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惨敗の欧州王者レアル・マドリー:黄金期築いたベテランから若手への本格移行を

レアル・マドリーは、チャンピオンズリーグ準決勝でマンチェスター・シティと対戦。本拠地サンティアゴ・ベルナベウでのファーストレグでは1-1と引き分け、17日に敵地でのセカンドレグに挑んだ。

しかし、熱狂のエティハド・スタジアムでは開始直後からハーフコートゲームを強いられ、GKティボー・クルトワのビッグセーブでアーリング・ハーランドらの猛攻をなんとかしのいでいたが、23分に失点すると、37分には2失点目。耐えきれずにゴールを奪われ、後半にも2失点。良いところなく、0-4と完敗を喫した。これで2試合合計1-5、昨季は奇跡を起こし続けてビッグイヤーを手にした王者だが、今季は準決勝で姿を消している。

そんなレアル・マドリーの姿を見た現地記者は、何を感じたのだろうか。10年以上にわたって現地で取材を続けるジャーナリスト、江間慎一郎氏が見た「未来へと向かっていく」ために必要なこととは。

文=江間慎一郎

スペイン在住ジャーナリスト。レアル・マドリーのホーム戦を10年以上取材し、このシティとのセカンドレグは自宅近くのバルで観戦。

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    惨敗

    ここはスペイン首都マドリードの中心街にあるバル。といってもソル広場のような中心の中心というわけではなく、そこからやや離れた場所の裏通りにある、観光客より常連客ばかりが集まるお店だ。そんな常連客たちの大半は今しがた、言葉少なにその店から出て行った。壁の上部に設置されているテレビではチャンピオンズリーグ(CL)準決勝セカンドレグ、マンチェスター・シティ対レアル・マドリーのハイライト映像が繰り返し映され、カニサレスやモリエンテスなどの解説者が意見を口にしている。

    僕はその映像を目にしながら、スマートフォンにイヤホンをつないでラジオのスポーツ番組を聞いている。ラジオ局『オンダ・セロ』のマドリー番記者は、エティハド・スタジアムのミックスゾーンから、マドリーの様子を伝えていた。白いチームの面々は試合終了のホイッスルから記録的なスピードでチームバスに乗り込んでいったようだ。最初にリュディガーがミックスゾーンを通ってバスが待つ出口へ向かい、アザール、アセンシオ、ナチョ、メンディ(笑みを浮かべていたらしい)、バジェホ、ルニン、ルイス・ロペス、マリアーノ、カマヴィンガが続き……、それから記者会見で話し終えたアンチェロッティも登場。番記者はイタリア人指揮官の姿を「左眉が上がっているのはいつも通りですが、しかしながら今日はとても失望しているように見えます」と描写している。

    そう、昨季CL王者レアル・マドリーは敗れた。昨季も準決勝で対戦したシティに、コテンパンと言っても、まったく差し支えない失望しかない内容で。

    確立されたメソッドでもって継続・安定・圧倒的なパフォーマンスを誇示するペップ・シティと、個々の究極的な質に依存しながらその時々の状況に適応するキングたるマドリーの再戦は、ファーストレグこそ均衡した内容だった。が、その時点でベルナベウの“魔法の夜”効果も使ってしまったマドリーは、エティハドのピッチで生じた状況に適応できなかった。適応し得ない状況を、シティがつくっていた。

    アンチェロッティのチームは一枚岩になれず、個々のクオリティーも輝かなかった。時速38キロで走るヴィニシウスは32歳で37.5キロを叩き出すウォーカーに封じられ、ベンゼマは特別注意して守る必要がないほどチームへの影響力(プレーでもメンタルでも)が皆無。どんなハイプレス、ミドルゾーンのプレスも無効化してしまう巧みなビルドアップを見せるシティに言葉通りのワンサイドゲームを強要され、なおかつゴール前では中央の守りを固め切れなかった。

    カルバハルはグリーリッシュに対応し切れず、すぐ背後を取られるカマヴィンガは本職が左サイドバックでないことを痛感させ、バルベルデの対応は常に後手に回り、クロースはアンカーが持つべきフィルター機能がついていないことを改めて露呈。アラバ&ミリトンがハーランドを守ることに集中する中、ドイツ人MFの守備での立居振る舞いは重要だったが、彼はやはりカセミロではなかった。

    昨季、マドリーの劇的逆転勝利の餌食となったペップは、今回どれだけ得点を重ねてもチームの慢心を許さず、選手を叱咤する場面もありながら前後半で2得点ずつを決めた(マドリーのGKがクルトワでなければ7-0にしていただろう)。マドリーが劇的弾を決める時間帯の91分にゴールを生んだのも、シティのフリアン・アルバレスだった。ペップは試合後、「これが最高というやつだ。CL準決勝でレアル・マドリー相手に最高の試合を演じたのだからね。私たちは昨季の出来事をエネルギーに変えたんだ」と、リベンジを達成したことを喜んでいる。

