Sho-Fukuda(C)SHONAN BELLMARE

J3→J1移籍のシンデレラストーリー…湘南の"新戦力"福田翔生が背負う覚悟と夢。兄・福田湧矢への思い口に「兄ちゃんがいなかったら辞めてました」

その男は、J初ゴールを決めた同試合を皮切りに、21試合で11ゴールを記録。J3で旋風を巻き起こし、勢いそのままにJ1へ"飛び級"でのステップアップを果たす。

福田翔生。ガンバ大阪で活躍する福田湧矢を兄に持つ22歳は、8月、YS横浜から湘南ベルマーレへ移籍した。「早く試合に出たい。チーム、サポーターの皆さんと一緒に勝ちたい」。憧れだった兄の背中を追い続け、プロキャリア4年目にして、兄と同じJ1の舞台に辿り着いたパリ五輪世代のアタッカーに思いを聞いた。(インタビュー日:8月22日 聞き手:小津那/GOAL編集部)

  • Sho-Fukuda(C)SHONAN BELLMARE

    実感した「当たり前じゃない」環境の違い

    --移籍の経緯を教えてください。

    前から話はもらっていました。移籍が決まった週に正式なオファーをいただいた形です。いろいろな思いはありましたが、自分の夢を叶えたい、もっと上のレベルでプレーしたいという思いで決断しました。

    --移籍に関して、他の選手へ相談していましたか?

    YSではダイさん(松井大輔)とザトくん(中里崇宏)、兄ちゃん(福田湧矢)からは「少しでも早くJ1でプレーしたほうが良い。そのほうが自分のためになるから絶対に行け」と背中を押してもらっていました。

    --湘南に合流して4日目。環境には慣れましたか?

    全部に感動しました(笑)。施設のこんなところにソファがあるんだ!と驚きました。なにもかもが違います。YSの時はソックスを忘れて家に取りに帰ったこともありましたけど、今はその必要もなくなりました。この環境が当たり前じゃないことを改めて感じましたし、感謝の気持ちを忘れずに日々を過ごしたいです。

  • 広告
  • Sho-Fukuda(C)Y.S.C.C.

    キャリアの転機。星川敬監督との出会い

    --この5年間のキャリアを振り返ってください。東福岡高校から19年にJFLのFC今治(当時)に加入。翌年に昇格してJリーグに参入します。今治での4年間はどのような日々でしたか?

    地獄の苦しみ…でしょうか。全部が苦しかったです。僕は頑張り過ぎてしまう癖があって、4年間、「もっとやらないと」という思いで起きてから寝るまでサッカーのために全てを捧げていました。

    それでも、試合にはあまり出られなくて、自分の調子が良くても出られなくて、逆に出られていた時も結果を残せなくて…本当にきつかったです。私生活でもサッカーのことしか考えていなかったので、3、4年目は辞めようと思っていました。ただ、その中でサポーターやファンの皆さんに「頑張れ」と言ってもらえて。そのことが唯一の立ち直る原動力になっていました。

    --昨シーズンで今治を契約満了となり、YS横浜に加入します。

    (契約満了を聞いたときは)それこそ地獄でした。そこでYSに声をかけてもらい、絶対に成長した姿を見せようとも思いました。その思いはYSに来てから1日も忘れたことはありません。

    --加入前のYS横浜への印象を教えてください。

    以前からYSのことは気になっていました。星川さん(前監督)がすごく魅力的なサッカーをしていて。知人や関係者からも星川さんの指導にはポジティブな話を聞いていたんです。星川さんの下なら成長できると思い、決断しました。

    --福田選手にとって、星川監督の存在は大きかったと思います。

    その通りです。入ったときに「見返してやろうぜ。俺が助けになる。分からないことはなんでも聞いてくれ」と言葉をかけてくださいました。その言葉で僕は星川さんのためにすべてを捧げよう、この人と一緒に成長したいと思いました。 

    --星川監督により、サイドアタッカーからストライカーにコンバートされます。

    元々は左のウイングバックとして起用される予定でした。練習やプレシーズンマッチでもそのポジションに配置されていたのですが、開幕を迎えてコンバートされました。スピードがあって、相手と入れ替われる力があるとの評価から、提案してもらいました。

    --コンバート以降、待望のキャリア初ゴールを皮切りに、飛ぶ鳥を落とす勢いで大ブレイク。最終的には21試合で11ゴールを決めています。活躍の要因はどこにあると感じていますか?

    意識の殻を破れたことだと思っています。今まで、自分にはプレー中に止まる癖がありました。ボールを受けたくて、ずっとボールに寄ってしまっていることが多かったんです。YSに入って、星川さんからスペースに走る意識をつけるように指導してもらいました。「相手の嫌なところを考えて、怖いと感じるところ、ゴールに近いところで動け。それを続けていれば絶対上に行けるから」と。そこから点を取れるようになって、相手にとって嫌な選手になることができたと思っています。

    --松井選手と中里選手からはどのようなアドバイスを?

