Ronaldo Benzema Saudi Pro League HIC 16:9GOAL

C・ロナウド、ベンゼマ…スーパースターが向かうサウジ・リーグの行き先は?

クリスティアーノ・ロナウドが、サウジ・プロフェッショナルリーグは「今後数年のあいだに」エリートリーグになるだろうと言ったとき、大方の反応はこうだった――「そりゃ、彼はそういうだろうよ」。

C・ロナウドはアル・ナスルでプレーするに際し、ばかばかしいほどの大金を手にした。だが彼は、大きな野望をもつサウジ・プロフェッショナルリーグにとって、またはあるひとつの国にとって広告塔としても大いに役立っているのだ。

その意味で言うと、C・ロナウドは実際、サウジアラビアでの試合、とくにインフラの問題に対するいくつかの挑戦について見事なほどオープンである。だが彼はサウジ・プロフェッショナルリーグを、とくにヨーロッパの人々に認めさせるための方法を変えることに熱心でありつづけている。

「違う方法を探るべきだと思っている」と3月にC・ロナウドは記者たちに語った。

「あのリーグがプレミアリーグと同じだとは言わない。そういったら嘘になる」

だが、C・ロナウドがサウジのトップリーグはすぐに「世界五大リーグ」のひとつになるといったら、それは嘘ではないということになるだろうか?

確かに可能性はある。なにしろカネはあるのだ。C・ロナウドはレアル・マドリーの元チームメイトにして現在のバロンドール保持者であるカリム・ベンゼマとサウジアラビアで合流したばかりである。この直近の超大型契約の金額がどんなプロ選手でも抗しがたいものであることは理解できる。

だが、サウジ・プロリーグは年齢を重ねたスーパースターたちの豪華な隠居所以上の価値があることを証明できるだろうか? 絶頂期にある若い選手たちを真にひきつける魅力があるのだろうか?

以下で探ってみよう。

  • リオネル・メッシが与えた打撃

    リオネル・メッシはインテル・マイアミへの加入が決まった後、家族の問題でアル・ヒラルからのオファーは受けなかったと言った。「カネが問題なら、サウジアラビアかどこか他のところへ行ったよ」とムンド・デポルティーボ紙のインタビューで語っている。

    妻や子供たちにとってヒスパニック系の住人が非常に多いマイアミの方が住みやすいだろうとメッシが思っているのは明らかだ。メッシに拒否されたことはサウジのプロリーグにとって宣伝の大きな妨げになったことは否定できない。

    C・ロナウドとメッシが同じリーグでプレーすれば途方もない大騒ぎになったことだろう。C・ロナウドとの契約でオールスターゲームへの関心が莫大になった直後、親善試合で敵味方に分かれただけでもすごかったはずだ。

    メッシは衰えはじめているかもしれないが、それでもカタールで理不尽なほどすごいプレーを見せたように今でも魔術師である。メッシのパフォーマンスを観たいファンが大挙して押し寄せるはずだった。

    そして、メッシが来なかったことでサウジ・プロリーグが抱える問題が明らかになった。サウジアラビアが提供するとんでもない額の大金に、すべてのサッカー選手が心動かされるわけではないということだ。

    他にも心配事はある。当地の社交界や法律に関する問題もある。それでも、ベンゼマのように宗教上の理由でサウジアラビアにひきつけられる選手もいるだろう。

    「私はイスラム教徒で、サウジアラビアはイスラム教徒の国だ」と今月初めにアル・イテハドとの契約を交わしたベンゼマは言った。「いつも、住んでみたいと思っていた国だ」

    トップ選手をひきつけるのに立ちはだかるもっと大きな問題は、サウジ・プロリーグのスタンダードと威信であろう。

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  • 窓際リーグ?

