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サッカー・プレミアリーグはシンビン(一時退場)を導入すべきか

国際サッカー評議会(IFAB)。サッカーファンの心に恐怖を与える存在である。ここ数年、IFABはサッカーのルールをいじりたくて仕方がない衝動に駆られている。そして多くの場合、事態を前よりも混乱させて終わるのだ。

今週、会合を終えたIFABはVARの改良、チームキャプテン以外の選手が審判と話をすることの禁止、不満の多いハンドのルールの微調整、反則が起こった場所でペナルティを受けようとしない選手の取り締まり、オフサイド判定の半自動化の導入を発表した。

だが、導入予定の新ルールの中で、最大の注目を集めたのは異議やプロフェッショナル・ファウルなど、特定のプレーに関してラグビーのシンビンを模した10分間の退場を導入するという提案であった。警告よりも悪質だが退場させるほどではないファウルには「オレンジカード」を提示して処罰することをめぐって論争が起こっているのだ。

こうした試みは早ければ来シーズンから開始予定で、プレミアリーグ、女子スーパーリーグ、FAカップなどが試験的に導入される大会と考えられている。

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    IFAB提案の真意

    FAの最高責任者にしてIFABの理事であるマーク・ブリンガムはこう説明した。「我々が注目しているのは異議のことだ。他にも、特に戦術的なファウルについても話し合っている。サッカーを観戦しているファンがイライラするのは、そうしたファウルによってカウンターアタックの絶好のチャンスがつぶされる時だと思う。そういう時にイエローカードで十分なのかという疑問がある。そうしたことをルールで決めておくべきかどうか、考えている」

    ブリンガムはさらにこうも言った。「ある選手たちがファウルを犯したとき、それを戦術的なファウルとかシニカルなファウルとかプロフェッショナル・ファウルなどと呼ぶことがある。だが、そうしたファウルは攻撃の芽を摘んでしまう。我々は、そうしたファウルがイエローカード覚悟で意図的に行われ、試合を台無しにすると考えている。シンビンというルールがあると思えば、そういう選手たちもファウルをしなくなるのではないだろうか」

    「こうしたことすべてを考慮するに、草の根的なサッカーでシンビンが成功し、治療というよりは予防になってきた。選手たちがシンビンを恐怖に感じ、違反しないようにする段階に来ているのだ。我々は同じ変化が起こることを期待している」

    伝説の審判にして現在FIFAの審判長を務めるピエルルイジ・コッリーナもIFABの会合に出席していたが、反対意見を沈めようとブリンガムの意見に同調し、言うことを聞かない選手たちは「サッカーを殺す癌になりうる」と警告した。彼らの言葉は強い。だが、サッカーへのシンビン導入への反発も同じくらい強力だ。

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    予想どおりの反発

    「痛ましい」。ポール・マーソンは、シンビン導入の提案に対する意見をたった一言で表した。その後、スカイ・スポーツのコラムでこう説明している。「ラグビーでは1人いなくなって14人となったチームに対し、相手は7点から10点を目指して攻撃してくる。巨大なアドバンテージだ。サッカーで10分間シンビンが行われたら、試合が死んでしまう。その間10人となったチームは自陣深く引いて守るだろう。最悪に退屈な試合となるだろう。まったくの時間の浪費だ」

    シンビンはプレミアリーグのスペクタクルなサッカーを台無しにするというマーソンの懸念に、チェルシーのカリスマ、ジョン・テリーも同調している。今週の初め、Xにこう投稿した。「3分間10人となったチームが何をするか。ゴール前をブロックして、敵の侵入を難しくしてくるだろう。観客はひとり残らず退屈する!」

    ジェイミー・キャラガーは反対意見をあげつつも、シンビンの導入自体には賛成し、シンビンが功を奏したかもしれない例をいくつかあげている。「以前はシンビンに絶対反対だったが、レッドカードが出る試合が多すぎる。私に言わせれば、その方がサッカーをダメにする」と、Xに投稿した。「今シーズン、何度かイエローカードよりはひどいが、レッドカードでは行き過ぎだろうと思えた瞬間があった。マーカス・ラッシュフォードとカーティス・ジョーンズがそれだ。他にも、(カイ・)ハヴァーツと(ブルーノ・)ギマランイスへのイエローカードは甘いと多くの人が思っているが、私はレッドカードがよかったとは思わない。オレンジカードでシンビンするのがいいだろう」

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    サッカーにシンビンが導入された場合

    キャラガーの言うラッシュフォードの件は、つい先日マンチェスター・ユナイテッドがチャンピオンズリーグでコペンハーゲンに負けた試合で起こった。FWラッシュフォードのスパイクがエリアス・ジェラートの足首に刺さったのだが、ビデオで見るとラッシュフォードはジェラートが近づいてくるのを見ていなかったように見える。危険なプレーであり、大けがにつながっていた可能性はあるが、故意ではないとして「オレンジカード」賛同者には絶好の例となるファウルだったかもしれない。

    ハヴァーツの場合も同じく無意識の突進であり、ギマランイスのボールがないところでの突進もシニカルであった。いずれも11月初め、アーセナルがニューカッスルに負けた試合で起こった。将来的には10分間のシンビンの対象となるプレーかもしれない。10月のスパーズ戦でリヴァプールのジョーンズが退場となったのもそうかもしれない。

    攻撃の芽を摘むプロフェッショナル・ファウルは、「オレンジカード」がうってつけのファールに思える。ピッチの高い位置でプレーするチームは、しばしばプレスがかからなかったときにこうしたシニカルな策を使う。さもないと、敵がカウンターアタックをするスペースを与えてしまうからだ。ユーロ2020の決勝でジョルジョ・キエッリーニがブカヨ・サカのユニフォームを引っ張ったことも、絶好の例である。

