Xavi Simons Kylian Mbappe GFXGetty/GOAL

キリアン・エンバペ後のPSGの顔は…RBライプツィヒにレンタル中のシャビ・シモンズにかかる期待

キリアン・エンバペはレアル・マドリーに気がある――ずいぶん前からずっと。このメロドラマは今のところ紆余曲折だが、おそらくバルデベバス(レアル・マドリーの練習場)のチャンピオンズリーグのトロフィーが飾られている壁の前に、エンバペが満面の笑みを浮かべて立つことで収束するだろう。フロレンティーノ・ペレス会長やカルロ・アンチェロッティ監督らが、毎年輝かしい成功を収められるという夢を見られるのが確実である一方、パリ・サンジェルマンは歴代最高ストライカーを失うという現実に立ち向かわなければならない。

その主な理由は、エンバペの代わりが見つからないことにある。だが、PSGは変われる。昨シーズン、フットボール・アドバイザーのルイス・カンポスは、12人の選手を新しく加入させた。そのすべてが、エンバペが去った後のフランスの首都の未来に待ち受ける打撃を和らげるための契約だった。

だが、その中で最大の新加入選手は2023年に戻ってきて以来、PSGの試合に出ていない選手であるかもしれない。RBライプツィヒの司令塔シャビ・シモンズは規約上、現在はPSGからドイツへレンタル移籍されているが、この夏にはきっと正式にパリに戻ってくるだろう。

PSGから2シーズン離れていた20歳の若者は、エンバペ後のPSGにとって最後のピースとなるだろう。チームの顔にとって代わり、ヨーロッパ最大の舞台で活躍しつづける準備ができている選手だ。

  • Xavi Simons 12012018

    ラ・マシア育ち

    シモンズのサッカー選手としてのキャリアは常に成功だったわけではない。まだ20歳だが、数年前からエキサイティングなストライカーだとみなされている。アムステルダムで生まれたシモンズは3歳でスペイン南東部に移った。7歳になる頃にはバルセロナから注目されるようになり、後にゴールデン・ボーイ賞を受賞したガビとともに、同世代最高の選手のひとりとなった。

    成長するにつれ、幼いころからの騒ぎが大きくなっていった。子ども時代のシモンズはロナウジーニョやネイマールとCMに出演し、バルサのファンは彼の名前を聞いただけで興奮した(そう、彼のシャビという名前は、あの有名なミッドフィルダーにちなんで名づけられたのだ)。あるSNSのアカウントは、その興奮ぶりを「控えめな」言葉で要約している。

    「(アンドレス・)イニエスタのようにドリブルし、(リオネル・)メッシのように賞を総なめにし、顔はロナウジーニョ似、髪型は(カルレス・)プジョル似、国籍は(ヨハン・)クライフと同じ、その名はシャビ」

    シモンズがバルサのトップチームのピッチに立つことはなかった。12歳のときにチェルシーがロンドンに連れてこようとしたが、断られた。彼が最終的にカタルーニャ地方を出たのは、2019年にスーパー代理人ミノ・ライオラと契約した時だった。

    報道によると、バルサはシモンズにフベニールA(U19)のスターになれると確約し、トップチームへの昇格も匂わせた。だが、メッシのことが邪魔をし、ライオラがヨーロッパ中に宣伝して関心を引いたこともあって、シモンズはPSGと3年契約を結んだ。16歳の時の年収は100万ユーロ(約1億6,000万円)だったという報道もある。バルサ時代はたった13万ユーロ(約2,000万円)で、当時からワールドクラスの選手になることが確実視されていた選手にしては少額だった。

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  • Xavi Simons PSG 2021/22Getty

    パリでの不安定な生活

    PSGではコンスタントに試合に出ることはかなわなかった――少なくとも加入当初は。最初のシーズンはPSGのアカデミー・システムの中で過ごした。PSGは16歳のシモンズをU19のチームに起用し、サッカーに集中するのに十分な余地を与えたのだ。

    スポットライトから離れた時間を過ごしたことのなかった10代の選手にとって、それは貴重な成長の時間であった。当時のPSGは、ネイマールとエンバペの馬鹿げた行動がトップチームを支配し、大騒ぎの渦中にいた。シモンズはインスタグラムのフォロワーが400万人を超えており、PSGに来たばかりの彼を期待を込めて見つめる人々もいたが、なんとか成長に必要な貴重な時間を確保していた。

