PSG UCL GFX

メッシとネイマールが抜けたPSGだがバランスは向上。悲願のチャンピオンズリーグ制覇なるか

昨シーズン、PSGが敗退したときTVの生中継をしていたジェイミー・キャラガーは大笑いした。スペインの『マルカ』紙は、バイエルン・ミュンヘンをPSGに対して「良すぎた」とだけ評したのだ。PSGについて最も議論をふっかける強烈な新聞であるフランスの『レキップ』紙は、PSGは「負けるのが文化だ」と言った。

こうした文章をあらかじめ書いておいて、上手に笑えるよう練習をし、考えをまとめる準備ができるチャンスがまた始まろうとしている。だが、今シーズンのパリは興味深いことがそこはかとなく醸しだされようともしている。PSGはもはや、スーパースターや巨大メディアに操られるだけのものではなくなった。今やそこに独立性のかけらが見える。PSGの監督はそう、少し意地の悪いことで有名なあの男だ。PSGはこの夏新たに10人の選手と契約したが、そこにはフリーエージェントも含まれており、1人をのぞいて全員が27歳以下。これは現状からの大いなる脱却を意味している。

例年、素晴らしい才能にあふれた選手たちがいるPSGにとって、リーグ・アン優勝のために必要なことをするのは当然のことである。昨シーズンは優勝できなくても当たり前のようなことばかり起こったが、絶好調のキリアン・エンバペがクラブの上層部と再びうまくやるようになり、何とか優勝できたのだった。

しかし、本当の試練はチャンピオンズリーグである。比較的競争力の低いリーグでプレーしているPSGの成功は、国外での試合で評価されがちと言えるかもしれない。国内でのPSGは本当の意味での挑戦をしていない。海外に目を向けなければならないのだ。だからこそ、PSGは新しいチームとなって再び、今まではたどり着くことのできなかった場所に――もっと正確に言えば、それ以上の場所に――進もうとしている。

  • Lionel Messi Neymar PSGGetty

    成功の評価基準

    PSGが本当に欲しいものを手にする道のりは険しい。他のチーム同様、大会制覇を欲していることは間違いない。初出場のウニオン・ベルリンですらトロフィーを掲げることができるならそれに越したことはないと思っているだろう。しかし、この大会は現実的な期待が反映されるべき、予想しやすい大会になってきている。レアル・マドリーは過去10回のうち5回も決勝を戦っており、ヨーロッパの五大リーグ以外から出場したチームが準決勝にたどりついたのは、ここ10年でたった1チームしかない。PSGはビッグクラブだが、ここしばらく蚊帳の外にいる。

    事実、昨年の準決勝に進出したミランとインテルはまったくの例外で、予想されていた成功というより面白い物語だった。この大会はしかるべき競争者になるのが非常に難しい大会なのである。勝ち進むとは思えないようなチームでも、それが由緒正しいチームなら何とか勝ち進む。2022年のレアル・マドリーは、ほとんどの試合で負けるほうに予想されていたのに優勝した。それが神の力によるものなのか、ただの偶然なのか、それともカリム・ベンゼマの右足のおかげなのかはわからないが、とにかくレアル・マドリーは優勝にたどりついたのだ。

    となれば、リオネル・メッシやネイマールがいなくなったPSGへの期待がやや下がるのは当然である。PSGは例年に比べ非常に良いチームとなり、バランスのとれた、組織化された面白いチームになったように見える。だが、ヨーロッパのサッカーはスター選手次第であることが多々ある。そして今のPSGには、3人いたスーパースターのうち1人しかいない。ただし、長年チームを傷つけてきた権力争いは解消された。

    このことは、サッカー界の視点から見ればこれまでのところは確かに助けになっている。プレッシャーという点においても有益かもしれない。チャンピオンズリーグは毎年、初めてのようにファンやメディア、X(旧ツイッター)のファンがフランスの外からPSGとやりあう傾向がある。ここ数年、PSGは悪評ばかりが目立っており、アウェーでナントに3対0で勝利したときの相対的なパフォーマンスなどは評価されていない。

