Warren Zaire-Emery France

「ダイヤモンド」ウォーレン・ザイール=エメリ。フランス代表を飛躍させることができる才能

フランス代表の次のスーパースターは、まだ学校のことで悩まなければならない。17歳のウォーレン・ザイール=エメリは、フル代表への初めての招集の後、型通りの記者会見に臨んだ。わずか17歳でフランス代表でプレーすることのプレッシャーや、パリ・サンジェルマンの中盤を率いる責任、急速に近づいたティエリ・アンリとの関係について語ったのである。さらにいくらか深く、学校の勉強についても説明した。そこで判明したとおり、フランス代表の中盤で次にスターになる可能性のある選手は、フル代表初選出を祝うどころではなかったのである――宿題を終えなければならなかったから。

少なくとも、彼の話は彼が非常に若いこと、重要な責任を負わされていることを示していた。ザイール=エメリは、しばらく前から素晴らしい才能の持ち主であると注目されている。彼には、古典的な逸話が満載だ。子どものころファーストタッチが奇跡的に素晴らしかったと言われており、ユースの監督たちに衝撃を与え、7歳でU11でプレーするようになった。

その多才ぶり、自分の役割に献身的な姿が尊敬を集め、背番号6、8、10の役割をいとも簡単に果たすことができる。これらの言葉は、英国サッカーの話を聞きなれている観客にとって、どれも馴染み深いものだ。

それでもジュード・ベリンガムとの比較には注意が必要だ。2人とも多才であることは非常に似通っているが、2人がプレー中に見せる技術は根本的に違っている。ザイール=エメリの方が若く、技術はベリンガムと同じかそれ以上だ。イングランド代表MFのベリンガムと同様、ザイール=エメリはチームを新たな高みに導く重要なピースになりうる。

  • Warren Zaire Emery PSGGetty Images

    期待

    PSGはここ20年、ヨーロッパで最高の才能をもった選手を何人も育ててきた。だが、そういう選手を維持することはパリでは本当に難しかった。これまで、歴代の監督たちは若い選手をトップチームに入れることを躊躇し、将来性ある選手よりも高額なビッグネームとの契約を選んできた。オーナーのカタール・スポーツ・インベストメントは、総じてサッカーに対してカネで始まりカネで終わる態度でおり、事態を悪化させるばかりである。

    ザイール=エメリは最新の金のなる木で、オーナーたちはただ彼を手元に置いているだけだと言えるかもしれない。元監督のクリストフ・ガルティエは昨シーズンほとんどザイール=エメリを使わなかった。16歳だった彼はリーグ・アンに26試合出場し、チャンピオンズリーグではベスト16でのバイエルン・ミュンヘン戦に先発した。結果は良くも悪くもあった。中盤で起用されれば活躍するが、監督がネイマール、リオネル・メッシ、キリアン・エンバペを揃って起用しようと、大失敗のフォーメーションを組んだせいで右サイドバックに配置されることが度々あったのだ。

    だが、中盤の真ん中では時に見事なプレーをする。春のモンペリエ戦ではアタッキングサードを蹂躙とし、PSGをタイトル争いで圧倒的優位に立たせる得点を決めた。さらに数週間後、4対2でPSGが勝利したナント戦ではもっとすごいプレーを、今度は守備的ミッドフィルダーとしてやってのけた。チームが冷静さを欠いていたエリアを落ち着かせたのである。バイエルン戦でも、絶好調のキングスレイ・コマンを何とか黙らせた。普通の16歳がやれることではない。

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  • Zaire-Emery Luis Enrique GFXGetty/GOAL

    「ダイヤモンド」

    それ以後のザイール=エメリには成長しかなかった。2023-24シーズンのPSGのセットプレーではない流れからの初ゴールをアシストしたが、これは、中盤の真ん中で典型的な役割を果たしたもので、ピッチの中央を疾走し、バランスを崩すことなくパスを受け、マルコ・アセンシオにボールをさっと渡したのだ。アセンシオはそれを見事な得点にした。1カ月後には同じく印象的な攻撃的プレーを見せた。チャンピオンズリーグのミラン戦でのPSGの3得点のうち、2得点をおぜん立てしたのだ。2得点のうちの1得点は、見事な技術でトップコーナーへの20ヤード(約1m80cm)のパスを通し、完璧な攻撃的ミッドフィルダーとなる片鱗を見せたのである。

    だが、ザイール=エメリの真骨頂が見られるのはアタッキングサードでのアシストではない。この10代の選手は、ピッチの中央でプレーする時が最高だ。タックル、インターセプト、ボールへの寄せ、スペースのカバーといった、典型的なミッドフィルダーの役割をすべて果たすことができるのである。しかし、真の価値は彼がボールを持ったときに発揮される。

    こうしたことを数字で見るのは難しい。パスの精度(91%、全ミッドフィルダー中98パーセンタイル)やボールを前に運ぶ時間(90分平均2.37、全ミッドフィルダー中87パーセンタイル)、ショートパスの成功率(1試合平均30%強、90パーセンタイル)を表彰する賞はないのだ。むしろ、こうしたことは監督が全体を見るときの小さなスナップ写真にすぎない。ザイール=エメリはボールを奪い返すだけではなく、ボールを保持しているときに効果的で冒険的なプレーができる。こうしたことすべてを、15試合中14試合に先発し、11試合にフル出場する中でやってのけている。若きミッドフィルダーだがベテランのような賢さがあり、常に全身全霊でプレーする。

