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スペインのセクシー・フットボール復活。準優勝イングランドは2026年W杯へ変化が必要に

時にサッカーは正直になる。今後数日にわたり、ユーロ2024でのイングランドの戦いぶりは、あらゆる角度から容赦なく解剖されるだろう。イングランドには課題が山積みだ。

ハリー・ケインは真骨頂発揮に至らず、左サイドバックは手薄。しかしながら、決勝そのものについては、非常に簡単に理解することができる。スペインはイングランドよりも素晴らしいサッカーチームだ。だから勝った。

だが、スペインの勝利は非常に優れた選手たちがいたからだけではない。ここ数年、何度も耳にしたように、今年のスリー・ライオンズは史上最高のチームで、特に守備では強かったはずだし、後半のスペインは大会最優秀選手のロドリなしで戦わなければならなかった。

それでもルイス・デ・ラ・フエンテ監督のチームがユーロ2024で最高のチームだったのは、勇敢なプレースタイルとバランスのとれたチーム編成のたまものだった。イングランドのサッカー連盟は、ガレス・サウスゲート監督辞任後のイングランド代表の未来を構想するにあたって、今大会を詳細に振り返るべきである。

  • Luis de la Fuente Spain Germany Euro 2024Getty

    革新と馴染みの融合

    スペインのサッカーは最初から今大会の話題を独占していた。クロアチアとの開幕戦は、ここ20年ずっとティキ・タカを標ぼうしてきたスペインにとって、非常に重大な時間だった。

    ユーロ2024の初戦、デ・ラ・フエンテ監督のチームは136試合ぶりに相手よりもポゼッション率が下回った。そんなスペインを特別なチームにしていくであろう特徴のすべてが、この試合には存在していた。俊足のウィングであるニコ・ウィリアムズとラミン・ヤマルは大事な時にプレーできなかったが、ルイス・エンリケの時にはなかった新鮮なダイレクトプレーをチームにもたらした。真面目で展開力のあるファビアン・ルイスとパスの名手ペドリが、冷静沈着なロドリをうまくカバーしていた。アルバロ・モラタは必ずしも世界的に高く評価されているわけではないが、献身的で敵を悩ますセンターフォワードとしての役割を果たしていた。

    彼らのプレーは3対0の勝利をもたらしたのみならず、多くのファンを魅了した。その後スペインはさらに多くの成功を収めていくことになる。

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  • Spain Euro 2024Getty Images

    ここ最近の大会で最高のチーム

    続くイタリア戦をほぼ一方的なゲームで1対0と勝利し、さらに大きくメンバーを入れ替えながら同じスコアでアルバニアを破ると、スペインはグルーブステージ全勝という記録を打ち立てた。この結果、ベスト16ではジョージアとの対戦となった。

    ロビン・ル・ノルマンのオウンゴールでジョージアに先制を許すこととなったが、4人の選手が1点ずつ決めて、モロッコに敗れたワールドカップ敗退の衝撃と同じ目に遭うことはなかった。この試合で見せたスペインのなめらかな攻撃は信じがたいほど素晴らしく、ポゼッション率76%で35本ものシュートを放ったのだった。

    準々決勝のドイツ戦はヒヤヒヤものの厳しい試合だったが、スペインの見事な中盤のトリオが実力を発揮して道を切り開いた。途中出場のミケル・メリーノが延長後半に得点してヒーローとなったが、先に投入されたダニ・オルモや、ロドリとファビアンもみな素晴らしく、一体となってプレスをかけ、ボールを巧みに動かして、優勝候補の一角を崩したのだった。

    次に仕留めたのはフランスで、ラミン・ヤマルが世界に名乗りをあげた試合として語り継がれていくことだろう。10代のヤマルはワールドクラスのシュートでチームを同点に導き、その後オルモが魔法のようなプレーで試合を決め、スペインは決勝に進出した。

    スペインはイングランドよりもはるかに優勝に近いとみなされていた。前半を優勢に終えた後、ハーフタイム明け直後に先制点を決めた。ウィリアムズが後半2分に敵陣を突破したのだ。その後、シュートミスと相手GKのジョーダン・ピックフォードの神業がなければ、コール・パーマーの見事な同点ゴールが決まる前に試合は終わっていたかもしれない。

    だが、結果が示す通り、そんなことは、優勝へ向かうスペインにとって些細な穴でしかなかった。試合終了まであと4分というところで、ミケル・オヤルサバルが典型的かつ痛烈なカウンターアタックを決め、勝利はサッカーの母国からスペインへと渡ったのだった。

  • Lamine Yamal Nico Williams Spain Euro 2024 finalGetty

    見ていて楽しい

    スペインの優勝への道を振り返ると、深く感動せざるを得ない。難しいグルーブに入り、決勝トーナメントでも強敵ばかりだったが、それでも欧州選手権史上初めて、7試合に勝利したチームとなったのだ。

