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アンドレ・オナナを笑うものはもういない。批判の声を黙らせた守護神はマンチェスター・Uのキーマンに

先週末、マンチェスター・ユナイテッドは名誉とは言えない記録を達成したが、それは少なくともあるひとりの人物が好調であることを示すものであった。2対0で辛勝したエヴァートン戦で、エリック・テン・ハーグ監督のチームは23本もシュートを打たれたにもかかわらず、無失点に抑え、2010年以降のプレミアリーグにおける無失点での最多被シュート数記録を樹立したのである。

この数字は、テン・ハーグ監督がチーム全体や穴だらけの中盤を統括する能力に優れていることを示すものではない。トフィーズの枠内シュート6本をセーブしたアンドレ・オナナの優秀さを示すものである。というのも、マンチェスター・Uには別の心配な数字があるのだ。プレミアリーグの過去6試合のうち5試合で20本以上のシュートを打たれているのである。しかしながら、それらの試合において、失点はわずかに5点のみ、2試合は無失点で抑えている。これもまたオナナのおかげと言えよう。

シーズン当初のチーム成績の悪さ、とくにチャンピオンズリーグ敗退が批判されるのは当然だが、その後カメルーン代表オナナの評価は一変した。以前はマンチェスター・Uの苦境の戦犯のひとりと言われていたが、今やオナナはチームの救世主である。時間はかかった。しかし、今やっとオナナは本領を発揮し、胸を張ってゴール前に立っている。

  • Andre Onana Man Utd 2023-24Getty

    雨あられのシュートを防ぎきる

    別のリーグからやってきた選手、特にゴールキーパーが新しいリーグに対応するのは決して簡単なことではない。ダビド・デ・ヘアが、スペインからイングランドにやってきた最初の年、ひどく不安定だったことは有名だ。ピーター・シュマイケルですら、1991年にデンマークのブレンビーから移籍してきた時には歯ぎしりするような困難に見舞われた。オナナは散々否定的な報道をされてきたにもかかわらず、プレミアリーグに見事に適応したのである。

    マンチェスター・UのGKは、今シーズン8試合無失点を記録しており、これを上回るのはアーセナルのダビド・ラヤ(9試合)しかいない。オナナの記録が特に印象的なのは、この間マンチェスター・Uが467本ものシュートを浴びているからで、被シュート数がこれを上回るのは、最下位のシェフィールド・Uだけである。

    しかし、ブレイズことシェフィールド・Uがイングランドのトップリーグでダントツの最多失点数であるのに対し、マンチェスター・Uは39失点で4位タイの少なさである。これより失点が少ないのはアーセナル、リヴァプール、マンチェスター・シティだけなのだ。

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  • Andre Onana Bayern Munich Manchester United 2023-24Getty

    チャンピオンズリーグの悪夢

    興味深いことに、オナナは昨シーズンのチャンピオンズリーグのベスト・ゴールキーパーのひとりであった。13試合で11失点のみ、インテルの決勝進出に貢献したのである。しかしながら、マンチェスター・Uに移籍して戻ってきたチャンピオンズリーグは、最初から最後まで悪夢だった。

    始まりは、不注意にも身体を倒しきれずにレロイ・サネの何でもないシュートを防げず、バイエルン・ミュンヘンに先制を許し、最終的に4対3で負けたことだった。次のガラタサライ戦でも3失点した上に、相手にPKを与え、味方の人数を減らすようなミスもした。まるで敵にパスしたかのように味方へのパスがあっさりとカットされ、必死に戻ったカゼミーロのタックルがファールとなり退場となったのである。

    さらにコペンハーゲン戦では4失点、アウェーでのガラタサライ戦でも3失点した。特にハキム・シイェシュの2つのフリーキックに対する対応のまずさが、マンチェスター・Uの2点のリードを台無しにし、3対3の引き分けにつながってしまった。オナナのチャンピオンズリーグは6試合15失点で終了したが、これ以上の失点をしたチームはロイヤル・アントワープだけだった。マンチェスター・Uはグループ最下位で大会を終え、勝ち進めなかったことで巨額の収入を失ったのだった。

  • Andre Onana Manchester United 2023-24Getty Images

    イスタンブールでの絶望

    ゴールキーパーにはタフな精神力が必要であり、通常のオナナならミスを犯した後もうつむくことはない。だが、イスタンブールでのガラタサライ戦で2失点した後のオナナを慰めることはできなかった。タイムアップの瞬間、乱暴にグローブを脱ぐとイライラした様子を見せ、ピッチにひとり残って大雨に打たれた後、しばらくしてから更衣室に戻ったチームメートと合流した。

    何人かの選手がオナナへの信頼を失い始め、夏に無情にもクラブと新しい契約を結ぶことを拒否されたデ・ヘアがいてくれればよかったと思うようになったのも無理はない。『The Atletic』によると、あるチームメイトは練習中にオナナにこう言ったという――「ひとつでいいからセーブしろよ」。

