文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト
翻訳=江間慎一郎
(C)Getty Images文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト
翻訳=江間慎一郎
(C)Getty Images日本代表の試合で1ゴール1アシストを記録して、レアル・ソシエダに戻ってきた久保建英。代表ウィーク後の1試合目、アノエタでのセビージャ戦(2-1勝利)はゴールやアシストといった記録を残せず、日本のファンも選手本人も焦りを感じているのかもしれない。だが名鑑やウィキペディアや何やらで皆が確認して、表面的な良し悪しを決める数字には残らずとも、彼のプレーは効果的だった。
久保がMVPなどと呼ばれる個人賞を獲得することに、私たちはもうすっかり慣れてしまっている。とはいえ、フットボールは結局のところ集団スポーツであり、各選手がチーム全体のために相互作用しているものだ。久保のプレーには世界中の人々を釘付けにする華やかさがある。しかし、たとえそのポテンシャルを完全に発揮できなくとも、彼はチームにとって重要な役割を担っている。ボールを持てばそれを奪われることなくキープし、その間、相手の選手たちを最大限警戒させることができるのだから。
(C)Getty Images昨季後半戦からワールドクラスの才能を開花させ、今季も継続してその力を示している久保。ラ・レアルでは公式戦ここ9試合でノーゴールと、確かに数字がついてきていない。その理由? 一つ目に挙げられるのは、やはり相手の徹底マークだ。
サンティアゴ・ベルナベウでのレアル・マドリー戦で大暴れしたことをきっかけに、久保は対戦チームにとって最も恐れるべき存在となった。そのためにこの14番がボールを持つとき、相手は常に2~3人で取り囲んで、その左足を使うことを封じようとする……この徹底マークはクラック(名手)と呼ばれる存在の宿命、とも言い換えられるだろう。
二つ目の理由に挙げられるのが、コンディションを維持する難しさだ。ラ・レアルはラ・リーガ、チャンピオンズリーグ、コパ・デル・レイに参加しており、なおかつ久保は日本代表に合流するために長旅をこなさなくてはならない。レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・デ・マドリーと比べてラ・レアルの選手層は厚くなく、イマノルは久保ら主力に頼らざるを得ないために、やはり消耗は免れない。
久保の選手としての特徴はドリブル突破やスルーパスなど創造的なものに特化しているが、そうした“違いを生み出す”プレーを実現するためには万全なコンディションやキレが必要となる(もちろん、フィニッシュフェーズにおけるシュートの精度や工夫も含めて、だ)。過密日程やアジアへの長旅は、どうしてもマイナスの影響を与えることになる。
(C)Getty Imagesだが、たとえ理想的な状況&状態ではなくとも、久保は確かにチームに貢献している。今回のセビージャ戦だってそうだ。ゴールを決める役割を担ったのはバレネチェア、そして靭帯断裂の重傷から復活しつつあるサディクだったが、日本人MFの得点者という肩書きがなかっただけで重要なプレーをいくつも見せている。
激しいプレッシング、ボールを運ぶドリブル、相手選手たちを引き寄せるボールキープ、そして自分が引き寄せる分だけ自由になったチームメートたちへのパス……。セルヒオ・ラモスが戦術的ファウルまでして彼のドリブルを止める場面もあったが、相手チームがこの日本人を警戒すればするほど、ほかの選手がスペースを手にすることになる。久保はMVPとはならなかったが、彼のおかげでチームは輝いていた。
疲労が溜まって、キレを失うときがあるのはしょうがない。第一、今回の代表ウィークはフットボール界にとってとりわけ難しいものとなり、ほかのチームでは深刻な負傷に苦しんだ選手もいる。体には限界があるのだ。それでも久保はプレーし続け、チームは勝利し続けている(公式戦ここ13試合で10勝目だ!)。
Getty Imagesラ・レアルのサポーターも、久保がいかに奮闘しながら、チームに貢献しているのかは十分に理解している。イマノルは84分に久保をピッチから下げたが、サポーターはスタンディングオベーションでこの背番号14を、自分たちのアイドルの一人を称えたのだった。
これから久保はゴールを取り戻していくはず。決定的なパスを通していくはずだ。最近のラ・レアルの対戦相手は彼を徹底マークすることで、逆サイドのバレネチェアらをフリーとして苦しむようになった(もちろん久保もそうしたプレーの流れを生み出す一人だ)。また偽9番を務めるオヤルサバルも、久保との連係に磨きをかけて決定機を供給している。あとはコンディションが上向くことで、久保は再びクラックとしての活躍を見せることができるだろう。
ラ・レアルの次戦は、水曜に行われるチャンピオンズリーグのRBザルツブルク戦。久保の久々のゴールが、CL初ゴールになってもおかしくはない。そしてたとえゴールを決めなくとも、彼がチームのために尽くし、効果的なプレーを見せてくれることを、私たちは知っているのだ。