    だから、チャンピオンズリーグでの結果に関しては、ヨーロッパは期待しているのである。メッシやネイマールは常に勝者であり、あれほど才能のある選手にとって、優勝以外の結果は敗北である。たとえば、ランダル・コロ・ムアニが、PSGをチャンピオンズリーグ制覇に導くことが出来なくとも、彼を批判する人は皆無だと言っていいだろう。数年ぶりに、今はPSGが負けてもよい余地があるのだ。

  • 広告
  • Luis Enrique BarcelonaGetty

    ルイス・エンリケのノックアウト方式での戦い方

    だからと言って、PSGの監督が敗北を許されるというわけではない。ルイス・エンリケ監督は、ノックアウト方式の試合での戦い方をいくつももっている。ワールドカップやユーロでスペイン代表を率い、バルセロナの監督時代には3度チャンピオンズリーグを戦った。8年前に自由奔放なサッカーでバルセロナをヨーロッパ・チャンピオンに導き、完璧なシステムでチームをまとめ、メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールを率いて他のヨーロッパのチームを倒していった。バイエルン・ミュンヘンは合計5対3で倒し、PSGに対しては5対1からの逆転勝利を飾り、決勝ではユヴェントスを3対1で楽々と下したのだった。

    だが、それ以後のエンリケ監督のチャンピオンズリーグでの戦いぶりには評価が分かれる。その後も2シーズン、バルセロナの指揮を執っていたが、その間ベスト8以上に進んだことはなかった。スペイン代表監督としての評価はさらに複雑で、母国の代表を監督している間、彼は決して本当には納得してはいなかった。ちょうど困難な時代に当たっており、主要大会を立て続けに3つ制覇したスペイン代表の「黄金世代」は、みな引退したり高齢化したりしていた一方、ガビやペドリをはじめとする素晴らしい才能あふれる若者たちはまだ成熟していなかった。

    今やPSGの監督となったエンリケは、いささかありがたいことに、決定的瞬間に仕事をするトップクラスのストライカーがいないと主張することができる。だが、現実はもっと複雑だ。ルイス・エンリケ監督は、ある程度改造し、刷新したところでそれほど印象的ではないティキ・タカの熱心な信奉者だ。PSGは相手がボールを持っているときにプレスをかけるが、それはポゼッションをしなければならないからに他ならない。

    最近のほとんどの監督たちは、サッカーとはスペースをコントロールするスポーツだと考えている。右サイドでボールを奪ったら突進していくのだ。だがルイス・エンリケ監督は、ボールをキープすることを好む。彼のサッカー哲学は猪突猛進ではない。そしてそれは、才能ある選手であふれているスペイン代表が、主要大会の決勝にたどりつけなかった理由であるとも言える。パスをするのに慎重すぎ、正しい角度を完璧に探しすぎ、ボールを殺してしまう。ノックアウト・ステージで戦うときには、戦術的な適応力が重要になるが、PSGにはまさにそれがない。その報いを受ける可能性がある。

  • Borussia Dortmund yellow wall Signal Iduna ParkGetty

    「死の組」

    PSGが決勝トーナメントに進出できるかどうかはわからない。今シーズン、PSGは不運にも恐ろしい「死の組」に最も近いところに引きずりこまれている。日程を見ると確かに大変そうだ。PSGが勝ち抜けの有力候補であることは確かだが、対戦相手はボルシア・ドルトムント、ミラン、ニューカッスルという強敵ぞろいである。

    もちろん、すべての試合が激戦とはならないだろう。ジュード・ベリンガムの抜けたドルトムントには、昨年ブンデスリーガ優勝を争ったときほどの力はない。ニューカッスルは、サウジアラビアからの資金援助を初めて1シーズンまるまる受けて大いに潤ったにもかかわらず、プレミアリーグ開始から惨憺たる状態におちいっている。このため、インテルに5対1で大敗したばかりのミランだけが、PSGにとっても最も現実的な敵ということになりそうだ。

