Jeremy Doku Manchester City GFXGetty/GOAL

マンチェスター・シティの粗削りな宝石から「止められない存在」へ。いかにしてジェレミー・ドクはプレミアリーグ最強の破壊的なウイングとなったか

マンチェスター・シティが3-0でリヴァプールを撃破した試合でドクが見せた輝かしい活躍は、ひとりの選手がトップレベルの試合を完全に支配するという、近年ますます稀になってきた事例であった。彼は、一瞬の天才的なプレーで試合を決めたのではなく、魔法のような動きを次々と繰り出し、ボールに触れるたびに相手を破壊してみせたのである。プレミアリーグの試合における偉大な個人プレーのひとつであり、この規模の試合では間違いなく類を見ないものだった。

それは、2003-04シーズンのアーセナル対リヴァプール戦でティエリ・アンリが記録したハットトリックや、2011-12シーズンにマンチェスター・シティが6-1でマンチェスター・ユナイテッドを叩きのめした試合でのダビド・シルバの卓越したパフォーマンス、2001年のリーズ・ユナイテッド対リヴァプールの試合でマーク・ヴィドゥカが達成したハットトリックと並び称されるべきものである。

  • Manchester City v Liverpool - Premier LeagueGetty Images Sport

    アザールを彷彿

    歴史を振り返っても、ドクの同胞であり短期間ながらベルギー代表でチームメイトだったことのあるエデン・アザール以来、プレミアリーグの試合でこれほどの存在感を示した選手はいなかった。アザールは1試合で少なくとも7回のデュエルを制し、7回のドリブルを成功させ、3回のチャンスを創出し、3本の枠内シュートを記録した最後の選手である。しかしそれは順位表の中ごろにいるウェストハム・ユナイテッド相手の試合でのことであり、ドクが対戦したのは数日前にレアル・マドリーに勝ったばかりのプレミアリーグ王者であった。

    トッププレーヤーと言えど世界中の注目を浴びるなれば緊張する選手が多いなか、ドクはその舞台を存分に楽しんでいたようだ。「ビッグゲームでは常に注目が高まり、より美しいプレーが生まれる」と、ドクは『スカイスポーツ』で語っていた。

    ウイングのドクは、今シーズンの初めから圧倒的なプレーを見せており、あのような活躍を予感させていた。3-0で勝った9月のマンチェスター・ユナイテッド戦では圧倒的な活躍を見せ、その数週間後にはバーンリーを粉砕。ボルシア・ドルトムント戦でも重要な役割を果たし、日曜のリヴァプール戦に向けて準備万端だったのだ。

    今やドクは、2023年にレンヌから獲得するためにマンチェスター・Cが支払った5,550万ポンド(約112億円)に見合う活躍をしている。このレベルを維持できれば、たちまち格安の獲得だったと感じさせるようになるだろう。しかし過去2シーズンには、高額な移籍金と、機械のような正確なプレーが求められがちで、個としては才能ある選手に厳しい場所であるエティハドで活躍できるかどうかについて、いくつか疑問の声もあった。

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  • Manchester City v West Ham United - Premier LeagueGetty Images Sport

    スーパーサブとして

    ドクがマンチェスター・Cのファンを感動させるのに長くはかからなかった。ホームでのフラム戦で初出場すると観客席から多くの歓声を浴び、次のアウェイのウェストハム戦で初得点。さらに、加入からわずか2カ月後、6-1で大勝したボーンマス戦でプレミアリーグの歴史に名を刻むこととなる。史上最年少で、1試合で5回の得点関与(4アシスト1得点)を記録した選手となり、マンチェスター・Cの選手として初めて、90分間で4アシストを達成した選手となったのだ。

    しかし、このボーンマス戦での驚異的な活躍の後、筋肉の負傷での6週間の離脱もあって、不調が続いた。10試合連続で得点関与がなく、チャンピオンズリーグでは監督の信頼を勝ち取ることができず、先発出場はわずか1試合に留まった。とりわけスーパーサブとしての役割が強調され、その象徴がレアル・マドリー戦でケヴィン・デ・ブライネの得点を導いた交代出場と、FAカップ準決勝のチェルシー戦でベルナルド・シウヴァの決勝点を生んだプレーだった。

    マンチェスター・Cでの最初の2シーズン、ドクはリーグ戦で平均3得点7アシストを記録したが、リーグ屈指の強豪クラブに5,500万ポンド(約112億円)で加入した選手に期待される数字とは言いがたかった。

  • Manchester City v Tottenham Hotspur - Premier LeagueGetty Images Sport

    自らを向上させようとしている

    とはいえ、ドクは得点やアシストで注目を集めるタイプの選手ではない。レンヌでの最高のシーズンでも、リーグ・アンでわずか6得点2アシストに留まっている。日曜、グアルディオラ監督はこの事実を改めて指摘した。

    「正直言って、彼は決して得点王にはなれないだろう」と、監督は言った。「だが彼は自らを向上させようとしており、指示を聞く耳を持ち、ドリブルに関して特別な才能がある。ボールを持っていてもいなくても攻撃的だ。我々は彼を助けようと努め、彼は素晴らしい試合をした」。

    グアルディオラ監督が以前からドクに対してこれほど熱心だったわけではない。2024年、優勝決定戦直前に4-0で勝利したブライトン戦の後、途中出場したドクが何度かボールを失ったことを公の場で厳しく叱責したこともある。昨シーズンにはオールド・トラッフォードでのマンチェスター・ユナイテッド戦でのプレーを批判しており、シーズン終盤のエヴァ―トン戦での好プレーを経て初めて、彼をもっと起用しなかったのは「不公平だった」と認めた。

