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久保建英=ダビド・シルバではない:「稀有の才能」をもっと輝かせるために必要なことは?ソシエダMFを徹底分析

久保建英が迎えたレアル・ソシエダでの3シーズン目は、ここまで決して順調とは言えないだろう。

主力を多数引き抜かれたチームはラ・リーガ開幕から大苦戦を強いられ、8試合を終えて2勝2分け4敗と勝点8で14位に低迷。その中で久保も、昨季前半と同じようにチームの攻撃陣を牽引するようなクオリティを見せる場面もあれば、2人のマークに苦しんでそのまま試合から消えてしまうこともあるなど、安定してパフォーマンスを発揮できず。ベンチに座る機会も増えていた。それでも「チームを引っ張りたい」を責任を負う覚悟を見せ、前節バレンシア戦では有言実行のゴールを叩き込むなど、調子が上向いていることを感じさせている。

そんな23歳の日本代表MFを、これまで長年にわたって海外で活躍する日本人選手や日本代表チームを分析してきたスペイン『as』副編集長のハビ・シジェス氏が分析。今季のパフォーマンスを振り返りつつ、「稀有の才能」を最大限発揮するために必要なことを紐解く。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

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    逆転の材料

    レアル・ソシエダは、目も当てられないようなシーズンスタートを切った。それはラ・リーガの順位表(14位)にも表れているが、しかし彼らのパフォーマンスの質をそっくりそのまま反映しているものでもない。とりわけ3-0で勝利した第8節バレンシア戦で、ラ・レアルは見せかけよりもずっと良いチームであることを示していた。

    悲痛なまでの得点力不足と主力選手たちの流出……ラ・レアルに疑いがかけられるのは無理もないことだ。ロビン・ル・ノルマンがアトレティコ・デ・マドリー、ミケル・メリーノがアーセナルに移籍してしまい、加えてケガをしていない柱と呼べる選手たちはアレックス・レミーロ、イゴール・スベルディア、マルティン・スビメンディ、久保建英のみ……。こうした状況下で指揮官イマノル・アルグアシルは批判にさらされ、選手たちは迷いの森をさまよい、これまで称賛の的だったチームは悲観主義の渦に飲み込まれた。

    だがしかし、ラ・レアルはかつての輝かしかったチームから、そこまで離れているわけではない。彼らは状況を逆転させるための材料を揃えている。監督としての能力を疑われるようになったイマノルも、ラ・レアルや久保にとっての問題ではなく、解決策として扱われるべきだ。この前のバレンシア戦が良い証左だろう。

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    久保の復活=ソシエダの復活

    バレンシア戦までに戦ったリーガ&ヨーロッパリーグの8試合ではわずかに4得点……ラ・レアルが残していた数字は、そのプレーの印象よりもずっと痛々しかった。ラ・レアルはラ・レアルとしての魅力を失ったように思えたが、しかし、確実に失っていたのは得点力だけである。レアル・マドリー(0-2)とバジャドリー(0-0)との試合は、ゴールさえ除けば彼らが勝つべき内容であったし、彼らが再出発を果たすためのヒントも散りばめられていた。

    そして久保についても、昨季後半戦から調子が上がらないままだった。ピッチ上ではまるでチームとのつながりが切れているように映り、そのプレーの効果性も薄かった。

    だが逆境の中であがく過程があってこそ、最高のチームと最高の選手が生まれるものだ。

    そのことを誰よりも知るのは、久保にほかならない。この日本人は若くしてどこか達観しているところがあり、自分に厳しく、環境やチームや他者に責任をなすりつけることがない。自分の問題は自分の問題として扱い、その問題を解決するための気構えも、解決して自分がチームを引っ張るという意思の強さも持ち合わせている。

    バジャドリー戦直後に語った「僕はこのチームが上向いていくことを確信していますし、自分がチームを引っ張りたいと思っています」という言葉には驚いた。これまでの日本人選手はピッチ上以外でスペインのクラブ/チームにコミットしている感覚がなかったが、この国の文化に溶け込んでいる久保は、これまでの日本人選手だけでなく、スペイン人選手をも上回るほどの参加意識と責任感を示したのだった。

