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PSGの計画は完全に崩壊。QSIが19億ユーロという大金を費やすも…またもCLに届かず

またしてもチャンピオンズリーグで屈辱の敗退を喫したパリ・サンジェルマンに、気まずい質問が投げかけられたのは当然のことだった。PSGの計画の当事者たちにとって、これ以上気分を害することはなかった。

トータル2対0でボルシア・ドルトムントに敗戦を喫し、チャンピオンズリーグ敗退が決まった後、エンバペは、レアル・マドリーとバイエルン・ミュンヘンのどちらが決勝に進出すると思うかと尋ねられた。レアル・マドリー行きが決まっているフォワードは目を丸くして歩き去ったが、おそらく自分以外の誰かが、最も不適切なタイミングであえてレアル・マドリーの話を持ちだしたことに腹を立てたのだろう。

一方、ルイス・エンリケ監督をクビにする可能性を問われたPSGのナーセル・アル=ケライフィ会長はエンバペよりもはるかにイライラしていた。

「本気でそんなことを訊くのか?」と、PSG会長は息巻いた。

「まったく、君はサッカーがどういうものかちゃんと理解しているのかね」。

それはまさに、アル=ヘライフィー会長が自分自身、または取り巻きたちに問いかけたかった質問だったのかもしれない。

2011年、カタール・スポーツ・インベストメント(QSI)がパルク・デ・プランスで実権を握って以来、PSGはおよそ19億ユーロ(約3,185億円)という大金を費やしてきた。にもかかわらず、未だにチャンピオンズリーグのタイトルを獲得できずにいる。

スーパースターたちを集めてもダメだった。エンバペ中心のチームを作ってもダメだった。では次にどうする。過剰投資やヨーロッパでは勝てないというジンクスから逃れられなくなった「内紛中の」クラブには、現実的な危機が迫っているのではないのか。

  • Nasser Al-Khelaifi Getty Images

    ピッチ外では成功、ピッチ上では失敗

    経済的に見ればQSIは過去13年間、PSGで大成功したと言える。わずか7,000万ユーロ(約117億円)で獲得したクラブが、今や資産価値42億5,000万ユーロ(約7,127億円)となったのだ。その成長の中心人物はアル=ケライフィ会長で、PSGを最新のデロイト・フットボール・マネー・リーグ(サッカークラブの収入における長者番付)で3位に押し上げた。

    彼は大局的に考えながら、細部まで細心の注意を払うことで有名である。エアジョーダンと数百万ユーロの取引をする一方で、パルク・デ・プランスのVIP席にケータリングする業者を自分で選んだりもするのだ。

    しかしながら、アル=ケライフィ会長は、PSGの計画の信頼性を高めるため、常にピッチ上での成功をひどく気にしていた。そのため、チャンピオンズリーグでの勝利は常に最重要課題だった。2014年、『レキップ』紙でのインタビューで、4年以内に優勝してみせると約束さえしていた。だが、それは果たされなかった。5年以上経った今でも果たされていない。そしてその責任はPSG自身にある。

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  • Lionel Messi PSG 2022-23Getty Images

    「メッシとはマーケティング契約」

    振り返ってみると、2011年にPSGの会長として初めてメディアに現れたアル=ケライフィは、クラブの目的はリオネル・メッシのような現役のスーパースターと契約することではなく、次世代の宝石を発掘することだと主張した。それから残念な10年が過ぎ、PSGは34歳のアルゼンチン代表FWと巨額の契約を交わした。

    これ以上にPSGの自暴自棄ぶり――もしくは、サポーターが軽蔑するようになる高給取りの選手への不健全な執着――を示すものはないだろう。実際ファンの目には、メッシは天才であるがゆえに、PSGが抱える問題を具現化しているように見えていた。

    2023年夏、このワールドカップ優勝者とのあまり嬉しくない別れの後で、PSGに失望したあるサポーターがGOALにこう語った。

    「メッシとはスポーツ選手との契約というより、マーケティング契約だった。メッシは結局、この3、4年で我々がQSIの計画について嫌いになったことすべてを象徴していた」

  • Neymar Kylian Mbappe PSGGetty

    ネイマールとエンバペ:友人から敵へ

    もちろんすべては2017年、ネイマールとエンバペが揃って加入するというセンセーショナルな移籍から始まった。PSGは2件連続でサッカー史上最高の契約を交わし、サッカー界に衝撃をもたらしたのである。この攻撃的なコンビは、PSGを約束の地にあともう少しというところまで導いた。だが、当時トーマス・トゥヘルが率いていたPSGは、2020年のチャンピオンズリーグ決勝でバイエルン・ミュンヘンに敗れた。辛辣な終わり方だった。

    友人だったネイマールとエンバペは対立するようになり、更衣室の中は分裂した。その結果、2021年夏に再び衝撃的な移籍が行われた。メッシがフリーで加入したのみならず、ジジ・ドンナルンマ、セルヒオ・ラモス、ジニ・ワイナルドゥムもやってきた。だがPSGは実績ある選手たちを集めても一線を超えることができず、監督を代えても違う結果を出すことはできなかった。