    それでも希望は高いままで、2020年のプレシーズンにはPSGのトップチームと一緒に練習し、8月の親善試合でデビューした。2021年初頭までにはPSGのベンチに座るようになり、世界的スーパースターが勢ぞろいする中に割って入るチャンスをうかがっていた。その年の2月、プロデビューを果たし、ほどなくリーグ・アンにも出場した。2021年の夏までには、シモンズはトップチーム定着への道をひたすら進んでいた。特に当時のマウリシオ・ポチェッティーノ監督は、チーム内におけるシモンズに特別な役割を浮き彫りにした。

    しかし、それはまったくうまくいなかった。シモンズは2021-22シーズンの大半をベンチで過ごした。シーズン終了までに彼がピッチに立った時間は300分を超える程度で、プロとして得点することはかなわなかった。

  • Xavi Simons Eindhoven 2022Getty

    PSVでの躍進

    シモンズには逃げ道が必要であり、PSVがそれを提供した。再び、スポットライトを避けてサッカーをするチャンスが与えられた。国内でもヨーロッパの舞台でも優勝候補に挙げられることは滅多にないPSVのチームで、中心となる歯車のひとつとして活躍した。シモンズがチームを牽引し、ルート・ファン・ニステルローイ監督のチームは躍動した。シモンズは全公式戦で22得点と12以上のアシストをあげ、コーディ・ガクポとのコンビで、穴だらけのチームをエールディヴィジの2位フィニッシュに導いたのだ。

    PSVにとってシモンズは触媒だった。その巧みなドリブルで相手チームを恐れさせ、ペナルティーエリア付近で気の利いたパスを出して、チームメイトに決めさせることができた。それこそが、最初はバルセロナ、後にPSGが彼に期待したことだった。

    「この年齢では、必ずしもスペシャリストではない」と、PSVのアシスト・コーチ、フレット・ルッテンは2023年6月に『The Athletic』で言った。

    「将来的には背番号10のようなプレーができるようになると思う。だが、彼はゴールが決められる背番号10以上の選手だ。ボックス内でも、素早くカウンターアタックに転じる時にも、テクニックに優れているし、本当に危険な選手だ」

    シモンズは絶好調で、はっきりした将来の姿が見えていた。オランダのトップチームでも活躍すると、プレミアリーグやブンデスリーガのクラブへの移籍が取りざたされるようになった。しかしながら、ほどなくPSGへの復帰が明らかになった。彼の契約には、フランス王者へ復帰させる条項が入っていたのである。ほんの数カ月前には、フリーエージェントとしてPSGを出たというのに。

    「あの条項は僕とPSVの間のことで、僕とパリ・サンジェルマンのことではない。あれは、僕がPSGに行きたいと思ったら、シーズン終了時に一定の金額と引き換えに行くことができるというものだ」と、シモンズは説明した。

    「正直言って、僕はチームを去る気はない。僕はここに根付いている。そのことはピッチを見ればわかると思う。僕はここにフリーエージェントとしてやってきた。だから僕は誰にも義務を負っていない。僕は自分で選択ができる人間だ」

    この件に関して、シモンズには発言権があったのかもしれない。だが、PSGの買戻し条項が非常に低価格であることを言いそびれていた。実際、取引は市場価格を下回る価格で行なわれた。その後、PSGはまったく躊躇せず、世界で最も輝かしい才能の持ち主のひとりを、たった600万ユーロ(約9億6,700万円)でパルク・デ・プランスに連れ戻したのである。

  • Xavi Simons RB Leipzig 2023-24Getty

    その後のライプツィヒでの成長

    シモンズは昨年の夏パリに戻ったが、メッシとネイマールが出ていってもPSGにはまだエンバペがおり、チームは前線の残りのポジションの再編成に忙しいという現実を突きつけられただけだった。そのためシモンズは4年契約を締結してすぐに、ライプツィヒへのレンタル移籍の交渉に入った。

    プレーの質を上げることで、シモンズは新しいレベルに到達した。今シーズンのブンデスリーガで最もインパクトのある選手の仲間入りをしたのだ。全公式戦で16得点を決めて名をあげ、アシスト数はライプツィヒでトップである。