    C・ロナウド、ベンゼマ、メッシ、エンゴロ・カンテ、ルカ・モドリッチ、ネイマール、ピエール=エメリク・オーバメヤン。サウジアラビアが過去、そして現在、移籍のターゲットとしてきた選手たちには共通点がある。全員が30代で程度の差こそあれ選手としてのピークを過ぎていることだ。もちろん、それは仕方がないことである。

    サッカーは恐ろしいほどヨーロッパ中心になりつつある。「ビッグ・ファイブ」という考え方でさえ間違いなく時代遅れで、リーグ・アン、セリエA、ブンデスリーガは事実上プレミアリーグに選手を供給するためのリーグになりつつあると考える人もいる。

    現代サッカーに関するカネはすべてイングランドに集中し、ヨーロッパ大陸にはいくつかのスーパークラブが点在するにすぎない。それゆえ、MLSが何年も苦しんでいるように、ベテラン選手以外でもヨーロッパを出る気にさせるのは難しい。メッシは明らかに特異なケース。バロンドール7度受賞のメッシを追って、突然20代半ばの選手たちが合衆国に行くということにはならない。

    しかしながら、南アメリカ出身の若きスター選手がMLSに行こうとする波が顕著であることは注目しつづけなければならない。今やヨーロッパへの移籍につながる出発点のように見なされているのだ。皮肉な考え方かもしれないが、大事なのは結果としてMLSのスタンダードが向上しているということだ。アメリカ代表を含むアメリカサッカーの関係者全員にとって大いに有益なことである。

    同じことがサウジ・プロリーグで起こればサウジアラビアは本当に満足するだろうか? おそらく、そうではない。ある情報筋がFrance24にC・ロナウド加入後のアル・ナスルの目標は「新しい銀河系軍団」を作ることだと語っている。

    もちろんルイス・フィーゴやジネディーヌ・ジダンがレアル・マドリーと契約したとき、彼らは選手として絶頂期にいた。フロレンティーノ・ペレスが最初にレアル・マドリーの会長になったときと同じような牽引力をサウジ・プロリーグはもっていない――少なくとも、今はまだ。

    さらに言えば、今シーズのヨーロッパでセリエAの各チームが大活躍したにもかかわらず、セリエAは「セレブが晩年を過ごす」場所という評判を覆すのに苦労している。サウジアラビアのトップリーグの最大の呼び物がすべて昔を懐かしむものだとすれば、サウジ・プロリーグをエリートリーグだと観客に思わせることは、はるかに難しいだろう。

  • Crstiano-Ronaldo(C)GettyImages

    「はびこる契約違反」

    見たところ、サウジ・プロリーグのチームへの加入に同意したスター選手たちは十分な報酬をもらっており、給料に関する問題は何もないだろう。

    もちろん、報酬がしかるべき時に支払われないという不満をC・ロナウドが公言することにでもなれば、リーグのPRにとって破滅的な規模の災害となるだろうが。

    それでも、中程度もしくは低程度の選手たちがどう扱われているかという問題はある。世界中のプロサッカー選手を代表する国際プロサッカー選手会(FIFPRO)は以前、会員である選手たちにサウジアラビアのクラブは「組織的な契約違反がはびこっている」ため、契約しないようにと警告した。

    FIFPROは、「アルジェリア、中国、サウジアラビアの選手に対して給料未払いの問題が起こっている」と主張した。そこで中国について言及したことは興味深いことである。

  • Oscar Shanghai SIPG 02012017Getty Images

    中国スーパーリーグとの比較

    中国スーパーリーグが大規模契約でアジアにビッグネームを呼び寄せるという、サウジ・プロリーグとまったく同じことをしようとしていたのはそう昔のことではない。

    ここでもターゲットとなったのは、絶頂期を過ぎても非常に有名な選手たちだ。その中の主要なひとりが、わずか25歳でブラジル代表となった後にチェルシーから上海海港に渡ったオスカルである。

    「中国市場は誰にとっても危険だ」と、ブルーズの元監督アントニオ・コンテは記者たちに言った。

    「チェルシーだけでなく、世界のすべてのチームにとって」

    だが、バブルはすぐにはじけた。オスカルはまだ中国にいるかもしれないが、2016年から2017年のブームのあいだに中国に渡ったスターたちのほとんどが、ずいぶん前に中国を離れている。

    当初はリーグの「プロ化」計画に全勢力を傾けていた政府がゆっくりと、しかし確実に援助の手を引きはじめたのだ。その理由は特にカルロス・テベスをはじめ外国のスター選手たちの多くが、「有給休暇」をもらっているかのようだと批判され、実際に中国生まれの選手たちの成長を阻害していたためである。

