Guardiola De Bruyne Haaland Man City GFXGetty Images

不可解な日程に対するペップの意見は的確。選手への無理強いでサッカーが蝕まれるリスクを考えるべき

ギャリー・リネカーとBBCスポーツの同僚たちは、FAカップ準決勝でマンチェスター・シティがチェルシーを倒した後、ウェンブリーの芝生の上でペップ・グアルディオラ監督と並んで立っていた。彼らはチャンピオンズリーグでレアル・マドリーと死闘を繰り広げて敗退した選手たちが、それを乗り越えてFAカップ決勝進出を決めたことを、監督がどれほど喜んでいるか語るだろうと期待していた。

ところがリネカーはすぐに、自分が矢面に立たされていることに気がついた。グアルディオラ監督は、マンチェスター・Cが前の試合からすぐに試合をしなければならなかったこと、準決勝のもう1試合、日曜に試合が行われたマンチェスター・ユナイテッド対コヴェントリー・シティの両チームは、いずれも平日に試合がなかったことを熱烈に語ったのである。

「まったく受け入れられない」と、マンチェスター・Cの監督は開口一番に言った。「本当に受け入れられない。勝ったから、これを言う勇気が持てた。選手たちの健康を考えればこれは異常なことだ。今日、生き残れたことは信じられない。どうして今日だったのか、明日ではダメだったのか。コヴェントリー、チェルシー、マンチェスター・Uは平日に試合をしていない。シーズン佳境のこの時期に、チェルシーとのこの試合の準備をどうやってしろというのか。不可能だ。どうしようもない」

グアルディオラ監督のスピーチは、わめき散らしているだけのように聞こえたかもしれない。だが、彼には、世界最高の選手たちを傷つけ続ける異常なスケジュールを非難する権利がある。テレビ局や運営組織は彼の言葉を聞く必要がある。潜在的な視聴者を獲得することの方が選手の健康よりも大事だというなら、サッカーは自滅していく危険がある。

  • Kyle Walker Man City 2023-24Getty

    選手たちを傷つける

    マンチェスター・Cは試合に勝ったのだから、グアルディオラ監督の主張は当たらないと言えるかもしれない。だがそれは、チェルシーのニコラス・ジャクソンが決めきれなかったことで運が開けた、ヒヤヒヤものの勝利だった。フランク・ランパード監督は言った。

    「まったくマンチェスター・シティらしくなかった。いつものような素晴らしい足技やプレスの強さ、鋭さ、冷徹さがなかった」

    さらに、ランパード監督はマンチェスター・Cの勝利は「キャラクター」にかかっていたとも言ったが、試合を見ているほとんどの人たちはキャラクターが見たいわけではなく、技術が見たいのだ。選手たちが全力で走り、鋭く切り裂く姿を見たいのである。エネルギッシュで冷徹な姿を。そしてこれこそが、この問題の核心にある矛盾を要約した言葉である。

    テレビ局は最もエキサイティングで出来るかぎり最高の試合を中継したいと思っている。それなのに選手たちが体力を回復できず、最大限の力を発揮してプレーできなければ試合はつまらないものとなり、スタジアムの観客もテレビの視聴者も物足りなく感じることだろう。

    土曜の準決勝の試合は、大部分において退屈な試合だった。日曜のマンチェスター・U対コヴェントリーの素晴らしい試合とは全く対照的だったのだ。もしその前の木曜に試合をしていたら、コヴェントリーはあれほど見事な抵抗を見せることができただろうか。おそらく不可能だったろう。

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  • Julian Alvarez Man City 2023-24Getty

    たった66時間の休息

    選手によって人それぞれであり、20代後半の選手ならばしばしば、30代後半の選手たちよりも過密スケジュールにうまく対処できることがある。しかし、スポーツ科学では選手の筋肉が完全に回復するには最低でも72時間が必要だと言われている。

    ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル誌のある論文によると、パフォーマンスの回復は48時間で可能だが、筋肉を回復させる基本的なメカニズムは72時間まで進行しつづけると言う。つまり、筋肉には試合後まる3日間ダメージが残り続け、72時間経たないうちに再び最大強度で使うことは危険なのである。

    マンチェスター・Cとチェルシーの試合は、マンチェスター・Cとレアル・マドリーの試合から66時間後に始まった。しかも、その試合は今シーズンで最も激しく、最も重要な試合であり、15分ハーフの延長戦とPK戦まで行われた試合であった。

    レアル・マドリーとマンチェスター・Cの試合が延長戦に突入することを、FAがわかっていたわけではない。だが、賭け率の高さや両チームの実力が拮抗していることを考えると、延長戦になっても全く驚くべきことではなかった。それに、たとえ90分で決着がついていたとしても、チェルシー戦前にマンチェスター・Cに与えられた回復のための時間は67時間しかなかった。科学者たちが選手たちに必要としている回復時間に5時間足りないのである。

  • Jack Grealish Man City 2023-24Getty

    「納得できる説明」

    グアルディオラ監督は前半だけでジョン・ストーンズを交代させたが、試合中に大きなケガを負ったわけではない。レアル・マドリー戦で控えに回るのではないかと言われていたアーリング・ハーランドは、筋肉のケガでウェンブリーへの遠征に参加できなかった。治療室が混雑しなかったことはマンチェスター・Cにとって幸運だった。トップレベルのサッカーでは、回復時間が少なければ少ないほどケガ人の数が増えることは因果関係が認められている。

    2023年にチェスター・メトロポリタン大学とエッジ・ヒル大学のスポーツ科学の学者たちが発表した、試合の過密日程がケガに与える影響について体系的にまとめたものにより、一般論として、この期間にケガのリスクが増すことが明らかになったのだ。

    「サッカーの過密日程が選手たちのケガのリスクを増加させることは検証により明らかである」と、論文の調査結果として、マンチェスター・メトロポリタン大学のスポーツ科学およびエリート・パフォーマンスの講師、アダム・フィールド博士は言う。

    「試合間の休息が不足すると、選手たちは回復時間が充分に得られず、その後の試合でケガに影響がでる可能性があるという説明は納得できると我々は考えている」

    「科学的見地から、サッカーの試合における方向転換や急速な加速および減速、スプリントなどが疲労や炎症、筋肉へのダメージにつながることがわかっている。こうした変化により、軟組織のストレスが増し、筋肉が効果的に働く力が低下し、選手の動きを変えてしまう可能性があり、それがケガにつながる可能性がある」

  • Kevin De Bruyne Manchester City 2023-24 sadGetty Images

    デ・ブライネの傷ついたハムストリング

    マンチェスター・Cは昨年、チャンピオンズリーグ決勝のインテル戦でケヴィン・デ・ブライネがハムストリングを損傷したのは、昨年の過密すぎるスケジュールのせいだと思っている。同じことが今シーズンの開幕戦のバーンリー戦でも起き、デ・ブライネは手術を余儀なくされた。

    だが、この話で最も憂慮すべきことは、デ・ブライネが自分のハムストリングが損傷するのは時間の問題だったことを知っていたことである。問題だったのは、彼の筋肉が損傷するかどうかではなく、いつそれが起こるかだったのだ。それにもかかわらず、彼はほぼすべての試合でプレーし続けた。

    「私は2カ月間悩んでいた。しかし私はうまく耐えることができていたし、クラブのおかげで我々はすべてを管理できていた。タイミングが合えばそこにいられるようにできた」と昨年11月、デ・ブライネは述べた。「あの決勝では多くのストレスを抱えていた。ああいう動きのせいで、ケガを少し大きくしてしまう可能性はあった。だが、そんなことは問題ではなかった」

    デ・ブライネは自分のハムストリングを「濡らしたキッチンタオル」になぞらえ、手術を「マイカーでやるような大規模なメンテナンス」にたとえた。デ・ブライネは疲れきり、レアル・マドリー戦では延長戦を戦うことができなかった。