    数分間選手を退場させることができるようになれば、審判は新たに試合をコントロールする方法を得ることになるだろう。さほど重要でないレッドカードをめぐる際限ない論争を終わらせる役に立つだろうか? 期待はある。だが、VAR導入後に起こったのと同じく、ゴールポストを動かすような事態になってしまう可能性もある。

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    シンビンは草の根的なサッカーで導入済み

    だが、シンビン導入の主な狙いはレッドカードを一掃することではない。異議に対する取り組みなのだ。2019-20シーズン、イングランド・サッカー界におけるレベル9以下のすべてのリーグで導入され、つい先日、ブリンガムはこの試みは異議を減らすのに「非常に、非常に成功」していると主張した。

    だが、すべての人が賛同しているわけではない。トップリーグから下がってレベル8のウェセックス・プレミアリーグに所属するバフィンズ・ミルトン・ロバーズのアシスタント・マネージャー、ダン・ビンクスはGOALにこう語った。「シンビンは我々のレベルでは機能していない。一貫性がまったくなく、選手がシンビンさせられて10分間プレーできなくても、復帰後ヒートアップして、最初の相手をタックルしてスパイクで蹴るシーンを何度も見てきた。何の役にも立たないシステムだ」

    さらに彼はこうも言った。「異議は問題だ。それには真っ先に賛同する。だけど、選手を10分間退場させても意味はない。異議が良くないというならレッドカードを出して、試合を続けるべきだ」

    7部の強豪ゴスポート・ボロで共同監督をしているバット・スラシは、ピーターズフィールド・タウンにいた頃、シンビンのルールに従っていたが、彼もまた懸念を示している。「シンビンとかレッドカードとかペナルティとかのルールは支離滅裂だ。どんな行為がシンビンに値するのか一貫性がないように思える。オフィシャルの決定に余計な注目が集まってしまうかもしれない。今だってサッカーにおいて最も論争になっていることなのに」

    「私の個人的な経験では、オフィシャルが偉そうにせず、多くの時間、選手や監督をもっとリスペクトしてコミュニケーションをとることができればそんなことは必要ないはずだ。反対に、オフィシャルを極端に敵視して悪態をつくような監督も大勢見てきたが」

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    選手のケガのリスクは?

    スラシと同僚の監督であるジョー・リーは、別の問題についても心配している。10分間の退場を強いられた選手がケガをする可能性があるというのだ。「じっと待っていなければならなかった選手たちがケガのリスクを負う可能性があると思っている。ウォーミングアップをすることは許されるのか?」と、スラシは言った。

    これは興味深い指摘だ。直近でチェルシーに負けた後、トッテナムのアンジェ・ポステコグルー監督が言っていたことでもある。あの非常識な試合では、何度もVARの確認が求められた結果、アディショナルタイムが21分もあった。試合後ポステコグルー監督は、ミッキー・ファン・デ・フェンがハムストリングを負傷したのは、試合が止まったり再開したりしたことが原因ではないかとほのめかした。彼の負傷離脱は今シーズンのスパーズを狂わす大きな要因となっている。

    トップレベルの選手たちはすでに、極度に緊張を強いられるサッカーをプレーせざるを得なくなっており、その代償は筋肉系のケガの急増という形で現れている。さらにダメージを与える可能性のある要素が加わることは、本当にサッカーをよりよくすることにつながるのか? プレミアリーグで何らかの試みが行われるなら、注意深く見ていかなければならない。

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    変える必要のあること

    明らかなのは、シンビンを大々的に導入する前に解決すべき問題があるということだ。変える必要がある問題は存在する――それも早急に。

    世界中、全レベルにおけるマッチ・オフィシャルの待遇が十分であるところはない。PGMOL(プロフェッショナル・ゲーム・マッチ・オフィシャル・リミテッド)のハワード・ウェブ会長は、シーズン開幕にあたり、審判を取り囲む行為をしたチームは罰せられることを堂々と主張した。それは、トップレベルの試合を悩ませ続けている光景だ。つい最近では、イングランド代表ルイス・ダンクが「攻撃的、侮蔑的または差別的な言葉」を発したという理由で退場となった(彼の所属クラブのロベルト・デ・ゼルビ監督は最近、イングランドのオフィシャルの80%が嫌いだと言った)。

    こうした不十分な基準は草の根的なサッカーでも見受けられ、残念な結果を招いている。イングランドは現在、オフィシャルが対処すべき病的な嫌がらせが主な理由で、審判の人手不足に見舞われている。

    最近、元審判のリース・ボールドウィンがデイリー・メール紙に語ったところによると、「嫌がらせの数は尋常ではない。嫌がらせについての話は山ほど知っている。私自身、ナイフを突きつけられたこともある。私を辞めさせようとした人々もいた。車に閉じこめられたこともある。道で足止めされたり、友人たちの前で15分以上も怒鳴られたりしたこともある。私が16歳の時だ。そんなことを体験した」

    ボールドウィンはこうも言った。「私はずっと前から審判という仕事に愛情を持てなくなっていた。しばらくはただカネのために審判をしていた。だが正直言って、仕事に見合う十分な金額をもらっていたとは思えない」

    シンビンが導入され、プレミアリーグでリスペクトが促進されるというなら、確かに試す価値はある。完璧な解決策ではないが、注意深く適切に管理されながら導入することができれば、全体としてサッカーにとってプラスになる可能性はあるだろう。

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