Lionel-Messi(C)Getty Images

メッシの謹慎早期解除が意味するもの。PSGは依然としてスーパースターに支配されている

一本の謝罪動画で十分だった。うつろな表情のリオネル・メッシはカメラ目線で無色の壁の前に立ち、クリスプのスーツを着ていた。38秒の動画の中で、メッシはチームメイトに謝罪。2週間の謹慎の理由となったサウジアラビアへの渡航については自己弁護に終わった。

パリ・サンジェルマンにとっては、これで十分だったようだ。月曜日、メッシはひとりでクラブの施設で練習していた。火曜日にはチーム練習に参加。クラブの命令を意図的に無視してから1週間も経たないうちに、メッシは復帰したのだ。

メッシの早期復帰はPSGにとって混乱のシーズンにおける、またしてもトピックになる瞬間であった。まったく予想どおりだが同時に失望させる行為であり、これもまた、クラブが選手をまったく管理できていないことを露わにしたにすぎない。

今回の謹慎処分で、PSGは選手に対して強く出られることを示すことができたはずだったのだが…。

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    予想されていたこと

    今回のことはおそらく、PSGに対して少々アンフェアであった。PSGは決して簡単にメッシを謹慎させようとしたのではない。実際、メッシを出場停止にするのはほとんど不可能だった。メッシはある意味でクラブよりも偉大だ。パルク・デ・プランスにも大勢のファンがいるし、SNSのフォロワーも多い。

    それはPSGにとっても、必ずしも新しいことではない。シーズンチケット更新の動画でキャンペーンを主導したキリアン・エンバペを見れば、彼もまた絶大な影響力を持っていることは明らかだ。インスタグラムのストーリーに投稿された4行のテキストで恥をかかされたことが明らかになるまでは。

    メッシとなれば管理はさらに難しくなる。エンバペは少なくとももう1年はチームにいるだろう。エンバペはフランス生まれだし、クラブのキャプテンのひとりだ。この夏には終了しない契約で守られてもいる。おふざけはあっても、PSGのファンから絶賛されている。

    だが、PSGに対するメッシは違う。誰もが、メッシは初恋の相手であるバルセロナを決して離れたくなかったはずだったことを理解している。事実、可能ならば戻りたいと思っているのだ。メッシはワールドカップに優勝し、バロンドールを7回も受賞している。

    PSGの方も、単にそれを受け入れるだけではない。どんなクラブも、スーパースターを何とかして管理しているふりをしようとするものだ。PSGはメッシと契約して彼を広告塔にし、彼の背番号の入ったユニフォームを何百万枚と売ることで、その責任を負うことになる。メッシを選手として、商品として、マーケティングの道具として所有しているのだ。

    だが、メッシの移籍がPSGにもたらした、そうしたマス・アピールや成果は、おそらくピッチ上でのメッシのプレーとは、わずかながらずれがあった。今週、PSGは予想に反してマーケティング・アビールに屈することとなった。

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  • Lionel Messi Paris Saint-Germain 2022-23Getty

    PSGがしてきたこと

    今、メッシを復帰させる本当の理由はない。PSGは数週間前からリーグ・アン優勝を確実なものにしているし、メッシがタイトル獲得のために自身の役割を果たしてきたことも明らかだ。リーグが終盤になって、手堅いパフォーマンスがものをいう時期になってきている。理想を言えば、クリストフ・ガルティエ監督は17歳のワレン・ザイール=エメリやエル・シャダイル・ビチャーブといった次世代のスターに時間を与えてもいいかもしれない。

    たとえばセルヒオ・ラモスのように、新契約の準備をしている選手たちもいる。彼らはピッチに立ちたいと思っているだろう。だが、この点について、PSGはパフォーマンス全体に基づいて決めておくべきだった。

    PSGの今後の対戦相手を見れば、より明確だ。PSGがリーグ最終盤に当たるのはアジャクシオ、オセール、ストラスブール、クレルモンで、この4チームはすべて順位表の下位のチーム。つまり、試合上のメリットから言えば、PSGにとって、あるいはメッシ自身にとっても、このスターが欠場することは大きな問題にはならない。

  • Messi GaltierGetty

    すべてがショー

    PSGは賭けに出た。PSGは誰かを見せしめにしなければならない立場にいる。リーグ・アンの首位にいながら、PSGの2023年はみじめな年である。チャンピオンズリーグやクープ・ドゥ・フランスでは早々と敗退し、リーグ優勝への道のりも何度もつまずきがあった。

    チームは力強さや攻撃性に欠けていた。練習に参加すべきときに飛行機に乗っているような選手は、それがメッシであろうと他の誰であろうと、PSGはそうした行為を厳しく罰するべきだった。

    これはかなり深刻な話でもあった。メッシはクラブから何のコメントもなく、ぞんざいに処分を受けた。先週の木曜日、記者会見で質問されたクリストフ・ガルティエ監督は何も言わなかった。外野ではメッシは試合に出られないだけでなく、練習にも参加できず、クラブの施設に入ることすらできないといわれていた。ところが、月曜日、練習場に、PSGの練習着をすべてまとったメッシの姿があった。クラブからは何のコメントもなかったが、メッシが復帰したことは明らかだった。どう見ても、メッシは日曜の試合に出るとしか思えない。

    おそらくこれまで、何十億もの金を集めるための渡航は注意や罰金だけで許されるものだったのだろう。ただ、PSGはすぐに、要するに具体的な罰を与えたふりをしたわけである。それから突然、これ以上は何もしないと認めたのだ。

  • PSG FANSGetty Images

    ファンは納得したのか?

    そして、今回はファンも大事な役割を果たした。メッシの渡航について、PSGのウルトラスから抗議の波が起こった。パリのクラブの本部前には抗議の一団が集まり、汚い言葉を使って、メッシ追放を要求した。ネイマールに対しては礼儀正しくクラブを去るように促し、ナーセル・アル=ヘライフィ代表の退陣も狙っていた。

    パルク・デ・プランスではしばらく前から緊張状態が続いていた。ファンは2月からメッシに対してブーイングし、ののしっていた。ネイマールは批判の対象にすらならないでいた。

    メッシをなだめたところで事態が解決しないことは明らかである。そうしたところで、幻滅したファンのさらなる怒りを買うだけだろう。怒れる集団に、この最終決定にどう反応するか調整する時間を6日間与えたところで、彼らの不満を沈める効果はわずかしかないと思われる。

  • Lionel Messi PSG Lyon 2022-23Getty Images

    予想どおり

    PSGが世界的スーパースターとトラブルになるのは、これが初めてではない。PSGには、ビッグネームと契約して、トラブルになる状況に自ら近づこうとする癖がある。

    だが、メッシは違うと思われていた。バルセロナでは、メッシは完璧な優等生であるとの都市伝説があったのだ。だが、メッシは必ずしも杓子定規なことをする必要がなかった――今回の場合は。PSGとしては罰を与え、世界的に最も有名な選手たちとの間でしばしば起こる問題を解決できることを示す機会だった。

    それなのに、いつものパターンに陥った。メッシは、謝罪したともいえないような1分にも満たない謝罪で許され、二度とプレーすることを許されないといわれていたはずのチームに復帰したのである。

    PSGが冷静だったのは5日間だけだった。その後、いつもの、予想どおりのクラブに戻ってしまったのだ。