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    人生の掟

    ラジオ番組では一度ミックスゾーンからの中継を切り、司会者と識者たちが「マドリーにとって2022-23シーズンが成功だったのか?」が話されている。……昨季、アンチェロッティが復帰して2シーズンで獲得可能な全タイトルを獲得したとはいえ、獲得したメジャータイトルがコパ・デル・レイだけにとどまった今季が成功だったとは言い難い。リーガではワールドカップ(W杯)の中断明けにバルセロナの独走を許して残り4節の段階で優勝を決められ、CLも準決勝まで勝ち進んだとはいえ最後に惨めな形で負けてしまったのだから。

    ただし、その変化をサイクルの終わりと始まり、と言うべきかは分からない。マドリーはミリトン(24歳)、バルベルデ(24)、チュアメニ(22)、ヴィニシウス(22)、ロドリゴ(21)、カマヴィンガ(20)を擁し、さらに今夏ベリンガム(19)が加わる可能性が高いなど、次のサイクルに向けた準備を着々と進めてきたからだ。変えなければならないのは、クラブ史上最大級の黄金期を築いたベテランたちと若手選手たちの出場機会の配分となるはず。マドリーはクロース(33)、モドリッチ(37)、ベンゼマ(35)との契約を延長する予定だが、来季は彼らの調子を気にしながらやり繰りするのではなく、主軸を彼らから若手たちに本格的移行させるシーズンにしなくてはならない。

    今季はモドリッチ、とりわけベンゼマのパフォーマンスがW杯の影響で安定せず、今回のシティ戦でも老いという人生の掟にクロース含めた3人がずっと抗い続けられるわけではないことを感じさせた。来季はベテランを立てるために若手がいるのではなく、その逆へ、未来へと向かっていくシーズンにする必要がある。……ただエンバペが来ず、ロドリゴやアセンシオを偽9番として完全には機能させられずと、ベンゼマに代わる選手が相変わらずいないのはマドリーの巨大な問題として横たわってはいるのだが。

    では、監督はどうか。ペップがバルセロナを率いていた時代を中心に、マドリーも明確なプレーアイデンティティーを確立すべきと声高に叫ばれたことがある。だが結局彼らがCL優勝に届くのは、アンチェロッティやジダンのように、選手たちのモチベーション管理がうまい監督が率いるときだ。「マドリーのフットボールに著作者となる監督はいらない」「マドリーは大海そのものであり、大海を規律で切り取ることはできない」はサンティアゴ・ベルナベウが会長となって、ディ・ステファノやプスカシュら各国のスター選手を集めた1950年代からの伝統であり、その伝統による成功体験は昨季まで続いている。来季のマドリーの監督は世代交代も推し進める必要があり、ベテランと若手のどちらにも慕われていることを含めて、アンチェロッティに任せるのが適当ではないだろうか。

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    静寂の闇

    さて、ラジオ番組ではエティハドのミックスゾーンにいるマドリー番記者がモドリッチにマイクを向け、彼の声を拾っている。UEFAの大会では選手全員がミックスを通って取材を受けるルールとなっているが、マドリーはいつも広報が付き添う1人か2人にしか喋らせない。しかしながらこのシティ戦の夜、キャプテンのベンゼマ含めてほとんどの選手が無言でチームバスへと向かう中、クロース、モドリッチ、さらにヴィニシウスは自分たちの判断でメディアの前で立ち止まり、口を開いた。矢面に立った。

    マドリーとの契約延長で合意した際、出番が減ることについても了承したというベテラン2人は「このチームにはまだできることがあるはずだ。サイクルの終わりという指摘には軽々しく答えられないが、僕たちはマドリーのファンにもっと喜びを与えられるはずなんだよ」(モドリッチ)、「サイクルの終わり? 最後にそう言われたのは2019年だが、それからずいぶん経ったよね」(クロース)と発言。そして、ヴィニシウスは「僕たちは来季に向けて学ばなくては。もちろんアンチェロッティは続けるべきだ」「このチームはベテランと若手がうまく融合している。マドリーだってときには負けないとね」と語り、その後『インスタグラム』で次のようなメッセージを記していた。

    「また、君たちに歓喜を届けたい。マドリーはいつだって戻ってくるんだ!」

    深夜0時近くにバルを出ると、街は試合などなかったかのようにひっそりしている。ベルナベウからの帰り道、「どうして愛さずにいられようか? お前が何度も何度も欧州王者になったのならば!」のチャントが至る所で聞こえてきたファーストレグの夜とは大違いだ。マドリーはこの静寂の闇を新たな出発点として、また歓喜の瞬間を求めていくことになる。ヴィニシウスのドリブルように執拗に、何度でも、何度でも、何度でも……。

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