ここはスペイン首都マドリードの中心街にあるバル。といってもソル広場のような中心の中心というわけではなく、そこからやや離れた場所の裏通りにある、観光客より常連客ばかりが集まるお店だ。そんな常連客たちの大半は今しがた、言葉少なにその店から出て行った。壁の上部に設置されているテレビではチャンピオンズリーグ(CL)準決勝セカンドレグ、マンチェスター・シティ対レアル・マドリーのハイライト映像が繰り返し映され、カニサレスやモリエンテスなどの解説者が意見を口にしている。
僕はその映像を目にしながら、スマートフォンにイヤホンをつないでラジオのスポーツ番組を聞いている。ラジオ局『オンダ・セロ』のマドリー番記者は、エティハド・スタジアムのミックスゾーンから、マドリーの様子を伝えていた。白いチームの面々は試合終了のホイッスルから記録的なスピードでチームバスに乗り込んでいったようだ。最初にリュディガーがミックスゾーンを通ってバスが待つ出口へ向かい、アザール、アセンシオ、ナチョ、メンディ(笑みを浮かべていたらしい)、バジェホ、ルニン、ルイス・ロペス、マリアーノ、カマヴィンガが続き……、それから記者会見で話し終えたアンチェロッティも登場。番記者はイタリア人指揮官の姿を「左眉が上がっているのはいつも通りですが、しかしながら今日はとても失望しているように見えます」と描写している。
そう、昨季CL王者レアル・マドリーは敗れた。昨季も準決勝で対戦したシティに、コテンパンと言っても、まったく差し支えない失望しかない内容で。
確立されたメソッドでもって継続・安定・圧倒的なパフォーマンスを誇示するペップ・シティと、個々の究極的な質に依存しながらその時々の状況に適応するキングたるマドリーの再戦は、ファーストレグこそ均衡した内容だった。が、その時点でベルナベウの“魔法の夜”効果も使ってしまったマドリーは、エティハドのピッチで生じた状況に適応できなかった。適応し得ない状況を、シティがつくっていた。
アンチェロッティのチームは一枚岩になれず、個々のクオリティーも輝かなかった。時速38キロで走るヴィニシウスは32歳で37.5キロを叩き出すウォーカーに封じられ、ベンゼマは特別注意して守る必要がないほどチームへの影響力(プレーでもメンタルでも)が皆無。どんなハイプレス、ミドルゾーンのプレスも無効化してしまう巧みなビルドアップを見せるシティに言葉通りのワンサイドゲームを強要され、なおかつゴール前では中央の守りを固め切れなかった。
カルバハルはグリーリッシュに対応し切れず、すぐ背後を取られるカマヴィンガは本職が左サイドバックでないことを痛感させ、バルベルデの対応は常に後手に回り、クロースはアンカーが持つべきフィルター機能がついていないことを改めて露呈。アラバ&ミリトンがハーランドを守ることに集中する中、ドイツ人MFの守備での立居振る舞いは重要だったが、彼はやはりカセミロではなかった。
昨季、マドリーの劇的逆転勝利の餌食となったペップは、今回どれだけ得点を重ねてもチームの慢心を許さず、選手を叱咤する場面もありながら前後半で2得点ずつを決めた(マドリーのGKがクルトワでなければ7-0にしていただろう)。マドリーが劇的弾を決める時間帯の91分にゴールを生んだのも、シティのフリアン・アルバレスだった。ペップは試合後、「これが最高というやつだ。CL準決勝でレアル・マドリー相手に最高の試合を演じたのだからね。私たちは昨季の出来事をエネルギーに変えたんだ」と、リベンジを達成したことを喜んでいる。