    海外の選手たちとの契約には事実上、税に等しいものも盛りこまれた。中国への移籍は魅力を失い、新型コロナウィルスの感染拡大で財政危機に陥ったうえに、クラブの名前から「企業を外す」ことになった。ほとんどの会社がリーグへの投資をつづけることに興味をなくしたのであった。

  • 「世界的投資の原動力」

    それゆえ、サウジ・プロリーグも同じ運命をたどるだろうと言われてきた。結局のところ、オイルマネーは持続可能な資源ではない。いつかはなくなってしまうものだ。だが、今すぐということはない。それどころか、サウジアラビアの「ビジョン2030」の計画で強調されているように、サウジアラビアは石油依存体質からの脱却と収入源の多角化をもくろんでいる。

    「我々は国のエネルギー需要において石油だけに依存するのではない」と、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子がそのリーダーシップ・メッセージの中で書いている。

    「金などの貴重な鉱物が我が国の地下から発見されている。だが、我々の真の富は国民の大志と若い世代の可能性の中にある。それらは我が国の誇りであり、我々の未来を築くものだ」

    サウジアラビアの国民は熱心なサッカーファンでもある。サウジ・プロリーグの暫定CEOであるSaad Allazeezは「国民の80%がビューティフル・ゲームと呼ばれるサッカーをプレーしたり観戦したりして興味をもっている」と言っている。つまり、サウジ・プロリーグをトップクラスのリーグにすること、もしくは2030年ワールドカップ開催の誘致成功により、確実に現体制への支持がつづくわけである。

    というのも、それこそがすべての目標だからだ。サウジアラビアはサッカー大国になりたいと思っている。スポーツは「世界的投資の原動力となる」という目標の主要な柱のひとつなのだ。

    移籍は、すでに2030年に向けてのサポートを確実なものにしつつある。ビン・サルマーン皇太子はカタールでよく目撃されており、試合のある日はしばしばFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長と並んで座っている姿が見られた。先月のガーディアン紙によると、サウジアラビアは新しいアフリカ・スーパー・リーグの資金援助についてアフリカサッカー連盟(CAF)との話し合いを始めたという。

  • 「違いから逃げてはいけない」

    サウジ・プロリーグに関していえば、サウジアラビアの4大クラブの株式の75%をPIF(サウジアラビアの政府系ファンド)に保有させるという決定は正当な主旨書であり、他の会社や代理店がチームに投資できるようにする民営化計画の一部である。

    サウジアラビアの「ビッグ4」を構成するアル・イテハド、アル・アハリ、アル・ナスル、アル・ヒラルにスーパースターとの契約を成功させ、等しく分配するというのが目標であることは間違いない。モデルと言うならば、プレミアリーグはサッカー界の注目の的になろうとする国がフォローすべき悪くないモデルである。

    サウジ・プロリーグの市場価値は今後7年で2倍以上になるという考えはもちろん、大きな野望である。時間と忍耐が必要だろう。

    だが、おそらく多くの部外者がそこまで信じてはいないだろう。サウジアラビアは自身が設立したLIVゴルフグループとPGAツアー(米国男子ツアー)の統合が合意され、事実上ゴルフ界を手中にしたばかりだ。PGAツアーは権威を与え、LIVゴルフグループは多額のカネをもたらす。ビジネスの観点から言えば完璧に筋が通っている。

    しかし、1カ月前ですらこんな取引は考えられなかった。2つの組織と選手や大会運営者それぞれの間に、とげとげしさがあったのだ。

    PGAツアーの理事のジミー・ダンは去年、サウジアラビアの銀行の署名入り給与小切手は欲しくないと言っていた。

    それでもつい先週、まさに同じ人物がUSの生放送のテレビで統合を弁護し、ゴルフ界で反対する人々に対して「我々は違いから逃げてはいけない」と語っていた。

    サウジアラビアの投資に関して言えば、C・ロナウドがその正しさを十分に証明させたように、何でもありである。サウジ・プロリーグは世界の五大リーグのひとつになりうるかもしれない。あれほど多額のカネがあるところに不可能はないのだから。

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