    しかも、ただ勝っただけではない。スペインの偉業をさらに注目すべきものにしたのは、彼らが見ていて楽しい試合をしたからである。自由に動きまわり、ポゼッションでパワーを溜め、必要な時には比較的楽にボールをキープしつづけることもできる。今大会、どちらかと言えば機能不全に陥るチームが多かった中で、スペインはエリートクラブのようであった。

    勇敢にして自信に満ちたプレーも目を引きつけた。ユーロ2024で、90分間でのプログレッシブ・キャリーがスペインを上回ったのはポルトガルだけであり、テイクオンのチャレンジやアタッキングサードへのドリブル、プログレッシブ・パスに関しても上位4チームに入っている。

  • Didier Deschamps FranceGetty

    現状への挑戦

    最高のサッカーをしたチームが栄冠を掲げたという事実は、昨今の国際大会の通説に疑問を投げかけるものでもあった。ユーロ2016では率直に言えば、フランスからドラマチックな優勝をもぎ取ったポルトガルの決勝までの道のりは評判が悪かった。

    ディディエ・デシャン監督のチームも、楽しいサッカーをしていたとは言い難い。フランス代表の選手たちの並外れた才能を思えば、堅実さを最優先するあまり、ここ8年間でレ・ブルーが見せてくれた注目に値するプレーは驚くほど少なかった。直近のワールドカップでも、優勝したリオネル・スカローニ監督率いるアルゼンチンは初戦でサウジアラビアに衝撃的な敗戦を喫し、決勝トーナメントでも危ういところが多かったが、闘志と決意をもって栄光にたどり着いたのだった。

    こうした事例によって、大きな大会を勝ち抜くには安全第一の策を取らなければならないということが広く信じられるようになった。イングランド代表のガレス・サウスゲート監督が、とりわけ2022年のワールドカップで敗退してから、この真実に傾倒していたことは明らかである。カタールでのスリー・ライオンズは最も見ていて楽しいサッカーをしていたが、準々決勝で敗退してしまった。

    この経験がトラウマとなったサウスゲート監督は、今大会では主として安全を優先する戦術に立ち戻ることを選択。まずはコンパクトな攻撃を指示してから、選手の交代や、個人技によるゴール期待値を無視した魔法で勝利をつかんできた。決勝に到達したことで監督の策が正しかったことが証明されたかもしれないが、こうした戦いには守備がほぼ完ぺきであるか、とんでもない幸運が訪れる必要がある。ベルリンでの決勝でのイングランドには、そのどちらもなかった。

  • Gareth Southgate Declan Rice England Euro 2024 finalGetty

    自分たちを信じる

    こうした保守的なスタイルが望むような結果を出さないとなれば、カタール後の数カ月で別の方法を採用すべきだったのではないかという疑問が生まれるのも当然だ。とりわけ、それぞれのクラブでは大いに成功している攻撃的な選手の多くが、まったく実力を発揮していなかったとなれば。

    これはただ、決勝のピッチに攻撃的な選手を配置すればいいという話ではない。大会までの数カ月間、サウスゲート監督が、選手たちを信頼してもっと自由に動きまわらせ、足枷を外してやるべきだったかどうかが問題なのだ。

    決勝の後、BBCでこの想いを適切に総括したのがリオ・ファーディナンドだった。

    「グループステージの後、こんなに多くの才能ある選手がいるチームで、保守的なプレーを続けるというなら、勝たなければならないと我々は言っていた」と、ファーディナンドは言った。

    「さもなければ完全に丸裸にされ、ネガティブな策だったとみなされるようになるだろう。すべては監督の判断にかかっている。監督はこのチームに独特なプレースタイルを強いている。これが彼のサッカースタイルであり、選手たちはこんなに素晴らしいのだから、そういうプレーをして勝たなければならない」

    イギリスの民間放送ITVでイアン・ライトも同じくこう語った。

    「プレーする選手がいないとは、誰も言わない。ベリンガムもフォーデンもメイヌーもパーマーもいる。サカもだ。これだけの選手がいて勝てないはずがない」

  • Cole Palmer England 2024Getty Images

    「2026年計画」は始まっている

    こうした苛立ちはあっても、サウスゲート監督がイングランド代表史上最高の監督のひとりとして名を残すのは間違いない。サム・アラダイスのスキャンダルを受けてサウスゲート監督が就任した時、2大会連続のユーロ決勝進出など、到底無理だとしか思えなかった。代表監督という仕事における「政治的」側面と環境を構築していく側面における彼の手腕は莫大な称賛に値する。

    しかしながら、戦術的な意味で結果的に優勝を逃した後はいつも、すべてが終わったという気分になるものだ。火曜、サウスゲート監督は辞任を決断したことを発表した。誰を次の監督にするかを決める際には、今回の素晴らしいスペイン代表からいくつかの教訓を得るべきだろう。2014年にイングランド代表DNA計画を策定した時のように。

    おそらく、世界のサッカーは今、変わりつつある。現実主義者の時代が終わりつつあるのかもしれない。2年後、北米でワールドカップが開かれる時には、セクシー・フットボールが復活し、確実にイングランドには勝てる選手たちが――しかも魅せるサッカーで勝てる選手たちがいることだろう。