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ゴールだけじゃない…久保建英がソシエダの「大切な日」に見せた最大限のリスペクト

文=ナシャリ・アルトゥナ(Naxari Altuna)/バスク出身ジャーナリスト

翻訳=江間慎一郎

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    久保建英の存在

    レアル・ソシエダのサポーターは敵地ラ・セラミカでのビジャレアル戦に向けて、小さくはない不安を感じていた。ラ・レアルは第1子誕生を見守った主将ミケル・オヤルサバル、また負傷のアンデル・バレネチェアと、ここ最近活躍を見せていた大切な2選手を欠いていたのだから。

    それでも、私たちには久保建英がいた。彼は再び期待に応えた。ラ・レアルにとってとても大切な日に、この日本人はまたも勝利をもたらしてくれたのだった。

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    大切な日

    2023年12月8日、ラ・レアルの熱心なサポーターだったアイトール・サバレタが亡くなってから丸25年が経った。

    ラ・レアルのペーニャ(クラブ後任の応援グループ)の一員だったアイトールは、28歳という若さでこの世を去っている。1998年12月8日のアトレティコ・デ・マドリー対ラ・レアルで、キックオフ3時間前にアトレティコの前本拠地ビセンテ・カルデロンに到着したアイトールは、ペーニャのメンバーとともに警察に勧められたバルに赴いた。だが、そこはアトレティコのウルトラス、フレンテ・アトレティコの溜まり場だった。

    アイトールはフレンテの“狩り”に遭い、当時25歳だったリカルド・ゲラという男にナイフで心臓を刺されて死亡した。ただ、ラ・レアルを応援することだけが目的だったというのに。

    ラ・レアルの歴史の中で、最も辛く、痛ましい日……。それからアイトール・サバレタは、クラブの魂そのものとなった。本拠地アノエタのゴール裏にある応援スタンドはアイトールの名を冠し、同スタジアムで行われるありとあらゆる試合で、彼という模範的だったサポーターのことが思い出される。思いを共有するのはサポーターだけではない。ビジャレアル戦では選手たちが、あの悲劇から25年が経ったという意味で、背番号25のユニフォームを着用してピッチに立ったのだった。

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    結果だけじゃなく…

    このセラミカを舞台とした試合で、ラ・レアルのサポーターも選手たちも全員がアイトールだった。全員が強い気持ちを持っていた。その中で最も輝いたのが、久保である。この日本人は1ゴール、1アシスト、さらに1ゴールの起点と、3-0で勝利したラ・レアルの全得点に絡んだのだ。

    12試合にわたって無得点が続いていた久保は、久々に数字に残る結果を残した。ただ彼が数字に残らずとも良質なプレーを見せ続けていたのは、皆の知っている通りだ。この14番はじつに素晴らしい。超絶技巧のドリブル、フェイント、それらがあるゆえの1対1の強さ、ゴールを決める執念、対戦相手にとって猛毒となるスルーパス、相手DF陣を引きつけてからのサイドチェンジや横パス、前線から見せる強度ある守備……。別にゴールを決めなくても、久保は見事な選手だ。が、決めたならば、そのゴールだってもれなく見事なものでもある。

    久保が決めたソシエダの3点目は良かった。左のウマル・サディク、中央のミケル・メリーノ、右の久保とサイドからもう一方のサイドへとボールを運び、久保は眼前の相手GKが左足でのシュートを警戒する中、右足でニアサイドを破った。久保の右足でのゴールはもうニュースではなくなり、相手にとってはますます何をするか分からない存在となっている。

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    “私たちの一人”

    私たちラ・レアル、サン・セバスティアン、バスクの人間にとって最もうれしかったのは、久保が試合終了後の『DAZN』とのフラッシュインタビューで、最初にサバレタについて話してくれたことだった。

    「今日はファン、クラブ、僕たちにとって本当に大切な日でした。皆さん知っていると思いますが、今日はアイトールのための日です。彼もきっと、僕たちが見せたプレーを喜んでくれているのではないでしょうか。私たちは魂を込めて戦いました。力強く試合に入って、だからこそ結果を手にできたんです」

    日本人選手たちは本当に礼儀正しく、欧州の文化にも敬意を払ってくれている。だが言語などの壁もあって、個々の文化に馴染んではいないという印象があるのも、また事実だ。フットボールで結果を残す(自分の数字を良くする)こと、ステップアップすることがすべてであり、それ以外のことには触れ(られ)ない……もちろんフットボールの選手なのだから、その考えは圧倒的に正しいし、それ以上のことを求める必要もない。

    だがしかし、ラ・レアルに久保がやって来たことで感じるのだ。私たちの文化や思い、クラブのアイデンティティーを理解してくれる選手は、どうしたって愛おしいのだと。

    この若き日本人が試合後、私たちの思いを代弁してくれたことには感謝しかない。そして皆が同じ思いを抱くことで、ラ・レアルはより強くなれるのだと私たちは信じている。このクラブは下部組織やサポーターを本当に大事にしており、全員のことを家族と感じながら前へと進んでいく、独自なアイデンティティーを築いてきた。久保がこの家族の、“私たちの一人”として振る舞ってくれることが、とても誇らしい。

    ラ・レアルの次戦は火曜日、ジュゼッペ・メアッツァでのインテル戦だ。私たちのラ・レアルと私たちの久保は、チャンピオンズリーグ・グループステージ首位通過をかけてその大舞台での試合に臨むことになる。

    ジュゼッペ・メアッツァには何千人ものラ・レアルのサポーターが駆けつける予定だが、再びアイトール・サバレタの魂が私たちを結び付け、全員で勝利をつかめることを願っている。背番号14の選手も含めて、私たちは心に25番をつけているのだ。