    だが、しばしばエリートばかりを重宝するチームにとって、選手の才能だけで充分な期間は限られている。チャンピオンズリーグは各チームが全力でプレーする大会であり、ホーム・アドバンテージが何にも勝ることがある。ニューカッスルはセント・ジェームズ・パークのチャントやブーイングで元気を取り戻すだろうし、ミランは昨年の準決勝と同じ、もしくはそれ以上のことを確実に望んでいるだろう。そして何より、ヴェストファーレンシュタディオンの恐るべき「黄色い壁」の前でプレーしたいと本気で思う敵チームはない。

    つまり、この組は自分たちの実力を究極的に試される、物差しのような組なのだ。PSGがホームで勝ち、アウェーでは少なくとも勝ち点1を取れれば、余裕をもって決勝トーナメントに進出できる可能性が高い。火曜の試合でドルトムントを倒し、セント・ジェームズ・パークでも結果が出せれば、いくばくかの騒ぎを起こせるチームだと充分に示せるだろう。

  • Lyon PSG Ligue 1 03092023Getty

    どう戦って勝つか

    チャンピオンズリーグで優勝するのに特別な方程式などない。だが、過去5回の優勝チームを見るに、いくつかの共通項がありそうだ。まず、すべてのチームが素晴らしくバランスのとれたチームである。何よりも超一流のゴールキーパーがゴール前に立ちはだかっていて、守備に信頼が持てる。さらに、おそらく最も印象的なことに、2021年のチャンピオンズリーグ決勝で得点したカイ・ハヴァーツには申し訳ないが、それを唯一の例外として、少なくとも1人はタイムリーに得点できるエリートのフォワードがチームにいた。

    PSGにも、こうした資質のいくつかがある。ディフェンスはヌーノ・メンデスとアクラフ・ハキミが両サイドに、ミラン・シュクリニアルとマルキーニョスが中央にいて、若さと経験が絶妙にまじりあっている。インテルのファンなら6年間チームにいたシュクリニアルが地球上で最も過小評価されているセンターバックだと主張するだろう。

    中盤には、少し様子が変わるかもしれないが今のところマヌエル・ウガルテとワレン・ザイール=エメリの先発が確実視されているようで、ヴィティーニャ、ファビアン・ルイス、イ・ガンインあたりとトリオを組みそうだ。ここは、PSGにとっておそらく最大の弱点だったエリアだ。PSGにつけいる隙があるとすれば、それはミッドフィルダーの選手層が薄いことである。

    だが、前線に関してはPSGは脅威になりうる。ウスマン・デンベレは一流の右ウイングであり、バルセロナから非常に必要とされて移籍してきた後、ようやくその才能を発揮できるようになった。コロ・ムアニ、ゴンサロ・ラモス、マルコ・アセンシオもみな、中央のオプションとして使える選手である。

    そして、チャンピオンズリーグを制覇するのに必要な選手は、おそらく第三の場所にいる。この夏エンバペはPSGを出ていきそうになったが、少なくとももう1シーズン、パリにいると約束した。チャンピオンズリーグでの成功という目標が、その決断の中心にあるのだろう。エンバペは真に違いを生みだせる選手であり、ゴールを量産するとともにピンチのときに頼れる選手である。ワールドカップの決勝でハットトリックをするのは簡単なことではないが、エンバペはそれを当たり前のようにやってのけた。現代のフォワードで大舞台にうってつけの選手がいるとしたら、それはエンバペだ。

    このように、必要なものはほぼ揃っているが、監督には証明しなければならないことがある。現実的にみてPSGはチャンピオンズリーグの優勝候補ではない。例年どおり、マンチェスター・シティが優勝候補の筆頭だろう。他にも、バイエルン・ミュンヘンやレアル・マドリー、アーセナル、バルセロナといったチームが、PSGよりも有力な優勝候補である。だが、優勝するだけの理由と方法がはっきりしているならば、優勝できる可能性はある。おそらく、そう願う気持ちは充分にあるはずだ。

0