    そう、PSGの監督の言葉を借りるなら、「ワレンはダイヤモンド」なのである。

  • Zaire Emery HenryGetty

    「どういう選手なのか知りたかった」

    フランス代表のスタッフたちがザイール=エメリに注目するようになるまで、長い時間はまったくかからなかった。子どもの頃からユース代表に呼ばれており、2022年6月のU17欧州選手権では世界中にその名をとどろかせた。フランスが曲者のポルトガルに勝った準決勝の試合で、スターが現れたことで知られる素晴らしい大会である。

    ザイール=エメリをユース・サッカーのより高いレベルで見たいと言いだした一人がアンリである。初めてU21フランス代表の監督になったとき、ザイール=エメリを招集してキャプテンに指名し、チームの中心に置いて、過去2度のインターナショナル・ブレイクで4カ国と戦った。

    「彼がどういう選手なのか、知りたかった」と、アンリはザイール=エメリにキャプテンマークを渡した後で語っている。これまでのU21の歴史の中で最年少のキャプテンだった。

    そしてザイール=エメリはその期待に存分に応えた。最初の試合でキャプテンとして輝き、中盤の真ん中からチームを操って、デンマークに対し4対1で勝利した。数日後のスロベニア戦でも強烈な印象を残し、10月13日のボスニア戦では逆転勝利を演出した。母国のキャプテンとなるというプレッシャーはあったはずなのに、この17歳はそれを感じさせなかった。

    「空にだって限りはあるというのに、こんなに早熟な選手は見たことがない…このポジションでこんな若い選手を見ることは滅多にない」ともアンリは言っている。

  • Jude Bellingham England 2023-24 ItalyGetty Images

    次のベリンガムなのか?

    ベリンガムとザイール=エメリの間に接点はない。PSGがベリンガムと契約しなかったのは10代のザイール=エメリがトップチームに入る道をふさいでしまうかもしれないと思ったからだという、根拠のない噂があるだけだ。ベリンガムは3歳年上なだけであり、成長過程にあることは間違いなく、実際に2人を比較したところで意味はない。

    だが、インパクトや若いスターがもたらすクオリティの話をするならば、2人はよく似ている。20歳のベリンガムは、ここ数年イングランド代表にいなかった存在感のある中盤であり、ピッチの中央から得点することができる。このことは、スリー・ライオンズを新たな高みに導くかもしれない。

    一方のザイール=エメリは、フランス代表が必要とする指揮者だ。近年レ・ブルーの中盤はボロボロで、攻撃的ではあるが技術に秀でた指揮官がいない。オーレリアン・チュアメニやエドゥアルド・カマヴィンガ、範囲を広げてアドリアン・ラビオは、みな素晴らしいサッカー選手だ。それぞれ独特な才能がある。チュアメニはチームのために献身的なプレーができ、カマヴィンガは闘争心が強く、ラビオはワールドカップ優勝チームに舞い降りた破天荒な選手である。だが誰も、PSGの若きスターが持っているようなテクニックの類を持ち合わせていない。

    ルイス・エンリケ監督は、常に若き才能を高く評価する監督だが、ザイール=エメリのことを自分がまだ監督だったらスペイン代表に招集していたかもしれないと言っている。ディディエ・デシャン監督も、若者にチャンスを与えることを決して躊躇しない監督だ。

  • Warren Zaire-Emery France main 2023Getty Images

    デビュー戦でのゴール

    そのザイール=エメリは迎えたジブラルタル代表戦で先発に抜擢され、戦後の同国代表最年少出場記録を樹立した。それだけではなく、16分にキングスレイ・コマンのクロスにニアサイドで飛び込み、見事なデビュー弾を決めてみせた。

    だが、このプレーで相手DFのタックルに遭い、無念の途中交代に。PSGは試合後、ザイール=エメリの状態に関する声明を発表。「右足首に中等度の捻挫を負った。ウィンターブレイクまで治療を受け続ける」とし、今年中の復帰は難しいと伝えている。

  • Warren Zaire-Emery PSGGetty

    フランスを飛躍させ得る存在

    デビューとレ・ブルーでの初ゴールの中で負傷してしまったザイール=エメリだが、その才能は今後のA代表でも示すことができるはずだ。

    今後を占うとすれば、通常デシャン監督は中盤に3人を配置するのを好む。アントワーヌ・グリーズマンは文句なしの背番号10で、81試合連続出場中であり、文字どおり1試合も出ない試合がない。チュアメニには背番号6の役割を与えるべきだろう。そこで3人目の争奪戦となる。現在はカマヴィンガとラビオが入れ替わりで出場している。だがカマヴィンガは左サイドバックの方が合っており、ザイール=エメリと先輩でマンバン・スタイルのまずまず似ているラビオとの争いになりそうだ。ラビオはフェイントやトリックを有する選手で、フランス代表の中盤にはあまり弱点がない。実際のところ、彼は大勢の中のひとりである。

    ザイール=エメリは、ラビオを出し抜くだけの才能あるサッカー選手ではあるだろう。フランス代表に欠けているミドル・サードに落ち着きと堅実さのようなものをもたらすことできるかもしれない。選手としてワールドカップ優勝経験があるデシャン監督は、このことをよくわかっているはずだ。だが、だからといって事態が動くわけではない。デシャン監督は不思議なほどラビオを信頼しているが、それなりの理由があることは確かだ。おそらくスポーツの他の監督的役割とは違い、国際試合を指揮するには、長い時間をかけて築いた個々の選手との信頼関係が必要なのだろう。

    つまり、ザイール=エメリが代表への道をつかむには、責任を負うことになるのだ。堅実なプレーをし、得点しなければならない。走りまわり、長所を発揮する。それが出来れば、来年の夏のユーロで本当に重要な試合が行われるとき、先発メンバーに選ばれるだけの選手になれるかもしれない。そして彼がもしそこまで到達することができたなら、その影響力は甚大なものとなるだろう。