文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長
翻訳=江間慎一郎
(C)Goal文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長
翻訳=江間慎一郎
(C)Getty Images毎週毎週、久保建英について何か新しい話が聞こえてくる。
欧州の強豪たちが彼を獲得すべく動いているとか、権利の半分を有するレアル・マドリーが彼のプレーを徹底的にチェックしているといった報道(99%の記事は根拠がないが)……フットボール関連調査機関CIESフットボール・オブザーバトリーなどから世界を代表するドリブラー、右ウィングの一人に選出される栄誉……。そうした日々にわたる話題のすべてが、久保がレアル・ソシエダに加わり、世界基準での有名性や評価を獲得したことに由来している。
議論の余地がない圧倒的な事実を、今一度ここに記しておくことにしよう。そう、これは何度書き記したとしても、些細なことにはなり得ない。
久保は久保になるために、ラ・レアルのようなチームを必要としていたのだ。
久保のフットボール的な特徴は、ボールを扱う技術に長け、なおかつボールを奪い返す努力を1グラムだって惜しまない集団と完全に合致する。イマノル・アルグアシル率いるラ・レアルこそまさにそうした集団で、この日本人MFは彼らとこれ以上ない結合を果たした。
レアル・マドリーをレンタル元としてマジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェ、マジョルカを渡り歩いていた頃、久保は「将来有望な若手」と未来を“期待”されるだけの選手だったが、ラ・レアルに加わったことで、ついに羽化の瞬間を迎えている。ラ・レアルFWタケ・クボは傑出したテクニックとダイナミズムを併せ持ち、フィニッシュフェーズで確かな仕事をこなし(まだ浮き沈みあるが)、自チームがボールを保持していないときには汗水を流して働く……。彼は2023年に有望株の域を大きく超えて、フットボール界の第一線で活躍する“現実”の選手となったのである。
(C)Getty Imagesラ・レアルの久保はあらゆるプレーが良質であり、ゆえに皆から信頼を寄せられている。1人かわすのはもう当たり前といった細かいタッチのドリブルはもちろん、顔を上げてチームメートにキラーパスを出すことも、逆にパスを引き出してフィニッシャーの役割を務めることだってできる。
右サイドバックのアマリ・トラオレとの相互理解は抜群で、インサイドハーフのブライス・メンデスともうまくスペースを使い分け(ブライスがサイドに張り出してくれば久保が内に切れ込んでいき、ブライスが中央で相手を引きつければ久保がよりスペースが空いたサイドを突く)、ストライカーにはその生来の才能でチャンスを供給……。久保は右サイドで快適にプレーしているが、相手チームの守備をかき乱すことを狙い中央や左サイドにも流れていく。個人技術に秀でた極上の選手が自分とチーム全体のことを考えてポジションを変えながらプレーすれば、相手にとって止めるのはまさに至難だ。
久保はプレーを実行する前にしっかりと思考を働かせている選手である。だから彼がダイアゴナル・ラン(パス)をすれば逆サイドでフリーのチームメートが存在し、ゴールライン際でドリブルを仕掛けるときには2列目から飛び出す選手が必ずと言っていいほど現れる。逆に言えば、久保がマジョルカやヘタフェで必要としていたのは、そうした思考とプレーについていけるラ・レアルの選手たちにほからなかった。
久保はラ・レアルで相手のDFとMFのライン間に位置してボールを受けたり、サイドバックとセンターバックの間を突破してDFラインに亀裂を生じさせる。このチームでは、ボールを保持して展開するポジショナルな攻撃でもトランジションを生かした攻撃の両方で輝き、アシストもゴールも期待できる。
アシストやゴールは彼がずっと求められてきたものだが、ラ・レアルでは自然な形で数字を増やしている(今季ここまでには6得点4アシストを記録)。今季決めてきたゴールにおけるシュートの工夫からも分かる通り(その技術を生かすだけでなく、体の向きや利き足をフェイントに使って相手GKの考えるところの逆を突いている)、彼のプレーはただ華やかなだけではなく、ちゃんと効果的なのだ。
ラ・レアルはボールを使ったプレーを得意とするチームで、相手の反撃を前から仕掛ける激しいプレスで断ち切り、自分たちの望む展開に持ち込もうとする。展開次第では相手のプレーを切るばかりで、プレーイングタイムが極端に短くなるが(実際的に彼らの試合のプレーイングタイムはラ・リーガで最も少ない)、その限られた時間の中で久保は凄まじい効果性を見せつけている。彼がボールを持てば何かが起こると私たちはワクワクするが、それは実際に何かを起こしてしまえるからにほかならない。
久保は現在の欧州フットボールシーンで、最も鮮烈な印象を与えている選手の一人であり、だからこそ市場価値や注目度が膨れ上がっている。毎週、彼に関する何かしらの話題が提供されるのも、事実ではない移籍報道が出るのも無理はないことだ。
(C)Getty Images久保の成長において評価すべき一つの要素は、パフォーマンスのレベルを保てるようになったことだろう。現在の彼はコンディションが万全でないときも違いを生み出せ、相手チームは常に徹底的にマークすることを強いられている。それは久保がいつどんなときにも、活躍を求められるスター選手としての格を獲得したことを意味する。
久保はラ・レアルで、フットボール的にも感情的にもリーダーシップを発揮する。ラ・リーガや映像会社が行うラ・レアルの試合のプロモーションでは、どうしてもこの日本人MFの写真が使われることが多くなるが、彼はどれだけ注目を浴びようともまったく気にしていないようだ。レアル・マドリー、インテル、バルセロナとのビッグマッチでプレッシャーに押し潰されたり空回りする様子はなく、その一方でアルメリア、グラナダ、カディスといった相手との試合でも全力を尽くす。久保はあらゆる舞台に気持ちの面でも対応し、だからこそチームメートにも最大限のパフォーマンスを要求できる選手だ。
もちろん難点や欠点をあげつらう余白は常に存在する。世界最高クラスの選手たちですら、批判からは決して逃れられないのだから。久保にはまだまだ伸び代がある。一試合で完全には消えなくとも消える時間帯はあるし、決定機を逸する場面もまだ散見される(アシストに関してはチームメートが決めきれない側面が強い)。ソシエダは主力以外の選手が出場すればそのクオリティーがガクンと下がり、久保もその影響を受けてしまうが、それでも世界のトップ・オブ・トップとなるために彼自身にできることはあるはずだ。
いずれにせよ久保は2023年に飛躍を遂げた。「本物ではないのか?」という疑いは、もう晴れたのである。その存在感と影響力はピッチ内外の隅々にまで及んでいる。久保自身は現在、ラ・レアルでのプレーだけに集中しており、現時点でのマドリー復帰やほかのビッグクラブへの移籍報道はほぼ信憑性がない。しかし、たとえ空虚であろうとも(イエロージャーナリズムの)メディアは彼を話題とする必要に駆られている。この日本人は、もうそこまでの選手になったのだ。