    そして実際的に、久保はラ・レアルを先導するだけの力がある選手だ。久保の復活は、ラ・レアルの復活の鍵を握るのである。

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    久保に必要な「幅」

    久保は、かつての久保に戻らなければならない。ここ最近の彼は右サイドの限られたスペースに閉じこもって、ゴール前最後の数メートルでのプレー精度も怪しかった。チャンスメイク力や決定力を欠き、加えてプレーを的中させたときにも、お膳立てされた選手がゴールを決め切れないなどチームメートがついてこない場面も目についた。

    しかし今、少しずつ改善の芽が出始めているようだ。バレンシア戦で、久保は開始早々に先制点を決めたが、あの場面では逆サイドから展開された攻撃に乗じてゴールをかっさらった。セルヒオ・ゴメスとバレネチェアが左サイドで相手守備陣を引きつけ、右サイドに張っていた久保がフリーとなり、グラウンダーのクロスを押し込んだのだった。

    いずれにしても久保は、これまでよりもっと動いて、プレーに関与する回数を増やす必要がある。必須となる動きは、中央に顔を出して右サイドバック(ホン・アランブル)のオーバーラップを促し、インサイドハーフと頻繁にポジションを交換することだ。

    後者の動きについて、ブライス・メンデスの復帰はポジティブな要素だろう。久保とブライスの相性は良く、ボールを持ったプレーでもスペースの使い方でも、互いをうまく補完し合っている。その一方で新加入ルカ・スチッチは、ペナルティーエリア内への侵入など、縦への推進力に特徴がある。久保にまったく合わないわけではないが、中央でのプレー関与に蓋をしてしまうかもしれない。

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    「久保はダビド・シルバではない」

    久保は右ウィング以外のポジションに居場所を求めることもできる。バジャドリー戦でイマノルが使用した中盤ダイヤモンドの1-4-4-2にも可能性を感じられた。同システムのトップ下としてプレーした久保は、相手チームにとっては非常に捕まえづらい厄介なアタッカーだった。ピッチ中央の左右のレーンを使ったり、ベッカーとポジションを変えてサイドに張り出したりと、あらゆる攻撃的ポジションに顔を出し、オスカールソンの決めて然るべきだった決定機を創出するなどしている。ただし、久保のトップ下起用にはリスクも伴う。そのポジションの選手は特別な技巧と、ゲームへの深い理解力が求められるからだ。

    久保はダビド・シルバにはなれない(なろうともしていない)。シルバは周辺状況を俯瞰するように把握しながら自分と味方のスペースを管理し、流動性ある攻撃を導く選手だった。対して久保は相手にドリブルを仕掛け、縦に突き抜けようとする選手だ(もちろん、あれだけの技術の持ち主である。スルーパスを出す能力も高い)。そのアタッカー/ドリブラーとしての能力は特定の状況下で凄まじい効果を発揮するが、判断を間違えれば危険な位置でボールを奪われ、失点の危機を招くことにもつながる。トップ下の久保はいつ仕掛けられて、いつそうできないのかをしっかり判断してなくてはならない。

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    覚悟

    今季のラ・レアルはスタートからつまずいて、イマノルに対する批判が高まり、サディクを嘲笑する声量も増えた。そうした状況下で、久保には2つの道があった。一つは自分の問題ではないと、周囲の沈んだ雰囲気に流されること。もう一つは、ラ・レアルの復活を導く存在になることだ。この日本人は、はりきって後者の道を選んだ。自分が輝けないのはイマノルやチームメートの問題だと他クラブに目を向けるのではなく、2シーズン前に「やっと見つけた理想のチーム」と語ったラ・レアルを自ら引っ張ることを望んだのだ。

    実際的に今季のラ・レアルも悪くなく、むしろ未知の可能性を残している。サイドバック、インサイドハーフ、ウィングのどこでもプレーできるとにかく巧いセルヒオ・ゴメス、足りなかった得点力を期待できるオスカールソン……彼らが適応すれば、チームの調子はさらに上向き、久保ももっと輝けるはずだ。

    久保はいつの日か、その稀有の才能に見合ったビッグクラブに羽ばたく考えかもしれない。そのためにラ・レアルでまだやれること、成長できることはある。そのための覚悟を固めているのは、久保自身にほかならない。