    ダイさんは「俺が1番だと思ってやれ。そうすれば絶対うまくいく」とずっと言ってくれていました。ザトくんには支えてもらっていましたし、サッカーをちゃんと教わりましたね。それまではフィーリングでしかやっていなかった自分でしたが、相手を見てプレーする大事さを学びました。

    --移籍が決まり、YSの選手たちへ挨拶している時に涙を流していましたね。

    挨拶の後にもすごく泣いたんですよ(笑)。半年だけの在籍でしたが、このクラブが大好きでした。選手もそうですし、スタッフ、そしてサポーターも記者さんもみんな優しくて。みんなの顔が浮かんで、耐え切れませんでした…。あとは、これまでが本当に苦しかったのでやっと報われたとも思いました。そう思うのは、まだ早いかもしれませんが、ひとまずは目標にまた一歩近づけました。この5年間があるからこそ、今はもう何をしても怖くないという思いがあります。

    シーズン途中というタイミングで抜けてしまうことには、本当に申し訳なく思っています。ただ、ここから自分がもっと大きくなって、YSがあったから自分があったと誇りを持って言えるようになりたいです。日本を代表してこの言葉を言えるようになるには、このタイミングでの移籍しかないと感じました。成長している姿を見せて、YSに恩返しをさせてください。

  • Yuya-Fukuda(C)Getty Images

    憧れの"兄ちゃん"の存在

    --2017年に東福岡高校の一員として高校サッカー選手権に出場。兄である福田湧矢選手とともにプレーしています。お兄さんはどのような存在ですか?

    プロキャリアの中で空回りしていたとき、何度も兄ちゃんに助けられました。兄ちゃんがいなかったら辞めていたと思います。兄ちゃんは本当に弟思いです。いつもアドバイスをくれるし、心配もしてくれます。感謝してもしきれません。

    --弟から見るお兄さんの人柄は?

    実は、サッカーを始めるきっかけも兄ちゃんからでした。父が野球をやっていたので、僕らには野球をやらせようとしていたみたいです。ただ、兄ちゃんがサッカーをやったらすごい才能があって。それで僕ら(次男と三男)もサッカーをやろうという流れになりました。それもあって、全てにおいて憧れです。人の悪口を一切聞いたことないし、綺麗なところしかないです。22年間生きてきて、兄ちゃんのような人に出会ったことがないくらい、優しい人です。

    --その憧れのお兄さんと、遂に同じ舞台に辿り着くことになりました。

    素直に嬉しいです。小さい頃から「兄ちゃんと一緒にJ1で戦うこと」は僕の夢でした。これは兄弟の夢でもありました。

    高校も一緒にやりたいと憧れて一緒に出られて。そして今、その夢が叶ったという思いです。人の頑張りって報われるんだとあらためて感じました。最近は兄ちゃんを追い越したいという思いが強くなりましたね。いつも地元に帰ったら3兄弟で一緒にサッカーをするんです。その時に「絶対越してやる」といつも伝えています。

    --お兄さんからはどのような返答が?

    「お前にはまだ早い。お前が越す頃に俺はもっと上に行ってるから」と言われます(笑)。毎回歯を食いしばる思いになりますね。

  • Sho-Fukuda(C)SHONAN BELLMARE

    「J3を背負って戦う」

    --湘南の印象を聞かせてください。

    ハードワークして、走って、戦って…が当たり前にできるチームです。また、ボールを大事にできて、縦にも速い。自分のプレースタイル的にも、スピードを生かしやすいですし、試合でプレーする姿が想像しやすかったです。

    --加入にあたって、クラブからはどのような期待を伝えられましたか?

    得点に加えて、守備の切り替えと、仕掛けていく部分で貢献してほしいと伝えてもらいました。

    --ファン・サポーターには、どのような部分を特に注目して欲しいですか?

    まずは、アタッカーとしての守備の切り替えのところ、戦うところを見て欲しいです。ドリブルも得意なので、注目してもらえたらなと思います。

    --湘南加入時に「覚悟を持って戦います」とのコメントを残しています。

    移籍が決まった時に、YS以外のJ3クラブの選手やサポーターからも、たくさんの応援のメッセージが届きました。J3からJ1に行くという移籍の重要さを感じました。

    J3に関係する様々な人の思いを背負って戦います。J3の選手もいろいろな環境に身を置きながら、一生懸命に日々を過ごしてサッカーに取り組んでいます。J1という上のカテゴリーでもやれるぞっていうことを僕が代表して見せることができれば、Jリーグの価値も上がると思っています。

    楽しむことも忘れずに、死に物狂いで臨みたいです。絶対に成功するという気持ちで覚悟を持って戦います。

    --冒頭に夢について話していましたが、今後の夢を聞かせてください。

    ワールドカップに出て、いろんな人に勇気を与えたいという思いはずっとあります 

    それに加えて、色々な人を幸せにしたいという思いを強く持っています。上のカテゴリーに移籍することで、多くの人に注目されれば、自分が勇気を与えられる人も増えると思っています。サッカーで勇気を与えることも大事ですが、僕には色々な国に行きたいという興味もあります。これからは自分次第ですけど、国境を超えて世界中の人を幸せにしたいです。

    --最後に、湘南のファン・サポーターへメッセージをお願いします。

    まずは、残留に貢献すること。個人としてはゴールを決めること、そして多くの試合でチームを助け、チームの力になれるようにやるだけです。言葉ではなく、プレーで見せていきます。

  • Sho-Fukuda(C)SHONAN BELLMARE

    Profile

    MF 19 福田翔生(ふくだ しょう)

    2001年3月23日生まれ、22歳。173cm/63kg。福岡県北九州市出身。小倉南FCジュニア→小倉南FC Jrユース→東福岡高を経て、2019年にFC今治に入団し、2023年にY.S.C.C.横浜へ移籍。YS横浜加入1年目でキャリア初ゴールを記録すると、通算21試合で11ゴールを決めてブレイク。活躍が認められて同年8月17日に湘南ベルマーレに完全移籍。8月25日 J1第25節の浦和レッズ戦で途中出場し、J1デビューを果たす。J3通算54試合出場11得点。