    ウナイ・エメリが『レキップ』紙のインタビューで指摘したとおり、PSGの監督を務めた3人、エメリとカルロ・アンチェロッティ、トーマス・トゥヘルは、2021-22シーズンのチャンピオンズリーグの準々決勝に進出したチームの監督でもあった。エメリはこう言った。

    「つまり、この3人はみんな優秀な監督なんだ。それなのにPSGを勝たせられなかったのは、他に問題があったからだ…」

  • Kylian Mbappe PSG 2023-24Getty Images

    「エンバペ中心のチーム構築は困難」

    元スポーツ・ディレクターのレオナルドは、後にこう結論づけた。ますます子どもじみてきたエンバペこそが、パルク・デ・プランスの問題の一部どころか大部分であったのだ、と。

    「PSGのために、私は何にせよエンバペが去るべき時がきたと思う」と、2023年にルイス・カンポスの後任としてスポーツ・ディレクターになったレオナルドは『レキップ』紙のインタビューで語った。

    「パリ・サンジェルマンはキリアン・エンバペが来る前から存在し、彼が去った後も存在する」

    「エンバペはパリに6年間いた。その6シーズンの間に、5つの異なるクラブがチャンピオンズリーグを制した(2018年と2022年はレアル・マドリー、2019年はリヴァプール、2020年はバイエルン・ミュンヘン、2021年はチェルシー、2023年はマンチェスター・シティ)。どのチームにもエンバペはいなかった。つまり、彼なしでもチャンピオンズリーグを優勝することは、まったくもって可能だということだ」

    「過去2年間の彼の行動を見ると、キリアンは真にチームを牽引する力のある選手ではないように見える。彼は偉大な選手だが、リーダー向きではない。彼を中心としたチームの構築は難しい」

    それでもPSGはそれをやろうとした。

  • Nasser Al-Khelaifi Kylian Mbappe PSGGetty

    事実上のスポーツ・ディレクター

    PSGはネイマールと権力争いを繰り広げたエンバペを徹底的に支持した。エンバペをクラブの事実上のスポーツ・ディレクターにするつもりはないと常に言っていたが、昨年夏の契約の多くがエンバペを意識したものであることは明白だった。その最たる例がウスマン・デンベレとランダル・コロ・ムアニだ。

    だが、この新しい戦略はうまくいかなかった。チャンピオンズリーグのタイトルは取れず、エンバペがパリに残るという確約もとれなかった。当然、このフランス代表FWをあまりにも長く甘やかしすぎたのではないか、金銭面でもイメージ戦略においても、クラブは甚大な影響を受けてしまったと思われるようになった。

    事実、エンバペは以前、PSGが「キリアン・サンジェルマン」ではないと主張したことがあるが、ずいぶん前からそう思われるようになっている。25歳の若者は、なにより雇い主たちが彼を特別扱いした結果、クラブよりも偉大な存在に見られるようになってしまった。

  • Mbappe PSGGetty

    エンバペなしの「明るい未来」

    火曜のドルトムント戦で敗れた後、アル=ケライフィ会長は大胆にもこう言った。

    「我々はヨーロッパで最も若いチームを長期的に構築している最中である。未来は明るい。我々は進み続ける」

    そしてこのことは、ホームでドルトムントに1対0で敗れた後、ルイス・エンリケ監督の選手たちにエールを送った、フラストレーションの溜まったファンたちの支持を得ているようだ。おそらくファンたちは、クラブが立ち直ってくれそうだと、QSIはようやく間違いに気づいてくれたと感じているに違いない。

    だが、簡単には隠しきれない事実がある。ポンディ出身で世界最高選手となったエンバペは、フランスの首都パリの新時代を象徴する存在になるべきだったのになれなかったという事実だ。そしてそれは、PSGのオーナーたちが、自分たちで作りあげたモンスターをまったく管理できなかったことを示している。

    今や、アル=ケライフィ会長自身が言った「クラブの計画の礎石」を失い、QSIの組織全体が崩壊する危険が現実となりつつある。結局のところ、PSGは1970年に結成されたクラブの知名度を上げるために、常にビッグネームに大きく依存してきた。リーグ・アンはヨーロッパの他のリーグほど人気もないし収入もない。それは何より、国家に守られてきたPSGが底なしのオイルマネーを使って、リーグ・アンを独走レースのリーグに変えてしまったからである。その結果、PSGは観客やスポンサーをひきつけるために、ズラタン・イブラヒモヴィッチやデビッド・ベッカムのような選手を常に必要とするようになった。

    クラブのSNSのフォロワー数はネイマール、エンバペ、メッシがいた時がピークだった。ところが来シーズンが始まる時、この中の誰もパルク・デ・プランスに残っていない。では今後PSGはどうなるのか。アル=ケライフィとその一党にとって、不愉快きわまりない質問、それはエンバペのいないPSGを本気で気にする人が何人いるのかということである。