルはカルロス・フェルナンデスとミケル・オヤルサバル(偽9番だが得点力は確か)が負傷中で、ウマル・サディクとアンドレ・シルバはまだあてにならない状況とFWが不足している。かてて加えて、マジョルカとはコパ・デル・レイ準決勝でも対戦中だが、同じくソン・モッシュで行われた1stレグ(0-0)で、ハビエル・アギーレ率いるチームは嫌というほどその堅守ぶりを見せつけていたのだ。

    だがしかし、先制後のソシエダのプレーを見ていると、まだ希望はあるように思えた。その希望の名は「久保」だ。この日の日本代表MFは、相変わらず徹底マークには遭っていたものの、そのプレーぶりにはシーズン序盤のようなキレを感じさせた。イゴール・スベルディアのシュートのお膳立て、ブライス・メンデスへサイド突破を促すスルーパス、相手が1人ならば簡単に抜いてしまう抜群のドリブル技術……。久保が好調ならばチームの攻撃力は一気に跳ね上がり、私たちはチームのゴール、そして勝利を予感する。

    事実として、ラ・レアルはマジョルカ島で明けない夜などないことを実感した。ゴールが決まらない暗闇の時間がどれだけ続いても、最後には太陽は昇るのだ。そして今回の夜明けは奇しくも、ラ・レアルとマジョルカの人々がどちらも愛情を注ぐ、日いづる国の選手がもたらしたのである。

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    「久保だから」決まったゴール

    38分、ハーフウェーライン付近でのボール奪取からラ・レアルが速攻を仕掛けると、スベルディアのパスが右サイドの久保にボールが通った。前を向いてボールを受けた日本人MFは、そのままペナルティーエリア内右に入り込み、コンパクトな振りで左足を一閃。グラウンダーのボールが枠内に収まっている。

    久保の凄さを改めて感じさせるゴラッソだった。あの左足の振りの速さに、あのボールインパクトに、あの速度のグラウンダーのシュートは、打つ判断を含めて誰もが蹴れるものではない。言葉通りに地を這ったボールは、マティヤ・ナスタシッチが反射的に少し上げた右足の下を通り、反応が遅れて咄嗟に体を倒したGKプレドラグ・ライコビッチの手に当たってからネットを揺らした。「あのシュートだからゴールが決まった」、「久保だから決められた」……そう感じさせるほどだった。

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    “私たちの一人”

    また、久保がゴール直後に見せた振る舞いも特筆に値する。彼は両手を上げて、古巣マジョルカのサポーターに同点ゴールを決めたことを詫びたのだった。

    0-2で敗れた前試合パリ・サンジェルマン戦では、アマリ・トラオレがピッチ外に出たことによって、CKでエンバペをマークすることになり、失点のきっかけになってしまった久保。マークを外してしまったとはいえ、完全に彼の責任にすることはできなかったが、本人は試合後に「自分のメンタル的なミス。大きな責任を感じている」と反省を口にしていた。

    そのことからも彼の誠実さ、素直さはうかがえたが、今回のマジョルカ戦では一貫性がうかがえた。謝っている彼の表情は真剣そのもので、それが表面的な振る舞いでなく、マジョルカと彼らのサポーターに本気で感謝していることがうかがえたからだ(ほとんど“世話にならなかった”レアル・マドリー戦でゴールを決めた際、膝からスライディングして喜んだのも、その証左だろう)。

    こうして気持ちが見せられる、気持ちで裏切ることがない選手は貴重だ。ラ・レアルのサポーターにとって、彼が今回ゴールを喜ばなかったのは残念でもなんでもない。久保が私たちのクラブカラーを感じてくれている“私たちの一人”であることはすでに分かっている。そして今回の振る舞いで、私たちがどれだけ深く彼のことを愛しても、それを反故にしない人間であることを示してくれたのだ。

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    「久保がゴールすれば、問題なしだ!」

    前半終了間際には、マジョルカのアントニオ・ライージョが抗議によって立て続けに2枚のイエローカードを受け、ラ・レアルが数的優位に立つ。迎えた後半、イマノルのチームは好パフォーマンスを保ち続ける久保とともに10人のマジョルカを攻め立てたがなかなかゴールを奪えず。それでも93分、パチェコのクロスからミケル・メリーノがヘディングシュートを決めて、劇的に勝ち点3を獲得している。試合後の久保は「相手が10人となった後、僕たちはもっと良いプレーを見せる必要がありました。最終的にゴールは決まりましたけど、望んでいたような内容にはなりませんでした。そこはチーム内で話して改善しないといけません」と、勝利の喜びよりはさておきチームとしての課題を挙げて、そこでも誠実さを示していた。

    しかし、久保はいつだって素晴らしいが、ここまで好調なプレーを見るのも久しぶりな気がする。いずれにしても、ここまで深刻な得点力不足に悩まされてきたラ・レアルとそのサポーターは、アジアカップで離脱していた大切な日本人選手をようやく取り戻したことを実感した。ここで思い出す存在が、クラブ史上最高のFWとも称されるダルコ・コバチェビッチ(2001から07年までソシエダに在籍)である。

    「ダルコがゴールすれば、問題なしだ!(Si Darko gol, no problem!)」

    この言葉を知らないラ・レアルのサポーターは存在しない。2002-03シーズン、レアル・マドリーと最後までラ・リーガ優勝を争ったラ・レアルの伝説的ストライカーは、私たちにとってゴールそのもののような、頼りになる存在だった。そして久保が今日のように鋭敏なプレーを見せ、ゴールを決めてくれるとき、私たちは「タケがゴールすれば、問題なしだ!」と叫びたくなる(プレースタイル的にはコバチェビッチの相棒だったセカンドストライカー、ニハト・カフヴェジに近いかもしれないが)。一つ言えるのは、久保がコバチェビッチのように、私たちにとってかけがえのない存在になっているということだ。

    ラ・レアルはゴールと勝利と自信を取り戻して、シーズン終盤戦に立ち向かうことになる。コパ準決勝2ndレグのマジョルカ戦、そしてCLベスト16の2ndレグPSG戦……難しい戦いが続くが、久保とともに活路を切り開いていくことを期待している。