    実際、グアルディオラ監督は中盤を厚くし、サイドをフルバックのニコ・オライリーとマテウス・ヌネスに託す戦術を優先していたため、ドクはチームから外される危機にあった。しかし今やドクは先発メンバーの筆頭格となり、全公式戦17試合中16試合に出場、そのうち11試合で先発しており、チャンピオンズリーグでは4試合すべてに先発出場している。

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  • Manchester City v Borussia Dortmund - UEFA Champions League 2025/26 League Phase MD4Getty Images Sport

    全体を見る目を養え

    ドク以外にもグアルディオラ監督の下で適応期間を必要とした選手はいる。ジャック・グリーリッシュ、ヨシュコ・グヴァルディオル、ニコ・ゴンサレスも、初めてのシーズンの大半をかけて監督のスタイルを習得した。ドクにはどうしても2シーズンが必要だったわけだが、今では監督が求める役割を完璧にこなしているように見える。そしてグリーリッシュと異なり、彼のスター性は損なわれていない。

    2人の違いは、ドクが自らのスキルを最大限に活かす方法を見出だしたことにある。グアルディオラ監督は、ドクのパフォーマンスが向上したのは彼自身のおかげだと強調し、こう言った。「私は自分を良い監督だと思っているが、私を過大評価しないでくれ。選手の成長は選手自身が成し遂げることだ。我々がしなければならないのは、良い環境を与え、良好な関係を築くことだ。私がドクにドリブルの仕方を教えたわけではない。あれは天性の才能だ」。

    実際、幼少期のドクの映像を見れば、そのドリブルスタイルが一目でわかる。ドクは、故郷アントワープのコンクリートのピッチで、兄のジェファーソンや友人たちと延々と時間を過ごし、独特のドリブルの技術を磨いた。10歳でベルギーの強豪アンデルレヒトのアカデミーに入ったが、プロとしての教育を受けても、頭を下げてドリブルし、チームメイトよりも自分のためにプレーする傾向に変わりはなかった。

    ティエリ・アンリは、ベルギー代表チームでロベルト・マルティネスが監督だった時、アシスタントコーチとしてドクを指導したが、レンヌの選手だった頃のドクのドリブルの才能を絶賛していた。しかし先週、アーセナルのレジェンドは、ドクにはサッカーにおける知性を磨く必要があると認めたのだった。

    「彼には限界がないが、指導が必要だ」と、アンリは『CBS』で語った。「誰かに何かを説明しても、その背後にある思考プロセスが理解できなければ、その人は何をするべきかを理解できない。ドクのフィニッシュが素晴らしいことは誰もが知っているが、時にはスピードを落とし全体を見てから再加速する必要がある」。

  • Manchester City v Liverpool - Premier LeagueGetty Images Sport

    新たなレベルへの到達

    ドクのリヴァプール戦での活躍、特にその得点は、普段は不機嫌なロイ・キーンさえも笑顔にさせるほど見事だった。「一日中見ていられる」と語った。「まさにセクシー・フットボールだ。素晴らしい。ああいうゴールを見るのが大好きだ。見事な技術だ」。

    マンチェスター・Cの元DFマイカ・リチャーズは「彼は新たなレベルに到達した」と評した。「これまで何度、彼が行き止まりに突っ込んだり、間違ったパスを選択したりする姿を見てきたことか。ところが今や、彼には確固たる信念がある」。

    リヴァプールとマンチェスター・Cでプレーした元FWダニエル・スタリッジも、ドクが得意とする相手をかわす技に圧倒された。「魔法の杖」と呼ばれ、ボールの上で足を一方向に振りかざしながら逆方向に疾走する技である。

    「ドクはいつもあの技を決める」と、スタリッジは絶賛した。「あの技が出来るのは、ごく少数の選手だけだ。ほとんど力をいれずにあんなことをされたら、DFはかなわない。ドクは自分が何をすべきか理解している。決断して動きを実行するのだ。あの瞬間の彼は止められない」。

  • FBL-ENG-PR-MAN CITY-LIVERPOOLAFP

    誰であろうと、必ず混乱させる

    スタリッジは、ドクの何が変わったと感じているかも説明した。「今、彼の頭の中にはプランがある。ただ即興でプレーしているのではない。あのプレースタイルからして、DFにとって最も厄介な選手のひとりだ。非常にダイレクトにプレーする。対戦相手が誰であろうと、必ず混乱させるだろう」。

    ドクは自身のパフォーマンスの向上について、2つの簡単な理由を説明した。「今シーズンの私が変わったのは、人生に神が加わったからだ」と、9月のマンチェスター・ダービーの後に洗礼を受けたドクは言った。「神のご加護が私と共にある。恐れや疑いなくプレーしたい」。

    もうひとつ、サッカーのレベルが上がった具体的な理由については、こう言っている。

    「周りに素晴らしい選手たちがいて、彼らは毎日僕を追い込んでくれる。僕を信じてくれているんだ。だから毎試合もっと頑張らなきゃという気持ちになるし、毎日成長したいと思う。そんなチームメイトがいると、プレーがずっと楽になるんだ」

    マンチェスター・Cの他の選手たちも、ドクのようなチームメイトが現在のように好調でいれば、自分たちのプレーははるかに楽になると感じていることだろう。

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