    このところ、4-2-2-2のフォーメーションで攻撃的ミッドフィルダーを務めており、ライン間を自在に動きまわり、ボックスの端のあたりを飛びまわっている。同じラ・マシア出身のダニ・オルモと連携してたびたび破壊的な力を発揮し、マルコ・ローゼ監督のピッチを広く使う攻撃の触媒となっている。予測不能で寡黙なドリブラーであるシモンズは、易々とキラーパスを供給できる洗練されたパサーとなっている。

    しかしながら、シモンズはハイライト動画を編集する価値のある選手である。レッドスター・ベオグラード戦で、25ヤード(約23メートル)の距離からゴールの上隅にシュートを叩きこみ、これまでのチャンピオンズリーグで最も記憶に残る得点のひとつを決めた。1月にはブンデスリーガの月間最優秀ゴールも決めたが、これは、身体を反転させてボレーシュートを決めたもので、レヴァークーゼン戦の先制点であった。チャンピオンズリーグのベスト16で対戦するレアル・マドリーにとって最も危険な選手であることは間違いなく、13日(火)にドイツで行なわれた第1戦ではフル出場を果たした。

  • Kylian Mbappe PSG 2023-24Getty

    エンバペのいないPSGにどうフィットするか

    この夏、シモンズはPSGに戻るだろうが、どのようにチームにフィットするかを考えると、スムーズにはいかない可能性が高い。エンバペが出ていったとしても、必ずしもチーム内にシモンズの明白な居場所があるわけではないのだ。

    ルイス・エンリケ監督は今シーズン、かなり定期的にシステムをいじっている。試合ごとにフォーメーションを4-3-3、4-2-4、4-2-2-2に変えているのだ。ところがポジションは可変的でも、戦術はかなり一貫している。PSGは前へ素早くボールを出す戦術で、中盤の選手たちは縦パスを出した後はポジションをキープし、2トップと2ウイングが前線で魔術を披露する。つまり、創造的な攻撃的ミッドフィルダーのシモンズがはまる余地は本当にないのだ。

    昨年の夏にPSGに加入したイ・ガンインは同じようなタイプの選手だが、ボックス・トゥ・ボックスのミッドフィルダーとしてハードワークを強いられ、リーグ・アンで1ゴール2アシストしか決めていない。シモンズも同じ運命をたどる可能性が高いだろう。

    しかしながら、ある意味においては希望がある。シモンズはまだ若いのだ。PSGに再加入する頃には21歳になっているが、おそらく、もっとダイレクトなワイドの選手になれるだろう。実際、彼はその多才さゆえに、しばしばPSVで非常に貴重な存在となった。すべての期待を確実に上回り、エキサイティングで破壊的な存在になれたのも、それが理由の一端である。エンバペが出ていけば、確実に左サイドのポジションが空く。そこにシモンズはフィットできるだろう。

  • Zaire EmeryGetty Images

    若手のリーダーになれるか

    去年の夏、一貫した戦略なしに攻撃的選手を大量に獲得すべく、何億ものカネを使ったPSGはカオスに陥ったが、若手に集中していたことは明確だった。12人の新加入選手のうち、6人が25歳以下だった。先月コリンチャンスから加入したガブリエウ・モスカルドは、まだ18歳だ。新加入選手が大勢いることを考えると、当たりはずれが出てくるだろうが、全体的に見て、ルイス・エンリケ監督は非常に若いチームを指揮している。

    これは希望の灯だ。ウォーレン・ザイール・エメリは今後長きにわたって中盤の中央で先発メンバーとなる才能の持ち主だし、ランダル・コロ・ムアニ、ゴンサロ・ラモス、ブラッドリー・バルコラはみな、程度はさまざまながら、攻撃的エリアでの将来性を感じさせる。中央におけるエンバペの狂気を無視しながら、PSGは過去6カ月、ひっそりとチームの再建のようなものを進めてきている。

    PSGに復帰すれば、シモンズにはこうした世代をリードするチャンスがある。ヨーロッパの巨人のひとつで先発メンバーとなるにはチームに順応する時間が必要だろうが、ザイール・エメリが後ろに、コロ・ムアニが前にいて、ルイス・エンリケ監督がサイドラインから指示を出すチームは、それほど時間をかけずに最高のチームとなれるはずだ。エンバペ後の未来は、突如として、それほど恐ろしいものではなくなるだろう。