    オナナ自身も自信を失い、ある友人にこう言ったと報道された。

    「あんなミスをするなんて、自分に何が起こっているのか、わからない。僕はいつだって自分を信じてきたけれど、もう自信がなくなってきた」。

  • Andre Onana Erik ten HagGetty

    監督が見せた信頼

    ターニングポイントになったのは、多くの人がマンチェスター・Uは大量失点するだろうと予想したリヴァプール戦をオナナが無失点で抑え、0対0の引き分けになったことだった。赤い悪魔はその後の3試合のうち、ウェストハム戦とノッティンガム・フォレスト戦に敗れたが、いずれの負けもオナナに落ち度はなかった。

    重要なことは、オナナがテン・ハーグ監督から絶大な信頼を寄せられていたことだった。マンチェスター・Uがカメルーンと交渉し、オナナはアフリカネイションズカップでのカメルーン代表への合流が遅れることを許され、マンチェスター・Uのためにトッテナム戦とウィガン戦を戦った。控えのキーパーであるアルタイ・バユンドゥルが信頼されていなかったようにも思われるかもしれないが、マンチェスター・Uがオナナをどれほど高く評価しているかを示すものである。

    結局のところ、オナナはカメルーン代表に行かなければよかったと思ったかもしれない。オナナが出場したのは1試合だけで、セネガル相手に3失点し、セーブ率0%で大会を終えたのだった。

  • onana(C)Getty Images

    ターニングポイント

    しかし、代表としての失態は国内リーグには影響を与えなかった。それどころか、トッテナム戦、アストン・ヴィラ戦、ルートンタウン戦で好セーブを見せ、マンチェスター・Uを浮上させたのだ。FAカップのノッティンガム・フォレスト戦でマンチェスター・Uに1対0の勝利をもたらして準々決勝進出に導いた後、インテルからマンチェスター・Uに移籍した当初の数カ月は悪夢と戦っていたこと、そのおかげでより強くなったことを告白した。

    「ターニングポイントはあったが、それはピッチの上でのことではなかった…メンタル的なことだ。気分よくプレーできるようになるまでに、6カ月か7カ月かかった。苦しい時間だった」と、オナナは語った。

    「今は少し良くなった。すべてが新しくなって、たくさんのことがあって、くつろいだ気分になるのは難しかった。新しい国でのことだから」

    「チャンピオンズリーグの決勝でプレーした、その数カ月後に第1ステージで敗退…僕にとっては厳しい試練だった。今は何もかも振り切れた気がする。試練から学び、前を向いて進んで、ハッピーになれるように努力している」

    「今はいい気分だ。パフォーマンスについては話したくない。僕はゴールキーパーだからね。一番重要なのは心を落ち着かせて、ハッピーな気分でいること。そうすれば輝ける」

  • Andre Onana Manchester United 2023-24Getty

    問題の原因から解決策に

    今のオナナは、多くの問題、特にメンバーの安定しないディフェンス陣の問題に立ち向かい、ここしばらく輝き続けている。テン・ハーグ監督は今シーズン、守備陣にケガ人続出で24もの異なるコンビネーションを起用してきた。タイレル・マラシアやルーク・ショーの不在のため、生粋の左サイドバックを欠いた試合も多かった。

    リサンドロ・マルティネスの長期離脱にもオナナは苦労した。マルティネスは勇敢で、ゴールキーパーからのパスを巧みに受け、バックラインから展開できる稀有なディフェンダーのひとりである。エヴァートン戦がそうだったように、ジョニー・エヴァンズとラファエル・ヴァランは後ろに壁があるかのように優れたディフェンダーだが、ボールを前に運ぶ能力には長けていない。

    このことは、主にプレーを作りあげていく能力を見込まれてマンチェスター・Uと契約したオナナにとっては、大きなハンディキャップである。しかしながら、マンチェスター・シティ戦ではロングキックの才能を発揮し、ブルーノ・フェルナンデスへパスを通して、マーカス・ラッシュフォードのゴールを導いた。オナナが今シーズン貢献した2つ目のゴールだった。

    監督はオナナにマンチェスター・Uをカウンターアタック頼みだけのチームから、より滑らかにボールがつながるチームに変えていく土台となってほしいと願っている。だが、重要なことは、オナナがもはやボールを扱う能力ゆえにマンチェスター・Uに移籍したのではなく、ボールにゴールネットを揺らさせないというゴールキーパー本来の能力も向上させていることだ。

    今、マンチェスター・Uはどれほどシュートを打たれようと心配いらない。4カ月足らずで、チームの苦境の原因だったオナナは、それを解決できる選手にまでなった。テン・ハーグ監督は99以上の問題を抱えているかもしれないが、オナナはそのひとつではない。