    ストーンズは相次ぐケガでシーズンの大半を棒に振り、ジャック・グリーリッシュも鼠径部の故障で長い間プレーすることができなかった。ロドリのようにプレーを続けられた選手もいるが、そのロドリでさえ今月初め、休養が必要だと主張した。ここ数週間、ロドリはいつものベストからは程遠いように見えるが、それもまた、過密スケジュールの負の影響を示す例である。

  • 20240205 Lisandro Martinez(C)Getty Images

    負傷者が15%増加

    マンチェスター・Cだけがこの問題に苦労しているわけではない。事実、プレミアリーグの他のチームに比べて、マンチェスター・Cはむしろ楽なほうである。マンチェスター・Cの選手で実際に現在チームを離れているのはハーランドだけであり、負傷者数ランキングではグアルディオラ監督のチームはフラムやアーセナルとともに最下位タイである。

    現在、負傷者数ランキングでトップなのはマンチェスター・Uで、12人の選手がプレーできないでいる。ニューカッスルが11人、ブライトンとチェルシーが10人ずつ。合計121人のプレミアリーグの選手が現在プレーできない状態にある。

    選手への負担が増えるにつれ、ますます頻繁にケガが起こるようになっていることは間違いない。始まりは2020年の新型コロナウイルスの世界的流行によりスケジュール調整が困難になったためで、ヨーロッパのリーグ戦のさなかにカタールでワールドカップが開催されたことが拍車をかけた。敵味方関係なく、選手たちに休息の時間はほとんど与えられなかった。

    昨年11月、『プレミア・インジャリー』のサイトで発表されたベン・ディネリの論文によると、今シーズン最初の3カ月で負傷者は196人いた。過去4シーズンと比較して、15%の増加である。最も憂慮すべきはハムストリングのケガが増えていることで、2022-23シーズンと同時期と比べて96%増加しており、4年間の平均と比較しても55%増えている。

  • Pep Guardiola Manchester City 2023-24Getty Images

    ペップの声

    選手の健康に関する論文には希望の光もある。試合と試合との間に回復のための時間を長くとればケガは減り、選手の動きが良くなる可能性があるというのだ。

    「長期的にみて、より持続可能な試合のスケジュールを組めば、選手たちのケガのリスクは減り、現役生活を長くすることができるだろう」と、エッジ・ヒル大学の主任研究員リチャード・ペイジ博士は言う。

    「テレビの放映収入が試合スケジュールの主な決定要因であると主張することはできるが、選手の健康やサッカーの試合の質を維持することについても考えるべきである」

    だが科学者や監督、選手の意見を聞くどころか、サッカーの運営組織は試合の数を増やしている。チャンピオンズリーグは来シーズンから拡大され、すべてのチームが2試合余計にプレーすることとなり、試合数が4試合増えるチームも16チームある。この夏にはEUROやコパ・アメリカが開催され、2025年にはクラブ・ワールドカップが再始動する。さらに2026年には肥大化したワールドカップが39日間にわたって開催されるのだ。

    先週発表され、多くの物議をかもしたFAカップの再試合の廃止も大きな変化をもたらすことはないだろう。グアルディオラ監督は、壁に向かって叫んでいるような気分に違いない。彼もユルゲン・クロップ監督も、何年も前から選手たちへの負担について不満を述べてきた。ミケル・アルテタ監督とエリック・テン・ハーグ監督も、最近は試合数の増加の悪影響を非難しているが、当局の反応と言えば試合数を増やすばかりである。

    一方で、BBCやSky Sports、TNTスポーツといった放送局も、時間枠を選ぶ際に選手の健康をまったく配慮していない。マンチェスター・Cとアーセナルに72時間を待たずに試合をすることを強いている。自己中心的なサッカー界の一部は、多くのファンがグアルディオラ監督の声明を批判し、その嘆きを非難していると言うだろうが、そうでない人々はこの問題に関して団結する必要がある。さもなければ、試合数ばかりが多くて、プレーする選手たちが足りないという事態が起こることだろう。